第291話 暴れる巨竜
「生きてるかフューラー?!」
<ワシは"不死"じゃぞ、じゃが死にはせんが体力があまり残っとらん……>
ーー 埼玉県 川口市市街地 ーー
そこではミランダとフューラーの2人がレヴィアタンと戦っていた。
街はレヴィアタンによって殆どが破壊され、もっとも被害が大きい。
「……邪魔」
ただの魔力を集めただけの魔力弾を放つが、それでも十分と言って良い程の高威力であり、家屋に当たれば簡単に吹き飛ぶだけの桁違いな力だ。
<まさかレヴィアタンを相手にするとはのぅ>
「ごちゃごちゃとうるさいぞ、私とお前だからレヴィアタンを任されたんだ、任せてくれたあの子に応えないでどうする」
<ふん! お前さんはお前さんで、機械の体だからもう回復したのか?>
「忘れたか? 私の体の中には"自動回復魔法"のお陰で回復する事が出来る宝玉が埋め込まれている。そこを破壊されない限り、私は何度でも立てるさ」
<ほっほっほっ、そうであったそうであった。では……>
"自動回復魔法"とは本来、肉体の損傷等を何もしていなくても治療回復を可能とした、とても貴重なアイテムだ。
それを埋め込まれている体の殆どが機械となっているミランダだが、そんな体だろうと回復する事が出来た。
今まで壊れれば誰かが修理しなければならなかった体だが、和也がミランダの為に探し、それを埋め込んだ事で修理しなくても治す事が可能となった。
それにだ。
ミランダは己の体を取り換える事でどんな状況でも戦う事が可能となった。
正に生きた機械兵器。
"個人要塞"の二つ名は伊達ではない。
「行くぞ軍曹! "チェーンソード"の準備だ!」
『Yes, sir!』
するとどこからともなくミサイルが飛んでくると、ミランダの左手の肘から先が外れる。
「取り外し完了! これより結合を行う!」
左腕の袖を捲り上げ、後方から飛んでくるミサイルが分解するとミランダの直ぐ横に何か大きなケースが落ちた。
そこへ捲り上げた左手をケースに当てるとそのケースは光り、煙りを放出させながら何かが姿を現す。
『"チェーンソード"のドッキング完了を確認。システム、オールグリーン。何時でも行けます大佐、モニタリングしてますのでバックアップは任せて下さい』
「ふん、任せたぞ軍曹。さぁ、反撃と行こうじゃないかフューラー!」
<おーともよ!>
「……面倒」
ミランダの左手に取り付けられたのは巨大な機械仕掛けのチェーンソーの様な剣。
「はははははははっ! いくら頑丈でもこれはどうだ?! えぇ?! コレがダメなら次がいくらでもあるぞ!」
「……無意味」
「無意味なら避けずにブッた切られろこの怪物があああ!!」
<お前が言うでないわ!!>
そこへ追い付いたフューラーがレヴィアタンに対し、巨体から繰り出される強力な踏みつけを行うがそれを片手で防がれる。
「……軽い」
<そりゃお前さんはあの凶星十三星座の中でも屈指の体躯を持っとるからの! ワシなんぞまだ小さかろうよ!>
「……無礼」
「貴様に無礼もクソもあるものか! そのまま抑えてろフューラー! たたっ斬る!」
フューラーに押さえつけられたレヴィアタンはそれでもミランダの攻撃を片手で何度も弾いた後、鷲掴みにした攻撃を止めた。
「……しつこい」
「貴様がしつこい! 良いからそろそろ斬られろ!」
するとレヴィアタンの雰囲気が変わり、その体が徐々に巨大化し始めた。
「……本当に面倒、……もう良い」
「ちっ! 来るぞフューラー!」
<分かっておるわ!>
その大きさはフューラーを軽く凌駕する。
