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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第10章 始まる滅びの時
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第286話 失いたくない<和也Side>


「来たか」


 1人静かにコーヒーを飲みながら大水槽を眺めていると、気配を感じた俺は後ろを振り返る事なくそれが誰なのか知ってるから声をかけた。


「座ったらどうだ?」


「……はい」


 家には俺以外に誰もいない。

 ルカは事前にマークに頼んで安全な場所に連れてってもらってるし、朱莉さんや犬神達は親父と一緒に外に出て、凶星十三星座(ゾディアック)達を止めに行っている。

 ロゼリアは柳さんのサポートをする為に行かせているからいない。

 だから外は酷い有り様になってるんだろって事は想像出来る。

 そんな状況の中、ゼストが平然とした顔で来るなんて誰も思ってもいなかっただろうな。

 だが俺はそろそろ来る頃合いだとは思っていた。


「来ると思ってコーヒーを用意していたところだ、飲むか?」


「はっ、頂きます」


 俺はカウンターに向かうとコーヒーをカップに注ぎ、それをゼストに手渡すと一緒に飲みながら大水槽を眺めた。


兄者(あにじゃ)


「ん?」


「申し訳ありません」


「どうした急に? 今回の作戦についてか?」


「私は兄者(あにじゃ)がどんな思いでいるのかを知ってておきながら、それを踏みにじってしまいました……」


「……謝るなよゼスト、それはお前達が過去の俺を想い、アイツを想ってるからこそ俺を冥竜王として復活してほしいんだろ? お前達にはお前達の正義の為に行動してるんだ、目的と理念があるからこそそれを叶えるためによ。だったら最後まで貫け」


兄者(あにじゃ)……」


「俺が復活したら後の事は考えるな、お前がツラくなるだけだからな」


兄者(あにじゃ)……、どうして貴方はそうやって全てを背負おうとするのです?! 少しは私にも背負わせて下さい!」


「バーカ、過去の俺が決めた事をお前にまで背負わせられるかよ。だったら復活したその時は俺が責任もって背負わなきゃならねえだろ、そう思うなら過去の俺が言った事を忘れてりゃこんな事をしなくて済んだんだ。それなのに律儀に俺の命令を守りやがってよ」


 それもまた俺の責任だ。

 ゼストは俺の命令は絶対として、確実に守ろうとする。

 コイツが俺の命令を聞かなかった事は、一度も無い。

 そんなゼストが俺の横に座り、涙を流して泣いている……。悪い事をしたなとは思う……、だがそれぐらいの責任を持たなきゃならねえだろ。


「お前は昔からそうだ……、だから……、本当に悪かったなゼスト……。苦労をかけてスマン」


「いえ……、とんでも御座いません……、兄者(あにじゃ)は昔からそうでしたからね……」


「ははっ……」


「……ふふっ」


 そんな話をしていると、ヴィシャスの気配が消えたのが解った。


「ヴィシャスの奴、誰かに負けたのか?」


「いえ違います、……どうやら美羽が来たことで一時的に撤退したようです」


「あぁ、美羽がそっちに行ったからか」


「……しかしあの美羽は凄いですね兄者(あにじゃ)、我々は誰よりも美羽を警戒しておりましたがまさかここまで厄介な存在になるとは……。ん? どうやら美羽が私の気配に気づいたようです」


「マジか?」


「……私が美羽に気づいた事も向こうも気づいたのか……、凄い睨んでます」


 ゼストには"千里眼"の能力がある。

 その力を使えばどんなに離れてても、目の前に壁があろうと見る事が出来る。


「あの目はなんだ?」


「どうした?」


「いえ……、私と同じ"千里眼"を手に入れたのかと思ったのですが、どうやら違うようでして、不思議な目をしております。……ん? 消え……た?」


 その直後、ゼストの首に"青い彼岸花(リコリス・ラジアータ)"の刃を当てる美羽が直ぐ横に立っていた。


「"影移動"か、よくそこまで使いこなせるようになったな」


 それにしてもあの目はなんだ? "未来視"の時とは違う、虹色に近い金色の瞳に赤い虹彩(こうさい)の目? 竜か悪魔みたいだが違う……。

 それをずっと持続してるって言うのか? 下手したら失明する恐れがあるんじゃないのか?


