第333話 滅びを望む者
「こっちは遊ぶ気なんざさらさらねえんだよクソボケ! 良いからここで死ねや!」
「ノリちゃん、1人で突っ込むのは禁止だよ? アイツは邪竜教のボスなんだから」
「分かってるよんな事!」
「熱くなりすぎて周りが見えなくならないでよね?」
一応武器を持ってきてて正解だったぜ!
とは言っても凶悪なモンスターが徘徊してるんだ、持ってなきゃ痛い目をみるのはこっちだ。
「準備が出来たのならきたまえ」
「嘗めんなよ? 行くぞオルァッ!」
作戦とか相談する余裕は無い。
俺はとにかく目の前にいるノーフェイスをさっさとぶっ殺したくて前に出て走った。
「ははは! 若いって素晴らしいねえ! 憲明君!」
ノーフェイスがいるのは何かモンスターに軽く破壊され、瓦礫となった建物の上からスッと降りて来る。
「おいで大蛇、一緒にアイツを倒すよ」
<ノーフェイスか。ふんっ、今日こそ奴に引導を渡してくれる>
美羽と八岐大蛇はノーフェイスと何処かでもう会って戦闘を経験をしてるんだろ。
だけどこの時の俺は冷静をほぼ失っていたから、それを解ってるようで解っていなかった。
「死ねよクソヤロー!」
「余り熱くなると足を引っ張るんじゃないかい?」
「うるせーよ!!」
<……この戯けが!>
「うおっ?!」
急に八岐大蛇が俺を咥えると後ろへ放り投げる。
「な! なにしやがんだよ馬鹿!!」
<馬鹿は貴様だ戯け者! 冷静を欠いて何をしてる! 美羽に熱くなりすぎて周りが見えなくならぬように注意されたばかりだろ!>
「うっ! ……悪い」
<貴様は暫くそこで反省してろ!>
……クソッ!!
俺は馬鹿だ……。ノーフェイスにまで言われたのに俺は皆の足を引っ張るところで止められちまった。
もし、八岐大蛇に止められなかったらとんでもない事態を俺のせいで引き起こしてたかも知れない。
だけど、それでもノーフェイスを許せない俺はまた出ようとすると。
「先輩はここでおとなしく見てて下さい」
岩美?!
「そりゃ熱くなるのはよく分かります。だけど相手は夜城先輩の魂を2つに分けた張本人なんですよね? だったらそんな相手なら迂闊な行動は悪手じゃないですか」
「そ、そうだけどよ!」
「だったら先輩は様子を見ながら指示を出してください。先輩は私達の司令塔なんですから」
……俺が司令塔?
「行きます!」
んなこと言われても……。俺、司令塔なんてガラじゃねえぞ!
「おい! 何してんだよ! お前だけでもちゃんと冷静を取り戻して指示を出してくれよ!」
一樹……。
「動きが速すぎて僕じゃまともに皆を守ってあげられないから早く!」
……ヤッさん。
「自信が無いなら代わってあげようか? まっ、ノリちゃんのスピードでじゃノーフェイスとまともに戦えないだろうけどね」
「そうだぜ! じゃなくって、そうだよ! コイツとまともに渡り合えるのは美羽姉か俺! …私ぐらいだ!」
美羽、イリス……。
「ふふっ、んじゃ私がサポートしてあげるから頑張ろっか、憲明君」
サーちゃん。
「……ちっ、失敗しても俺のせいにすんじゃねえぞ?!」
そう言ってもらえて嬉しいんだけど、俺なんかがちゃんと指示を出せるか不安がある。
「ふふっ、オルカルミアル討伐作戦の時は、あんなに沢山指示を出してたのに、今回は腰が引けてるみたいだね?」
「あの時は……! ……あ~も~! だからやりますってば! おい美羽! イリス! 2人でノーフェイスの動きを抑えこんでくれ! 隙を見て一樹と岩美も応戦! シーちゃん! アンタは美羽のサポートしてくれ」
「「了解!」」
「了解です!」
「はいよ!」
「はいは~い」
「ヤッさん! そいつが変な動きを見せたら頼む!」
「うん! わかった!」
ヤッさんは魔法や能力に効果を発揮する"能力封殺"がある。
ノーフェイスがどんな能力を持ってるのか解らない以上、警戒する為にもヤッさんの力が頼りだ。
「ふふっ、楽しいじゃないか。1人1人が互いを信じ、未來を切り開く為の剣となり盾となる。されど、どれだけ頑張ってもあの"終焉"を止める事など出来はしない」
「うっせ! 黙れ!」
「やれやれ、君達は気づいてるのにまだ気づかないフリをするのかい? 「黒き星が空に現れた時、夜のごとき終焉の竜からの審判は下される」。この言葉はある部族の間で秘密裏に受け継がれている言葉でね?」
「それがなんだって言うだ? あ゛?!」
「その審判からは何人も逃れられないのさ」
スピードには自信がある美羽やイリスですら捕まえる事が出来ないまま、ノーフェイスは簡単に避けながら俺達に語る。
「"終焉"にはニ種類の眷属達が存在している事は知っているかい?」
眷属だと?
