第29話 勘弁してださい
俺達はネイガル商会を後にし、街で買い物をするとカズに言われて市場へと足を向ける。
よく街を見ると、そこはまるでフランスかイタリアの様な街並みだ。
川をわざわざ作ったのか、あちこちに人工の川が流れ、その上をお客を乗せた手漕ぎボートがゆったりと水面を走る。
街の中心にはそれなりに大きなビルの様な建造物があるけど、街並みに上手く溶け込んでいる。
綺麗な街だな。
街を歩けば誰もがカズに挨拶をするし、明らかに自衛隊だと思う人達はカズに敬礼をして、組員の人だと見ただけで丸わかりする人達もきちんと挨拶する。
カズの知名度がどれだけ高いのかが解る。
俺達が市場に到着すると、すぐ近くで「次はこっちよポチ」、「ほげ〜?」、と言った聞き覚えのある声を俺と一樹が聞くと、どんよりとした雰囲気になる。
「カズ、何を買いに来たの〜?」
沙耶が質問すると、カズは食料の他に、スキルのスクロールを買いに来たと皆んなに伝えた。
食料は大事だ、うん。
俺達はカズの料理が好きだ。カズは俺達の中で最も腕が良い料理人でもあるし。
毎日バランスよく料理を用意してくれるけど、特にカズオリジナルカレーは絶品だ! 全員が大好物中の大好物と言うほどの旨さだ! あれは神がかってる!
そんなカズがカレーに使用する為の食材を目の前で集め始めたのに気がつくと、全員目を輝かせてよだれが溢れ出そうになるのを必死で食い止めるのに必死になる!
早く食いたい!
「ポチ、次はあそこよ!」
「ほげ〜?」
で、出やがった……。
マダムとキノコおっさんがその時真後ろでそんなやりとりをしていた。
「ポチ! 今夜早速作りなさい。食材費は惜しみませんよ!」
「ほげ〜? ならアレとこれとそれも欲しいかな〜?」
「わかったわ!」
「次はアレかな〜?」
「行くわよ!」
「ほげ〜?」
2人が徐々に遠ざかる。
「憲明……」
「なにも言うな一樹!」
でも俺達は願った。あのキノコおっさんが幸せならそれで良いかと……。
そこへ、ミルクとイリスが現在確認されている中で最強のモンスターと共に市場に姿を現し、一瞬パニックになったけど、それがなんなのか気づくとまた市場は元の活気ある空間に戻った。
骸だ。
〈グルルゥゥ〉
骸の存在にヴェロキラプトルのアリス、ヒスイ、ダリア。バーゲストのクロ、カーバンクルのピノやヤッさんのロックタートルに一樹のブラックスコルピオはめちゃくちゃ怯えた。
「大丈夫だ、アリス、ヒスイ、ダリア。奴は骸、お前らの兄貴分みたいな存在だ」
カズが優しい顔で3匹のヴェロキラプトル達を宥め、骸を紹介した。
「む〜く〜ろ〜!」
そこへ沙耶が骸に抱きつき、カーバンクルのピノを紹介する。
「ピノ、大丈夫だよ〜。ねえ骸?」
〈グラウゥッ〉
骸は小さなモンスターに視線を向け、挨拶なのかピノに向かって小さく、そして優しそうに鳴いた。
でも知らない状態で会ったら怖いか。
「ところでお前は何しに来たんだ? 何かあったのか?」
カズが骸にそんなことを聞くと、今度は骸の後ろからベヘモスが顔を出した。
「やあぁ」
「お前、ようやく来たのかよ」
「す、すいません和也さん……」
ようやく現れたベヘモスに、カズは呆れた表情だ。
「だからその敬語やめろよ。なんで俺だけに敬語なんだよ? おかしいだろ」
「そ、それはぁ……」
確かにおかしいよな?
ベヘモスは冷や汗をかきながら視線だけをカズから離そうとする。
「言えねえ事情でもあんのかよ?」
おい、カズがちょっと寂しげじゃねえか。
「いえ、特には……」
「なら俺の事も他の連中と話す時と同じようにしてくれ」
「あっ、はい」
カズの頼みにベヘモスは素直に返事をした。その顔はちょっと緊張してる様にも見える。
「んで? 今まで何してたんだよ? コイツらを強くして自分の遊び相手にしたかったんだろ?」
そう、その為にカズは俺達を此方の世界に連れてきてくれたんだ。それなのに今の今までベヘモスは何してたんだ?
