第298話 変わり果てた東京
「2時方向から何かが接近してるわよ」
志穂ちゃんにそう言われてそっちに目を向けると、さっき連絡があった"チスイ"ってモンスターの群れがこっちに近付いていた。
「数は……、14ってとこか」
<キキャキャ!>
<キキッ!>
<キー!>
「ヴィラ」
<シュウゥゥゥ>
物陰に隠れ、志穂ちゃんのパートナー"ヴィラ"が奇襲攻撃を仕掛ける。
"悪運之瞳"で"チスイ"達を睨みつつ、凶悪な牙が並ぶ口を開けての攻撃だ。
<キギャ?!>
まず1匹に噛みつき、他何匹かヴィラの蛇骨みたいな体で体当たりされるとそのまま捕まえ、巻き付いて絞め殺す。
<シュウゥゥゥ>
<キッ……キキッ……>
<キャァ……>
ヴィラの見た目ってのもあるんだろうけど、チスイ達はヴィラを見て恐怖からなのかその場から動けないでいる。
「ヴィラ、アンタに全部あげるから片付けて」
<シュルアアアア!>
<ギキャアアア!!>
<ギキィイイイイ!!>
<キャキャキャキャキャ!!>
ヴィラの攻撃にチスイ達が戦々恐々って感じで怯えながら逃げる。
だけどヴィラから逃げるなんて簡単じゃねえから、壊れかけた建物とかを余計破壊しながらチスイ達がヴィラの餌食になった。
「し、志穂ちゃん? いくら壊れかけてるとは言え建物を破壊させながらってのはちょっとぉ……」
「なに? 私に文句でもあるわけ?」
すいません無いですごめんなさい。
まぁ柳さん達から戦闘になったら仕方ないし、状況が状況だから壊しても文句は無いとは聞いてるけどさ、なんだかなぁって気分になる。
ましてや志穂ちゃんは志穂ちゃんで、カズに対してめっ……ちゃ激おこだし。
触らぬ神に祟りなし。
「アンタ今余計なこと思ったでしょ」
うぐっ?!
"剣虎"を強化した大剣、"雷虎"を鞘から軽く抜くと、バチバチッて電気が走る音を出しながら俺は睨まれた。
「ちょ、ちょっとまって、お、俺は別に何も思っちゃいねえっすよ」
「じゃあなんで動揺してるのかしら?」
「え?! それは、ちょっ、あっ、あああぁぁぁぁぁ…………!!」
鞘を抜いた"雷虎"から強力な雷撃を撃たれ俺は吹き飛んだ……。
15:10
ーー 渋谷スクランブル交差点 ーー
「ここも水没してんなぁ……」
渋谷まで来ると、至る場所が水没している。
そこには自衛隊から連絡があったように、魚型のモンスターやカブトガニみたいなモンスターがいる。
「……確かに"ダンクルオステウス"みてえなモンスターだけど、"シーラカンス"にも似てんなぁ」
「取りあえず襲ってこないなら他の場所に行こう。八岐大蛇が自衛隊の人と行動してるみたいだし、見つけて合流した方が良いでしょ」
「だな」
ヤッさんとそんな会話をしつつ、俺達は違う場所を見に行くことにした。
俺達は警備って事で外に出たけど、本当の目的は今の東京でどこが安全で、どこに何がいるのかを調べようって事で出てきているし、念のため逃げ遅れた人がいたら救助したいと思っている。
「東京がこんなになるなんて……」
「まだ良い方さ、兄様が本気になりゃ東京なんて簡単に地図から消えちまう。ん? よう志穂か恵梨佳、どっちのパートナーでも良いからあそこを調べてくれねえか?」
イリスにそう言われ、そこは佐渡の"ブチ"が水の中を泳いで調べに行く。
行ってもらう場所は駅。
そこに何があるのかと思っていると、周囲を破壊しながらブチと何か巨大なモンスターが出てきた。
「お~やっぱいたか~」
「いたかじゃねえよ! なんで先に言わなかったんだよお前は!」
「そう怒るなよ憲明~、ありゃ"ヴァグラシス"って古代種でさ、玲司のトッカーに奴の甲殻とか肉を食わせたらより進化して強くなるぜきっと」
"ヴァグラシス"。
体長約12メートル程はある、恐竜みたいな二足歩行型だけど、後ろ足がかなりデカくてカメの甲羅みたいなのが背中や太股にある。
