第41話 プロローグ
……その後。
「ああ〜〜チクショー!! わかんねえ!!」
白いワイシャツと黒いズボンを履いた状態で、俺は両手で頭を掻きむしりながら天を仰いで叫んだ。
「うっせえな、黙って勉強してろ、ど阿保」
黒いファーの付いた黒いジャケットに、黒い蛇柄のワイシャツと黒いベルト式V系のカーゴパンツを履いた、全身真っ黒なカズが、無表情で俺を批判する。
もう夏だと言うのにいつまで厚着をしているんだと言いてえけど、骸の側にいると逆に寒くなるから仕方ねえ。
それなら離れろと言いてえけど言えねえ……。
カズの真後ろには骸が寝そべり。その周りには3匹の太古の殺戮兵器であるヴェロキラプトルも丸くなって寝そべっている。
周りはジャングル。
けどそこに不自然な物が置いてある。
黒いソファにガラスのテーブル、そしてその近くには大きなガラスケースに入れられた怪獣のフィギュアがたくさん飾られている。
ここは夜城邸。しかもその広さは軽く千坪以上はある、カズのジャングル部屋だ。
「もう、せっかく教えてあげてるんだから真剣に考えてよ」
そこに丈の短い黒いシャツに黒いスカート姿の美羽がそう言って怒る。
美羽もカズの部屋にいるけど、他に一樹、沙耶、ヤッさんと、いつものメンバーが集まっていた。
「どうして分かんないの〜? ここはこうしてこうでしょ〜?」
「い、いや。分からん」
んなこと言われても解んねえよ。
沙耶は面倒くそうな顔で教えてくれるけどよ。もう少し解りやすく教えてくれよ。
ちなみに沙耶は猫耳の付いた白いパーカーに、黒いショートパンツ。
カズ、美羽、沙耶の順でソファに座り。その向かい側のソファに俺、一樹、ヤッさんの順で座って勉強を教えて貰っている。
カズ達は私服なのに、俺達3人は学校の制服を着て勉強をしていた。
つまり、それが意味する事は……。
「お前らが赤点なんか取んなきゃこんなことにはならなかったんだぞ」
……おっしゃる通りです。
そう……、その通りなんだから俺達は文句が言えない……。
カズは小説を読みながら冷たい視線を俺達に向け、その俺達3人は泣きたくなるくらい悔しい……。
俺達3人は負けてしまった……、期末テストという最大の難敵に……。
「チクショー……」
心を抉るカズの言葉が、これがまためちゃくちゃ痛い……。
「あっそうだ。美羽、沙耶。甘い物食いたくね?」
「「食べる〜!」」
カズが甘い物食いたくねえかと言うと、2人の目がこれでもかって言うくらい輝いた。
「お、おい……、カズ?」
俺達3人は目を大きく見開き、動揺しながら固まった。
なんせカズが非情にも、女子2人の為にアイスを用意したからだ。
美羽にはバニラ、チョコ、チョコミントの3種類。沙耶にはバニラ、ストロベリー、チョコチップの3種類。
食いたい……。
そしてその上に、アルコールを飛ばしたカズ特製、薔薇のウオッカソースをかけ、横にミントの葉を添えている。
か、香りが俺の鼻腔をくすぐる!
しかも美羽のアイスにはチョコペンで熊の顔が可愛く描かれ、チョコで作った小さい耳までちゃんと付いている。
しかも沙耶のアイスにまで同じ様に描いてある。
可愛いじゃねえかコノヤロォ……。
「ふわ〜! 可愛い〜!」
「食べるの勿体無いよ〜!」
ゴクリ……。
美羽と沙耶は目を輝かせてはしゃぎ、喜びながら写真を何枚も撮りまくると、インスタに載せたりし始めやがる……。
「早く食わねえと溶けちまうぞお」
美羽の横でカズが左足の膝を立ててソファに乗せて座り。その足に美羽が自然と背中を付けながらアイスを堪能。
スプーンでアイスをすくうとカズの口に持って行き、それをカズは平然と食べる。
周りからして見ればほぼカップルだろと言いたい構図がそこに出来上がっていたけどよ、それでも2人は付き合っちゃいねえから不思議だ。
すると沙耶も負けじとカズにアーンする。
それを目の前で見せつけられている俺達はたまったもんじゃ無い。
余りの悔しさに目が飛び出るんじゃないかと思う程に目を大きく開き、下唇を噛んで悔しがることしか出来ない。
「どうした、早く勉強しろ」
クソッタレが!!
カズの冷酷な言葉に、俺達の心の叫びが重なった気がする。
「お前ら今度出されるチャンスをものに出来なかったら向こうに連れて行かねえからな?」
ぬはっ?!
今度出されるチャンス。
それは、赤点を出した生徒にもう一度だけテストを出し。そのテストで見事赤点を回避した奴は見事、補習地獄から抜け出せると言う、学校側から出された救済措置。
美羽は仕事が立て込んでるからなかなか行けそうにもねえけど、なんとか頑張って仕事を前倒し前倒しで時間を作ると言っていた。
そして、俺達3人も早く異世界に行きたくて行きたくて仕方がない。
向こうにいるクロ、ダークス、トッカーと遊びたいし、何より早く冒険をしたかった。
そしてそこにカズによるダメ出しの言葉が、俺達に火をつけた。
「やってやるうぅ! うおーーッ!」
俺の目に火が灯り、凄まじいやる気を出す。
熱い! 熱いぜ!
それは一樹とヤッさんも一緒だった。
「まあ頑張れ。見事チャンスを掴み取ったら今度、良いところに連れてってやる」
……なんですと?
俺達は凄まじい衝撃を受けた。それはまるで雷が脳天に直撃したのでは無いかと言う程にだ。
「っしゃあっるああ!!」
俺の目に灯った火が更に勢いを増して燃える。
くぅ~! 自分が眩しいぜ!
「オラオラオラオラオラ!!」
一樹も一緒だ。
「良いところ良いところ良いところ良いところ良いところ良いところ良いところ!!」
ヤッさんの目は違う意味で燃えていた。
「カズ〜?」
そんな中、美羽が嫌そうな顔でカズを見た。そこでカズは美羽の耳元に顔を近づけると、沙耶もカズに肩を掴まれて引っ張られ。なにやら2人に小声で話す。
すると2人は顔を明るくさせて、また目を輝かせ始めた。
「ほ、本当に?!」
美羽はそれが嘘じゃないよねと尋ねる。
「本当だ」
「やった! マジで?! めっちゃ楽しみ〜!」
沙耶はよっぽど楽しみなのかテンションが上がっている。
なにを言ったのか気になるな。
……そんなこんなで日付は変わり。
俺達3人は再び最大の難敵に立ち向かう!
後ろを振り返らず、真っ直ぐ前だけを見据え!
敵の正体は既に分かっているのだから最早問題は無い!
その手に栄光を掴み取るんだ!!
そして再び最大の難敵に立ち向かう為、学校と言う魔王城へと、俺達は足を踏み入れた。
学生時代、よく赤点を取ってましたねえ……。
皆さんはどうでした? 今、これを読んでくれている中には学生さんもきっといると思いますが、憲明達みたいにはならないで下さいねwww
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