第38話 未確認生物
なんで私が悪いのよ。悪いのはカズじゃない!
「あ〜も〜っ! ムカつく! ギルもそう思うよね?!」
<ギウ?>
ギルに聞いても仕方ないのは分かってる。だけど、私の隣をピッタリとついて歩くギルに思わず愚痴を溢していて、後から情けないって思った。
「ギルって見た目に反して結構軽いから、私がおんぶしてもなんとか走れるけど。ヤッさんのトッカーはおんぶして走れる重さじゃないのに、それをどうにか頑張って走ってるって言うのに! あの分からずや!」
そう言って暗い森の中を暫く歩いていると、目の前にいい感じの倒木があったからそこに腰掛けることにした。
するとギルは頭を擦り付けては顔を下から窺ったりしてきた。
「ありがと、ギル」
<ギギギ?>
「ふふっ、大丈夫。少し落ち着いたら戻るから」
<ギウギウ>
ギルの頭を撫で、どうして自分達が悪いと言われたのか考えた。
だけど、一向にその答えが分からない。
そこへノリちゃんが後ろから声をかけてきた。
「美羽、良いか?」
後ろを振り返り、私はノリちゃんの顔を見た。
「隣、良いか?」
「……どうぞ?」
ノリちゃんは私の右隣に座り、暫く沈黙してから話を切り出してきた。
「さっきの話だけどよ。なんで俺達が悪いって言ったか分かったか?」
「……考えてるけど全然分かんないよ」
そう、この時はまだ全然気づいていない。
「そっか……」
「ねぇ……、どうして私達が悪いの?」
「それは……」
ノリちゃんは暫くまた沈黙してからその答えを話してくれた。
私はその話を今度は黙って最後まで聞き、自分が何を言ってカズを怒らせたのか理解した時、その申し訳ない気持ちで一杯になった。
私、どうしてそんな簡単なことに気づけなかったんだろ……。
簡単に言うと、私の言葉はヤッさんを馬鹿にしていたのと一緒だったから。
それに本当なら感謝しないといけないと言うのに、私はとんでもなく失礼な事をカズに言ったも同然だから。
「あぁぁ〜っ、私……やっちゃったぁぁ……」
「今ならまだ間に合う。なんなら俺達も一緒に行くぞ」
「俺達?」
すると、背後にある籔の中からヤッさんと一樹が顔を出して来た。
「ヤッさん……、その……、さっきは御免なさい」
「良いよ良いよ、美羽は僕の事を考えて言ってた事なんだしさ」
「一樹も、ゴメンね?」
「まったく、世話のかかる奴だよお前は」
「つーか美羽はキレたらメンドくさくなる」
「「それな!」」
「なんでよ!」
ノリちゃんのその言葉に、一樹とヤッさんは同意して、ようやく私は笑えることが出来た。
それからノリちゃん達と一緒に、カズが行った方向へ足を向けた。
暫く歩くと森が開け、そこには眼前に広がる大きな湖があって。カズは湖のほとりに佇んでいた。
「カ ーー」
「仕事を始めるぞ、お前ら」
ノリちゃんが名前を呼ぼうとすると、カズはチラリと背後にいる私達を見て、そう口走った。
仕事?
よく見ると、カズの目の前には巨大なモンスターが湖にいて。既にアリス達が連携し、そのモンスターの背中に乗って鋭いカギ爪で攻撃をしている状況になっていた。
でも、その攻撃は効果が無いように思えてならない。
「離れろお前ら、"ファイアーボール"」
アリス達を下がらせ、カズは右手からサッカーボール大の炎の玉を放つと、モンスターの頭に直撃して爆発。けど、そのモンスターには効果が無い。
「火魔法でじゃやっぱ効果無しか。だったら。"アイス・スタチュー"」
次に右足を軽く踏むと、爪先から何十本もの氷柱の道が出来る。その氷柱はモンスターの真下までその道が伸びると巨大化して攻撃。
<キュオォォォォ!!>
けどやっぱり殆ど無傷。
「ちっ、頑丈な奴だ」
私達はそんな光景を見ながら、ある事に気づいていた。
それは。
「アレってもしかしてよぉ……」
「「"オオサンショウウオ"?」」
<キュオォォォォ!!>
そのモンスターは巨大な"オオサンショウウオ"の姿をしているから、私達はそう思った。
でもどうしてそのオオサンショウウオが、異世界であるこっち側にいるんだろう?
