第284話 圧倒<美羽Side>
遠くでノリちゃんと骸が戦ってるのを感じる。
骸の事だからきっとノリちゃんを殺しはしないって思うけど、タダでは済まないだろうなぁ。
そう思いながら私は"空歩"で空中に立っていた。
「どこ見てんのよ!」
「ほんとうるさい……」
沙耶の声が本当に耳障りで、聞いてるだけで気分が悪くなる……。
どうして私はそんな沙耶に、沙耶なら許せるって思ってしまってたんだろうって考えると、胸の奥からどんどん怒りが湧く。
そんな沙耶も空中に浮いた状態でこっちを睨んでいた。
「……大蛇」
どうした?
羅獄は任せるからね?
くははっ! 任された! なぁに、こんな馬鹿、直ぐにでも黙らせてくれる!
心強いなぁ、んじゃお願い。私は私であの馬鹿を黙らせる!
承知した!
私と大蛇は融合した事で、"念話"に近い力で話すことが出来る。
私は八岐大蛇で、八岐大蛇は私。
カズから貰った"竜種之種"で、私は人間から竜になる事を望み"黒雷竜"となった。そこに、世界最強の一角である八岐大蛇と融合した私は"黒雷竜"から更なる進化を遂げることに成功した。
沙耶……、例え沙耶が凶星十三星座の1人だとしても、アンタは私に勝てないよ。
「美羽ううう!!」
「そんなに怒鳴らなくても普通に聞こえるから」
でもなんでだろう……。
全然、沙耶に負ける気がしない。
沙耶が"サマエル"で何度も振るってくる。
最初見た時は正直、少し怖いなって思ったけど、今はそんなのを全然感じないし、不思議と沙耶がどう動くのかが解る。
"未来視"を発動させてる訳じゃないよ? だけど不思議と次に何をしてくるのか、どんな攻撃をしてくるのかが解るの。
不思議……、沙耶が何してくるのか解る。
お前、それを本気で我に言ってるのか?
ん?
あっ、大蛇と繋がったままだったと思ってると、その大蛇は私が欲しかった答えを教えてくれた。
私は"思考加速"の能力を持ってるけど、いつの間にか"並列演算"って能力も手に入れていた。そこに"八岐大蛇"。私と八つの頭を持つ"八岐大蛇"が"並列演算"で同時に考え、そこに"思考加速"を加える事である意味スーパーコンピューターって感じで処理する。
あちゃぁ……、それって私も人の事言えなくなっちゃったなぁ……。
いやお前は我と融合した時点でどうかしてるが?
うるさいなー! もー!
そんなやり取りをしながら私は沙耶の攻撃を余裕で避け続ける。
「なんで当たんないのよ!」
これで"未来視"を発動したらどうなるんだろ?
そう思ってなんとなく発動させると、見ている世界が一変した。
解る……、これから何が起きようとしてるのか……、これが私の"未来視"? 違う……、これはもうそんな力なんかじゃない!
ー "支配眼" ー
「いい加減まともに戦いなさいよ!」
……ゴメン、沙耶に私は倒せない。
沙耶がこれからどう動くのか、それは"未来視"みたいに未来が見えるから解るんだけど、数秒先までの未来を見ていた次元とは全然違う未来。
それにただ未来が見えるだけじゃなかった。
「ゴメン沙耶、アンタがどれだけ昔の力を取り戻しても、私には勝てないよ」
「ふざけたこと言うなーー!!」
私の言葉に怒った沙耶が、いろんな角度から"サマエル"で攻撃したり、"F2"やガルでも攻撃してくる。
だけどそうしてくる事を私は全部"支配眼"で知ってるから余裕で避けるし、背後から霧に紛れてジークが私を攻撃しようとする未来も見えていた。
でもなんで"未来視"で数秒先の未来が見えることを知ってるのに沙耶は攻撃してくるんだろ? よっぽどスピードに自信があるからなのかな?
でも取りあえずジークはそっちに任せるからお願いね?
