第280話 運命の日
「契約に基づき、これより我々は約束を果たしに行く」
8月20日
その日、日本は想像を絶する恐怖を心に、魂に植え付けられる事になる……。
9:17
ーー 東京 特別対策本部 ーー
「葛西臨海公園にて巨大な魔力数値を確認! 推定魔力20000! いえ25000! 2……6000! なにこれ……、こんな……こんなのあり得ない……、魔力数値……尚、増大中……!」
魔力数値を見ていた女性はその上がりかたを見て恐怖した。
「39000、40000を突破……、嘘……、なんで? なんでまだ上昇するの?!」
女性は動揺した。
そこに柳が入ってくると状況を確認し、それが凶星十三星座だと確信した柳は女性に対して渇を入れる為、怒鳴った。
「しっかりしなさい! 貴女もこの世界を守る為にここにいるならしっかり伝えないでどうするですか! 相手は誰なんですか?!」
「す、すいません室長! 今! 映像に出ます!」
大スクリーンに映し出された姿を見た者は、誰もが息を飲んだ。
「……バラン (そうですか……、貴方が先に来たのですね骸)」
9時19分【バラン確認】
柳はこの特別対策本部の室長に任命され、全ての指示を出す任を受けている。
自衛隊、警察、公安警察と独断で動かす事を許されている為、柳はバランを止める為に近くにいる部隊を動かす。
「"葛西臨海公園"にて凶星十三星座のNo.Ⅴ・バランを確認、至急近くにいる部隊は向かって下さい」
『こちら第2高射特科軍、我々が一番近いので早急に向かいます』
「宜しくお願いします。相手はあの"絶対零度の支配者"、バランです。」
『……理解してますよ、1度、間近であの力を見てますからね……。では、これより向かいます』
「……お願いします。至急、別の部隊も応援に向かって下さい」
『こちら特殊作戦軍、"朱雀隊"。10分後に到着の見込みです』
「そうですか、お願いします」
第2高射特科軍、朱雀隊、2つの部隊が向かってる中、映像に映るバランは現れてからその場を動こうとしていない。
まるで、何かを待っているかの様に。
そして何故、柳がこうして自衛隊に指示を出せるのかには理由がある。
本来であれば内閣総理大臣、防衛大臣、各幕僚長だ。
では何故、柳が出せるのか。
柳は夜城組とこれまで密接に関わり、守行や和也と共に現場を指揮して紛れ込んだモンスターの対処をしてきた実績がある。
それだけではなく、柳は夜城組から絶大の信頼も得ている為に、柳に現場の指揮を出させるよう政府に打診していたのだ。
「続いて横浜本牧市民公園にて別の魔力数値を検知! こちらも映像が出ます!」
「ダゴン!」
ダゴンの後ろには、炎を身に纏う魔神や、多くの異形な姿をした者達がいる。
続けてルシファー、ベルゼブブ、レヴィアタンと、他の凶星十三星座達が続々と至る所に現れると空は暗雲に包み込まれ、あらゆるドラゴン達と共に冥竜軍が姿を表し、その中心にはパンドラがいた。
すると、今度は東京湾で異常な魔力を検知する。
「やはり貴女も来ましたか……、沙耶さん……」
映像には、羅獄の頭に立つ沙耶が映し出された。
ーー 東京湾 ゲート前 ーー
「さ~て、暴れようか羅獄~」
<皆殺しで、良い?>
「あっはは、うん、……敵は全部殺して良いよ」
そして悲劇は始まった……。
10:39
『被害甚大!! 被害甚大!! 八王子壊滅!!』
『こちら第1普通科連隊!! 第1普通科連隊壊滅!! 死者多数!!』
『凶星十三星座の進行を阻止出来ません!!』
『……だ、第31、ふ、普通……科……連隊……、全……っ……』
無線から凄惨な情報が次々と流れてくる。
その日、冥竜軍を率いる凶星十三星座達は東京だけではなく、幾つもの場所を戦場にしていた。
考えてみれば当たり前だろう、凶星十三星座達は冥竜王を復活させる為、新鮮な魂を集めようとしていたのだから。
