第40話 依頼完了、されど……
「帰りもいい天気でよかったな〜」
苔やキノコが生える場所がなんか気持ちよくて、俺はそこに寝っ転がっていた。
「カズ、街まで後どのくらいなんだ?」
真横に座り、青空を眺めながらくつろいでいるカズに聞くと。
「もう着くぞ」
「おっ、早いな。お疲れさんだったな」
そう言って俺が寝っ転がる岩みたいな場所を軽く叩く。
俺達が座っているのは地面なんかじゃ無く。
<キュオオォォォォ>
オオサンショウウオの背中だったりする。
「はは、帰りは快適だったなあ」
そろそろ着くと言われても、俺はまだくつろぐ。
「もうノリちゃんったら、もうじき街に到着するんだから起きたらどうなの?」
美羽が呆れた顔でしゃがみ、俺の顔を覗き込んで来た。
「はは、だってこんなに良い天気なんだぜ?」
「もうっ」
美羽は両頬を膨らませて怒るけどよ、別にまだ街につかねえんだからいいだろうに。
「カズもなんか言ってよぉ」
美羽が困った顔をしながら直ぐ隣に座るカズに助けを求めたら。
「そうだな、もうじき街に着くんだ。コイツの存在を知って今頃街は大変な騒ぎになってるだろうしな」
カズはそう言って悪い顔で美羽に視線を向ける。
確かに……。
「え?! なんで?! どうしよ! どうしたら良いの?!」
街が騒ぎになってるかも知れないと知った美羽は慌て始めた。
でももう遅い。街が見えてくると、そこには骸、刹那、ベヘモスと多くの冒険者やハンター、自衛隊に組員の人達が集結していた。
「あっあは、あははは、あはははははは」
美羽はそれを見て、白目を剥いて笑うしかないようだ。
それから暫くした後、カズがその場に集結していた全員に事情を説明した事で誰も怒られずに済んだからよかった。
この世界には色々な種類のモンスターが存在して。そんなモンスターを誰が何時、何処でテイムするかなんて分かりゃあしない。
だから今回の件はお咎め無しだったけど、カズは申し訳ないと謝った。
本当、すんません……。
ちなみにオオサンショウウオをテイムしたのは美羽だったりする。
「お疲れ様だったね。この近くに大きな川があるから、そこで休んでて、"バウ"」
<キュオオォォォォ>
美羽はオオサンショウウオに"バウ"って名付けた。
でも俺達はそのバウって名前に、昔の事を思い出していた。
俺達がガキだった頃、美羽の家にバウって名前のゴールデンレトリーバーがいたんだ。
そのバウは俺達が小学5年生になる頃。美羽が車に轢かれそうになったところを、そのバウが盾になって、……死んじまった。
その死に俺達全員、スゲー泣いた事を覚えてる。ましてや美羽にとってバウはかけがえの無い大切な家族で、兄貴みてえな存在だったからよ。
今思えば、それはある意味、沙耶と骸も同じ様な関係に似ているとも言えるな。
「えっへへ、ただいま〜! 骸~!」
<グルルッ>
沙耶は骸の首に抱きついて良い笑顔だ。
骸もまるで「おかえり」と言ってるのか、優しい顔で沙耶を出迎えてる。
最強って言われるモンスターも形無しだな。
カズは改めてオオサンショウウオの顔を見ている。
俺も見ていたら、なんだか愛嬌があって、どこかそのバウに似ていなくもない感じがする。
「……ふっ」
カズが軽く鼻で笑う。
ん? もしかしてお前もそう思ったのか?
その後、どうしてセッチの後ろにベヘモスが怯えながら隠れているのか事情を聞き始めた。
するとベヘモスは泣きながらカズの前で、伝説の"スライディング土下座"をして謝るじゃねえか。
「スイマセンスイマセンスイマセンスイマセンスイマセンスイマセンスイマセンスイマセンスイマセンスイマセン!!」
その光景に驚いて、思わず絶句した。
暫くすると。カズの体が小刻みに震え出し、ベヘモスを睨みつける。
「お前なぁ……、俺が可愛がってる子に対して何してくれてんだ?」
いや、そもそも付き合ってもいないのにそんな事を言うのもどうなんだお前?!
きっと周りにいた人達もそう思ったに違いないはずだ。
そこへ、ベヘモスに思わぬ助け舟がやって来た。
「お帰りなさい、和也様」
ニアちゃん!
