第36話 アナタは誰……<沙耶side>
「よお、宜しくな。"デモン・スター"」
<ググ、ギギ……ガ、グ……、ガアァッ!>
「よし、上手く行ったな」
「上手く行ったじゃねえよ! なんだよそりゃ?!」
「あ? 見ての通り武器だが?」
「武器が吠えるかよ?!」
うわ~、カズがまた変なことしてる~……。
そんな変な光景を、川で遊んでいた私と美羽は呆れながら見ていた。
カズの出鱈目さに、またノリちゃんが頭を抱えながら。
「できる。余程この世に未練を持つ魂で、今だに転生していない者の魂であれば、こうして呼び出す事が出来る。つまり亡者をあの世から引っ張り出したって訳だ」
「それは凄い事だけどよ。実際にそんな事が出来る魔法とかってあんのか?」
「出来るとすればそれは"ネクロマンサー"って呼ばれるスキル、"死霊術師"だ」
「お前、そのスキル持ってなかったよな?」
「スキル、"創造"とかを使った」
は~……、ほんっと……、あまりの出鱈目さに言葉が出て来ないよ~……。
ね~、そんなこと出来るのってもう、神の領域とも言えるんじゃないの~?
「もうお前がある意味、本当は魔王ですって言ったら納得するレベルだよマジで……」
「ふっ、褒め言葉として受け取っておく」
「あぁはいはい……」
カズって……、実は本当に魔王なのかも?
でもその前にあの武器。なんかメッチャ気になるから貸してくんないかな~?
「ね〜カズ~、その武器、デモン・スターだっけ? それ、私達でも扱えるの?」
カズに質問したら少し考えたみたいだけど、結局は出来ると思うって言ってくれた。
もし、扱えるなら新しい武器になるかな?
それならカズに売って貰うって手もあるな~……。
「じゃ〜それ、もし私が上手く操れそうだったら売ってよ。デーモンズ・ベアーの取り分から引いてくれて構わないからさ。ね? いいでしょ?」
「まぁお前がそう言うなら良いけどよ。こういった武器はある程度のスキルを持ってるか、ある程度アビリティが高くないとそう簡単には扱えないぞ?」
「どんなスキルなんだ? それ。参考までに俺達にも教えてくれよ」
そこで一樹が聞くと、カズは親切に教えてくれた。
「武器スキル、"球術"、"鞭術"、"武器操作"とかかな? 他には"魔具戦闘術"ってスキルや、さっき言った"死霊術師"、"呪物操作"とかになるかな?」
へ~。
「まあ思ってたよりはそれなりにあるんだな」
「まあな。んじゃ、試しに使ってみろ。それを操る時は自分の魔力をそのリングに込めるんだ。」
ほうほう、リングに私の魔力を注いで操るんだ?
私は持ち手となるリングを渡されて、強く握りしめると同時に魔力を注ぐ。
「んじゃ、行ってみよう〜!」
その瞬間、頭の中に誰かの声が響いた。
ー この魔力の波動……。あぁ、お懐かしや ー
「え? 誰?」
「ん? どうした?」
カズが目を大きく開いて聞いてきたから、私は応えた。
「え? 誰か話してない?」
「いや? 俺達には何も?」
え? なんで? 皆には聞こえないの?
その声をカズ達には全然聞こえていなかった……。
ー どうやら私の声は貴女様にしか聞こえていない御様子 ー
「誰? 誰なの?」
ー 私は"ガルガイル"に御座います ー
なんだか頭が痛いし、訳解んないよ!
この時、私は混乱して、それに気づいたカズが万が一に備えてノリちゃん達を離れさせたのが視界に入った。
ー そして、貴女様の名は…… ー
「私は沙耶! 私の名前は沙耶だよ!」
「沙耶!」
カズが叫ぶ。その瞬間、頭に直接語り掛けてくるガルガイルに、聞き覚えの無い事を言われ。見た事も無い膨大な映像が私の頭の中に流れ始めた。
痛い! 頭が割れそうなくらい痛いよ!
ー あぁ……、おいたわしや、今は私を思い出せなくとも、いずれ時が来たら思い出す事でしょう ー
なに? なんなのコレ? コレは……誰?
映像の中で、誰かが誰かと話をしている映像が目に飛び込んでくる。
『だからどうして私を置いて行くのよ!』
<行けば死ぬかも知れんのだぞ>
『だからって置いて行かないでよ! "バラン"!』
誰?! この女性は誰?! それにこの人と話をしているバランってモンスターはなんなの?!
