第315話 荒れる海 5<サタンSide>
私がこの剣を握るのは何時ぶりになるでしょう。
「"炎の弾丸"!」
「隙だらけです」
あの方に頼まれ、憲明さん達の稽古を毎日のようにつけてますがまだまだヒヨコも同然。
「まだまだ脇が甘いですよ?」
そんな日々もまた私にとってかけがえの無い日々の連続。
ヒヨコと言っても、そのヒヨコがどのように化けるのか、私はいつの間にかそれが楽しみになっていました。
憲明さん達を見ているとあの頃を思い出します。
「どうしたサタン、戦場であるならば死んでも剣を手放してはいかんだろ」
「申し訳ありません陛下」
時間があればこんな私の稽古に、あの方は付き合って下さりました。
その傍らには何時もあの方も御一緒におり…………、本当に笑顔が絶えないお方でしたね…………。
お二人が御婚約を発表した日、私は本当に嬉しかった。ようやくお二人が幸せになる、これで対立していた竜族と妖精族が共に手を取り合えると。
それは祝福する為に集った方々も皆同じ思いでした。
あの者を除いては……。
「急に呼んでしまいすまない」
「どうかなさったのですか?」
「これから重要な命を言い渡す。よく聞いてほしい」
ただならぬ雰囲気を感じ取った私は、これから言い渡される命令がなんであれ、嫌な予感を感じたので断りたいと、そう思いました。
「私が暴走したその時にはサタン、……お前が私を殺してほしい」
「なっ?!」
なんて事を口に!! そのような命令、どんなことがあっても聞き入れるわけにはいかない!!
「陛下! その命令だけは従えません! なぜそのような事を私に命じるのです!」
「お前しか頼める者がいないのだ」
「おふざけが過ぎます! 何故! 共に戦えと言って下さらないのですか!」
「時が来たらまた改めて伝える。今はその時が来る事に備えていてくれ」
「陛下! 陛下!!」
ですが陛下はそれ以上は何も話さず、黙って皆が集まっている場所へと1人、静かに戻られてしまいました。
その後ろ姿は悲しみに疲れ、自暴自棄になってるように私の目に写っておりました。
陛下……。
「……あんまりじゃありませんか陛下!!」
私が何をしたと言うのだ。私は陛下に仕え、ゼストや姉上らと共に陛下を御支えしたい。それ以上の事は何も望んでなどいないと言うのにどうして……! どうしてそのような残酷な命令を言うのです!!
悔しくて泣きました。泣いて何度も陛下の言葉が全て夢なら覚めてくれと、何度も地面に頭を叩きつけましたがどうしても覚めない。
ー 私を殺してほしい ー
「うわあああああああああああっ!!」
守るべきお方を失い、守るべきお方に殺してくれと言われるこの気持ち、……分かって頂けるでしょうか。
何をしても「殺してほしい」、その言葉が頭から離れない、消えてくれない、忘れられない。
あの方を亡くされ、神々を滅ぼす事を決めた陛下を、……誰も止めることなど出来はしません。
それが例え陛下の望みであっても…………。
陛下に殺してくれと命令を受けた日からずっと葛藤していたある日。
私はとあるモンスターを紹介されました。
「私が死んでもこの子は私が作った楽園で暮らしてもらう」
そのモンスターはその時代ではもう、絶滅寸前となっていたモンスターでした。
「この子には私の加護を与えている。この子を害する存在が現れたとしても、私はこの子にある能力を授けているからそうそう殺される心配は無い」
「……万が一、暴れて他に保護しているモンスター達に被害が出たらどうされるおつもりですか?」
「…………その時は」
陛下、あれから時が経ち、あの子は他のモンスターに危害を出してはいません。しかし…………、あなたが解き放った事によってその時が来てしまったようです。
「?!! ……マ、マスター?!!」
「だいぶ苦戦してるようですね」
あの二人はやはり手伝わないつもりですか。
空を見上げればダージュと姉上の1人、ベヘモスがこちらの出方をうかがっている様子。
お二人の考えはよく分かります。
ですが、だからこそ私が手助けする事を御許し下さい。
……私ごときが陛下をお救いする事など出来はしません。
出来るとするならば他の誰でもない、憲明さん、貴方達だけだと私は思っています。
あの方の心を、想いを、魂を、……救ってあげていただきたい。
その為ならば。
私は貴方の敵となりましょう。
「さぁ、共に参りましょうか憲明さん」
私の覚悟、どうかお受け取り下さいませ陛下!
「……いいんすか? 俺達に手を貸してくれて」
「何を今さら。フフッ、憲明さん、私はね? 貴方達に期待しているのです。ここで挫けていてはあの方まで辿り着けませんよ?」
「う、うすっ……」
「…………しかし随分と大きくなりましたね、メルヒス。あの方はあの方でなんて意地悪な細工を施していたんでしょう、これじゃ本当のステータスが解らなくなってしまって困っていた事を御察し致します」
「知ってるんすか?」
「えぇ、あの子がもっと小さかった頃に会っています。それに……、あの子のステータス確認を邪魔をされてますね」
「邪魔されてる? 誰にっすか?!」
「それは貴方もよく御存知の筈です」
そうですよね? ダリア。
彼女は妨害スキルをお持ちです。
そのスキルでメルヒスのステータス確認をしようとしても、妨害によって邪魔をしているのは明白。
憲明さんの両目がかなり充血してるようですのでかなり無茶をなさったのでしょう。
「無茶をしたようですね」
「無茶でもなんでも、アイツを倒す為っすから。アイツをとめなきゃ全世界の海の生態系が壊されちまう」
「……そうですね、とめなくてはなりませんね」
憲明さんが無理矢理"鑑定"を使ったことによって妨害していたダリアは今頃、その反動でダメージを受け、悶え苦しんでる事でしょう。
その彼女も止めなくてはいずれ……、いえ、今は見逃すとしましょう。
「"天叢雲剣"」
さて、では始めると致しましょう。
「メルヒス、お前は私の手で殺してあげます」




