第285話 弱さ<御子神Side>
ヤバイな……。
<どうした人間>
なんなんだこの黒猫は。
自衛隊連中の応援に来てみりゃ奇妙な黒猫に翻弄され、壊滅に近い状態になっていやがるし。左目から青い炎だかなんだか知らねえが出ていやがるって事は普通の黒猫じゃねえのは確かだ。
コイツも凶星十三星座の1人なのか?
<黙りか。はぁ……、まさか私がこんな弱い人間の相手に選ばれるとは、ガッカリだ……>
ちっくっしょぉ……、こんな……、こんな黒猫モドキにナメられるなんて……。
頭にきた俺は愛用している銃を強く握り締めて黒猫モドキを睨んだ。
<飽きたからそろそろ死んでもらうとするか>
ちくしょぅ……、情けねえだろ俺……。
<去らばだ人間、今度生まれ変わるならもっとまともな種族に生まれてくるんだな>
そう言われて黒猫モドキが何か魔法みてえな攻撃を仕掛けようとした時だった。
「"影槍"」
影で出来た槍が地面の上を滑るみてえに次々と出てくると、黒猫モドキに攻撃して俺は守られちまった。
「ちっ、まさかお前に助けられちまうなんてな」
「だったらお礼の一言くらいあっても良いと思うな~」
俺を助けに来てくれたのは美羽だ。ったく、本当に恥ずかしいったらありゃしなかったぜまったく。
<くっ! やはりアズラエルでは足止めにすらならなかったか!>
沙耶の事を普通にアズラエルって呼べるってことはだ、やっぱコイツも凶星十三星座で間違いねえって事か。
「初めまして……かな?」
<……初めまして、御目にかかれて光栄です黒竜姫様。私は"ヴィシャス"、凶星十三星座のNo.Ⅷ、ヴィシャスと申します>
黒竜姫様だと? なんでまた美羽をそんな呼び方するんだコイツは。
<正直申しますと、私は貴女様と刃を交えたくありません。私では貴女様の御相手など出来るわけもな ーー>
「んじゃごたくは良いから死んでくれる?」
<ーー く……、え?>
次の瞬間、ヴィシャスって黒猫モドキが突然地面から出てきたデカい口に噛み付かれると、振り回すだけ振り回して瓦礫と化したビルに投げつけられた。
その口がいったいなんなのか、検討ならついてる。
「おいおい、アクアかよ」
<キュルア!>
「返事は可愛いけど見た目は怖いんだよ完全に!」
"遊泳"ってスキルのお陰でモササウルスのアクアは自由にどこでも泳ぐことが出来る。
つまりだ、その"遊泳"能力を使えば地面の下から奇襲攻撃が出来るってこった。
<は、話を聞いておられましたか?! 私は貴女様と刃を交えたくないと申した筈です! つまり! そのパートナーともしたくないと言うのも同じ事です!>
「あ~んっも~! なんなの御子神さん! なんなのコイツ! なんかスッゴくムカつくのは私の気のせいなの?!」
「俺に聞くな俺に!!」
それは俺だって同じ気分だったから訳が解らなくなっていた。
さっきまでは俺を殺そうとしていたって言うのに、美羽が現れるとその態度を一変させちまったんだ。
ましてやなんで美羽を黒竜姫って呼ぶのか解せねえ。
「凶星十三星座なんでしょ? なら私の敵じゃない、なんで私とは戦おうとしないのよ」
<そ、それは私の口からは申し上げにくく>
いや待てよ? コイツ……、美羽に相当ビビってねえか?
良く見りゃヴィシャスの体が小刻みに震えていやがる。
それ以前に、ヴィシャスの口から沙耶じゃ足止めにすらならなかったって言っていた事を改めて俺は考えた。
沙耶はアズラエルの記憶を取り戻し、"サマエル"って強力な武器を取り戻したことで厄介な存在になった筈だ。
それなのに美羽はどこも怪我をしていなけりゃ疲れてる様子も無い。
って事はだ……、今の凶星十三星座にまともに対抗出来るどころか勝てるのは美羽1人って事か?
それをヴィシャスは恐れてるって事になるのか?
