第312話 荒れる海 2
海に潜って真下から攻撃しようとしても分厚い皮膚で守られているせいでまともにダメージを与えられない。
海中だとミサイルや魚雷が爆発する衝撃波や音で俺達まで巻き添えをくらう恐れがあるけど、それから守るための装備をしっかりとしてるからまだ良い。だからそれを気にせず攻撃する事が出来るって言うのに、これじゃ海に潜ってまで攻撃する意味が無くなる。
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「クソッ、固いって言うより皮が分厚すぎる」
「遠距離から射ってるミサイルすら効果がまったくねえしな。おまけにダークスの"超電磁砲"すら効果無し。どうなってんだよアイツの皮膚。お前の"鑑定"でアイツのスキルとか見れねえのかよ?」
「名前とランクぐらいしか見れなかったって言ったろうが」
一樹とそんな話をしながら一旦休憩に戻ると、レイナ達も戻って来て爆弾を使っても効果無し、魔法攻撃をしても全然歯が立たないってグチを言い始めた。
「なんなんですのあのモンスター、何をしてもまったく効果ゼロってあります? それに私達に反撃する素振りすら見せないんですのよ? なんだか気味が悪いですわ」
確かにそれは不気味だな……。
「でも攻撃する船に対しては異常な反応を示し、どこから攻撃をしてるのか分かると反撃をしに向かうんですのよ? まったく行動パターンが読めなくて対策を考えるにしてもこれじゃぁ……」
「だよな……」
理由は解らねえけど、ミサイルを発射させてる船には反応するのに空中は無反応。しかも俺と一樹が水中から攻撃してもまったく反撃してこない。
解らなすぎて俺の頭は変になりそうだった。
「犬神さん的にどう思います?」
「……相手は若が保護していたモンスター。その若だからこそ言うことを聞かせる事が出来、制御する事も出来たんだろうとは考えなくとも分かる」
「そうだけどさ、そうじゃなくてアイツをどうすりゃ倒せるか何か案がねえかなって聞いたつもりなんすけど……」
「…………無い」
「……はい」
……ちょっとガッカリだ。
でもどうすっかなぁ……、このままじゃ艦隊が全滅するのも時間の問題だぞ。
悩んでも答えなんて出ない。
いっそ他の国からも援軍が来てくれたら良いんだけど、それは望めない。
そうこうしてる内にオルカルミアルは東京湾の外から攻撃している艦隊に向かって姿が見えなくなってしまった。
マジでヤバい。船を沈めに行きやがった……。
「マジでどうすりゃ良いんだ……」
<だいぶ悩んでるな>
雨風を切り裂く強靭な翼を羽ばたかせ、ここぞって時に頼りになるダージュがゆっくりと降りてくる。
「ダージュ! 来てくれたのか!」
<まったくお前と言う奴は、アレがそう簡単に倒せるような存在だと思っているから結果的にこうなっているんだぞ>
「んじゃアイツを倒す為に力を貸してくれよ!」
<…………断る>
「なっ?!」
<奴はあの方がもっとも可愛がっていたモンスターの1体。そのモンスターを、お前達だけの力だけで倒せなければ到底あの方に近付ける訳が無いだろ。違うか?>
「うっ……、そりゃ、そうだけどよ……」
指摘されると耳が痛い。
だけどダージュが言ってる事は正しいからこそ痛いんだ。
<憲明、時には残酷な運命を受け入れなければならない事がある>
「残酷な運命?」
<そうだ。……憲明、全艦隊を犠牲にする覚悟を持て>
「なっ!! なに言い出すんだよお前!!」
なんでそうしなきゃいけないのか分からない。
けどダージュはそれでも話し続ける。
<オルカルミアルはそうでもしないと倒すことが困難な存在だ。はっきりと言わせてもらうがオルカルミアルのレベルはお前達がどれだけ束になろうと到底適わん。だがな、小さいからこそ成し遂げられる事もある>
「だからってなんで艦隊を全滅させなきゃいけねえんだよ!!」
「それだけの覚悟を持てって事だよ」
