第292話 繋がる回路<美羽Side>
「レヴィの奴、暴れすぎだろ」
「申し訳ありません兄者、それでもどうか怒らないでやって下さい、奴は兄者に怒られる事を何よりも恐れております。通信であのように言った私が悪いのですからどうか」
「分かってるさんなもん。アイツが取り乱して暴れる羽目になったのはお前のせいなんだからな。さて……、そろそろ髪が伸びたし、切るか?」
「……うん」
久し振りにカズが私の髪を切ってくれる。
どれくらいぶりになるのか忘れたけどその時の私の髪は結構伸びていたから、私は好きな長さに調整してもらう。
「色もだいぶ抜けたがどうする? また青くするか?」
「うん、また青くしたい」
カズは「分かった」って言うと、前髪に触れて抜けた色をまた青くしてくれた。
そこで私は違和感を感じた。
あれ? なんで触れただけで髪が青くなるの?
それで私はその違和感の正体がなんなのか気づいてカズの顔を見つめた。
「どうして"変換"の力が使えるの?」
すると私から目を背ける……。
カズは使えないんじゃなくて、使えないフリをしていた……。
どうしてそんなフリをしてたのか意味が解らない。
「騙して……たの……?」
怒りが込み上げてくるけどそれ以前に悲しくなった。
「もう1人のカズって言うのも嘘なの? アレは演技だったの? ねぇ、答えてよカズ……、何が嘘で、何が真実なの? 私達はカズをカズのまま、ずっと一緒にいたくて頑張ってるのに……、ねぇ、なにか答えてよお願いだから……」
それでもカズは黙ったまま何も答えない。
でも……私はカズが大好きで、ずっと側で見ていたからなんとなくカズが何を考えてるのか考えてそれを口にすると、カズは驚いた顔で涙を流した。
そ……言うことか……。
「1人で全部……、終わらせるつもりだったんだ……。どうして? もう1人で抱え込まないでっていったじゃん!」
世界とかそんなのもうどうでもいい!
私は、私はカズに生きていてほしい!
「戻ってきてるなら出てきて! 大蛇!」
私は八岐大蛇を影から呼び出し、カズを行かせない為に抑え込ませようとしたけど。
「無駄だ」
カズはその圧倒的な重圧だけで八岐大蛇は勿論、私は抑え込まれて動けなくなった。
「どうして? どうしてなのカズ?!」
「……ゼスト、13時半になったら」
「宜しいのですか?」
「もう隠し通せねえだろ、その時間になればお前らが集めた魂は十分な量になってるだろうしな」
「は、はぁ……」
「カズ!!」
<やはり美羽の推測は正しかったのだな本体!>
「……ごめんな」
カズは全てを捨てるつもりでいる。
それなのにカズは私達を強くして対抗出来るようにしようとしていたのは事実。
だからカズが何を考えているのか解らなかったけど、これで全部ハッキリした事がある。
カズは本気で私達に止めてほしいんだ。
理由は解らないけど、カズは私達にずっとそれを訴えていた。
じゃなきゃノリちゃんが気づくようなヒントをこれまで出していなかった筈だもん。
「答えてカズ! どうして演技までしていたの?! 止めてほしいなら素直に言ってくれれば止められたのに! それに結局カズはもう1人のカズがいるって偽ってまで全てが憎いの?!」
「……もう1人の俺がいるのは事実だ」
「じゃあ!」
「それでもこの世の中にはどうしようも出来ない流れってのがある。美羽、俺は俺なりにそのもう1人の俺を止めるためにどうすべきか考えてきた。その答えが結果的にお前らを傷付けることになっちまうと知りながらな」
「だからってそんな……」
「ゼスト、凶星十三星座は誰も殺してないだろうな?」
「はい。一部の者が殺しかけておりましたが殺すなと指示した事を思い出し、誰1人として死んではおりません」
「それでいい。美羽、……俺は先に行く。俺を止めたいとまだ思ってくれるなら追いかけてこい。……じゃ、少し早いがそろそろ俺は準備に入らせてもらう」
それがカズが出した答えだって言うなら私はそれをぶち壊す!
