第335話 仮面と魔犬
声がバラバラって例えたのは、男の声や女の声に変わったりするからだ。
少なくとも男2人、女1人。
最初は男だと思ってたからどっちがどっちなのかわけがわからねえ。
解る事はひとつ。
「その言い方だと、アイツの事を慕ってたんだろ。……なら、なんでアイツの幸せを願ってやらねえんだよ! 2人の幸せが壊れてでもアイツを守ってやらねえで! どうして裏切ったんだよ?!」
「……愚問だ」
「なに?!」
「私は確かにあの方を慕っていた。あの方が存在し、優しかったからこそ私は生まれた」
「んじゃどうして!」
「……御二人が揃わなければ存在している意味が無いからだよ」
「……カズ1人じゃ、意味ねえのかよ……」
「その通り」
「……お前はいったい、なんなんだ……。声がバラバラだし、同じ人物なんだろうけどまるで違う。……お前、多重人格なのかよ?」
その答えをノーフェイスは決して話はしなかったけど、俺の疑問はあながち間違っちゃいない事は……。
カズとの最終決戦が来る前になる、ノーフェイスとの決着がつく時に明らかになる。
「まだ、知る必要は無い」
「あーそーかよ!!」
「来たまえ。彼女達が"アフティオアメス"の相手をするなら、君達は責任をもって私が相手をしてあげよう」
「ざけんな!! 何が責任をもってだよ!! さっきから馬鹿にしやがって!!」
「現に君達がどれだけ本気だろうと、私の敵ではないからだよ」
ま、マジでぶっ殺してやる!!
「では私が相手をしますよ?」
「……これはまた厄介な」
俺達が相手にならないならと、その場に現れたのはミルクだった。
「なにしに来たんだよミルク」
「ご挨拶ですね、私はイリスの代わりに彼らを追いかけていたんです。そしたらそこに貴殿方がいた。ただそれだけです」
「ははは、あのイリスが彼らの味方になったと知った時は驚いたが、その代わりに君が追っていたとはね」
瞬間、ミルクが持つ炎を纏った赤い日本刀が、ノーフェイスの喉元まで振られていた。
速い!
その動きは美羽なんかよりもっと速い、まさに一瞬の速さ。
「おっと、危ない危ない」
「抜刀、"風翔閃"」
ノーフェイスに回避されると、青い日本刀がチンッて音だけして鞘に戻っていて、まるでカマイタチみたいな物凄い風がノーフェイスを襲った。
「私の攻撃からは誰だろうと逃げられません」
「……ほんと、君達は規格外だから参るよ」
「褒め言葉をどうも。では死んで下さい」
規格外と言われたミルクは相変わらずニコッとした顔で微笑んでいるけど、目は笑ってない。
「だけどそう簡単に死ぬ訳にはいかないんだよね」
ミルクの攻撃が通じていないのか、ノーフェイスは距離を取ると魔法攻撃で反撃に出る。
両手を軽く広げ、赤黒い球状の物を幾つも出してミルクに向けて放つ。その威力は"アフティオアメス"の攻撃よりもある爆発があり、俺達がまともにそれを受けたら重傷は避けられないだろ。
でもミルクはそんな攻撃を簡単に避けながらノーフェイスとの距離を縮める。
「遅いですね」
「はぁ……、ほんと、嫌になるね。炎や風はおろか、闇すら高い耐性を持っていると。でもこれならどうだい?」
赤黒い球体はどうやら闇属性らしい。続けてノーフェイスは、見るからに光属性と思える剣を作り、ミルクが持つ剣と激しい鍔迫り合いを始めた。
「あの方がお作りになられただけの事はあるね」
「……それはにぃにを侮辱してるんですか?」
「そんかつもりは無い。あの方が作られたその二振りの剣、見事としか言いようが無い」
光属性まで使えるって、アイツはマジでなんなんだよ?!
そこへ更に別の奴が来て、場が混戦する事になる。
「久しぶりですね、ボス」
「なんだ、君まで来たのか」
ノーフェイスと似た仮面を被っているロゼリアが参戦し、ミルクと二人係で攻める。
「邪魔です、私だけで十分なのでどっか行ってください」
「そんな訳にもいきません。ノーフェイスは元とは言え私のボスでしたので、私が相手をします」
「別に君達を同時に相手をしても良いけど、面倒だからもう少し本気を出すとしよう」
「……嘗めないで下さい」
「……ふざけたことを」
ミルクは2本の刀を使う二刀流。ロゼリアは魔法を使いながらの格闘戦術。
そんな2人がノーフェイスと戦っていると、今度はお互いまで戦闘し始めて、三つ巴の状況に替わる。
なんでこの状況でそうなるんだよ!
この時はそう思ったけど、そうなるのは当然っちゃ当然だよな。
だってロゼリアとミルク、それにノーフェイスはお互い敵なんだからよ。
「それにしても、我々(われわれ)を裏切ったのだから向こうへ戻ったと思っていたんだけどね」
「……そうですね、確かに私は元々あの方の配下でしたし。ですが望みが叶った今、憲明さん達の手助けをする事が今の私の使命だと思っておりますので」
確かにそうだよな。ロゼリアはカズの配下だったんだし、カズからも側にいろって言われてた。
なのに、ロゼリアはカズ達とは行かずに俺達と一緒にいてくれる。
カズに何かを言われたからなのかもって思ったけど、ロゼリアの言い方からしてカズ達とは行かず、俺達の手助けをしてくれる為に残ってくれたみたいだ。
「あの方を裏切り、我々(われわれ)をも裏切る君はさしずめ、コウモリのようだねシャノン」
「……コウモリでけっこう。それに私はその名を捨てました」
ノーフェイスがどれだけ強いのか解らねえけど、ロゼリアがまさかミルクを相手にしていても、まったく引けを取らない実力を持っていた事にビックリだ。
ミルクはまだ涼しい顔をしてるからきっとまだ本気を出していないし、ノーフェイスは笑ってる感じが伝わってくる。
俺達全員が相手をしたらきっと負けるだろ。
別に冷静な状況判断は出来なくても、これは解ってもらえる筈だ。
カズがどれだけ強いのかって事を。
ノーフェイス、ミルク、それに凶星十三星座の連中なんかよりよっぽどヤバいのがカズだ。
ましてや凶星十三星座達はまだ、全盛期の力を取り戻しちゃいない。
ノーフェイスなんて一瞬で消せる。
「……負けてられねえよな?」
俺の質問に、全員は力強く頷いた。
「クロ、ソラとカノンは近くにいるんだよな?」
<ガウッ>
二体の気配はなんとなく感じていたし、繋がりが強くなってるからなのか自然にな。
「お前も近くにいるなら来い、ダークス」
<キュルリリルルララッ!>
一樹のパートナー、白銀色のダークスが現れると他のパートナー達が顔を出し、それぞれのパートナーの側に向かう。
「ビビってる奴いるか?」
「いるわけねえだろ」
「だよな? んじゃ、ロゼリアばかりに良いカッコさせてられねえよな~?!」
「勿論!」
「行くぞ! あのクソボケ仮面を俺達でぶち殺す!」
俺は一樹と組、ヤッさんは佐渡、サーちゃんはシーちゃん、岩美は里崎と組んだ。




