第2話 悪夢の夜 1
ものものしい雰囲気の中。警察手帳を見せ、規制線を越えて2人の男が入って行く。
御子神健二。髪は短髪でボサボサ。無精髭で仏頂面の40代後半。身長はそれなりにあり、体格はとても良いのだが、だらしない格好をしている。
村中昴。清潔感のある髪で整った顔立ち。御子神より頭一つ小さい。その顔には緊張が見える。
「しっかしついてねえなお前。刑事になって早々、殺しの現場を見る羽目になるたぁな」
「はい…」
「まっ、いずれは見ることになるんだ。今のうちに少しでも慣れるんだな」
御子神は「がはははは」と軽く笑いながら、事件現場となった路地裏へと進んだ。
進んだ先には現場を隠すように、ブルーシートでカーテンされ。その前には先に来ていた刑事達が数人集まり、話をしている。
「よぅ、仏さんは?」
それを聞いた刑事達は、青ざめた顔で御子神に軽く頭を下げて挨拶する。
その刑事達の顔を見て、ただならぬ様子だと察した御子神は嫌な予感を感じた。
「(おいおい、コイツらがこんな顔するなんて相当だぞ) ……状況は?」
「……正直、お手上げです」
まだ若そうな男の刑事がそう答え、御子神の顔は厳しい表情を見せる。
「どうお手上げなんだよ? オメー等は刑事だろうが。どんだけ殺しの現場見て来てんだ? あ?」
「そ、そう言われても……。と……とにかく、御子神さんも見たら分かりますよ」
「ちっ! (ヤベーな……、完全に現場に呑まれていやがる)
おい、村中! オメーちょっと先に見てこい」
「えっ?! あっ、はい」
御子神の指示で村中はブルーシートの中へと入った。だが次の瞬間、村中は手を口に当てながら、勢いよく中から飛び出し、周りにいた刑事や鑑識にぶつかりながらも、邪魔にならないような所で嘔吐した。
「おいおい、ったく」
そう言いながら今度は御子神が中を覗く。
すると覗いてすぐ、御子神はブルーシートでその現場が目に入らない様に閉め、その一瞬だけで全身の穴という穴から汗が滲み出た。
そんな御子神が呆然と立っていると、中から年配風の背の小さい男が1人出て来る。男が御子神と並ぶ様にして立ち止まると、御子神がその男に向けて口を開いた。
「おやっさん…」
「見ての通りだ」
年配の刑事は無表情ではあるが、その声には少し、怒りが感じられる。
「既に公安には連絡してあるから直ぐ来るとよ」
「おやっさん…」
御子神の声は恐怖で震え、脳裏に、とある過去の記憶がフラッシュバックする。
それは今回の現場とほぼ同じ情景を。
「健二……、後は公安が引き継ぐ。お前は絶対に手を出すなよ?」
「おやっさん……」
「解ってると思うが、この事件は俺達にゃぁ手が余る」
「おやっ……さん」
「いいか健二! 人には触れちゃぁなんねぇモンが山程ある! この事件はその一つだ! 俺達が下手へたに首を突っ込んでみろ! そん時はオメー、俺達全員あの世行きだ!」
「おやっさん!」
「堪えろ!! ありゃ人間の仕業じゃねーんだよ! オメーも良く知ってんだろ! 昔、首を突っ込んだお陰でどうなったか忘れちまったのか?!」
その言葉に御子神は黙ってしまった。
「あとな…、公安以外に奴等も来るぞ」
その言葉に御子神の目は大きく見開いた。
「おっと、言ったそばからおいでなすった」
後ろを振り返ると、そこには黒尽くめの男達数人が歩いて来る。いかにも普通の組織ではなさそうな雰囲気を纏っているにも関わらず、周りの者達は立ち入り禁止とも言わず、普通に規制線を越えて入って来た。
その中心にはショート髪をオールバックにした若く美しい女性も混じっている。
赤い瞳に白い肌。その目を見ただけで性格がキツそうと思える程だが、とても魅力的に見える。
御子神がジーっと見つめていると、その女性は御子神に気がつき、互いに目を合わせる。そのまま女性は御子神の前まで近づいて立ち止まった。
「久しぶりね」
「あぁ……、そうだな……」
女性が声をかけてきた瞬間、御子神の目は女性の口の中に視線が行く。普通の犬歯よりも、大きく尖った犬歯が見えたからだ。下顎の犬歯は上顎より小さいが、やはり普通の犬歯に比べても幾らか大きい。
「なに?」
「あっ、いやなんでも」
「あんまり人の顔ジロジロ見ないでくれる?」
目を細め、女性は御子神を睨んだ。
「す、すまん」
「それで? 中の様子は?」
「……ひでぇもんだよ……。辺り一面が血の海だ」
「そう」
すると御子神は黙ったままその女性を見つめた。
「なに? 何か用があるなら早く言って」
「あっ、いやその……。元気にしてたのかなぁって思ってよ……」
女性は軽く溜息を吐くと、一緒に来た男達に中の様子を見て来るように指示を出す。
女性は両腕を組み、壁に背を預けると、苛立った顔で御子神をまた睨みつけた。
「解ってると思うけど、私は忙しいの」
「そんなに怒ることないだろ……」
「怒る? 私が?」
「明らかに怒ってるだろ」
「怒っていたとしても、別に貴方に対して怒ってる訳じゃ無いわよ」
「そ、そうか……」
「まっ、良いわ。……中を見てどう思ったの?」
唐突にそう質問され、御子神は苦虫を噛んだ様な顔で答える。
「まるであの時と同じだと思った」
その言葉に、女性の目が大きく見開かれた。
「冗談言わないでよ……」
女性はそんなの有り得ないと言いたげな顔になり、戸惑いを隠す事が出来ない。
「だったら見てこいよ……。ありゃぁ間違いなく奴らの殺りかただ」
その言葉に突き動かされた女性は、足早にブルーシートで隠された現場の中へと入る。
数分後、女性はさっきよりも動揺した面持ちとなって外に出て来ると。御子神の側まで歩んだ。
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