ニアちゃんはちょっと困った様な笑顔でカズの元に走る。
「ただいまニア。ゴメンな、なんかコイツが嫌な思いをさせたみたいで」
カズが笑顔でそう言いながら、正座しているベヘモスの頭に手を乗せる。
「うっ!」
ベヘモスは全身から冷や汗を流し、怯えている。
分かる、分かるぞそれ……。
「いえ、良いんです。だから許してあげて下さい」
まさかの言葉にカズとベヘモスは「え?」と驚く。
さすがニアちゃん、懐がでかいぜ!
「だって。きっとその子は和也様が居ないから寂しかったんだと思うんです。だから私は気にしませんから」
その言葉にベヘモスは不貞腐れだした。
「なんでさ。なんでボクをそんな風に庇うんだい? ボクは君みたいに和也さんに可愛がってもらっている子を見ると、虫唾が走るんだよ!」
おいベヘモスやめろ! せっかくニアちゃんが気にしてねえって言ってんのに!
そう言ってベヘモスはカズの手から逃げ、何処かへ走って行っちまった。
カズは怒り混じりの困った顔でベヘモスが行った方を見ながら溜息をつくと、またニアちゃんに謝罪した。
「ふふふっ、だからきっと、寂しかったからだと思うんです。だから私は気にしませんから」
「本当にゴメンな」
そう言ってカズはニアを抱きしめた。
おいコラ! なに抱きしめてんだこのヤロー!!
「ありがとう」
ありがとうじゃねえよまったく!
するとカズはベヘモスが行った方角へ歩いて行った。
……それから暫くして。
「うわ〜! マジかよ〜!」
俺達は嘆いた。
「期末テストがあるのすっかり忘れてた〜!」
まったく勉強していない為、俺は膝から崩れ落ち、頭を抱えながら嘆くことしか出来ない……。
「まっ、私はそれなりに勉強しているから平気だけど」
「あっ、私も〜」
美羽は左手を腰に置きながら、俺を上から見下す様な顔で微笑みやがる。
沙耶は骸の頭の上で、両手で頬杖えしながら満面の笑みで足をバタバタと動かしている。
チクショー!
「頼む! 勉強教えてくれ!」
俺は恥じらいを捨てて、両膝を地面に付けると両手を合わせて2人に懇願した。
だがしかし。
「勉強する為の本を持って来ていないアンタ達に、どう教えれば良いの?」
グッウッ……。
最終的に美羽は「私知〜らない」と言って、沙耶とセッチと骸と一緒にどっかへ行ってしまった。
「そ、そんなぁ……」
しかし、そんな俺にも仲間がいた。
「安心しろ、憲明」
そう言って肩に手を置いたのは他の誰でも無い、一樹だ。
一樹がウインクしながら綺麗な歯をキラリと光らせ、もう片方の手で親指を立てた。
「お、お前……」
おお! さすが心の友! お前は勉強してたのか!
俺は涙を流しながら満面の笑みを見せて、一樹の手の上に自分の手を重ねた。
「大丈夫だ憲明。俺達も勉強してない」
「…………は?」
勉強……、してない?
その瞬間、俺は真顔になった。
「俺とヤッさんも勉強してないからお前と仲間だ」
すると今度は一樹が涙を流しながら悲しい顔になった。その後ろにヤッさんが天を仰ぎながら泣いている。
…………はい?
「終わった……」
その瞬間、俺は赤点を覚悟した。
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少年少女達は異世界でまるで夢の様な時間を堪能していた。
だがしかし。
そんな少年少女達に、最強の敵が近づいていた。
"期末テスト"
少年3人は絶望し、少女2人と少年1人は余裕の笑みでこの難敵に立ち向かう。
失敗すれば夏休み期間中、殆どを、補修授業で遊べなくなる。
つまりは異世界に行けなくなると言う事だ。
少年3人はそれを阻止する為、足りない頭をフル回転させてその事態を阻止しなくてはならない。
戦え! 負けるな少年達よ! と応援したい気分だ。
願わくば、心を折らずに立ち向かって欲しい。
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討伐と言うより、美羽がテイムしたことでクエスト依頼は完了となった訳ですが、この後に待ち受ける、憲明達にとって最大の難敵が待ち受けている訳なんですね~。
さぁ彼らの運命や如何に!
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