 そう心配していると、美羽は震える口調でゼストに問いかけた。


「なんでここにいるの?」


「剣を下ろせ、そいつは何もしねえよ」


「でもカズを冥竜王として復活させる為に多くの命を奪ってる元凶じゃない!」


 ゼストを睨みながら怒鳴るが……、その目からうっすらと涙が流れ、剣を持つ手が震えていた。


「その元凶はそいつじゃなく俺なんだ、だから下ろせ」


 美羽の気持ちも分からなくねぇ。

 だがその元凶はゼストじゃなく俺だ。

 それを、美羽が理解してないとは思えねえんだけど美羽はゼストのせいにしたいからそう言った。


「美羽、君の気持ちは私でもよく分かる。私も同じような経験をしているからね」


「ならどうしてこんな計画に賛成したの?! ただ迎えに来ただけじゃなかったの?!」


「全ては兄者(あにじゃ)とあの方の為に」


「毎回毎回同じこと言ってさ! カズの為だのあの人の為だの! もううんざり!」


「……申し訳ない」


「ふざけ、……ふざけないでよ! 申し訳ないと思ってるならやめてよ!」


 美羽にしてみれば俺を冥竜王として目覚めさせる為に、無関係な人間を大量虐殺するのが我慢出来ないってのもある。

 けどそれをコイツらに言ったところでそれが通じるかと言えば通じる訳が無い。

 今の俺がいくらやめろって命令したとしても、過去の俺が何があってもやめるなって言っちまってるからな。


「とりあえず落ち着け美羽、疲れてるだろうからこっち来て座れ」


 俺は自分の太股(ふともも)を軽く叩いて美羽に(うなが)すと、走って俺の太股(ふともも)の上に座ると抱き締める。

 そんな美羽に俺は頭を撫でて(なぐさ)める事しか出来ない。


「……私としては兄者(あにじゃ)、彼女を迎え入れても宜しいのではと思っております」


「……なに?」


「彼女はあの八岐大蛇(ヤマタノオロチ)に選ばれた存在。ましてや兄者(あにじゃ)と恋仲ではありませんか。であれば彼女を"竜国"に招き入れても宜しいのでは?」


「お前……まさか美羽を()()()()()()()()()()()()()()()()()? それだったら絶対許さねえぞゼスト」


「しかし、()()()()()()()()()()()()()


 コイツッ! 美羽を()()()()()()()()


 それは絶対に許す訳にはいかねえと思い、俺はゼストをこれでもかってくらい睨んだ。


「仮にそうだとしても美羽は美羽だ。俺は美羽だから惚れたんだぞ? それをテメェは俺のその気持ちを踏みにじるつもりか? あ?」


「申し訳ありません! 私と致しましてはそうすれば兄者(あにじゃ)が喜ぶかもと思っていましたので……、無礼な発言をしてしまい誠に申し訳御座いません!」


 美羽は今の話で自分が何されようとしてたのか気づいたと思う。

 だが、美羽は俺の胸に顔を(うず)めて何も聞こうとはしなかった。

 ゼストは俺が本気で怒ってる事に気づくと怯え、深々と頭を下げるがそれをそう簡単に俺が許す筈も無く、俺は頭を下げたままでいるゼストの胸ぐらまで手を伸ばして掴んで再度睨んだ。


「二度と言うな、良いな? 俺はアイツの事だって本気で好きで好きでたまらなかったから結婚しようとした。だが、それをアイツのせいで命を奪われ、国まで奪われ行き場を失った。……お前がしようとしてたのはそれと同じ事なんだぞ? お前は俺から大切な者をまた失わせたいのか?」


「誠に申し訳御座いません! そんなつもりは毛頭なく!」


「毛頭なく? だが言った言葉は一緒だろうが! 美羽は美羽であって他の誰にも代える事が出来ない俺の大切な存在だぞ! 今度同じことを言ったら分かってんだろうな!」


「は! はいっ!」


 俺はもう、大切な存在を失いたくない。

 フィーラを(うしな)い、ニアも(うしな)った。

 美羽まで(うしな)ったら俺は……、俺は凶星十三星座(ゾディアック)ですら全員殺しかねないと思ってブチギレた。

 それが実の弟であるゼストだろうと誰だろうと、その時は容赦なく殺してやるってな。


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