「B……」
ダージュの言葉に怒鳴ると今度はBが静かに降りてくる。
「君は誰1人として犠牲無くあの方を止められると思ってるのかい? それはとんだお笑い草だって思わないかい?」
「な、何が言いてえんだよ」
「オルカルミアルの討伐は戦争と同じだよ? だけどただの戦争じゃない。この先、君はもっと多くの犠牲を出し、酷い光景を体験し、もっと深い悲しみを味わう事で、それでようやく、ようやく君はあの方の前に立つ事が許される」
<その通りだ、犠牲無くしてあの方の前に立てると思ってる事態が間違いだと何故分からない>
「ふっ、ふざけんなよ? 犠牲無くしてアイツの前に立てない? その犠牲をどうにか最小限にしようと考えねえでどうすんだよ!! 俺だってんなもん分かってるさ!! けど犠牲を出さなきゃアイツに会えねえなんて道理がどこにあんだよ!!」
<だからお前は甘いと言われるんだ>
「甘くて結構だよ!!」
「だけどそんな考えであの方の前に立てると思ってるのかい? それこそ自殺行為だってなんで分からないんだい? この世界を守りたいなら犠牲が出ることも考えなよ。それと、どうしてあの方が向こうから来た援軍に来るなって言ったか分かるかい? 何故、冥獣軍、冥王軍、天界軍、そしてこちらの軍隊だけにさせたのか、考えたことは? あの方は君達の為に少しでも戦力を温存させる為に来るなって言ったんだよ? あの方は君と本気で向き合おうとしてるからそうしたって、どうして気づかないんだい?」
「うっせーよ!! なんだよ2人してよ!! 俺を説教するだけしに来たなら帰れよ!!」
たまらず2人に怒鳴った瞬間、ダージュにおもいっきりぶん殴られた。
「いっ……てぇ……」
<痛いか? だがお前は生きてる。何故か分かるか?>
「テメェが手加減したからだろ!! くそっ!」
起き上がってすぐ、仕返しにダージュを殴ると俺の拳がダージュの顔に少しめり込む。
けど相変わらずドラゴンの姿になってるダージュは硬くて、逆に俺の拳がイカれそうになった。
<弱いな>
「うるせーつってんだろ!!」
「焦る気持ちは分かるけどさ、本当に君はまだ覚悟が足りてないね。悪いけど今回、ボクとダージュは手を貸さないからね」
「なんでだよ! なんでなんだよっ!! んじゃお前らは救える命を平気で見捨てるのかよ!! 俺達と解り合えたんじゃなかったのかよ!!」
「解り合えても君達があの方の前に立ち、あの方を止める為にも君達にはそれ相応の覚悟と経験が足りない。その為ならボク達は君達の為にどれだけでも悪になっても良い覚悟はある」
なんなんだよそれ!! なんなんだよ!! わかんねーよ!!
<憲明、もう一度オルカルミアルに近付き、"鑑定"でよく調べてみろ>
「なんの為にだよ!」
<行って調べたら分かる筈だ>
それだけ言ってダージュとBが空高く飛んでいく。
それになんの意味があるのかまだ分からない俺は、ヤッさんに頼んでジルの背中に乗り、またオルカルミアルに近付いて"鑑定"でステータスを見ることにした。
近付く頃にはもう、オルカルミアルは艦隊の近くまで迫っていて、反撃されないように艦隊は逃げ回っている。
その囮にミラさん1人が動いているのを確認した俺達は、一旦攻撃を止めてどうにか撤退するように無線で頼んでからオルカルミアルの真上まで行き、"鑑定"を使った。
使うと、名前とランクしか見れない。
だけど何か、違和感を感じた俺は目が痛くなるまで"鑑定"を使い続けると……、なんだろ、なんて表現したらいいかな…………、まるでテレビの砂嵐って言うか、画面が割れる? 感じで徐々に別の何かが見え始めた。
「ちょ! 大丈夫?!」
「だ、大丈夫だからこのままいてくれ」
目が痛い。まるで目が潰されそうな痛みに耐えていると。俺はようやくオルカルミアルの本当のステータスを見ることが出来て驚愕した。
「やってくれたなあのヤロぅ……」