「あっ、ええっと、それはぁ……」
「なおれ」
「へ?」
ベヘモスがその質問からどうにか逃げようとしていたのがカズとしては気に入らなかったみたいだ。
突然「なおれ」と言われたベヘモスは一瞬意味が分からなかったみたいだ。
「そこへなおれ!」
「は、はい!」
カズは人々が行き交う道のど真ん中で、ベヘモスをいきなり正座させると、淡々と説教をし始めた。
や、やめろよカズ……、関係者でもある俺達がなんだかこの場にいるのが恥ずかしくなるって……。
めちゃくちゃ逃げ出したい気持ちが込み上がってくる。だって行き交う人々や店の店員とかがチラチラとこっちを見てくるんだぜ?
でもそんな人々が徐々に目を逸らし始める。
その理由は……。
「聴いてんのか? おい」
「う、ぐす……、はい……」
「テメェが泣いたところで話が終わるとでも思ってんのかゴルァ」
「スイマセンン……」
凶悪な目つきに変わり、その口調はドスの効いた話し方をしている。
ヤバいって! カズが本気でキレ始めてる!
そして怒られているのはまさかのベヘモス。
余りにも凶悪モードになってきているカズの為、俺が恐怖を感じたベヘモスすら泣き始めている。
なんか……、ベヘモスが可哀想に思えてきた……。
そこでカズを止めるため、俺は2人の間に割って入った。
「か、カズ、流石にもうその辺でいいだろ? ほら、周りの目もある事だしよ」
「あぁ? テメどの口が言ってんだ? ゴルァ。なんで俺がオメーに常識を言われなきゃなんねえんだ? あぁ?」
「え、えぇっと……」
「ざけんじゃねえぞこのダボが!」
「ひっ!」
火に油を注いじまった!
俺はその場で正座させられ、2人揃って怒られる事になった……。
や、ヤベー!
「聴いてんのかおい!」
「「はい!」」
カズの怒鳴り声に、俺とベヘモスは仲良く返事をした。
そして、次に助け舟として出て来たのはヤッさんだ。
「なあカズ、怒るのは分かるけどもうその辺にしておけよ。な?」
「黙れこの野球馬鹿が!」
そしてまた1人、カズの犠牲者が増えた。
美羽と沙耶は一樹になんとかしろと言ってるみたいで、2人で背中を押して俺達の助け舟を出す。
「な、なあカズ?」
「んだゴルァ! テメェは黙ってろ! この変態ヤロー!」
「へっ、変態?!」
更に御一名様ご案内。
そこで意を決したナッチがカズを止めるべく、特攻を開始してきた。
が……。
「ひっく、ひっく、うえぇぇん……」
「この泣き虫があぁぁ!」
ナッチすら犠牲となり、そこで沙耶が動いた。
「ね〜、カズ〜」
「んだよ! っせえなあ! いちいち猫被った喋り方すんじゃねえって前にも言ったろうが!」
沙耶も撃沈した。
最早無事なのは美羽1人しかいない。
こ、これは非常にまずい……。
【君に会いたい でも何処にいるの?
私はここにいるよ だから早く私の元へ帰ってきて
もう1人の夜は嫌だよ 私を抱き締めて】
……ん? 歌?
歌が聞こえてると思ったら、美羽がその場で自分の曲をアカペラで歌い始めていた。
それには流石のカズにも美羽の歌は届き、黙って美羽の歌を聴き入っている。
カズだけじゃない、正座させられている俺達もそうであり、道行く人々や商店の店員も聴き入っていた。
【抱き締めて 抱き締めて 私の事を!
愛している 愛している アナタの事を!
願わくば 願わくば アナタの隣で眠りたい!】
美羽の歌を聴き、人々は自然と涙を流している。
美羽はライブをした事が無いし、路上ライブすらした事が無い。
それでも今、美羽がいる場所がステージであり、周りの人々は自分の歌を聴いてくれる観客だと思って本気で歌っているみたいだ。
歌が終わると周りから拍手喝采の嵐となり、流石がのカズはそれで怒るのをやめてくれた。
「ちっ、美羽に感謝するんだなテメェ等」
ありがとう美羽!
