第296話 その後
その後、凶星十三星座と冥竜軍はゲートを通っていなくなったけど、エルピスさんが率いていた天界軍、それに冥獣軍と冥王軍は数えきれない程の死者を出し、自衛隊や各国軍隊も半数近くが死んだ事が解った。
それに対して向こうの冥竜軍の死者はほとんどいないって話だし、竜達なんて1匹も死んでいない。
俺達はと言うと、カズが誰も殺すなって言ってたからなのか、誰1人として死んでいない。
だけど恐怖は確実に刻み付けられた。
テレビでは殆どの関東地方が全滅し、多くのモンスター達がいろんな所にゲートが開いたもんだからそこから溢れ出てきて立ち入り禁止状態。
東京はそれ以来ずっと雨が降り続き、半分近くが水没して今じゃ見る影も無いし、調査したくても凶悪なモンスター達が徘徊してるからなかなか調査が出来ないでいる状態だ。
そんな東京をテレビでは"東京水没エリア"って呼び。東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、この五つのエリアは危険だから決して近づかないように訴えている。
まっ、そのエリアに通じる道路とかを自衛隊とかが厳重に封鎖してるから近づくなんてなかなか難しいけどな。
んで俺はと言うと……。
9月2日
「いい加減知ってることを話して貰えませんか?」
カズの家で柳さんに事情聴取されていた……。
「だから俺はなんにも知らねえって柳さん」
「……嘘ですね、その目はなにかを隠してる目をしてます」
なんで警察の人達って目を見ただけでそう思えるんだよ!
「んなこと言われても知らねえんだからどうしようもねえだろ? それに知ってたらそれが犯罪かなにかになるのかよ?」
「犯罪にはなりゃしねえが相手が相手だからしかたねえだろ」
柳さんの後ろで煙草を吸い、腕を組んだ御子神のおっさんが俺を睨んでそう言った。
実を言うとカズや凶星十三星座達がいなくなる直前、先生が向こう側についたからなんだ。
裏切り。そう言えば話しははえーけど、柳さんと御子神のおっさんは俺が何かその事で隠し事をしてるって思われている。だけどそんなこと俺に言われても知らねえもんは知らねえし、先生が何を考えてるかなんて解らねえよ。
「なあ柳さんよぅ、コイツに聞いたってやっぱ無駄なんだろうぜ。でもアンタはアイツの秘密を前から知ってたんじゃねえのか?」
「えぇまぁ、知ってはいましたよ。しかしそれは」
「分かってるさ」
なんの、話だ?
2人は俺の知らないなにかを話すけど、それを口にしないまま俺は解放された。
それから外に出てから夜城邸を中心に結界を張る手伝いをしに行くんだけど、理由はさっき話したようにモンスターがいるからその安全地帯を確保する為にだ。
様々な場所でゲートが開き、そこからモンスター達が出てきたって話したけどそのモンスターってのがまた厄介な奴らなんだ。
「皆! 10時方向から何か来るよ!」
ヤッさんがそう叫んで目を向けると、家を破壊して"ミスリル・ボア"ってデカい猪型モンスターがこっちに突っ込んでくる。
デカい牙、背中に生えるクリスタルみたいなミスリルを背ビレみたいに生やす奴で、その毛皮は固いからなかなか剣が通らない。
「ソラ、"一斉射撃"で足止め。ノワールは隙を見て攻撃」
<ガウッ>
<カロッ>
「トッカーはソラの攻撃で止まらなければ"鉄壁"で防いで!」
<ファウッ!>
"ミスリル・ボア"は見た目に反してけっこう強い。
だから上手く皆で連携しないと討伐が難しいんだけど、それでも徘徊しているモンスター達の中でまだまだ弱い。
いくら夜城邸での戦闘は禁止になってるとしても、それは野生のモンスター達には関係ねえからなんとか近づけないように結界を張らなきゃならねえんだ。
「んじゃ、憲明と玲司達が食い止めてる間に終わらせようぜ」
……出来ればアナタにも手伝って欲しいんですが?