その女性と話をしているバランってモンスターは、映像が不鮮明でよく分からない。でも不鮮明でもそれがモンスターだと言う事は分かる……。
そこで映像が切り替わり、私はその女性の目線で何処かの戦場で戦っていた。
『"サマエル"!」
彼女がそう叫ぶと、右手に蛇の骨で造られた様な凶々しい大鎌が現れ、鎌は蛇の口の中から出ている形をしている。
そんな彼女の前に、武装した多くの兵士達が襲いかかって来ていた。
『邪魔をするな!』
けれど彼女はいとも簡単に多くの兵士を斬り殺す。
なにこれ……、やだ……、私知らないよこんなの!!
『"死に風"えぇエベッ!!』
『死ねっ!』
『死に風覚悟ぉ!!』
『邪魔だ!』
『ガハッ!』
ヤだ怖いよ! 誰か助けて! カズ!
映像は生々しくて、見てるだけで吐き気がとても酷かった……。
でも……、彼女は"死に風"と呼ばれていることを私は理解した。
そしてその目の先にはさっき話をしていたモンスターが、多くの兵士達と戦っている。
<グルアァァァァッ!!>
『バラン!!』
<?! なぜ来たっ!!>
その姿はとても不鮮明。だけどそのバランってモンスターがどれだけ大きいか分かる。
だいたい20メートルはある、恐竜の様なモンスター……。
そして同時に、私は不思議とそのモンスターを見ていると、とある名前が頭によぎった。
……骸?
<今のお前では死ぬだけだぞ! どうしてそれが分からない!>
『私の命はあの方の物! ここで死ぬなんて怖く無い!』
<馬鹿者め! ここには奴らも来ているのだぞ!>
『そう、なら丁度良いわ。あの屈辱をここで晴らさせてもらう!』
なんなのいったい?! これはなんなのよ?!
どうして骸を思い浮かんだのか理解出来なかった。
バランってモンスターは骸とは似ても似つかないのに、どうして出てきたのか。
彼女はその背中をバランに預け、その後も戦い続ける。
そして……。
『危ない!!』
誰かがそう叫んで彼女を庇いに走ってくる。直後、眩い光がその場を支配して、私の意識が消えていく……。
『うっ……うっぅ……』
気絶してたのかな……。
ぼんやりする意識の中、彼女を通して私の視界も明るくなった。
辺りを見回すと、そこには悪魔みたいな人達やモンスター達がたくさん死んでいた……。
『ご……、御無事……ですか?』
声がする方へ目を向けると、そこには男の人が倒れている。
黒い髪に黒い角。肌は褐色。尖った耳に黒い翼があるまだ若い悪魔の人。
その声はさっき彼女を庇った時の人と同じ。
『ガルガイル! どうして私を庇った?!』
この人が……、ガルガイル……。
『す……すい……ま……』
『もう喋るな! 今すぐ回復魔法を……っ!』
……酷い。
よく見ると、ガルガイルって人の下半身は吹き飛んで無くなり、千切れた内臓とかがそのまま出ていた……。
『だ、大丈夫だ! 今助ける!』
ダメ……、これじゃもう……、助かられないよ…………。
『私は……もうい……い……の……です』
『何を言っている!』
『あ……なた……さ……まが、ごぶ……じ……で……ある……のなら…』
『ガルガイル……』
『わ……わた……わた……わたし……は……』
最後の力を振り絞り、手を空へとなんとか伸ばすガルガイルだけど……。
『ガルガイル……? ガルガイル?! ガルガイル!!』
もう……、力尽きて死んでしまっていた……。
『クソッ! クソックソックソックソックソッォォ……!! 許さない……、私の部下を良くも殺してくれたな! "ミカエル"!!』
彼女の睨む先に、光に包まれて顔は分からないけど、とても冷たい笑みをした天使の姿だけが見える。
どうして……、天使ならどうしてそんな酷い笑みができるの?
そしてそこで映像が終わってしまい、私は暗い空間の中を漂っていた。
ー 私の魂はずっと地獄の牢獄に閉じ込められておりました。まさかこうしてまた貴女様と出会う事が出来るとは…… ー
まって! 私は沙耶! 他の誰でも無い沙耶だよ! それにここは何処なの?! 皆んなの元へ帰して!
ー では沙耶様、またこうして出逢えたのもきっとあの方の御導き。また貴女様にお仕えさせて下さいませ ー
仕えるってどう言うこと?! ねえ!
