第301話 エリア調査 2
「落ち着きましたか?」
「……すんません東さん」
ルークに飯の邪魔をされ、グチャグチャになった弁当を食い終わった後、俺は東さんに慰められて非常に恥ずかしくなっていた……。
ここで改めてその東さんのプロフィールを少し教えたいた思う。
名前は"東 真"さん、陸上自衛隊で階級は2等陸尉。
歳は34歳独身で、眼鏡がトレードマークの爽やかイケメン。
趣味はサバゲーとフィールドワーク。そのフィールドワークだけど、東さんも生き物とかが好きで、よく色々な場所に行っては生態調査を趣味で調べてる。
それにめちゃくちゃ人当たりが良い。
「しかし本当に蒸し暑いですね、11月とは思えない暑さだ」
「っすよね、やっぱこれもあの馬鹿がゲートをあちこち開いた影響なんすかね?」
「(め、冥竜王相手に馬鹿呼ばわり) き、きっとそうかも知れませんね」
「おい憲明、それよかお客が来たぜ?」
「お客?」
一樹が顎であっちだって示す方向に目を向けると、"ホーンラビット"の群れが近付いて来ていた。
「ホーンラビットの群れか。んじゃ、いっちょ戦闘するとしますか」
数は22匹。
つっても、ホーンラビットがどれだけ群れたとしても俺達にしてみりゃ雑魚でしかない。
「"炎の弾丸"」
「"水の弾丸"」
俺と一樹で同時に遠距離攻撃をし、テオとジャオルのおっさん達は近付いて攻撃する。
討伐するのにざっと2分も掛けずに完了させ、倒したホーンラビットを集めて回収。
戻ったらギルドに売ったり、俺達で美味しく頂く分とでわける。
「東さん達も戻ったら食べます?」
「あっいや、我々は、その……」
「ホーンラビットって結構旨いんすよ。サッパリとした味してて、脂も少ないし」
「そうっすよ、食べなきゃ損するかも知れませんよ? 憲明のお袋さんが作る飯って旨いですし」
自衛隊だから何を食おうが特に気にはしないだろうけど、モンスターを食ったことがないからか、何処と無く遠慮したいって顔をしていた。
だが逃がさん。
だからこそ食ってほしい。
ホーンラビットの肉料理、特に香草をたっぷり使った香草焼きがこれまた旨い。
クククッ、食ったことが無い東さん達だからこそ、是が非でも食ってもらわねえとなぁ、クククッ。
「わ、悪い顔をしてますよ? 憲明さん」
「その「さん」付けやめて下さいよぉ。年上の人に言われるとなんか、むず痒くなるって言うか」
「ははは、すいません、癖なものでして」
「う~……」
ちなみにホーンラビットは向こうに行けば平原とか森に普通に生息するモンスターだ、そんなモンスターが生息する場所にまでゲートが開き、こっちに来ているってのも調査で解ってる。
その後、俺達はジープじゃなく徒歩で調査を開始した。
下手にエンジン音を出していたらモンスターを引き寄せる事になるからな。
「ノワール、"忍者"と"迷彩"能力を使って周囲を見てきてくれ」
<カロッ>
さ~て、今回はどれだけ調査が進むかな~。
そう思いつつ、カズがどうしてゲートを解放したのかずっと考えてもいた。
たぶん、いやきっとそうなんだろうけど。カズはこの世界を作り直す為に解放したってのもあるんだろ。
それに絶滅したと思っていた絶滅種、古代種。カズが冥竜として君臨していた時代のモンスター達とかだろうし、恐らく……、あり得ないとは思いつつ、俺はなんとなくこの"茨城エリア"のボスになってる奴は、アレ、なんだと思えてならなかった。
いたら絶対テイムしたいと思ってたけど、今はノワールがいるし別に良いかなぁ……。
するとノワールが戻って来て、何かを発見したらしいのでそっちへ静かに行ってみると。
「……アレは、ワニ……、か?」
そこには巨大なワニが寝そべっていた。
「ワニはワニでしょうが……」
「っすね、ワニ型のモンスターっすねありゃ」
赤い目、ゴツゴツとした褐色の体、体長約15メートルのワニ型モンスター。