「おいカズ、アレってアレだよな? アレ、オオサンショウウオって奴」
「ああそうだ。ありゃオオサンショウウオが巨大化したモンスターだ。それに奴の体をよく見てみろ」
あっ、やっぱりカズもそう言うんだから、オオサンショウウオで間違い無いんだ。
そこでオオサンショウウオの体を良く見てみると、そこには体のあちこちに苔が生え、そこに幻想的に光るキノコが生て点滅を繰り返していた。
「でもなんでまたこんな所に?!」
「知るかよそんな事。本当なら山の中にある湖の近くで目撃されてんのに、いきなり現れたと思ったら攻撃してきたんだよ」
うん、そう言うことじゃなくて、どうしてこっち側にいるのか知りたいんだけど……。でもどうしてあんなに大きいんだろ?
「マジかよ……。んじゃやっぱコイツが例の未確認生物って事か?!」
「恐らくそうだろ、特徴がガッチリしてるからよ」
「それにしても……、なんつうデカさだよ」
その大きさは全長およそ100メートル前後。
オオサンショウウオのモンスターは小さな目を赤く光らせ、尻尾による攻撃をカズに当てた。
「くっ……ぅっ!」
瞬発力を生かした尻尾攻撃がカズを襲う。カズは咄嗟にゼイラムと両手でガードしたけど軽く吹き飛ばされ、水面を何度も切って湖へと落ちた。
「カズ! クッソ……、俺達もやるぞ!」
私達の存在に気づいたオオサンショウウオが向かって来る。でも今だにこれと言った魔法が発現していない私達では格好の餌でしか無いかも知れない。
だけどこの時は。
ノリちゃんの言うとおりやるしかない!
「てぇりゃああ!」
私達はここに来てから毎日、カズにしごかれて来た。
毎日ボロボロにされ、カズが調合した回復薬を飲み、またボロボロになるまでしごかれるの繰り返し。
武器をどう扱うのか、どう動けば良いのかも、私達は教わった。
「ノリちゃん! 5秒後に尻尾が来る!」
「全員伏せろ!」
スキル "未来視"発動
能力で次の動きを見て、それをノリちゃんに伝える。
「うおっ?!」
「危ねえっ!」
ノリちゃんがヤッさんと一樹に私の警戒を伝え、その場に伏せさせると。その瞬間、頭上ギリギリの所に強力な尻尾が振り回された。
「次、立ち上がったら全体重を乗せて倒れてくるよ!」
「皆んな下がれ!」
私が見た数秒後の未来通り、オオサンショウウオは立ち上がると全体重を乗せて一気に倒れて来た。
そこに何本もの矢が次々と飛び、オオサンショウウオのお腹に刺さる。
でも皮膚が分厚いからなのか、数本が抜け落ちるけど何本かなんとか残り、オオサンショウウオは自分が全体重を乗せた事でその矢が深く食い込む。
<キュオォォォォ?!>
「沙耶!」
矢を放ったのは沙耶で、彼女は離れた場所にある木の上から攻撃をしていた。
けど矢の痛みは軽かった為、オオサンショウウオは大口を開けてノリちゃん達を襲う。
沙耶は狙いを定め、オオサンショウウオの目を狙って矢を放つ。
だけどその矢は外してしまい、今度は沙耶がいる所にオオサンショウウオが突進して、何本もの木々を薙ぎ倒した。
「ちっ! だったらこれでどう?! いっっけ〜〜"ガルちゃん"!!」
"ガルちゃん"。
それはカズから貰った武器、デモン・スターに沙耶が付けた呼び名。
沙耶はガルを振り回してからオオサンショウウオの頭に叩き込むと、その瞬間、一緒に地面を砕く程の高威力となった。
それを見て沙耶はオオサンショウウオの頭に着地すると、もう一度高くジャンプする。
<キュオッ?! オッ?!>
叩きつけられた反動で頭が宙に浮いて、ジャンプしていた沙耶はもう一度ガルを振り回し、オオサンショウウオの頭にまたガルを叩き込む。
「これで眠っちゃえ〜〜!!」
再び叩き込むと土埃が舞い上がり、飛び散った砂利がパラパラと降り注ぐ中。
オオサンショウウオは動かなくなった。
「え? マジで?」
ノリちゃんは沙耶1人で倒した事に驚いた。
正直、私もまさかここまで威力が高いだなんて信じられなかったよ。
そこに沙耶が地面に着地して、背後で動かなくなったオオサンショウウオを見ると。
「あれ? 本当に?」
沙耶自信が信じられないでいるけど、とにかく沙耶のこれで眠れの通りに動かなくなった。
「沙耶凄い!」
「マジで眠らせちまったよ、ハハハハハハ!」
私とノリちゃんはそんな事を言いながら沙耶に掛けよる。
「え? 本当の本当に私が……倒したの?」
「どう見たってお前だろ」
「うん、凄かった!」
「ア……アハハ……、なんか、信じられ無いんだけど」
そこに一樹とヤッさんも掛けより、自分が信じられ無い沙耶を除いた4人は笑った。
4人は、だけど……。
「お前ら、そいつから離れろ」
「え?」
湖面の上を静かに歩いて来るカズがそう忠告を告げた。
「あっカズ〜!」
沙耶はカズが無事だった事に喜ぶ。
だけど……、カズが言ったことと纏う独特な雰囲気に私達は寒気を感じた……。
なに……え……?
