第37話 間違ってる
「流石に疲れたからもう少し休む事にする。おい憲明、1時間後にここへ集合して出発するって他の連中に言っといてくれ」
「わかった」
カズは沙耶が暴走したことでだいぶ疲れたのか。ラプトル3匹を引き連れ、大きな木の下で暫く寝ることにした。
俺は俺で、カズに言われた事を皆んなに伝えると。ヤッさんと一樹はその時間、まだ名前を決めていない自分のモンスターの名前を考えることにした。
「もうさっさと決めろよお前らさぁ」
俺はまだ名前を決めていない2人に呆れ、2人から少し離れた場所に木が倒れていたからそこに座る。
「いや、やっぱ初めてのモンスターなんだからここはしっかりと考えて決めないと、後から後悔する事になる」
「うん、一樹の言う通りだ」
ロックタートルの頭の上にブラックスコルピオが乗り。2匹は2人に熱い眼差しを向けている。
「よし……、俺は決めた! この名前で妥協する!」
「おっ、どんな名前?」
お? ヤッさんより先に一樹が決めたのか。
一樹はブラックスコルピオを自分の元まで来させ。
「今からお前は"ダークス"だ!」
一樹は"ダークス"と名付けた。
すると、名付けられたダークスは両方のハサミを振り上げて、まるで万歳する様にして喜びを表現する。
か、可愛いじゃねえか。
「んじゃそろそろ僕も決めないとな。君はどっちかと言うと大人しい性格だし、そうだなぁ……、ん〜……。そうだ! 君は今日から"トッカー"にしよう! どうかな?」
"トッカー"と名付けられたロックタートルが、ニコッとした表情で頭を長く伸ばしてヤッさんに頭を擦りつけて喜んでいる。
ば! バカな! カメってあんなに可愛い顔すんのかよ?!
「よかった、気に入ってくれたんだね」
名前が決まり、俺は2人の所に戻ってトッカーの頭を撫でたり、ダークスの頭を人差し指で軽く撫でてよかったなと声をかけた。
………やっぱ可愛い。
その後、俺はそこから一度離れ、カズの様子を見に行った。
行くとそこに、カズが苦しみながらうめき声を漏らし、胸を強く握りしめて寝ている。
何か病気を抱えているのか? それとも苦しむ程の怪我をしたのか?
「おいカズ、大丈夫か? おい。カズ。カズ?」
俺はカズの元へ走り寄って何度も名前を呼んだ。すると目を覚まし、「何でもない、ただ夢を見ていただけだ」と言い、また眠る。
何でもない訳がねえだろ!
そう言いたかったけど、俺は何も言えず、ただ黙って直ぐ側に腰をおろした。
するとカズの目から一筋の涙が流れる。
カズは涙を流していた事に気づかず、未だに眠っている。
だから俺は待つことにした。いつかカズ本人が言ってくれるまで、俺は何も聞かないでおこうって。
するとカズがまた、うなされてはいないけど涙をまた流していた。その涙を見たアリスがカズを起こさないようにそっと舐め、アリス達はカズの側で丸くなって一緒に眠る。
アリスは優しいな。
そう思いながら、俺も座りながらいつの間にか眠っていた。
……1時間後。
十分な休憩を取り、全員が目的地までまた走り出す。
出発する前にカズは俺達に、「沙耶が暴走して暴れた事は絶対誰にも言うな」と。
それを皆んな頷き、この事は口外しないことを約束した。
途中途中何度も休憩し。周りが暗くなってきた頃にようやく目的の場所がある近くまで来ることが出来たけど。カズを除いて俺達全員は流石に疲れ、中でもヤッさんが1番疲弊している。
その理由はずっとトッカーをおんぶして走り続けていたからだ。
けどカズは容赦無く走った。
途中それを見兼ねて美羽がもう少しペースを落とそうとか、もっとヤッさんの事を考えてよと言ったけど、それでもカズは容赦無く走った。
鬼を通り越して悪魔だ……。
それでもヤッさんは文句を言わず走り。どうにかこうにかついて来ていた。
だからその夜、事件が起こることになる。
