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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第10章 始まる滅びの時
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第295話 絶望の序曲


 大きな鼓動が鳴ると周囲は静まり返り、敵味方問わず、全ての者が動きを止めてその視線が一点へと集中する。

 鼓動が鳴り響くだけで静まり返った空気の中、たった1人だけそんな空気を読まずに大きく叫んだ。


「カズ!!」


 憲明は和也を呼び、右手に何かを持つとそれに視線を移し、再び和也へ視線を戻すと手に持っていた物を全力で投げた。


「受け取れ!! 絶対にそれを無くすんじゃねえぞカズ!! 約束だからな!!」


 約束。

 その言葉に鼓動を鳴らすどこまでも深い闇の光が破裂し、凶悪な手がそれを受け取るとゆっくりと姿を表す。


 13:38


<……お前はどこまで感が良いんだ>


 二重三重と重なりあう不気味な声でそれは言い放つ。

 それはどこまでも深い、まるで夜のごとき黒竜。

 頭はまるで(サメ)の様な甲殻に守られ、4つの赤い瞳が煌々と輝き、胸には凶悪で大きな口の中に目玉の様なコアが1つ。

 尾はまるで大蛇(だいじゃ)(ごと)く長大。

 全身には逆鱗の様な凶悪な鱗や甲殻で守られ、その風格は正に絶対王者。生きとし生けるもの全ての頂点に君臨し、決して起こしてはならない王にして神。

 その名は口にするのも恐ろしいとされる存在。


 【冥竜・アルガドゥクス 復活】


<ハアァァァァ……>


 その吐息を聞いただけで身の毛がよだつ。


「前と少し姿が変わったか?」


 だが憲明はそんな姿となった和也に声をかけた。

 憲明が言うように今の和也(あらた)め、冥竜の姿は以前とは違う。

 過去の冥竜、そして和也が竜になった時の姿の中間とも見てとれる姿。

 その理由は。


<まだ()()()だからな>


 そう、今はまだ不完全。

 故に(ひたい)には1本の角しかなく、触腕(しょくわん)が無い。


<クククッ、お前ぐらいだよ俺に普通に話しかけられる奴はよ>


「はっ、お前が冥竜だろうとなんだろうと俺には関係ねえからな」


<クカカカカカッ、そう言ってくれるのもお前だけだ憲明。だがコレを貰って良いのかよ?>


「誰がやるって言ったよ! それを預けておくから無くすなって事だよ!」


<あぁなるほど>


 冥竜が受け取ったのは憲明が大切にしていた指輪。

 その指輪に何があるのかを知っているのもこの2人だけだ。


「必ずそれを返して貰いに行くから、それまで待ってろよ?」


 そう言われた冥竜は微笑むと地上へとゆっくり降り立ち、憲明と正面から向かい合う。


<ならお前はコレを持ってろ>


「……良いのか?」


<あぁ、だからお前はそれを俺に返しに必ず来い>


「……分かった」


 逆に憲明が渡されたのは冥竜が気に入っていた指輪。

 指輪と指輪。

 それを(たが)いに預け合い、憲明と冥竜はお(たが)いの拳を合わせた。


「……美羽は?」


<……今はそっとしておいてやってくれ>


「そっか……、分かった」


<……じゃぁ、またな>


「おうっ! またな!」


 こんな会話が出来るのは本当に仲が良いからなのだろう、その2人のやり取りを見ていた凶星十三星座(ゾディアック)達は勿論、冥竜軍、冥王軍、冥獣軍、天界軍、様々な者達が唖然(あぜん)とした顔で見ていた。


<全凶星十三星座(ゾディアック)、並びに全冥竜軍とすべての竜達に()ぐ。これより"竜国"へと向かう。これ以上ここでの戦闘はこの冥竜が許さん>


 そう宣言するとすべての竜達が歓喜の咆哮(ほうこう)を上げ、空に巨大なゲートが広がる。

 だがしかし、それをよしとしないエルピスがそこへ現れた。


「行かせるとお思いですかお兄様!!」


<やめろエルピス。ここでお前と殺り合えばここいら一帯が焦土になる>


 エルピスは白く輝く剣を抜き、それを振り下ろすが冥竜は指2本で(はさ)むようにして簡単に止める。


<俺はやめろって言ったぞエルピス>


「お兄様、今のお兄様はどちらのお兄様なのですか? 憲明さんと会話をしていたところを見るに今までのお兄様のように私の目には写っておりました。ですがお兄様、こうなってしまったからには向こうへ行かれる前に貴方を止めなくてはなりません!」


