第323話 悲劇
「つ、疲れた……」
「そうだな、美羽が来ただけであんなに忙しくなるなんてな」
「まぁ、美羽が来たのは良いんだけどさ。アレ、見てみろよ」
グレイと一緒にやっと休憩が貰えた俺が指をさす方向には。
「キャーー!!」
「こっち向いて~~!!」
「大きくなったね~!」
<あ、あの……>
銀月が他のクラスの女子生徒達に取り囲まれ、身動き出来ずに慌てている姿があった。
「うわぁ、やっぱ銀月ってめちゃくちゃ人気者だなぁ……」
「だってあの美羽のパートナーだぜ? 絶滅した筈の"カラミティー・ドラゴン"。しかも白変種」
「ほんと、ミウが羨ましいぜ」
<ハッ!>
あ……。
銀月まで距離、50メートル。
銀月は学園の中庭中心にある噴水前にいて、俺達は中庭と隣接している廊下にいる。
その銀月と俺の目が合い。助けを求めたそうにしていた。
どうする俺……。
1、「助ける」。2、「逃げる」。3、「助けを呼ぶ」。
<(た、助けて下さい!)>
グッ! ここでもし、1番の「助ける」を選べば女子達から批判されるかもしれない。……かと言って助けなければ銀月に恨まれる可能性も出てくる。
<(憲明さん……!)>
クソッ! 下手に選択出来ねえぞ!
横にいるグレイが生唾を飲み、緊張した顔で俺がどうするのか見ている。
嫌なら飛んで逃げれば良いじゃねえかって思ったけど。
銀月は優しいから邪険にしたくないから逃げずにいるんだ。
だったら、ここは俺が悪役になって銀月を助けてやらねえとな!
そこからは自然と体が動き、群がる女子達の中に向かって走り出していた。
待ってろ! 今お前を助けてやる!
「ちょ~っと良いか?! 悪いけど銀月に用事があるから道を開けてくれ!」
「えっ?! ちょっ!」
「キャッ! どこ触ってんのよ!」
触りたくて触ってんじゃねえんだから勘弁してくれ~!!
「痛い!」
「ちょっと誰?!」
「イヤ~~ン!」
女子の群れをかき分けながら俺は突き進んだ。
<(憲明さん……ッ! ありがとうございます!)>
銀月! 俺の手を掴め!
<(はい!)>
不思議と心が通じ合ってる感覚になり、あと少しの所まで行った俺は銀月に手を伸ばした。
銀月!
<(憲明さん!)>
「なにしてんの? ほら、こっちに来てなさい」
<……あっ、はい>
…………。
……ほんと、運命って奴は残酷だと思う。
急に現れた美羽が簡単に女子の群れをかき分け、銀月の所まで連れ戻しにやって来ていたんだ……。
…………。
<(ご……、御免なさい!)>
…………。
もうね、俺はスンッとした顔になってたと思うよ? うん絶対……。
<あ、あの母上? 憲明さんを助けなくても宜しいのですか?>
「別に大丈夫でしょ。それよりもアンタ、ずっと探してたんだからね? 勝手にそこら辺に行かないの」
<も、申し訳ありません>
…………銀……月さん……?
「ちょっと良い? ノリアキ君?」
「……はい」
これはマズイ……、非常にマズイ事態ですよ? これは……。
グ、グレイ君?
グレイに眼を向けると。
「はわわわわわわわわわわわっ…………」
あっ、ダメだ。
もうね? グレイが動揺した顔で固まってたから俺はニッコリ笑顔を作り……。
そこから全速力で逃げた!
「あっ! コラーー!!」
「逃がさないよ~~!!」
「責任とれ~~!!」
眼を光らせ、今度は俺を狙って追いかけてくる。
「おいグレイ!! 助けてくれ!!」
「ハッ?! まっ! 待ってろ!!」
いや待てば捕まるだろ!!
でも俺のレベルなら撒くことぐらい簡単な事だと思い、全力で逃げれば安心だと思って中庭から校内へと移って逃げ続けた。……んだけど。
「ちょ~っとまて憲明」
「ングッ?!」
俺の前に突然現れたイリスが、横を通り過ぎる瞬間に長い尻尾を首に巻き付けてきて俺は捕まった。
「お前、なに、してんだ? あぁア?」
「いや……、これには深い事情がありまして……」
するとそこへ遅れてグレイが息を切らせて合流し、俺は瞬時に悟った。
コイツ! なにか余計なことを言いやがったな?!
