第289話 Prominence Love<美羽Side>
私は黙ってカズの胸に顔を埋めながらゼストの会話を聞いていた。
ゼストは私を何かに利用しようと考えていたみたいだけど、それをカズが許す筈もないから怒ってる。
私が大蛇と融合したからなんなの? 私達はお互い納得したから融合したのに。
大蛇は寂しかった……。本体のカズが無視するから寂しくて、振り向いて欲しかったけどそれでもダメだったからカズを殺し、逆に取り込んで本体に成り代わろうとしていた。
それを知った私はだから言った。
「んじゃ私と一緒になろうよ、そうすればもう寂しくないよね?」
初めは何言ってるんだって顔されたし、馬鹿なのかって言われたけど、私はカズが好きだし大蛇も本当はカズが好きだから受け入れようと思った。
大蛇に取ってカズは本体以前に、……お父さんでもあるんだもん、寂しかった筈だよ……。
だからいつか大蛇は私との融合を解除して、カズの元へ返そうと思う。
甘えたい、話をしたい、本体じゃなく……本当はお父さんと呼びたい……、その気持ちを分かってあげられる。
本当の事を口にする事が出来ない。
もっと素直になってほしいな。
大蛇は体が大きいだけの子供。そんな大蛇のお父さんがカズで、カズの事が大好きで付き合ってる私はカズとの結婚願望があるから私の子供みたいなもんだし。
だからさ……、カズと結婚出来たらその時は……ね?
そう思ってる中、"支配眼"で皆の様子を見てみると、とても危険な状況に追い込まれてる光景がいくつも見えた。
動かなきゃいけない、助けに行かなきゃって思った。だけど、御子神さんに言われた言葉が耳から離れないから怖くなって動けない……。
それに、今ここを離れたらゼストがカズを連れていくかも知れないって思って、それもあって下手に動けない……。
「辛いならもう見るな」
「!」
カズは私が"支配眼"を発動させた事が解ったからなのか、優しい口調で言ってくれた。
「その目、"未来視"じゃねえよな? おそらく"千里眼"の様に他の連中がどんな状況なのか見ることが出来るんだろ。だったら使うな、今は俺だけを見てれば良い」
「……うん」
ごめん……皆……。
"歌魔法"があるのに発動する条件が解らないから使えないし、持ってるだけ無駄じゃん……。
もしかしたら"歌魔法"を使えば皆を助けられるかもって思うけど、使えないままだし、役にたてなくて本当に申し訳ないなって思えた。
「泣くな美羽。お前は誰よりも頑張ってるし、皆を助けに行けなくても今は俺をこうして助けてくれてるじゃねえか」
私が……、カズを助けてる?
「お前が来てくれなきゃ俺はきっと泣いてたかもな」
「そんなこと無い……、私は、なんにも役にたててないんだし……」
「美羽……」
カズが好き、大好き、慕ってるし愛してる、他の誰かじゃなく私はカズだから好きになれた。
どれだけ好きって言葉を言っても足りないくらい大好き。
それなのにカズの役にたてられないのが悔しい。
カズの為に生き延びる。
生き延びて、生き延びて、生きてる限り息をして、どんな事があってもカズを取り戻す。
その時は誰だろうと容赦しない……。
私のこの感情が死なない限り。
……私はアナタを愛し続け、アナタを求め続ける。
「ピアノ、弾くから歌ってくれないか?」
「……カズがそれを願うなら」
「んじゃ、お願いするよ」
カズが優しく私を抱き上げ、ピアノまで歩く。
ずっとこうしていたい……。
だけどこの戦いは私達の敗けで終わり、カズは向こうへ行ってしまう。
ずっとカズに抱かれていたい、胸の中にいたい、優しい手で撫でられたい、優しい言葉を言って貰いたい。
それがもうじき終わる。
「何を歌ってほしいの?」
「……"Prominence Love"」
その曲は……。