……そりゃそうか、美羽は八岐大蛇と融合した事で別の存在になっちまってる。
「んじゃ引き上げてくれるの?」
<それは出来ぬ相談です。貴女様も御存知の筈だ、我々はあの方を復活させ、お迎えに来たのです。いくら貴女様の頼みと言えど聞けぬ相談と言うものです>
「それじゃカズを冥竜王として復活させるためにアナタ達はまだ人の命を奪うと言うの?」
<はい>
ヴィシャスとか言う黒猫モドキは美羽を恐れている。それでもアイツを復活させる為、もっと多くの魂を集める為に命を奪い続ける。
駄目だ、考えがまとまらねえ!
どれだけ考えてもその時の俺はどうしても考えがまとまらずにいた。
どういう理由で美羽を黒竜姫と呼び、その美羽とは戦いたくない。それに頼んだところで止まる訳にはいかねえ。
凶星十三星座はカズを冥竜王として復活させてえが為に、なにがなんでも計画を遂行したがっていやがる。
そこでヴィシャスの話し方に俺は思考を切り替えた。
……なぜ敬語で話す?
<私はこの辺で違う場所へ行かせて頂きます。貴女様の御相手など、私達には出来ませんので>
「逃げる気?」
<逃げる……、はい、逃げさせて頂きますよ勿論。貴女様は特別な方です。あの八岐大蛇と融合したのが何よりの証拠。ではまた御会い致しましょう、我らが黒竜姫様>
そして黒猫モドキは黒い霧に包まれるとその姿が消えた。
「なんだったのアイツ……」
「知るかよ、とりあえずここは良いから別の場所に行ってやったらどうだ?」
「……うん、でも御子神さん」
「美羽……、強いからってあまり調子に乗るなよ?」
「御子神さん?」
「ちっ、お前が来ただけであの黒猫モドキは怯えて逃げた。確かに俺は弱い、あー弱いさ、だけどな、それでも俺には俺のプライドがあったんだ。お前らガキ共が必死に頑張ってるって言うのに、俺はそんなお前らに助けられっぱなしだ。解るか? 俺のプライドはテメェのせいでズタボロなのにお前らが助けてくれるから余計ズタズタなんだよ、なんで俺の所に来た、なんで俺だったんだ」
「……ゴメン」
「なんで謝るかなぁお前は……、それで余計俺自身が惨めに感じるだろうが……」
悔しかったってのもある。
俺なりに必死に頑張ってるつもりではいたが、警察の仕事もしなきゃならねえ時があるし、俺には俺にしか出来ねえ仕事も任されていた。
だからって訳じゃねえが、美羽達のように戦闘訓練やらレベル上げをまともに出来ねえ時が多かった。
数年前、俺はとある事件に首を突っ込んだせいで同僚が死んだ……。それに多くの夜城組の連中だって死んだ。
殺したのは"寄生タイプ"って呼ばれるモンスターの仕業だ。
死んだ同僚は俺の後輩で、俺はそいつを可愛がっていたって事もあってよく組んで仕事をしていた。
守れなかった……。
"タイラント・ワーム変異種"って奴の時は、不思議とカズや骸がいたからなのか安心する事が出来たさ。
俺はカズみてえに美羽達を守りてぇ、本心では守りてえからなんだかんだ言って近くにいたりするが俺にはそこまでの自信なんざありゃしなかった。
……俺は、怖いんだ……。
俺がいたところでもしかしたら守れやしねえんじゃねえか? また、昔みてえに仲間が死ぬところを見る事になるんじゃねえか? 俺がいたところでなんの役にもたちゃしねえんじゃねえか? ってよ……。
俺はそんな弱い部分をこれまで表に出さず、本当はビクビクしてたさ……。
だがよぉ……、俺は何の為に警察になった? 市民を守るのが警察だろ? 警察なら守るのが義務だろ? だが相手は市民どころか国民や世界を滅ぼせるような連中から守らなきゃならねぇ……。
「お前らに関わるんじゃなかった……」
自分の弱さを痛感した俺は思わず美羽に本音を漏らしたことで、ショックを浮かべて黙った……。