「まず1つは"黒翼"と呼ばれる眷属」
"黒翼"と言われて思い付くのはダージュだ。
だけどダージュは違う。アイツは元々アルガドゥクスとは友人関係だったんだからな。
「そして2つ目は"黒鰐"と呼ばれる眷属」
「それがなんだって言うだよ! んなもん出てきたら俺達で倒すだけだ!」
「ふふふっ、解ってないね君は。"終焉"の眷属達をそう簡単に滅ぼす事なんて出来やしないよ。彼らは"終焉"によって生み出された、世界で最も邪悪な存在。破壊と殺戮、咎人は決して抗う事を許されない存在。それが"終焉"の眷属なんだよ」
そんな奴らが世界の何処かに眠ってるとでも言いてえのかコイツ!
「彼らが再び地上に現れる時、それもまた"終焉"なり。……さて、まだお喋りを続けるかい?」
コイツはいったいどれだけの事を知っていやがるんだ?!
「黙りかい? 知りたいことがあれば可能な限りの情報をあげたいんだけど、もうお腹一杯なのかな?」
「てめぇ……、マジでなに者なんだよ! なんでそんな事を知ってんだよ?!」
「おや、私が何者か知りたいと? 良いだろう、では特別に少しだけ教えてあげようじゃないか」
どこまで俺達を馬鹿にするんだコイツ!!
ノーフェイスは美羽達から少し距離を取ると、改めて挨拶をし始めた。
「私はノーフェイス。"邪竜教"のリーダーをさせて貰っている者。そして、かつてあの方に仕えていた者」
「あの方」って事は昔のカズ、アルガドゥクスに仕えていた奴か!
「恐れを忘れ、光を捨てた世界へ、あの方の叫びを聞こうとしなかった者達へ天罰を下す代理人。我々に慈悲など与える必要無し。……故に滅びを望む者。その代表が私」
「結局……、ただの死にたがりなだけじゃねえか!!」
「それは違う。私はね、あらゆる世界の滅びを見届けてからあの方に殺される事を望んでいる。」
「それのどこが違うって言うんだよ!! もういい! テメエはここで俺達が殺してやる! 準備は良いな?! ノワール! クロ!」
俺はノワールとクロに、準備は良いか聞くと、唸り声をあげながらノーフェイスに飛び掛かる。
パートナーってマジで凄いし頼りになる。
それでどうしてこの2匹がいるのかって理由は、テイムする時に俺や美羽、他の奴らだってそうなんだけど。テイムは一種の契約であり、魔力で屈服させるか認めてもらう必要がある。
つまり、カズと八岐大蛇みたいに一種のパイプが繋がってるから、俺の魔力に反応して駆け付けて来てくれたんだ。
「君ご自慢のブラック・フェンリルにハイブリッド恐竜か。良いだろう、来たまえ」
「それだけだと思ってほしくないなぁ。ね?」
<はい、お待たせしました母上>
<キュルルルル>
<フルルルル>
「銀月……」
<二度も私から逃げられると思うてくれるなよ? ノーフェイス>
「まいったな……、まさか君まで出てくるとなると話が変わってくるんだが」