"Prominence Love"……、その曲はイリスの曲を作る時に私のも作ってくれていた新曲。
その曲だと言われた時、私はこうなる事を知っててカズが作ったんだって気づいた。
「嫌か?」
「……正直、歌いたくない」
「……そっか」
ズルいよ……、そうと知ったら歌えないよ……。
だって、それはカズから私への手紙も同然なんだもん……。
歌ったら寂しさで死んじゃう、そんな気がして余計歌えない。
だから歌えないって答えたのに、寂しそうな目を私に向けてくる。
そんな目をされたらズルいよ。
「……わかったよ、歌う」
「ありがとな」
歌うって言うと嬉しそうな顔してさ、本当にズルいよカズは。
そしてカズは静かにピアノを弾き始めた。
"Prominence Love"は愚直でまっすぐな愛の歌であり、……別れの歌。
ストレート過ぎて私は嫌い。
私は歌う前にピアノを弾くカズの方に体を向けて座り直し、顔を見ながら歌う。
カズも所々一緒に歌い、それが本当にお互いが好きあってるって言えるような歌となる。
【 愛しています心からそう伝えたい
正直な気持ち 直接言えなくて 本当にゴメンね
他の人を愛さないでね
君は僕にとっての太陽で月なんです だから誰にも奪われたくないのが本音です
君がいるから僕がいる
だけどそんな僕のワガママを どうか 聞いてください
何度目かの あの夏の夜を僕は忘れない
好き その言葉を聞いて僕は嬉しかったしずっと一緒にいたいと思えたよ
君に出会えてよかった 心から
君に出会わなければ僕はどんな生き方をしてただろう 本当によかったと思えるよ でも行かなきゃいけない僕を どうか許して
好きです 大好きです 愛してる 誰よりも愛してるよ(君の事を)
忘れないで 覚えておいて 僕が君の事が好きなことをどうか 忘れないで
(Prominence Love Prominence Love) 】
嫌いだけど、歌詞からもカズの気持ちが歌っていて痛い程伝わってくる。気持ちが伝わるからこそ涙を止められず、ずっと見つめながら私は歌う。
好きだよ、私だってカズが好き。だからピアノソロのところになると、私は何度もキスをした。するとキスをしながらピアノを弾くカズの唇が、「好きだ」、って動いてるのを私は重ねた唇で気づいて、より熱いキスをしたくなる。
愛おしくって胸が苦しい……、好きなのに離れなきゃいけない、どうしてそんな残酷な事にならなきゃいけないのか分からない。
ゼストはそんな私達が目に入らないように、ツバの広いハット帽を深く被り直すと、ただジッとしながら聞く。
ムカつく……。
それが見えたから睨みながら歌うからなのか、その感情が出ていたからなのか、その両方からなのかカズに優しく「今は忘れろ」って言われて、ハッと我に返ってカズを見つめながらまた歌う。
……ゴメン。
【 君を背に乗せどこまでも飛んでいきたい
君と一緒にどこまでも どこまでも旅に出たい 何もかも忘れて2人だけで 手を繋いで一緒に出たい
生まれ変わってもきっと君をみつける
生まれ変わっても君を愛したい 生まれ変わっても 君に愛されたい
Prominence Love 離したくないよ 君の手を 君の手を 離したくない
抑えきれない感情を殺し行かなきゃいかない僕を許して下さい 嫌いになったわけじゃないよ(本当に) 本当は側にいたいよ(ずっと永遠に) 君の瞳をずっと見ていたいよ
君を抱え飛んでいきたい 君と一緒に生きたい
あぁ 時間が来て僕は消えてしまう それまで僕は君の側に 】
後どれだけの時間があるのか見れるなら見たい、そう思って"支配眼"を発動させると……。
時計は13時22分で、カズが行ってしまう未来が見えた。
……辛いよぉ、辛いよカズぅ……。
そう嘆きそうになった瞬間、私が見た未来とは違い。
"歌魔法"が発動した。
 




