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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第11章 荒れ狂う海
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第319話 盲目の竜<守行Side>


 ーー 千葉県木更津市 南房総国定千葉県立富津公園 ーー


 ……まだ新しい。

 ーー ……向こうか。


 雨が降る中。林の中でまだ新しい血痕(けっこん)の痕をみつけ、他に無いか辺りを見回すと草に付いた他の血痕(けっこん)を付けながら移動した形跡を見つけたのであとを追う。

 その血痕(けっこん)は俺がオルカルミアルを憲明達に任せて別行動をとった理由になる者の血痕(けっこん)だと断定(だんてい)したからだ。


「……意外と近くだったな」


 痕を辿(たど)って行き着いた場所には両目が潰れ、大量の血を流しながらも身悶(もだ)え苦しみながらなんとか逃げようとする姿があった。


「……もう逃げ場は無いぞ」


 すると俺に威嚇(いかく)する。

 両目がつぶれちゃまともに戦える筈がねえだろうに。それでも俺に対して敵意をむき出しにし、噛みつこうとしたり、鋭い爪や尾で攻撃するが全部空振りに終わる。


「もうよせ。おとなしく俺に捕まれば痛い目に合わずに済む。これ以上の抵抗はするな()()()


 そう言っても(せがれ)がテイムし、育てていたんだ。ーー 俺がいくら何を言っても聞く耳なんざもっちゃいねぇ。


治療(ちりょう)させちゃあくんねえか?」


<ギエエエッ!>


「よせ。何も見えちゃいねえんだから抵抗(ていこう)しようが何しようが無駄だ」


 それでも俺の声を聞き、そこに俺がいるだろう場所に向けて攻撃してくるが、軽く()ける事が出来る為に何一つ当たらない。


「だから無駄だと言っている」


<ギ、ギエェ、ギエエエエエッ>


「……泣くぐらいならおとなしくしてくれ。俺はお前を傷付けたくねえんだ」


 何しても無意味。

 んなもんとっくにダリアだって気づいちゃいるさ。

 悲しく泣くその姿を見る俺は、ダリアを助けてやりてえからおとなしくしてほしいんだが。それでもダリアは俺を(こば)み続ける。


「兄妹が助けに来てくれるのを待ってるのか? ーー 無駄だ。アイツらが来たところで俺には勝てねえ事はお前だってわかってる筈だ。それともゴジュラスが来てくれるとでも? ……だとしたら、本気で来ると思ってるのか? 来てくれると思ってるならそりゃ大間違いだ」


 俺は頭を何度も横に振りながらポケットから葉巻(はまき)を取り出し、口に(くわ)えて火をつけて吸い始めた。


(あきら)めろダリア。お前は負けたんだ。他の誰でもない、憲明の根性に押し負けちまったんだ。結果的に両目を潰し、これから先、何にも見えない生活だけしか待ってねえ。それを治せるとしたら和也ぐらいなもんだろうけどがよ、……果たして目を覚ましたアイツは本当にアイツだって信じられるのか? ……なぁダリア、悪いことは言わねえ、俺と一緒に来い。そうすりゃ少なくともお前の面倒(めんどう)ぐれえ俺が見てやれる。どうだ?」


 とは言うものの相手が相手だ。

 俺がいくら何を言っても(せがれ)や他の兄妹の言うことしか聞きゃあしねえのはわかりきってる。

 だがよ……。

 (せがれ)じゃねえが俺だって絶滅せず、こうして存在しているダリアをどうにか助けてやりてえって気持ちが大きい。

 相手が恐竜だから、ヴェロキラプトルだから、んなもん関係ねえんだよ。

 生きてるなら相手が誰であれ、どうにか(ほこ)(おさ)めてもらい。一緒に生きていけるよう手を差し伸べてやるのが人情(にんじょう)の1つなんじゃねえかと俺は思う。

 争いをこの世から無くすことなんざ出来やしねえよ。

 それでもな。俺は出来る出来ないの前に、やってみなきゃ解らねえんだから最大限の事をやってから初めてようやくどちらなのか知る事が出来ると考えている。

 中にはどうしたって無理だって事もあるさ。

 だからこそせめて。せめて目の前にいて困ってる奴に手を()()べてやりてえのさ。


「ダリア。お前ならまだ戻れる。他の兄妹やゴジュラス、和也の事を想えばこっちに来ることは裏切りになっちまうだろう。だがなダリア。よぉ……く考えてもみろ。戻って目覚めた和也にその目を治療して貰い、また俺達の敵として動かされるのか。それとも目は不自由になっちまうが俺の元に来て、今度は争いなんざ無い場所で余生(よせい)を過ごす。少なくとも俺達はお前を大切に保護し、幸せに暮らせられるよう(つと)めるつもりだ」