「ねえ! なんでもっとヤッさんの事を考えてくれないの?!」
「あ?」
美羽が珍しく声を荒げ、カズに対して怒り始めたんだ。
「ヤッさんが可哀想じゃない! もっとペースを落としてって頼んでんのに全然スピードを落としてくれないし!」
「そりゃそうだろ、それじゃヤッさんの為にならないだろ」
「なんの為になるのよ! ヤッさんはずっとトッカーを背負って走ってんだよ? もう少し考えてあげてよ!」
「み、美羽、僕の事はいいからその辺で……」
「なんでなのよヤッさん! 言う時は言わないでどうするのよ!」
「美羽、良いから落ち着けって」
俺はたまらず美羽の肩に手を乗せ、どうにか落ち着かせようとするけど。
「離してよ! どうして誰も何も言わないのよ!」
美羽が身を捻ったことで俺の手が離れる。
「ヤッさんが可哀想って思わないの?! クロやピノ、それにダークスは軽いから良いけど! ギルも見た目の大きさとは裏腹に軽いから別に平気だし! でもヤッさんのトッカーは重いじゃない! カズはカズでアリス達とさっさと行っちゃうしさ! 良いよねカズは! アリス達を抱き抱えて走らないで!」
その時、カズの左目じりがピクピクと動くのが視界に入った。
ヤバい!
「ヤッさんのトッカーって結構重いの知ってるでしょ?! いったい何キロあると思って ーー」
「やめろ美羽!」
俺がそれ以上言うなと美羽に言おうとした瞬間。カズは美羽にビンタした。
「……え?」
遅かった!
美羽はどうしてビンタされたのか分からず、放心状態のまま立ち尽くす。
「お前、それ本気で言ってんのか?」
うぅわ……、カズがキレた……。
「な、なんで私がぶたれなきゃならないのよ……。私は間違った事を言ってないのにどうしてなのよ!」
「美羽!」
俺がもう一度名前を呼び、美羽の肩を掴む。
「なんでよ?! 離してよ!」
「お前が悪いからだろ美羽」
俺はどうにか美羽を落ち着かせようともう片方の肩を掴んだけど、美羽は体を激しく揺さぶり、その手をどうにか振り解こうと暴れる。
「どうして私が悪いのよ! 意味分かんない!」
なんでカズがキレたか分かんねえのか?!
それを見たカズは美羽に呆れたのか、その場から離れる際に目の前にあった木を思いっきり蹴ってへし折ると森の中へと姿を消した。
ヤッバ……、ブチギレ一歩手前じゃねえか……。
木を蹴ってへし折った時、俺達は思わず体を硬直させ、その怒り度合いが凄まじい事に気づいた。
「な、なによこの意地悪!」
「美羽、最低だよ」
「はぁ?」
沙耶まで美羽にそう言うと、沙耶はカズの後を追って暗い森へと入り、その後ろをアリス達も追いかけた。
「なんなのいったい、訳わかんない!」
そこで一樹が美羽に理由を説明してくれた。
「あのさ、美羽。ちゃんと落ち着いて聞いてくれよ?」
「私は落ち着いてるわよ!」
どこが落ち着いてるんだと言いてぇ……。
それだけ美羽も怒っている。
でも一樹は美羽に、何故、カズがあんなに怒っているのかその理由を話した。
「カズは何も意地悪なんかしていない」
「してるじゃない!」
「違うんだ美羽、違うんだ」
「じゃどう違うって言うのよ」
「悪いのは……、俺達だ……」
「はい? 何言ってんの? なんで私達が悪いのよ!」
「聞いてくれ美羽」
「もういい!」
そう言って美羽まで暗い森の中へと入って行く。
残された俺達男3人はどう説明すれば良いか頭を抱えた。
どうも皆さん、Yassieです。今回は如何だったでしょうか?
美羽的には玲司の事を想っての言動ですが、和也は和也なりの想いやりだからこそ、あえて厳しくしているのがお分かりになったでしょうか?
人によってどうとらえるのかは様々ではありますが、今回のお話はどうでしょうか?
とりあえず、面白かった、続きが気になるならって思ったら。ブックマーク、いいね、⭐、感想を御待ちしております!!