<まっ、そうなっちまうよなやっぱ、んじゃ……、ここで殺すぞエルピス?>


 殺気を放つ強烈な睨みでエルピスは全身から汗が吹き出し、その表情は恐怖に染まる。

 数千万年が経とうと、エルピスには兄、冥竜がどれだけ恐ろしいのかを覚えてるが為に体が硬直し、トラウマとも言うべき過去の恐怖が甦ったからだ。

 生まれ変わってから会った時の兄とは違う恐怖。


<……馬鹿が、そんなツラぁするぐれえなら初めから来るんじゃねえよ>


「ですが……!」


<こうなる事をお前だって分かってた筈だろ?>


「だからこそ! 私はこうして止めに来たのです!」


<ならなんで今になって来た?>


 そう言われるとエルピスの顔は更に曇った。


「そ……それは……」


 それは純粋に恐怖していたからだ。

 過去のトラウマとも言うべき恐怖。圧倒的な暴力とも呼べるその強さの前に、ありとあらゆる多くの命が無惨に散った。

 今、エルピスの前に立っているのはその恐怖をあらゆる命に、遺伝子レベルで刻み付けた最強最悪の存在。

 そんな存在を前に、エルピスですら恐怖でなかなかこうして出ることが出来ないでいた。


<……かつて天界軍は俺達の敵だった、それを率いるお前もだ。けどな、今の俺達にとっ……>


「……?」


 その時、冥竜はなにかを言いかけようとして動きが止まった……。


「バラン!! ミルク!!」


 ゼストが叫ぶようにして2人を呼んだ時だった。


<ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!>


 その咆哮(ほうこう)は天地を怯えさせた後、静寂(せいじゃく)が訪れる。

 同時に、ゼスト、バラン、ミルクの3人がそれぞれ巨大な槍を持ち、冥竜の背中からコアを貫いた。


<ギ……エ……>


兄者(あにじゃ)懸念(けねん)していた事が当たってしまったな」


<だが殺すとしても陛下は不死身。これで奴がおとなしくなる筈も無いぞゼスト>


「分かってるさ、だからこうでもしない限り動きを封じなければならんのだろう」


 周りにいる者達にしてみれば、ゼストとバランが何を言ってるのか訳が解らず、ただその光景を見て唖然(あぜん)とした表情をするしかなかったが。


「貴様ら正気か!!」


 ルシファーは自分達の王に手を出した行為が許せず激昂(げっこう)し、今すぐ槍を抜けと叫んだ。


「事情は後程話す」


「ゼスト!!」


「これは兄者(あにじゃ)の御命令なのだ。ゴジュラス、お前の"重力支配"で兄者(あにじゃ)を御運びしろ」


<……>


「いつまで(ほう)けてるつもりだ、さっさと動け」


<しょ、承知した>


 エルピスですら何がどうなってるのか解らないでいるが、それをなんとなく感ずいている憲明は。


「……またな、カズ。お前なら勝てるって信じてる」


 その言葉にゼストとバラン、ミルクは驚愕(きょうがく)した。


「やはり知っていたのか?」


「いや、なんとなくそうだと思って」


「馬鹿な、なんなんだお前は?!」


「んなこた良いから早くつれてってやれよ、後でカズにブチギレられても知らねえぞ?」


 ゼストはどうして我々しか知らないことをどうやって知ったのか不思議でたまらないでいたが、憲明の言う通り、早く運ばなければ冥竜に激怒されてしまうと考えたゼストはゴジュラスに急がせた。


「カズが次に動き出すとしたら何時になる?」


「……半年後になるかも知れんな」


 冥竜を運ばせ、憲明の質問にゼストがそう答えると憲明は1つだけ頼みを聞いてくれと頼んだ。


「私に出来る事であれば聞こう」


「そっか、んじゃ聞いてくれ……。取りあえず1発、本気で殴らせろ」


 ゼストは軽く驚いたがすぐに微笑んで(うなず)いた。


「何時でも良いぞ?」


「んじゃ遠慮なく!!」


 右拳に炎を(まと)わせ、憲明はゼストを殴る。が、ゼストにはたいしたダメージを与えられない。


「やっぱ遠いなぁ……」


 かつて生まれ変わる前の父であり、これからは正真正銘の敵となるゼストに今の自分がどれだけ届くのか、それを憲明は知りたくもあって殴った。


「……なんなら後1発は殴られても良いが?」


「断る! 固すぎるんだよテメェは!」


 憲明に断わられてしまったが、ゼストがフッと微笑むと、憲明もまたフッと微笑んだ。


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