 これは俺の本心だ。ダリアは他の兄妹や仲間の中でも、特にイタズラ好きで時には頭を悩ませる事を平然と仕出かしてくれたりもした。

 だがそれもまたコイツの魅力であり、可愛いところだと知っている。

 これで仮にダリアが攻撃してきても()けもしなけりゃ反撃しないつもりで俺はその場に立ち。どうするのか黙っていると。


<ギエエエッ!>


 ……噛みつこうと飛び掛かってきたダリアに、俺は左腕を出して噛ませた。


「どうした、その程度でじゃ俺の腕を噛みちぎることなんざ出来ねえぞ」


<グルギャァ……>


 とは言っても噛まれてんだから当然(いて)え。

 血が(にじ)み、流石の俺でもギリギリと噛まれちゃ叫びたくもなるが、もし叫んだりほんのちょっとでも後退(あとずさ)りしようもんなら一気に仕掛けてくるだろう。

 だが俺は信じた。

 ダリアならまだ、戻ってこれると。


「ダリア、それがお前の限界なのか? おい、それで俺を殺しに飛び付いたのか? あぁア?」


 本音はかなり痛いんだがな。


「お前はそれでも和也が育てている生きた殺戮兵器(さつりくへいき)と言われた古代生物の生き残りなのか? 少なくともアリスやヒスイに比べりゃ……、ハッ、笑わせんじゃねえぞ? ……だがよダリア」


<?!>


「そんなお前でも、俺は()()()()()()()()()()()()。それだけは(けっ)して忘れるな」


<グッ……、グウッ……>


 空いてる右手で頭の上に乗せ、伝えるべき言葉を口にしながら優しくその頭を撫でた。


<……パ、パ……>


「……」


 パパ。その言葉と同時に俺の腕に噛みついていた口を離し、それを聞いた俺は胸が熱くなるのがわかる……。

 解りきっていたことだ。

 ヒスイが人の言葉を発し、人の姿になれるのだからダリアだって話せるようになっていたことなんてな。


<ゴメ……>


「何も言うな。別に良いさ。お前に腕の1本くらいくれてやれるからな」


 そう言って俺はダリアを抱き締めた。

 種族は違えど、血は繋がらなくとも、和也にテイムされている存在だろうと。

 俺にとって(すべ)(ひと)しく家族。


 これ以上……、娘に(つら)い想いをさせてなるものか。


「帰るぞ。俺達の家に」


<……ウン!>


 腕をほどき、見えていないダリアと俺は共に笑顔になれた。

 ……だが、(はじ)かれるようにしてダリアはその場で倒れた。


「…………ダリア? おいどうしたダリア!!」


 くそっ! 血を流しすぎたのか?!


 だが違う。

 よく見れば両足が切断され、苦悶(くもん)の表情を浮かべて悲鳴(ひめい)をあげていた。


「いったい誰だ!! おい!! いるなら出てこい!!」


 しかしなんの気配も感じない。


 まずは止血しねえと!!


 痛みで暴れるダリアには申し訳ないが、傷口をどうにか確認し、どうにか止血するために(おさ)えようとするが難しい。

 次第(しだい)におとなしくなってきたかと思えば、それは大量に出血した為に、徐々に意識を失い始めてるからおとなしくなってきたように見えるだけだ。


「まってろダリア! 俺が助けてやるからな!」


 陰陽道に精通(せいつう)している俺ならある程度の炎で傷口をあえて燃やし、止血させる事が出来る。


<ギエエエッ?!>


「すまん! だが我慢してくれ! このままお前をこんな形で死なせてたまるか!」


<パパァ……>


「ん? 安心しろ、絶対に助けてやるからな? 大丈夫だ……、両足が()くなったって俺がお前に新しい足を用意してやるから、また歩けるようにしてやる」


<……ア……リガト……>


「おう……、大丈夫だ……、大丈夫だから安心しろ、な?」


 それから……、15分後だ。

 ……俺はダリアを()(かか)えながら海を眺めるようにして座り。


「……おやすみ、ダリア」


 新たな決意を胸に、俺は穏やかな顔で寝るダリアを()でた。


「……お前の()()()()()()()()()


 ダリアが死んだ……。

 両足の切断意外にも見つけにくい場所に攻撃をされていたらしく、そこからの出血に気づけなかった俺の責任でもあるが……。


 俺ですら気づきにくく……、こんな殺しかたをする奴が誰か知らねえが。


「……絶対に許さん」


 ……見つけ出して俺が殺してやる。


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