第336話 今になって
ノーフェイスが何を言いてえのかってのも、なんとなく解る。
だけどロゼリアは今、俺達の味方であり仲間なんだ。
「このまま黙って見てる事なんざ俺達に出来るわけねえんだから俺達で終わらせる!」
「おやおや、熱いじゃないか」
「さがってて下さい憲明さん」
「うっせえ! 出来ねえよんなもん! 援護は任せたぞソラ! カノン!」
「ダークス! "超電磁砲"で援護しつつこっちに来てくれ!」
そこにソラ必殺の"殲滅射撃"。そしてカノンは角や植物に魔力を集めた光属性の"魔光砲"も加わる。
「一旦離れろロゼリア!」
俺の言葉にロゼリアが少し離れると、ダークス、ソラ、カノンの攻撃が一斉に放たれた。
普通ならこの攻撃をまともに食らえば、そこらにいるモンスターを瞬殺出来る威力。
「芸が無いね」
出来ればついでに、ここでミルクに大ダメージを与えてやりてえけど、ミルクがどれだけ強いのかを知ってるからきっと無理だろ。
それにノーフェイスだってミルクを厄介と言ってておきながら、そんなミルクの動きについてってるあたり、認めたくねえけど思ってるよりも結構強い。
そんなノーフェイスはバリアみたいな障壁を作り、ダークス達の攻撃を簡単に防ぎながらまたミルクと戦闘をする。
だからと言ってこのまま野放しに出来る相手じゃねえんだよテメーは!
ここでノーフェイスを倒さなきゃ、きっと俺達の壁になる。
「遅れてすまぬ!」
「バニラ!」
「とうっ! 唸れ我が右拳! 悪には鉄拳制裁! ふんぬ!」
「次から次へとよく集まる」
ミルクと剣をぶつけ合っていたノーフェイスにバニラが攻撃を仕掛けるけど、簡単に避ける。
「その仮面、貴様、あの道化の仲間と見た」
「気を付けろバニラ! そいつ! 邪竜教のボスだ!」
「ぬぁにっ?! ぬ~……、貴様かぁ……、あの和也をおかしくした元凶は! ……許せん! 貴様は断じて許せん! 貴様さえ現れなければあの凶星十三星座もきっとまだ動かなかった筈! 貴様こそが世界の敵だ!」
その通りだ! コイツさえいなきゃきっと今頃……!
カズと何度も喧嘩をしてはいたけど、一緒に笑いあった毎日の記憶が頭の中に流れ、俺はますます怒り狂った。
「全部テメーのせいなんだよノーフェイス!! カズが向こうに行っちまったのも! 東京がこうなっちまったのも! 全部全部! 全部テメーがいるからなんだよクソボケヤローが!!」
「おやおや、そんなに怒っても状況は変わらないと言うのに。はは……。……嘗めるなよ? ガキ風情が」
この時、初めてノーフェイスから殺気が混じる怒りを感じた。
「だいたい、世界がこうなったのも全部あのゼウスのせいじゃないか、それを私に押し付けるなよ? ……私はこの星を愛し、あの方々を愛した……。それを奪い、我が物顔で世界を蹂躙し! あまつさえ破壊した! ……私はずっと見ていた、遠くからこの星が美しい姿へと変わっていくのを、ずっと見ていた」
「お喋りしていて良いんですか?」
「構わないさ、別段君の相手をしていてもさ程問題は無いんだよミルク。私はね、いや、我々は我慢出来ないのだよ、あの美しかった世界をもう見る事が出来ないのが。……だったらもうこんな世界、無くなってしまっても良いじゃないか」
「何好きなことベラベラと言ってんだよ! いい加減黙って死ねよ!」
「黙るのは君だよ憲明君」
目で追い付けない速さで突然、ノーフェイスは俺の目の前に移動し、俺の顔を至近距離から眺めてまた喋る。
「片翼の君がどうして気づかない?」
「な、何をだよ?!」
驚いて何も出来ないでいたけど、ノーフェイスの言葉に俺はそこで、思わず"ヴァーミリオン"を振るった。
でもそこにはもういない。
「どうして君はまだ気づかない?」
ノーフェイスが俺の真後ろにいる。
「クソッ!」
「君はあの方の片翼。片翼であり、あの方の考えが多少は理解していると言うのに、何故?」
真後ろにもう一度剣を降るうと、今度は俺の右肩に手を置いて横にいる。
「チッ!」
もう一度、駄目もとで振るうと今度は俺の"ヴァーミリオン"を素手で簡単に掴み、俺の顔を覗き込んだ。
「もしやまだ覚醒していない?」
「なんなんだよさっきっから!」
「……そうか、あの方は君を覚醒させたくないのか」
「覚醒覚醒って! さっきっからうっせえんだよ! 何が言いてえんだよ!」
「その言葉通りだよ、君に自覚が無い以上、私から教える義理は無いね」
コイツはいったい何を知ってるって言うんだよムカつく!
「無事か?! 憲明!」
「おっさん!」
御子神のおっさんとミラさんも来てくれた。
しかも他のチームも。
「また増えた」
「絶対テメェを逃がさねえからな!」
「さて? それはどうだろう?」
その時、腹が急に熱くなったかと思うと激痛を感じた。
「……クソッ、タレが!」
「何故ならここで君は私が刺すからだ」
俺の腹に短剣が突き刺さり、血が滲み出る。
「憲明!!」
「怒りに任せて近づくからだ馬鹿!!」
ヤッさんと一樹が慌てて駆け寄ってくれるとノーフェイスは離れ、そこへミルクが再び攻撃を仕掛ける。
「私を忘れないで下さい」
「おや、君は憲明君が心配じゃないのかい?」
「……勘違いしないで下さい、あの人も私は敵同士。どうして敵を心配しないといけないんですか?」
「ははは! 確かにその通りだね! だけど彼女は激昂して今にもここへ来るだろう」
ヤロゥ……。
「馬鹿野郎が! あの状況なら直ぐ離れろ!」
「わ、悪い」
一樹は怒りながら回復魔法を使える岩美を呼び、回復させる前に止血しようと傷を見てくれると。
「は? ……もう回復してるのかよ?」
「え?」
言われて見てみると、刺された傷が再生し始めていた。
なんでだ? 痛みももう無い……。
あっ、まさか!
「これって"ヴァーミリオン"の能力か!」
強化する為にエルピスの羽を使い、お陰で死にかけていたイリスをなんとか助ける事が出来たんだけど、それってその時は剣を通じてエルピスが助けてくれたからだ。
それが強化された事でヤバいと思える傷を治してくれるようになった。
けど、それを知って俺は納得出来ない気分になったんだ。
「だったら……、そこまで能力が高くなってるなら、その力で助けられる命を助けられたんじゃねえのかよ……?!」
きっと、もしかしたらダリアを助けられていたかも知れねえし、例え出来なくてもそれでも何かやれたんじゃねえかな。
それが悔しかった。
それにココ達だって助けられていたら、親父さんのあの哀しむ顔をさせずに済んだ筈なんだし。
「くそっ……、でも俺が弱いからなんだよな……」
溢れそうになる涙を手で拭い。
俺は新たにこの"ヴァーミリオン"で救える命を助ける事が出来るようになってみせると、心に誓いを立てた。




