第306話 カズを追って<美羽Side>
サーちゃんと志穂ちゃんの2人が険悪な状況になってる事を知らない私は1人、とある国にいた。
ーー アルメア皇国 ーー
「この国にはもう馴れましたか?」
街を眺めているとそう言われて振り返り。
「はい、皆よくしてくれるので慣れました」
振り返った先にいるのは"アルメア皇国"のお姫様で、名前は"フラメア"。そのお姫様にそう応えた私はお茶の用意が出来たと呼ばれ、テラスに設置された椅子に腰掛けて2人で飲む。
私がどうしてそこにいて、お姫様が一緒にいるのかと言うと、手持ちのお金が無くなったからギルドに行って倒したモンスターの素材とかを売った事が原因に繋がる。
私が"夜空"のメンバーだって事は有名で、ギルドから王様の元にここへ来ているって情報が流れたから探されて来ることになったの。
歓迎してくれるのは嬉しいけど、内心では何か探られてるんじゃって気がしてて正直、早くこの国から出たい気持ちでいっぱい。
王様は何も聞かない、だけど、その目はカズの事を聞きたがってるけど聞けばきっと私がここを直ぐ離れるって事に気づいてるから聞こうとしない。
歴史からその名を封印された竜王は目覚めた。
私がいる"アルメア皇国"ではその名を口にするだけで厳しい罰を与えられ、下手をすれば極刑を下される程の罪になってしまう。
だから早いところこの国から出たいんだけど、それをこのお姫様が私を放そうとしてくれないし、王様の命令で暗部っぽい人達が私を監視しているから討伐クエストに出ても、遠くから見られていて気が散りそうになる。
はぁ……、疲れるなぁ……。
「それでそちらの世界では今、どうなっているのですか?」
「どうって言われても、私がこうして単独行動をする時には向こうの街はほとんど瓦礫と化してましたし、以前の様な光景は二度と見られないかもですね」
「瓦礫、ですか……」
ちょっと怖がらせてみようかな。
「私がいた場所は例外で攻撃するなって命令がされていたようですけど、他の街はぐちゃぐちゃにされてましたし、辺り一面、血の海でした」
「辺り一面……」
「瓦礫で押し潰されて死んだ人、凶星十三星座や冥竜軍によって殺された人、多くの命があの日1日で奪われました。想像出来ます? 楽しく買い物をしに出かけたり、遊びに行っていたら一瞬で地獄になる光景を」
そう話すと、フラメア姫の顔が徐々に青ざめていくのが見てて解ったから、早くこの国から出るために私はあの名前を口に出した。
「私はアルガドゥクスの女ですけどこの国にまだいても平気なんですか?」
その名を口にすると姫はあからさまな顔で怯え、呼吸する事すら忘れたのかどんどん顔色が悪くなっていく。
もしかしたらもう、この国には来れないかもなぁ……。
でもそれでもよかったと思う。
私は世界の敵と呼ばれ、全ての命の天敵であるカズの女だもん。それを知っててまだ引き留めるなら
、それでこの国から追放されるだけになるならまだありがたいって思えたから。
もし極刑って事になるなら全力で逃げるだけだし。
「そ……、それは……」
「知らないとは言わせないですよ? アルガドゥクスはあのカズだったんですからね。しかもこの国はあのカズに何度も助けられたとも聞きますけど、貴女方はアルガドゥクスを心底嫌ってもいますよね?」
「そ、そう何度もその名を口にしないでください!」
「何故ですか? 彼が目覚めてしまった以上、彼は貴女方の敵ですが私にとってそれでも大切な人なんです。そんな私が何が恥ずかしくってその名を口に出さないようにしなくちゃいけないんですか? 今の私達は敵同士かも知れませんがそれでも私は彼が好きだからその名を平気で言えます。私はこの命を賭けてでも彼を止め、どうにか世界中の人達と和解出来るようにしたいと思ってます。彼を、……アルガドゥクスが世界の敵となったのだって理由があるからこそそうなってしまった要因があるです。何もかも彼が悪い訳じゃない。何もかも、彼に擦り付けるのはやめて下さい」
「わ、私はそんな ーー」
「擦り付けてないと? 本当に? こうなったのもアルガドゥクスのせい。畑が荒れ果てるのもアルガドゥクスのせい。モンスターが凶暴化するのもアルガドゥクスのせい。全部全部アルガドゥクスのせい。……こうして1人で彼を探しながら旅をしているとそんな事をよく耳にします。でもそれは違う。全部が全部、彼のせいでそうなった訳じゃないのにその矛先にしてるだけ。正直言って聞き飽きたし彼が可哀想に思えてならない。全ての元凶は神、ゼウスのせいでそうなったって言うのに、なんで彼だけが悪者にされなきゃいけないんですか? おかしくないですか? ゼウスが彼の逆鱗に触れなきゃこんなことにはならなかった筈なのに」
「あ、貴女は何か、何か御存知なのですか?!」
「……知ってますよ。知りたくも無かったけど彼が好きだから過去に何があったのか聞かされましたよ。彼自身から」
「教えてください! 何が原因なんですか?! 私達が知る歴史と、どう違うんですか?!」
きっと知ったら、知らなきゃよかったってなるんだろうな。
そう思って私はどれだけお願いされても喋らなかった。
例え知ったところできっと変わらないだろうし。
それにどうして私はここにいるんだろう、ノリちゃん達といればカズを追いかけるのが遅れてしまうと思って1人で動く事にしたっていうのに、この国に居続けることがなんだか馬鹿馬鹿しくなった私はお姫様が怯えてる内にここを離れる事に決めた。
「長居しすぎてしまったので私はそろそろ行こうと思います」
「そんな! まだ何も教えてもらってないのに行かれるのですか?!」
「私が旅をしている目的はカズ、アルガドゥクスを見つける事ですから」
ましてや名前を言っただけで怯えるような人達とこれ以上一緒にいたくないし。
「まだ良いではありませんか! そうだ! この国の観光名所にはもう行かれましたか?! 宜しければご案内致します!」
「スイマセンが興味ありません。では、申し訳ありませんがこれで失礼致します」
頭を下げた後。
「行くよ」
どんな空間でも自由に泳げるアクアが部屋に現れ、外には銀月とステラが現れると銀月が私の荷物を持っていてくれていた。
「お元気で殿下」
「美羽さんまって!!」
まってと言われてはいそうですかと待つ訳がない私は現れたアクアの背にそのまま乗り、テラスから城を出る。
<次はどこの国に行くの?>
「ん~まだ決めてないから取りあえずカズがいそうな場所を探しながら決めようかなって思う」
<ママらしいな~>
<まったくその通りだ。ほんの少しくらい何か情報を得てから出ても良かった筈なのに>
「あははぁ……」
アクアと銀月に言われてそれもそうだったなぁと思いつつ。私達はその後、今度は北へ向けて出発した。