カズは1人で決着をつけるつもりでいる。
世界を破壊してでもゼスト達の願いを叶えつつ、もう1人のカズとどちらが存在すべきなのか、その決着をつける為に。
こんなこと話してもワケわかんないよね?
だけど今はそれだけしか言えない……。
カズが抱えている闇はあまりにも大きくて深い……。
全ての幸せを叶える為にカズは……。
「兄者、こちらを」
ゼストの右手に闇が集まるとそこに、カズにとって最強装備の1つ、"曼蛇"が出てきた。
それを受け取ると羽織り、カズは今までの髪型を変える。
左側頭部3ヵ所の髪を"変換"の力で編み込み、右側の髪と後頭部の髪を縛る。
「分かってるな? 奴が顔を出したら……、俺を殺せ」
「……はっ」
「わかんないよカズ、頭の中がゴチャゴチャしてもう何がなんだか解んないよ」
「今はまだ知る必要がねえ」
「なんなの? 整理したくてもどこから整理したら良いのか全然解んない……」
それでもハッキリとしていることはカズは演技してでも私達を遠ざけ、1人でもう1人のカズと決着をつけようとしてること。
そして、それをゼスト達も協力しようとしてるように思える。
つまり、ゼスト達もカズの演技に付き合ってまでカズの目的を手助けしようとしてて、私達の知らない正真正銘のもう1人のカズを殺そうとしているってこと。
その為には冥竜王として再び復活しなくちゃならい。
カズは多くの命を奪ってでもどうにかしなきゃならない事があるから、ずっとそれを私達に黙っていた。
この私にまで。
真実が見えたと思えたのにそれでもまだ……、その真実は真実じゃなかった……。
「ねぇカズ……、その為なら他の人達が死んでも良いの?」
「……じゃなきゃお前達が死ぬかもしれねえんだ、お前達を失うくらいなら俺はなんだってしてやる。それは前にも言った筈だぞ美羽」
そうだ……、カズはなんだかんだ言っても私達の為ならなんだってする……。
……だからって悪にならないでよお願いだから。
優しさ故の悪。
……それってとっても悲しいことだよ。
どうしたら良い? カズを……、行かせない為にはどうしたら……。
「もう出会ってどの位経つのかな? もうアナタに私は必要ないでしょ? 私にとって……アナタの優しさは猛毒過ぎる……。だから私はアナタとの時間を 思い出に仕舞おう」
私は床にうつ伏せになりながら、【To remember love】を歌った。
「"To remember love"? 急にどうした?」
「忘れない! 忘れない! アナタが私を愛してくれたことを! アナタが教えてくれた、人は1人では決して生きていけないことを!」
「おい、やめろ美羽、歌ったところで何が変わるって言うんだ?」
それでも私は歌った。
私は私が持つ、"歌魔法"を信じて。
届け……、私の想い届け!
「なにをするつもりだ?」
「カズがいけないんだよ?! 助けてって言ってるわりに1人で決着をつけようとしてるカズが! だから私はアンタの魂と繋げた!」
「なっ?! ふざけんな! そんな事したらどうなるか解ってんのか!」
「ははっ……、手遅れだよカズ」
私の魂とカズの魂の回路が繋がり、何を隠しているのか見た瞬間、カズはそれを遮断した。
「クソッ! 一部だけ知ったなテメェ!」
「そっか……、そうだったんだね……、だからカズは悪になろうとしたんだね?」
一部だけとは言えそれは真実の一部だからこそ、私は知る事が出来た。
出来たからこそ、カズがどうして今まで演技をしていて、どうして私達に真実を話してくれなかったのか納得して何も言えなくなった。
「……いいか、絶対に他の連中には黙ってろ。じゃなきゃ、利用されるのはお前らなんだ」
「……うん」
やっぱり私はカズが大好きだよ……。