ー 私の名はガルガイル。そして、今の私の名は……。 ー
"デモン・スター"
「はっ?!」
そこでようやく、自分が誰と話をしていたのか理解出来た。
すると目の前に、カズの姿があった。
けどよく見ると、そのカズはボロボロになってて、周りにあった木や草が無くなり、地面は荒地となっている。
え? 何か……、あったの?
「よぉ、やっと目が覚めたか?」
「カズ? これは?」
「はあぁぁ、やっぱ記憶が無えのかよ……ったく」
「え?」
「沙耶! 大丈夫?!」
「美羽?」
「心配させないでよ馬鹿!」
「え?」
美羽? どうして泣くの?
泣きながら私の元へ走って来ると突然抱きしめた。
美羽がすすり泣きしながら、どうしてカズがこんな状態になり、周りの木や草が無くなり、何故酷い状況になっているのかを説明してくれた。
原因は、私が突然暴れ出し、辺り一面をデモン・スターで粉砕しながら木や草を吹き飛ばしたのが原因。
まるで自我を失い、狂った獣の様な形相で暴走し。それを止めようとしたカズに……、私は攻撃した。
カズは全力で暴走する私を、周りを破壊しながら止めようとし続けてくれていたって、美羽が話してくれる。
「うそ……」
当然だけど、私はそれを信じられずにいた。
「ねぇ、何があったの?」
「私にも分かんないよ……。でも、記憶に無い映像が頭の中に流れてきて。それで……アレ? 私、どんなのを見ていたのか全然思い出せない……。アレ? え? なんで?」
私は困惑して膝から砕け落ち。両手を震わせながら顔の前に持っていく。
その時の両手はまるで痙攣してるみたいに、酷く震えていた。
……でも。
その記憶はとあるきっかけで後になって戻った……。
「まぁ散々暴れたんだ。ちょっと休め」
カズは特に怒っていない。ただ、私の事を心配してくれていた。
「でもカズ ーー」
「いいから休めえ」
私がボロボロにしてしまった戦闘用の服が、闇の衣でどんどん修復させながら後ろを向き、その場を離れて行く。
「……分かった。でも、これだけは覚えてるの」
「ん?」
「夢なのかなんなのか分かんないけど、大きなモンスターが出て来て、それがバランって呼ばれてた」
不思議と私は、その名前だけしか覚えていなかった。
するとその名前を聞いたカズは急にこちらを向き、目を大きく見開いていた。
「大きなモンスターの、バラン?」
美羽が聞いてくるから、私は説明を続けた。
「うん、とっても大きなモンスターで、なんだか恐竜みたいな感じだったんだけど、良く覚えてない」
「きっと何かの番組に出てきたのが出てきたんじゃない?」
美羽は微笑んで、単なるテレビ番組を思い出しただけだって言うけど、そうじゃなかったんだよね……。
「そう……かなぁ……。あっそうだ、このデモン・スター返さないと」
私はカズにデモン・スターを返そうと走り寄り、その後ろ姿に声をかけた。
「カズ、ゴメンね。私がこれを貸してって言わなければ迷惑かけなかったのに……。ゴメンなさい……、コレ」
「いや待ってろ」
「えっでも」
「今は持ってても別に平気なんだろ? だったらそれをお前にやるよ。どうやらそのデモン・スターも、お前を気に入ったみてえだしな」
<ググッ!>
デモン・スターはその時、宙に浮きながら私を見つめていた。
「えっ、じゃぁお金は ーー」
「いらねえよ。だからその分大事にしてやってくれ」
「……うん、ありがと。それなら呼び名を考えないと」
魂が宿ってるだけあって、きっと物凄い武器になる予感がするな~。
この時 私は微笑み。いつもの調子を取り戻し始めていた。
「なんで呼び名を考える必要があるんだよ?」
カズは不思議そうな顔で後ろにいる私に目を向ける。
「だって、例え武器でも一応生きてるんだし。そうだな〜……」
ー 私の名はガルガイル。 ー
ふと、その名前を思い出した私は、それでデモン・スターの名前を決めた。
「よし、今から"ガル"って呼ぶ事にしよっと!」
<グググッ!>
私が笑顔で名前を決めると、デモン・スターもその呼び名を気に入った様に動き回る。
気に入ってくれたみたいでよかった~。
でもどうしてそんな名前にしたのか。この時の私は大して気にもしていなかったんだよね。
「変な奴。まっ、気に入った武器に名前を付けるのは分からなくもないけどな」
カズはそう言って、胸ポケットからタバコを取り出して火をつける。
その甘い香りが、私の心を癒してくれる。
いつも読んでいただき誠にありがとう御座います。
今回はどうでしたでしょうか?
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