すると暗雲の中で白銀色をした稲光りが光り、銀月が急降下すると私の背後に現れたジークを両足の鉤爪で掴まえる。
「殺したら駄目だからね?」
<クルルルルッ!>
<キュララララッ!>
<フルルルララ!>
正直、銀月はステラ以上の攻撃力と機動力を持つくらいにまで成長したし、パートナー達の中でも最強。
"白変種"ってだけでも綺麗なのに、私みたいに雷を身に纏うとよりその美しさは際立つし格好いい。
でもほんと、おっきくなったね銀月。
頭から尻尾の先まで軽く20メートルは越えたし、翼を広げたら相当おっきい。
それに銀月はこれからもっと大きくなるんだろうし、何もしなくてももっと強くなる。
……だからこそ、私はもっと強くならなくちゃいけない。ステラや銀月、バウにアクアをガッカリさせたくないって思える。
そんな私は内側の胸ポケットから"猛虎の面"を取り出して口にマスク感覚で装備して。
「そろそろ始めるよ? ……おいで」
ー "青い彼岸花" ー
愛剣の名を呼び、軽く両手を広げると青光りを放ちながら私の両手に"青い彼岸花"がやって来る。
「さぁ……行こう」
「うっ?!」
双剣"青い彼岸花"を手に、私は沙耶の目ですら追い付けない速度で近づいて蹴りを何度か入れる。
風が気持ちいい。
なんだか何時もより早く動ける、だからなのか、全身で浴びる風がとても気持ちよく感じられた。
そして更に双剣特有の技や純粋な凪払い、そして得意にしている蹴り技。
そのほとんどはカズに教えてもらった技を次々と沙耶に叩き込む。
「遅いよ沙耶」
何もかもが手に取るように解るし沙耶の反応が物凄く遅く感じられる。
それに"支配眼"の能力だからなのかな? 遠くで戦ってる皆がどんな状況なのかさえ理解できた。
ダークスターは勝ったのかな? 確か、ルシファーの相手をするって言っていたけど姿が見えない。
けど、その直ぐ近くでタカさんとパンドラが戦ってる。
あっちはバニラさん達か。
それで意外だと思ったのはヤッさんと佐渡さんの2人。あのゴジュラスを2人だけで押してる事が素直に凄いと思えた。
でも御子神さんが危ない。
御子神さんは黒猫みたいなのと戦っていて、その素早い動きに翻弄されながら攻撃されていてボロボロになっていた。
早く終わらせて助けに行かなきゃ。
ー 飛竜脚 ー
「うがっ!」
ー "蒼雷曼珠沙華" ー
空中戦だと影を使った攻撃は出来ない。
つまりこの場合は雷系か影を使わない闇系しか無い。
<どうした羅獄、そろそろ貴様と戯れるのも疲れてきたんだが?>
<グガッ!>
あっちはあっちで羅獄をもてあそんで楽しんでるし。
<クルルルララッ!>
夕月と葉月がジークの両手に噛み付いて逃げなくさせると、真ん中の首、千月が強力な雷撃を口から発して攻撃して離す。からの羽ばたく巨大な両翼で電気の塊を作ると、それをジークに向けて放つ。
技の名前は"白雷帝"。
殺したら駄目なんだからね? ちゃんと手加減してあげてね?
クルルルララッ。
フルルラララッ。
キュララララッ。
ほんとに解ってるのかなぁ……。
理解してるのか怪しいけど、"白雷帝"をくらったジークがそのまま海に落ちると、"白雷帝"が強力な電撃を放ちながら海中で爆散。
え~……、ちゃんと手加減してあげてよも~。
クルルッ? クルラララッ!
え? ちゃんと手加減したって? その割になんか物凄い爆発だったけど?
……。
コラ黙るな。
「ジーク? ……よくも、よくもジークを!」
「なんで怒るの? アンタから喧嘩売ってきたんだからこうなるのは解ってたんじゃないの?」
とりあえず私は銀月とのやりとりを悟られないよう表情を崩さないまま、沙耶を睨んだ。
まぁアレで死んだとは思えないからいっか。
んじゃ後は沙耶だけだからそろそろ終わらせて御子神さんのとこに行ってあげなきゃ。
「そろそろ終わらせるよ?」
「美羽ううううううう!!」
攻撃してくる沙耶に、私はカウターとして"桜花舞"で軽く斬り。
「じゃぁね、沙耶。……"幻影百鬼斬"」
トドメって訳じゃないけど、闇で作った百体の分身で一気に攻撃する"幻影百鬼斬"で戦闘不能に追い込んだ。
【アズラエル敗北】
「大蛇! 私達先に行くから!」
<なに?! ちょっと待て! 我も今行くから待て! おいコラ美羽?!>
そう言いつつまだ終わりそうにないから私は大蛇をおいて先に行くことにした。