より、多くの魂を捧げる為に。
『駄目です!! 奴ら! 迫撃砲どころか戦車すら通用しません!!』
『おいどうなってんだよ!! なんなんだよアイツら!!』
『助けてくれ!! 誰か!! 誰か助けッバア?!』
その通信を本部にいた柳は顔を青ざめさせ、どうすれば良いのか最早解らなくなってしまっていた。
柳は和也を迎えに来たとだけだと思っていた。
だがそれは間違いであり、凶星十三星座は現れた場所から徐々に進行、冥竜軍やドラゴン達は散開すると千葉、神奈川、埼玉を襲撃。
老人、子供、関係無く彼らは建物を破壊しながら殺戮を繰り広げる。
そうなると自衛隊や警察だけでは対応することが困難となるが、各国から応援に駆け付けてくれた軍隊が対応に入る。
しかしそれは無意味としか言いようがない。
海上では海上自衛隊、各国海軍が羅獄と交戦し、既に何十隻と轟沈されていた。
その光景を見つつ、柳達が必死に指示を出していると。
『柳さん、早瀬っす』
「(憲明君?!)」
そんな中、憲明から無線連絡が入ってきた。
『ゼストは来てますか?』
「いえ、ゼストはまだ確認されてません」
『そっすか……、んじゃ、骸は何処にいるんすか?』
「……何故、彼の事を?」
『今から俺達も出ます。それで、アイツは俺が止めます』
「無茶だ!」
そこで柳はバランが映る映像へ目を向けると、バランは未だに動いてなどいなかった。
「(なぜ……、彼は何もしない?!)」
他の凶星十三星座達は多くの命を奪いながら動いている。されど、バランだけが未だ静かにただずんでいる。
それは不思議な光景としか言えなかった。
バランは目を閉じ、僅かに微笑んでいるからだ。
『柳さん、アイツは今どこなんすか?』
もしかしたらきっと、バランは憲明が来るのを待ってるのではと、柳の脳裏によぎった。
「葛西臨海公園に彼はいます」
『ありがとう柳さん』
そして憲明からの通信は途絶えた。
「(……どうかお願いします、憲明君)」
その頃。
ーー 東京湾 ーー
「来ると思ってたんだよね~、美羽」
「……陸自の方々と応援に来てくれた軍の人達はここから離れて下さい」
「いやしかし!」
「離れて下さい。じゃなきゃ、大蛇の攻撃に巻き込まれますよ?」
「うっ」
自衛官は怯えた。
言われた者は馬鹿じゃない。
何故なら先日暴れた八岐大蛇がどれだけの脅威なのかを十分理解しているからだ。
そして、美羽も普通じゃない事を知っている。
「全隊直に後退、八岐大蛇が完全顕現する前に急げ」
それを受け、その場に来ていた部隊は勿論、羅獄に攻撃していた全艦隊が攻撃をやめると離れ始めた。
「あ~あ、せっかく羅獄が楽しめるおもちゃが集まってたのにさ~」
「うるさいんだけど」
「え~? 今なんて言ったの~?」
「うるさいって言ったのよ」
「カッチーン、何? 私に一度勝てたくらいでいきがってんの~? 殺すよ?」
「やってみれば? 負ける気なんてしないし」
その数秒後。
「大蛇!」
「羅獄!」
美羽の影から赤い目を煌々と光らせ、巨大な八岐大蛇が出現した。
10時42分
<ガアアアアアアア!!>
<くははっ! この我に勝てると思ったか羅獄! グルアアアアアア!!>
八岐大蛇、羅獄と開戦。
「美羽ううぅぅ!!」
「だからうっさいのよアンタ」
同時刻。
美羽、アズラエルと開戦。
10:52
<久しいな、玲司>
「久しぶり、ゴジュラス」
ーー 赤羽駅前 ーー
<まさかお前が来るとは思ってもみなかった。それに恵梨香、お前まで来るとはな。私はてっきり憲明が来ると思ってたのだがな>
「それは残念だったわね」
「憲明なら別の所に向かったよ」
<そうか……、となると、憲明が向かった先はバラン殿の所か。後悔はするなよ?>
「負けないんだから!」
「それ言われると怖いな~……」
10:53
玲司、恵梨香、ゴジュラスと開戦。