それで胸を撫で下ろした俺達は美羽に心の底から感謝した。
その後、カズはものはついでだと言って、色々な武器や鎧等を売っている武器屋の店に入る。
「カズ、何買うの?」
美羽の質問に、カズは自分達が使っている武器の手入れをする為の道具を買いに来たと説明し。砥石や油等を幾つか買うと。次に色々なスキルや魔術を覚える為のスクロールや魔導書を手に入れる為に、専門の店に行くと話した。
「ねぇ、そう言えばこの街の人口ってどのくらいなの?」
店に行く途中、ふとそう思った美羽がカズに質問した。
「人口? 確か今現在で120万人だったと思う」
「120万?!」
結構な人数を聞き、美羽は驚いた。
「あぁ、元々はここにはなにも無い土地で、そこへゲートを通って自衛隊や組員等様々な組織が協力し、最初は小さな集落程度だったらしい。だが近隣にある、2つの国と友好関係を築いた事によって色々な人種が集まり。気づいたらデカい街になった。2つの国の名前は"ラーティム"と"レオンネル"って国で、ラーティムはこの街から西に行った所。レオンネルはここから北東方面にある」
「ふ〜ん、んじゃどこかの国に入っているの?」
国の名前が出たので、美羽は更に質問した。
「いや、ここは丁度その2つの国の境目にあるから何処にも入っていない。ただ、その2つの国じゃなく、ここから南西にあるデカい国がこの街を手に入れようと、裏で動いているらしい。ここはその2つの国と戦争する為の、重要な場所になるからってんで、何度も何度もそこから使者が手紙を持って来たりしてるんだが、それを毎回追い返してる」
「う〜っわ。んじゃいずれ戦争を仕掛けて来るのかなその国」
「その国の名前は王都"バルメイア"。今だに奴隷制度がある国の1つだ。俺達もその国が気に入らないからな、攻めて来るなら全力で迎え撃つ」
よっぽどその国が気に入らないんだな、カズは怖い顔でそう告げた。
「カズと骸だけで終わりそう……」
確かに。カズと骸が出れば、あっという間に終わらせる事が出来るな。
でもカズはそうでも無いと言った。
「そうは言っていられねえよ。この街は何処の国にも属していないが、この街に住む人達にとって大切な場所だ。だから自分達が暮らす街は自分達で護るって言ってる。だから俺達だけで終わらせる訳にもいかねえんだ。ましてやこの街にはちゃんとしたリーダーがいる。村長、町長、って言うより市長だな」
「市長さんいるんだ」
「いるさ。ここには色々な貴族も住んでて、貴族街ってのがある。だがここでは差別愚劣は誰であろうと決して許されない街だ。さっき、俺も知ってる貴族のマダムが市場で買い物してるのを見たけどよ。その前にネイガル商会でも会ったんだ。その時手に入れた新種のモンスターを連れて挨拶してきてよ。さっき言ったその市場でもそのモンスターとなにやら買い物していたが」
それを聞いた俺と一樹にはそのモンスターと呼ばれる存在に心当たりがあり、憂鬱な気分になった。
「モンスターとかでもそうさ。ちゃんと大事にしていなかったら罰せられる」
「奴隷って、何処を見れば分かるの?」
「奴隷にされてる人は皆、首輪を付けられる。そして体の一部に奴隷の刻印を焼いた鉄で押し付けられたあと、主人となる者がそこに魔力を込めて契約をするんだ。何かあってもその魔力で主人が誰なのか特定するためにな。首輪には主従契約の魔法が掛けられていて、主人の言う事を逆らったりしたらその首輪が締まったり激痛を与える」
「酷い……」
美羽はその酷さに怒った顔になっている。
それは確かに許せねえよな。
「人間至上主義の国が多いから、そうやって弱い人間や亜人種を差別している。ほんと、反吐が出る話だ」
「そんな国が攻めて来るかも知れないのも怖いよね。もしかしたらそう言った人達を盾にして来るかも知れないんだし」
「その通りだ美羽。奴等は平気で奴隷にしてる人達を盾にしたりすることもある」
「さいってぇ……」
ますます怒りが込み上がってくる。
美羽はその国に嫌悪感を抱いてか、軽蔑する目となった。それは俺達全員も同じだ。
「この街にはそんな環境からなんとか逃げてきた者や助け出された者も多く暮らしている。だからこの街が目障りでもあるんだろ。水面下で戦争の準備をしてるって聞くからな」
俺達はその話に暗くなった。けど、同時にどんどん怒りが込み上げて来る。人を人と思わないそんな連中が攻めて来たら、俺達もそいつ等を叩き潰したいと強く思った。その為にはもっと強くなる必要がある。ようやくベヘモスが合流したのだからもっと強くなれる筈だ。
「そういやカズ、鑑定のスキルを使えば俺達がどれだけ強いか分かるのか?」
「あ? モンスターとかでも出来るんだから俺達人間だけでなく、他の種族でも可能だ。なんだ、自分が今どれだけ強いのか知りたいのか?」
俺の質問にカズは答え、逆にそう聞かれたから、俺はその通りだと答えた。
そこでカズは買い物した後に、俺達をとある場所に案内してくれた。
「さて、着いたぞ」
連れてこられたそこはレンガ等で作られた立派な建物で、どこかデパートの様でもあった。
「ここはスキルや魔法のスクロールや色々な魔導書を扱っている、ここいらでは1番デカい店だ」
「へ〜、ここが」
俺は目を輝かせた。
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