俺達とそいつとの距離は約100メートルぐらいは離れてるけど、下手に近付いたら気づかれる恐れがあるから下手に動けない。
「種族は解りますか?」
「いや解らないっすね。前に何度かワニ型モンスターを討伐したりはしましたけど、アレはそれなんかより、なんかもっと狂暴って感じがするっす」
「そうですか……」
カズが持ってた図鑑で当てはまる奴っていねえかなぁ。
東さんと静かに話した後、俺は記憶をたどって何かいなかったか思い出そうと考えた。
ちなみに"ペロミア大湿原"の奥地に生息しているワニ型のモンスターを俺達は何度か討伐する事があったけどさ、そいつよりもあきらかにもっと狂暴そうに見えたから、俺達はより警戒を強める事にもした。
さてと、まずはアイツの特徴とかを観察しながらだな。
見た目はワニ。
発達した下顎に、背中には紫水晶みたいな大きな結晶が背ビレ状に生え、前足は後ろ足に比べて大きく、3本の太くて大きな爪がある。
そしてそいつがいるのは"霞ヶ浦"。
東さんの話だと、霞ヶ浦の水深は平均4メートルで、深いところだと7メートルはあるんだとか。
体長約15メートルぐらいでも隠れようと思えば隠れられる水深だと思うから、他にいると考えたらもっと警戒しないといけないだろうな。
「ここはやり過ごして離れますか?」
「……っすね、下手に刺激して仲間が出てきたらめんどくさそうですし」
俺と東さんでそう話し、取りあえず望遠レンズを付けたカメラで写真を撮ってから離れる事にした。
13:22
「"鑑定"でアレの種族とかステータス見れなかったのか?」
「さすがに遠すぎる」
一樹の言う通り、"鑑定"で見れたら楽なんだろうけど、さすがに遠すぎてそれは無理だ。
「なんかどっかで見たような覚えがあるようなぁ……」
「どこで見たんだ?」
テオが頭を抱えて必死に思い出そうとしてくれるけど、全然出てこない。
まっ、そこまで焦る必要ねえから別に良いか。
って思うと。
「思い出した……、アレは"アグラム"って古代種だ」
"アグラム"?
「化石でしか見た事が無いけど、背中の結晶は太陽の光を集める構造になってるらしい。でもその結晶は貴重で、武器や防具に使うと強力になるそうだ」
「へ~」
でもその分、討伐は結構難しいだろうな。
なんでも"アグラム"は炎属性と水属性を持ってるんだとかで、結晶は"太陽石"って呼ばれてるらしい。
こっちには"サンストーン"って同じ名前の石があるけど、その見た目や美しさは"アグラム"の"太陽石"の方が綺麗だ。
「でもよ憲明、俺はあの"アグラム"を見てベリーを思い出したんだが?」
「うグ……」
ベリー。
それは先生がテイムしている体長約120メートルの超大型の蛇型モンスター。眼は紫水晶の如く美しく、真っ黒な体に不気味な赤い模様がある毒蛇型で、身体の鱗はトサカの様な尖った鱗。その鱗が動くたびに鱗同士が擦れ、気味の悪い音をたてる。
頭には逆向きに生える紫色の小さな棘が幾つもあり、頭のすぐ後ろの首には紫色をした、ククリナイフみたいな湾曲した大きな背ビレが逆向きに向かって幾つもはえている。その首は長く、体に近づくにつれて背ビレは小さくなる。
尻尾も長くて全体の4分の3以上。先端には紫水晶とガラガラヘビの尻尾を組み合わせた様な結晶が幾つも存在している。
もう一つの特徴で、鋭く長い爪を持った龍みたいな前足が2本。後ろ足は爬虫類のボアやパイソンの様な小さい爪が一本ずつ。
種族名は"アラフェル=メレフ"。
"霧の王"って意味だ。
「カズの事だからここのエリアのボスを考えたらやっぱ……」
「や、やめろよ一樹……、さ、さすがにそれは勘弁してほしいって……」
「わ、悪い……」
考えただけでゾクッと寒くなる。
そのベリーは規格外のモンスターだから相手をしたくねえってのが本音だから……。




