第326話 一時的に目覚めた、いと尊き絶対なる神
学園祭が行われている頃。
ーー 竜国 ーー
多くの竜や魔族、そして亜人達などが集まる大広間の前には凶星十三星座達が集まっていた。
その彼らの前には数段の階段があり、そこにゼストが1人立っている。
ゼストの後ろには大きな玉座があるが、そこには誰も座っていない。
だが、その玉座が冥竜王の物なのは明らかだ。
「皆よく集まってくれた。ーー 只今より、新たな凶星十三星座を発表する為、兄者がお目覚めになって下さった」
その言葉に集まった者達は歓喜すると。
「我らが主、冥竜王・アルガドゥクス様、ご入場致します」
その言葉の後、集まっていた者達の後ろにある、大きな扉が音を発てながら開かれ、アリスを筆頭にヴェロキラプトル達が現れる。
それと共に、その場にいる多くの者達が中央にある通路へと体を向け、一斉に跪い(ひざまず)き。それは靴音を鳴らしながら入って来た。
「「おはよう御座います。我らが陛下」」
「…………」
多くの者達が挨拶するが、機嫌が悪いからなのか強烈な威圧感を放ち、挨拶を一切返さない。
だが、部下達にしてみればそれですら幸福を感じていた。
凶星十三星座達も同じだ。
違うとするならば、凶星十三星座はふたてに別れて整列し。道を開けて頭を垂れ、それが通りすぎるまで静かに待つ。
「おはよう御座います、兄者。本日は起きて頂きまして、大変申し訳御座いません」
ゼストは1歩後ろに下がって頭を下げ。王であり兄、冥竜王に玉座に座ってもらうため、ゼストは手を伸ばして玉座を示す。
示された冥竜王は黙って座り。この時初めて第一声を発した。
「……おはよう」
「「おはよう御座います! 我らがいと尊き主にして絶対なる神! 冥竜王・アルガドゥクス様!」」
その場にいる全ての者達が冥竜王へと向き直し、改めて跪いて挨拶を返した。
「……その言い方、いい加減やめねえか?」
「ふふっ、それは出来ない相談ですよ、兄者」
「ちっ、わかったわかった。んじゃさっさと始めろ」
「かしこまりました」
この時、ゼストはまだ自分達の知る兄だと感じ、安堵していた。
「ではこれより、次の者達を新たなナンバーズ、並びに幹部とする」
ゼストの言葉に再び扉が開かれ、最初に中へ入って来たのは。
「朱莉、ゴジュラス、ミルク」
その3名は誰もが知る存在であり、特に危険とされてる。
「お前もだアリス」
ヴェロキラプトルのアリスが呼ばれた時、凶星十三星座以外の者達の間で。何故、アリスが呼ばれたんだと疑問を感じる空気が流れたが、それを下手に口にする事は許されない。
何故ならそれは今、この場を支配しているのは自分達の王だからだ。
そんな呼ばれた4人は玉座へ続く階段の下前まで進み、そこで跪く。
<アリス、呼ばれたのだからその姿じゃなく、"竜人"の姿になれるのだからそっちの姿になりなさい>
<……失礼しました>
横にいる夫のゴジュラスに窘められたアリスは立ち上がり。黒い霧の様な闇を放出させるとそこには、髪を内巻きと呼ばれる綺麗な銀髪の髪をした、まるでエルフの様な美しい女性の姿へと変わる。
だが完全に人の姿をした訳じゃない。
確かに人の姿だがイリス同様、長く綺麗な白い尾がある。
だがイリスの尾に比べるとその半分程だろうか。
「申し訳ありませんでした」
「ククッ、かまわねえさ。お前はお前の好きなようにすりゃ良い」
「ありがとう御座います、陛下」
「それはよせ。前のようにはいかねえがお前にそう呼ばれるのはなんだか嫌なんだ、だから別の呼び方にしてくれ」
「はい、カズヤ様」
ここでそう呼ぶのは正直どうなのだろうかと、疑問になるだろう。
他の凶星十三星座達や部下は、冥竜王を陛下と呼ぶ。
なのにどうしてアリスに陛下と呼ばれるのを嫌がるのか不思議だ。
<アリス……>
「何故? 私にとって主様はカズヤ様のみ。それとも父と思えば良いのかしら?」
夫のゴジュラスは注意したそうに呼ぶが、妻アリスの気持ちは分からなくもない。
しかし、その事でゼストや他の幹部達に怒られるのではないかと、内心ヒヤヒヤしながら黙っていると。
「俺は好きなように呼べって言ったんだ。その事でアリスを非難するんじゃねえぞテメェら」
「「はっ!」」
アリスとしては冥竜王を父も同然だと思っている。
故にそれを感じ取っていたからこそ、冥竜王は陛下と呼ばれたくなかったのかも知れない。
「さて、彼らは兄者が新たな凶星十三星座のナンバーズとして選んだ4人だ。中には彼らがどれだけ強いのか知ってる者もいると思う。そこで……、誰かその事に異議がある者はいるだろうか? いるなら立ってその理由を申し立ててみよ。どうだ?」
部下達にゼストは聞くが、誰も反論する者などいない。
「結構。ではこれより、儀式を執り行う」
するとメイド服の魔族4人が小さな小瓶を持って来ると、それを朱莉、ゴジュラス、ミルク、アリスへと渡して下がった。
小瓶と言ってもその大きさはコーヒー缶より少し小さい位の物だ。
「気づいていると思うがそれは兄者の血だ。だがただの血じゃない。たった一滴、一滴で国1つを簡単に滅ぼす事が出来る毒だ。だがお前達は既に飲んでいる。ミルクは兄者の血を飲んだ事によって進化し、朱莉に至っては大量に飲んでその力を増幅させている。流石はラスト・ヴァンパイアにしてヴァンパイア・クイーンと言ったところだ。ゴジュラスとアリスもまた、密かに兄者から血を頂いて進化した。だがこれから行われるのは今までとは訳が違う事は理解してくれていると思う。ーー これから行われるのは儀式だ。お前達には一度死んでもらう。……恐れるな、兄者を信じよ、さすればより強大な力を手にし、新たなナンバーズとして覚醒するだろう。さぁ、飲みたまえ」
ゼストの話しが終わった後、小瓶を受け取った4人は蓋を開けて飲んだ。
変化は直ぐに現れる。
<んグアァッ!>
「んっ……! ア゛ア゛ッ゛!」
ゴジュラスとアリスはその場で苦しみだし。
……そして間もなく絶命した。
だが、飲んだにもかかわらず。
「だらしないわね」
「まったくです」
朱莉とミルクは平然とした顔で血を飲み干し、まだ飲めると言いたげに微笑んだ。
「ほほぅ? やはり朱莉とミルクは平然としていられるか」
「……まっ、当然だな。おいゼスト」
「えぇ、承知しておりますとも」
すると今度は凶星十三星座全員に血の入った小瓶が渡され、全員に今一度飲むよう指示が出された。
「兄者は我らが弱いと嘆いておられる。そこで今一度、我らは兄者の力でより、強くならねばならない。でなければ我らは新なる敵と相対した時、まともに渡り合える事など叶わぬからな」
「ゼスト、悪いこれが終わったら少し出掛けて来る。それとだ。まだ完全に凶星十三星座とは言えねえんだからお前達で残りのナンバーズを選定しておけ」
「かしこまりました。ですが兄者、起きて頂いてなんですが、出掛けても大丈夫なのですか? もしもの事があれば」
「気にするな。まっ、気になるならお前だけ着いてくれば良いさ」
「承知致しました。では、早々(そうそう)に終わらせるとしましょう」