私達が初めて……、カズに対して本当の恐怖を感じたのが初めてだったから……。
ノリちゃんはその恐怖を本能的に感じ取っていて、声を出せないでいる……。
それは私達皆一緒だった。
カズが一歩ずつ近づく毎に、その恐怖感と寒気が強まり、肌がピリピリと痛くなる。
「なぁ……、そこにいるんだろ?」
カズが誰かに向かって話しかけるけど、それが私達の誰かでは無いことだけは分かる。
ノリちゃんは私達にこの場から離れる事を提案し、カズの邪魔になら無いように少しずつ距離を取る事にした……。
湖面から陸へと変わった時、突然オオサンショウウオが動き出して、またカズに攻撃をする。
まだ戦えるの?!
そう思っていると、カズはそこにはもういなかった。
両手をポケットに入れた状態で空高くジャンプして、その場で落ちてくる事なく浮いている。ううん……、浮いているんじゃなく、それはカズのスキル、"空中歩行"によってそう見えているだけだって、後から気づいた。
歩く度にまるで湖面の上を歩いていた時のように、波紋が広がる。
あのスキル……、私も欲しい……。
そして、カズはいつの間にかとんでもない物をゼイラムに持たせ、更に装備していた。
「おい……嘘だろ……」
ノリちゃんもそれを見て更に恐怖心が高まる。
それは、あまりにも凶悪な武器だったから……。
それは……。
「ブ……ブブ、"ブローニングM2A1重機関銃"?!」
「出て来ないなら出させてやるよ」
しかも……、掟破りの4丁重機関銃?!
カズはゼイラム一本一本に更に装備させることで、現在知られている重機関銃の中で最強の機銃、ブローニングM2A1重機関銃を同時に4丁を操り。4本のゼイラムを1束にしてまるでガトリングガンの様に4丁の重機関銃を重ね、オオサンショウウオにではなく別の方向に向けて撃ち始めた。
撃ち放たれる弾丸は森を簡単に破壊し、大量の空薬莢が落ちて行く。
その下で必死にオオサンショウウオがカズに攻撃しようとするけど……、残念なことに届かない。
「「いやいや反則過ぎ!」」
◎ブローニングM2A1重機関銃。
口径、12.7mm
銃身長、1.143mm
ライフリング、8条右回り
使用弾薬、12.7×99mm NATO弾 (通常弾、焼夷弾、徹甲弾など)
装弾数、ベルト給弾 (1帯110発)
作動方式、ショートリコル
全長、1.645mm
重量、38.1kg (本体のみ)
発射速度、485-635発/分
射程、2000m (有効射程)
6.770m (最大射程)
ブローニングM2A1重機関銃は、カズの大のお気に入りの武器だってことは皆知ってる。
そんな重機関銃がオーバーヒートしない様に、本来はバースト射撃が基本だってうんちくを何時だったかカズが話していたことを覚えてる。
バースト射撃は何発か撃ったら撃つのをやめ、撃ったらやめを繰り返す事。
でも、カズは氷魔法かなにかで銃身とかを常に冷却し続ける事で、弾薬が底を尽きるまで撃ち続けている。
ノリちゃんはそんなカズのチート振りに、たまらず声に出した。
「滅びのバーストストリーム……」
「どうした? このまま隠れてコイツに蜂の巣にされてえか? それがお望みなら望み通り跡形も無く木っ端微塵になって死にやがれ」
よ、容赦ない……。
カズはブローニングM2A1重機関銃の弾丸が空になると勝手に自動装填させ、次々と弾丸の集中豪雨を撃ち放つ。
そんな中、カズの周りに黒い霧がどんどんひろがる。
「え? なんで闇の衣を? まさか……、どこか攻撃されたの?!」
私はカズが突然黒い霧を出したから、どこか攻撃されたと思ったけど、それは勘違いであり、闇の衣じゃなかった。
「死ねよ」
一切笑った顔を出さず、冷酷な表情でカズがそう言うと。黒い霧が一斉に動き出し、野球ボール程の黒い球体へと変わっていく。
その数は100以上の球体。
カズが右手を前に突き出した瞬間、黒い球体が一斉に森へと放たれる。
「な、なんだ今の?」
ノリちゃんが疑問を口にしたの同時に、激しい爆発音が鳴り響き、爆発の衝撃波が私達まで襲う。
「な?! なんだよこれ?!」
あまりの音に耳を塞いだけど、しゃがみ込んで爆発している場所へ目を向ける。すると次々と森が爆発によって破壊されて行く光景が目に飛び込んで来た。
黒い球体が爆発し、そこから赤い炎が一瞬舞い上がり、木や草を粉砕して地面を大きくえぐる。
明らかにファイアーボールみたいな魔法攻撃じゃない事を、私達は瞬時に理解した。
「まさか爆弾か?」
カズはブローニングM2A1重機関銃を撃ち続けながら、次々と黒い球体の爆弾を作っては放ち、容赦無く森を破壊している。
「こ、こここ……ここ……怖えぇぇ……」
ノリちゃん……、何度も言葉を詰まらせながらやっと出てきた言葉がそれなの?
