第313話 荒れる海 3
艦隊に一旦下がってもらったけど、オルカルミアルに船2隻を沈められるとようやく反撃の手を緩めて東京湾に戻っていく。
「ゴメン、ミラさん」
『構わないわ。貴方が後退指示を出さなければきっと全滅していたでしょうし。それで? 何かあって後退させたんでしょ?』
どうにか船に戻れたけど、その戻った船と距離があるからミラさんの顔が見れないものの、声色からして疲れてる感じがする。
そんなミラさんには申し訳無いんだけど一度、"海ほたる"まで来てもらうことにして、そこで改めてオルカルミアルの本当のステータスを伝えることにした。
「それで? 何を見たのかしら?」
「その顔からして聞かなくても分かるくれえヤバい事だってのは分かるが、一応聞こうじゃねえか」
ミラさんと御子神のおっさんに挟まれてそう聞かれると、逆に2人が怖くて言い出せないから取りあえず距離を取ってから改めて俺が見たことを伝えることにすると、その場にいる全員の顔が青くなる。
「冗談キツイわね」
「まったくだ」
そう言って2人の顔が暗くなるのも分かる。
なぜなら。
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名前 メルヒス (雌)
種族名 オルカルミアル
Lv.548 SSSランク
体力12000 魔力5600
攻撃7560 防御9640
耐性10000 俊敏2200
運88
スキル
超音波 炎魔法 水魔法
ユニークスキル
吸収 自己再生 絶縁体 全耐性向上
アルティメットスキル
冥竜王乃加護 海王乃加護
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SSランクどころか、初めて遭遇するまさかのSSSランク。
そんな、"鑑定"で見た情報をそのまま隠す必要もねえから全部伝えたんだ。
ステータスを見る限り、明らかにアイツがテイムしていたか相当可愛がってなきゃつかねえスキルがある。
防御力も相当たけえからそりゃいくら攻撃してもダメージが通らねえって思うけど、"メルヒス"って名前があるオルカルミアルの防御力はゴジュラスなんかより低い。そのゴジュラスを、ヤッさんと佐渡は2人で引き分ける事があるからそこまでって思えてならねえのに、それでもどうしてって話だ。
「"自己再生"ってフューラーも持ってますよね? ダメージ受けたらそんなに直ぐ治るもんなんすか?」
「私が知る限りではそこまで早く治らなかった筈よ。でも"冥竜王乃加護"があるのだからそれって以前の美羽と一緒ってことよね? 他に"海王乃加護"スキルがどんな作用するのか不明だわ」
「それに"絶縁体"ってスキルだ。ダークスの"超電磁砲"が通用しなかったのはそれのせいじゃねえのか?」
「いやそもそも"全耐性向上"ってスキルもあるから魔法攻撃が効かなくなってるんじゃないすか?」
皆が皆、俺から聞いた情報をそれぞれ話し合う。
それでも一歩も進展しないのが現実だ。
「……ミラさん、ダージュとBに犠牲を出す覚悟も持てとかって言われたんすけど、それってどう思いますか?」
ずっと引っ掛かっていることを、現役軍人のミラさんに相談すると意外なことを言われた。
「私は2人の意見は大切だと思うわね」
「なんでですか? 犠牲を出してまで勝たなきゃならねえことってあります? 戦争だってそうじゃないっすか、出来るだけ被害が出ないよう考え、死なないために作戦を立てる。犠牲を出す覚悟がなきゃアイツの前に立てないって、意味わかんねえっすよ」
「貴方の気持ちはよく分かるわ。でも現実はどうかしら。相手は和也よ? 生半可な気持ちで挑むには余りにも大きな存在の前まで辿り着くのに、貴方は誰1人として死なせない自信がある? ー」
それは……。
「ー 私は無いわ。例え神だろうとたどり着く前にゼスト達によって消される。それが全世界でもっとも恐れられ、終焉を告げし者と謳われるんじゃないかしら?」
「憲明、ダークスターやベヘモスはそれが言いたかったんじゃねえのか? 別に意地悪したくてあんな事を言った訳じゃねえだろ。それをよくおめえに考えてほしかったんじゃねえのか? ……おめえは頑張ってるよ、誰が見てもな。カズがいなくなって、美羽までいなくなってもおめえはコイツらを頑張って引っ張って前に進もうとしてる。俺達大人が本当はおめえらを守らなきゃならねえって言うのに、そんな俺達はおめえらを頼らなきゃならねぇってのが、本当に申し訳無い思いで一杯だ。だからこそ支えなきゃと思ってるさ。それはアイツらだって一緒な筈だ、違うか?」
「分かるさ、そんなもん分かってんだよ……。でも犠牲を出してまで前に進まなきゃならねえのが許せねえんだよ……」
俺にそこまでの能力がある訳じゃない。
俺は何時だって親父さんや御子神のおっさん、それにミラさん達に支えられながらなんとか頑張っていられるんだ。
ましてや自衛隊の人達なんてそんな俺の作戦に耳を傾けてくれる。
はっきり言ってありがたい。
だけどそんな俺をこのまま中心にしても良いのかって思いも強かった。
「はぁ、情けないなぁ」
「情けなくて悪かった……な……」
情けないって言った奴を睨もうと後ろを振り返ると、そこには柵の上に悠然と立つ美羽の背中があった。
「美……羽……」
「何時からそんな弱気な事を口にするようになったの? そんな事をカズが聞いたらきっとブチギレるよ?」
「うる……せぇ……よ」
美羽の姿を見て、来てくれた事が嬉しいからなのか不思議と俺は涙を流していた。
「えぇ……、なんで泣いてんの……?」
「うるせえ! 来んのがおせえんだよ!」
「はいはい。それでイリスは?」
「アイツは今、別件で動いているから来てない」
「そっかぁ……。んじゃ、そろそろ私は動くとしようかな。……行くよ皆」
雷鳴を轟かせ、白銀色に輝く三首の銀月が空から墜ちてくるように来るとその背中に美羽は飛び乗り、続けてステラとアクアが美羽の周りに集まってオルカルミアルに突撃を開始する。
「ねえノリちゃん!! 1人で悩みを抱えるなんてらしくないからやめてねっ!!」
「うっ! うるせえよ!!」
笑ってそう言う美羽がなんかムカついたけど、それよりもそう言ってくれて俺は嬉しかった。
そうだよ、なに悩んでんだよ俺は!
そんなの俺らしくねえだろ!
「あ~なんかムカついてきた。行くぞお前ら!! 何時もみたいに相手が誰だろうとぶっ倒すのが俺達のやり方だよな?!! このままじゃ美羽1人に手柄を取られるから行こうぜ!!」
「おっしゃ行こうぜ!! ダークス!! "絶縁体"だろうが"全耐性向上"だろうが関係ねえからここからぶちかましてやれ!!」
「ジル!! オルカルミアルの真上までトッカーを連れて飛んでくれ!! それで出来るだけ高い所までトッカーを運んだら落として!! トッカーはそのままオルカルミアルに向けておもいっきり体当たりするんだ!!」
なに悩んでたんだ俺! そうだよ! 相手が誰だろうと前に進むのが俺じゃねえか!
今までだってそうだ。圧倒的に強い奴を前にしたら確かに怖じけづいてたけど、それでも俺達はなんとかそんな困難をどうにか乗り越えてきた。
でもそれはカズがいたからってのが大きい。
それでも美羽がこうして戻って来てくれたんだ、相手がSSSランクのモンスターだろうと、どうにか力を合わせりゃ勝てる。
そう思っちまった。