"ミスリル・ボア"を俺達に任せ、イリスは他の皆で結界を張る作業をする。
その結界を張るのが簡単なようでこれまためんどくさい。
指定された各場所に杭を打ち込み、御影さんが作った特殊な石を埋め込む。
その作業がマジでめんどくさかったけど、それが今やってる作業で終わる。
「ソラは下がれ、クロ、カノン、いけるか?」
ソラを下がらせ、俺がクロとカノンに声をかけると、クロは炎と氷の鎖でミスリル・ボアの動きを封じつつダメージを与え、カノンはミスリル・ボアの腹の下から竹を何本も生やすして突き刺す。
そぉ……きましたかぁ……。
<カロッ>
すかさずトドメにノワールが"触椀"を口の中に突っ込むと、"凶爪"で口内内部から頭を破壊。
エグすぅ……。
「とりあえず僕が解体しておくから、憲明は周りの警戒しといてよ」
「了解、んじゃまかせた」
ヤッさんにミスリル・ボアの解体を任せ、俺は他にモンスターがいないか警戒をしたけど、なにも問題なく作業も終わり、結界の方も無事に完了したから俺達は戻った。
13:16
「おつかれさん」
「特に疲れちゃいねえっすよ。でもこれで結界は完了したから、モンスターが来ても中には入って来ないでしょ」
親父さんが出迎えてくれたからそう伝えると、今度は奥からお袋がクッキーを手にやって来た。
「クッキー焼いたから皆で食べなさい」
お袋には避難してもらってたんだけど、どうしても俺の事が気になって1人で戻って来ていた。
最初は怪我が治ったばかりだし、天使の力がほとんど無いのに無茶しやがってって怒鳴ったけどさ、なんかお袋の顔を見たら安心して俺は言ってる事とは逆に、泣きながら何故か抱きついていた。
……恥ずかしいったらありゃしねぇ。
でも、それが普通なのかもな。
「おっ! クッキーだ!」
「なんかお腹空いたから助かる~……」
イリスと佐渡がそんな事を言いながら颯爽とクッキーを手に取って頬張る。
せめて頂きますって言えよ。
佐渡はヤッさんと一緒にあのゴジュラスと戦った。
ヤッさんの話によるとけっこう無茶な事をして怪我をしたけど、佐渡なんかよりゴジュラスの方がかなりのダメージだったらしい。
まっ、カズの所に来ていたゴジュラスを見たらどれだけ激しい戦いをしてたのか分かったけどな。
左肩の結晶が半分割れて壊れていたし、腹には大きな傷はあるし、体のあちこちから血がかなり流れていた。
結果的に2人はゴジュラスと引き分けたらしいけど、それでも十分すげえと思う。
それに一樹だってそうだ。ダークスと連携して、凶星十三星座のマモンと戦って勝ったって言うんだからよ。
他には美羽だな。沙耶を倒し、羅獄は八岐大蛇が撃退。その後、御子神のおっさんを助けるために行ったらしいけど、なにがあったのか2人はずっと気まずい雰囲気だ。
下手に聞いたらまずそうだし、これはどっちからか聞いた時にでもその相談を聞こうと思う。
それに、カズが行っちまったからなのか、美羽はずっと塞ぎ込んでいて全然外に出てこない。
はぁ……、何があったかしんねえけど、いい加減いつもの美羽に戻ってもらわねえとなぁ……。
「なぁ銀月、美羽は大丈夫なのかよ?」
<クルルルルッ……>
千月が頭を横に降って、大丈夫じゃないって事を教えてくれるから、俺はとりあえず美羽がいる部屋に行ったけど、全然中に入れないまま、しばらくしてから大水槽ホールに戻った。
「美羽は?」
「今日も全然ダメみたいだ。いい加減出てきてもらいてえんだけどな……」
一樹に聞かれて俺が答えると、銀月はノシノシと美羽の部屋に戻っていく。
「美羽の事、頼むな銀月」
<クルルルルッ>