尻尾はまるでクジラみたいで太くて長い。
うん、恐竜とカメとクジラが合体したみたいなモンスターだな。
「イリスの言う通り確かに良いかもね」
「だろ~? さっすが玲司、分かってるじゃねえか」
「ちょっ!! そんな事より誰か早くブチの援護してよ!!」
トッカーはカメ型モンスターで二足歩行出来るように成長。んで、"ステゴウルス"って恐竜の化石を食った事で尻尾が鉈みたいな、シダ植物みたいな甲殻に覆われている。
そんなトッカーが"ヴァグラシス"の甲殻や肉を食ったらどんな風になるのか楽しみだ。
「行くわよヴィラ」
<シュウゥゥゥ>
ヴィラの頭に志穂ちゃんが乗り、ブチの援護に颯爽と向かうのを見て、俺はソラに援護射撃するように伝えた。
「カノン、悪いけど蔦でトッカーを向こうまで投げてもらっていいかい?」
ヤッさんがカノンにそうお願いすると、カノンは地面から蔦を生やすとそれでトッカーを持ち上げて投げる。
「トッカー! そのまま頭を狙っておもいっきり攻撃してくれ!」
<ファウ!>
ブチはまだ10メートルぐらいしかねえし、"ヴァグラシス"とまともに戦えるかと言われるとまだまだレベルも低いからなのか押されてる。
だけどそこに志穂ちゃんとヴィラが応戦し、"ヴァグラシス"の動きをその場に押さえ込むと上からトッカーがおもいっきり、シダ植物みたいな甲殻に覆われた尻尾を振り下ろす。
<ガッ?!>
ガンッて物凄い音をたてると"ヴァグラシス"はその衝撃で頭がコンクリートの地面にぶつける。
そこへ今度はカノンの蔦でヤッさんと佐渡も投げられると応戦。
下手をすると水に落ちるって場所なのに、そんな人数で対応するとやっぱり水に落ちる。
おいおいなにしてんだよ。
水に落ちれば"ダンクルオステウス"みたいな魚型モンスターが襲ってくるって言うのに、なんでそこまで考えないんだって俺はイラッとした。
せめて中に入って戦えば良いのに。
「おい何してんだよヤッさん! 周りを囲まれてんぞ! 志穂ちゃんはヴィラで早くヤッさん達を助けて一旦こっちに来てよ!」
「分かってるわよ!」
それから志穂ちゃんに助けられたヤッさん達を連れこっちに戻って来ると、今度はそこで"ヴァグラシス"を迎え撃ってどうにか討伐。
討伐後、俺達は一旦帰ることにしてその"ヴァグラシス"を夜城邸に運んだ。
19:00
「ごちそうさんでした!」
夕飯を食べ終えた後は討伐した"ヴァグラシス"の解体をして、リーズに少し素材を売ったりもしたりした。
「まさか本当にあの絶滅種が生きてるだニャンて驚きだニャ」
「それだけで幾らになる?」
「ん~……、一旦ギルマスに相談してからになるニャ」
「了解、んじゃ解ったら教えてくれよ」
「承知したニャ!」
「なあロゼリアァ、ここに戻ってくる時になんかけっこうデカいコウモリみたいなモンスターをチラッと見たんだけど、解るか?」
「コウモリのモンスター……、ですか?」
ロゼリアはカズに着いていくのかなと思ったけど、意外とここに残って色々と手伝ってくれているから正直ありがたい。
「詳しい特徴は解りますか?」
「ん~……、黒い体に目や耳の中、皮膜が青かったと思う……、それに羽が4枚だったかな?」
「本当ですか? ……"ヒスイコウモリ"? いえですが……、……いえ、間違い無いでしょう、それは"ヒスイコウモリ"と呼ばれる"デスタニア"。絶滅種の1種です」
"デスタニア"……。
「空飛ぶシャチとでも言いましょうか、オオコウモリの様な犬顔をしてますがその見た目とは裏腹にとても危険なモンスターです。私が知る"デスタニア"は数が少なく、見る機会が殆どありませんでしたが、目をつけられたらどこまでも追いかけ、追跡してきます」
「へ~」
そう言われて俺はその"デスタニア"に興味が湧いたけど、まさかもう目をつけられてるなんてその時はまだ知らないままだった。