「あぁ、なんとなくだけど、カズがどうして皆んなから怖がられているのかやっと理解出来た……」
私は本当の意味で理解した。
カズを敵に回したらどうなるか、街の人達は解っていたんだと。特にギルドの人達は少なからず、カズが本気になったらこうなる事を知っていたってことだよね?
そしてそれはこれだけの力を持つカズへの、恐れと嫉妬、そして尊敬。
だから街でカズを呼ぶ人は皆、和也様と呼んだりしているのか。
だから逆に皆近づきたがるんだなと。
けど中には恐れと嫉妬で近付かない人が多いんだろうな……。
「いや、それにしてでも反則過ぎだろ……」
一樹はその余りにも出鱈目で理不尽な攻撃に、嫉妬の眼差しをカズに向けている。
「まさに個人要塞だね……」
ヤッさんは今のカズを見て、尊敬の眼差しでそう表現。
「そりゃガルちゃんくれるわけだよね〜。もうチート過ぎるよカズ〜」
沙耶はその力に若干引き気味な顔になって、カズを恐れてる。
まぁ、分からなくもないんだけどね……。
そんな時。爆弾と弾丸で破壊された森から黒い影が空に飛び上がり、カズは攻撃を一旦とめてその影に目をむけた。
「お初にお目にかかります。私、"シャノン"と申します、以後お見知り置きを」
「魔人か」
魔人?!
シャノン。
黒いロングヘアーの上に黒いハット帽を被り、顔は白い不気味な仮面を付けた全身黒色の執事姿の格好。
仮面のせいで男か女かは不明。歳も不明。
手には、先端に青い水晶の様な丸い鉱石がついたロッド。
それと、背中からコウモリの様な羽を出して飛んでいる。
「お前か、あのモンスターを操っていたのは」
「はい、その通りに御座います」
シャノンと名乗る魔人は悪びれる事なく、軽くカズに頭を下げた。
「しかしよくお気付きになられましたねえ」
「あのモンスターはお前のモンスターって訳じゃ無さそうだ。つまり、"精神支配"のスキルか」
え? テイムしてないの?
「ほぅ、素晴らしいですね。いや実に素晴らしい! フハハハハハハハ!」
あっ、ってことは、テイムしちゃおうかな?
シャノンって魔人の人は言い当てられた事がそんなに嬉しいのか、右手を顔に当て、左手を広げて笑いだした。
「そう言えば、アナタのお名前を聞いておりませんでしたね。聞いても?」
「和也だ」
「カズヤさん……。その名、しかと覚えておきましょう。では、私はこの辺で失礼させて頂きます。また、何処かでお会いしましょう」
そう言って翼を羽ばたかせ、シャノンって魔人はあっさりと何処かへ去って行ってしまった。
カズは追撃する事なく、舌打ちをすると私達の元へと戻り。その近くでは精神支配から解き放たれたオオサンショウウオが目を回して倒れている。
ノリちゃんはカズが何事も無く戻ってきてくれた事に安堵してるみたいだけど、どうして逃したのか気になった。
ノリちゃんも私と同じように、疑問に思ったのかそんな顔をしている。
それをカズに言うべきか言わざるべきか。
結局、ノリちゃんは後者を選んだ。きっとカズなら後で話してくれると信じて。
だから私もなにも聞かないことにした。
その後、私は操られたオオサンショウウオを介抱し。ノリちゃん達男性陣は野営の準備をして、そこで夜を明かす事になる。
美羽が何故、和也に怒られ。どうして憲明達が悪いという話になったのか。その理由がお解り頂けたでしょうか?
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