「グレイから話しは聞いたぞ? あぁア?」
「まて! だからそれには深い事情があってだな!」
すると今度はそこへ女子達の群れが追い付き。
「あっ、な~んだ、ノリアキ君イリスちゃんに捕まっちゃったんだ」
「ざんねん」
「あと少しで既成事実が作れたかもしれないのにな~」
なに言い出してんだコイツら?!
「へ~、んじゃお楽しみのところだったんだ~」
「違う! なにか勘違いしてるみてえだけど! 俺は何も!」
「胸触られた~」
「なっ?!」
「私、お尻触られた~」
「なにをっ?!」
「ほほ~ぅ?」
まてまてまて!! 俺は何もやましい事はいっさいしてねえぞ!!
「俺がいるって言うのに、お前は他の女に手を出すんだな?」
「違う!! 確かに誤解される事はしちまったけど!! 俺は銀月を助けようとしたらこうなっちまったんだ!! だから信じてくれイリス!!」
「ふ~ん」
なんとか誤解が解けるような事を言ってくれグレイ~!!
グレイに眼を向けると。
「ヒュー、ヒュー、ヒュー」
…………口笛が鳴ってませんよグレイ君?
ってことは、このグレイがわざとイリスを怒らせることを言った事は疑いようがないって事だ。
「(悪いなノリアキ。お前ばかり女にモテてるのがなんかムカつくからなんだ! 許せ!)」
このヤロ~~! なんの恨みがあって俺を陥れるようなマネを~~!!
「の~り~あ~き~」
「だ! だから違うんだ! 話せば分かる!」
「覚悟は、良いな? あ~ん?」
「ヒッ!!」
眼を光らせ、指をポキポキと鳴らしながらの本気で怒ってる時の笑顔がとても怖い。
ピエンじゃなく、ヒーッ! ってくらい怖い。
ダメだ! この目はもう何を言っても聞き入れてくれない時の目だ!
クソッ! 恨むからなグレイ~!
瞬間、イリスの拳が振り下ろされたから俺は目を瞑り、鈍い音が鳴った。
けど……、不思議と痛みが無い。
……あれ?
そーっと目を開けてみると。
「あぱー…………」
グレイの頭に大きなタンコブが出来ていて、白目になって気絶していた。
な、なにがあった?!
「ったく、俺を簡単に騙せると思ったのか? あ? ほら、オメェらも散った散った」
「ちぇ~、面白くなるとこだったのに~」
「ざ~んねん、これでイリスちゃんと別れたら狙えたのに」
「も~終わり~?」
こ、コイツら~……。
「はぁ……、俺がこの馬鹿に騙されてるとでも思ったのかよ?」
「イリス~!」
「ったくよぉ、おら起きろ」
「はっ?! ここはどこ?! お、俺は……?」
おいまさかそんなベタな感じで記憶喪失って事はねえだろうな?
「あっ、俺はグレイ・アーゼンだっけ」
……殴りたい。
「よぅグレイ、テメェの遊びに少し付き合ってやったんだから説明してくれんだよなぁ? あぁア?」
「ヒー! ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい!!」
「謝る前に説明しろやゴルア」
「はヒーー!!」
その後、グレイの口から説明を聞いた俺は正直呆れた……。
「俺がモテてる? はっ、そんな訳ねえだろバカバカしい。カズならいざ知らず、俺が? それに俺にはこんな可愛い彼女がいるんだぜ? 他の女に心を奪われる訳ねえだろ」
「そ、そんな、よせよ馬鹿、周りに大勢いるのに、恥ずかしいじゃねえか」
そんなこと言っても本能は素直ですよ? イリスさん。
俺に抱きつきながら胸に頭をスリスリ擦りつけながら喜ぶイリスが可愛いと俺は思う。
でもね? 俺には可愛い態度を見せてくれるけど。
「んじゃそろそろ落とし前をつけてもらうとしようじゃねえか、えぇエ? グ~レ~イ~?」
「あ、あわわわわわわわわわわ! んぎゃーーッ!!」
その後はイリスにボコボコにされた挙げ句、中庭の地面に頭から突き刺され、「私は大罪を犯した罪人です」って紙を貼られて放置された。
まぁ……、裸にされるよりはマシだからよ、俺はそれでグレイを許してあげたんだけど……、ちとやり過ぎな気もしなくは無い。
「フンッ、俺の憲明を陥れようとした罰だ。だからそれで許してやるよ」
ふっ、俺の彼女はなんて優しいんだ……。