"エリア51"を壊滅させた時と同じ大きさではあるが、どちらかと言うと八岐大蛇に近い巨体だ。
<……消えろ>
超高エネルギーを口内に溜め、一気に吐き出される破壊光線が触れるもの全てを破壊していく。
「逃げろフューラー!」
<貴様こそ逃げんか馬鹿者!>
<……まとめて死ね>
周囲を破壊した後、レヴィアタンは破壊光線で直線上に存在するもの全てを破壊していく。
街、川、森、山、ありとあらゆるものだ。
その攻撃はついには守行がいる所まで到達した。
ーー ーー
「誰だかしんねえが俺の邪魔すんじゃねーーー!! "正拳千手"!!」
それは正に千手観音の如き正拳突きによる千本突きとも呼べる攻撃で、守行はレヴィアタンの破壊光線を防ぐと逆に破壊した。
「相変わらずめちゃくちゃだねぇアイツは……」
当然それを見ていた稲垣は恐怖で震えた。
稲垣は今の破壊光線がいったい誰の攻撃なのか気付き、当たりそうになっていたので回避行動を取っていたが、守行は回避するどころか逆に破壊したのだからそうなるのも無理は無いだろう。
ーー 埼玉県 川口市市街地 ーー
攻撃をした後、レヴィアタンの元に黒いケサランパサランが現れると、ゼストから連絡だと言われてレヴィアタンはなんだろうと思いながら出た。
『先程の大規模破壊はお前か? レヴィ』
<……うん>
『兄者のお住まい近くまで来たぞ。何をしてるんだ貴様は』
<……ご、ごめん>
『下手をしていれば貴様……、殺されてたぞ』
ゼストからそう言われたレヴィアタンは怯えた。
<や……、やだ……>
『嫌なら気をつけろ。それでなくとも今の兄者は気が立っておられる。死にたくなければ下手に刺激を与えるな』
<わ、わかった……>
通信が終わり、黒いケサランパサランがフッと消えた後……。
レヴィアタンは泣き叫びながら暴れまわった。
<嫌だああああああああああ!! あの方にだけは嫌われたくないいいいいいいいい!!>
「どうしたと言うんだ急に」
<知らん、だが、これはチャンスやも知れんぞミラ>
「よし、では奴を追い払うぞフューラー!」
<うあああああああああああああああ!!>
チャンスと見た2人は駆け出した。
軽く暴れるだけで街を次々と破壊するレヴィアタンを倒せなくとも追い払える事は出来るんじゃないかと思ったからだ。
だがレヴィアタンの鱗は硬く、全ての攻撃が弾かれる。
すると雨が降り始めた。
雨は徐々に強さを増し、雷が強く鳴り始める。
<全部流れてしまええええええ!!>
レヴィアタンは《嫉妬》を司る魔王。
魔王達はそれぞれ特殊な能力を持っているが、レヴィアタンは違う。
それは純粋なまでの"力"と"巨体"。
全てを憎んで妬む。それが彼女の"力"を最大限に引き出す引き金となる。
だが、時としてそれは悲しませる事でも引き金となってしまう。
"大渦大災害"
レヴィアタンは雨や水道等の水を操り、巨大な水の竜巻を幾つも作り出して更なる破壊を広げた。
「これは……マズイわね」
抵抗する事適わず、ミランダとフューラーは水の竜巻に飲み込まれて敗北。
【ミランダ フューラー 敗北】
その後、レヴィアタンは我を忘れ、尚破壊し続けながら多くの命を奪う。
最早それは暴走常態と言っても過言では無い。
レヴィアタンの圧倒的な暴力の前に、味方のドラゴン達は恐れ、部下達ですら何も出来ずにただ自然と止まる時を待つ事しか出来ないでいた。
だがそれを例え味方であろうとも許すことが出来なかったのがいた。
<我を忘れて暴走するとは何事だ?>
骸だ。
<まったく、そんな姿をあの方が見たらさぞ嘆かれるぞレヴィ>




