第277話 後、1日の昼 3
「おいゼスト、昼飯食っていくだろ?」
「宜しいのですか?」
「あ? 良いから言ってんだろ、今日はお前が来るって聞いていたからそれなりに良いもんを用意してある、だから食っていけよ」
「はっ、ではありがたく」
それでカズは昼飯の準備をする為に席から離れて行った。
1度カズが来てくれたからかその後はなんだかんだで笑い話をしたりした。
だけどエルピスさんの顔がまだ固い。
それから昼飯の時間になると、カズが数人の組員の人達と一緒に料理を運んで来てくれた。
カズが得意としているローストビーフ、ロブスター、ピザやドリア、その他いろいろ。
カズが作ってくれた料理は心のそこから本当に旨い。
「……何時ぶりでしょう、兄者が作って下さった料理を口にするのは」
「口にあってりゃいいんだが」
「滅相も御座いません! どの料理も本当に美味しいです」
「そうか、そりゃよかった」
なんだ、コイツもめちゃくちゃ喜んだ顔出来るんだな。
見てて分かるくらいゼストの顔が喜んでる。
だけど、そんな空気をぶち壊す奴がいた。
「なんでそんな顔が出来るの? 意味解んないんだけど」
誰なのかって言ったらそれは志穂ちゃんだ。
「志穂、飯食ってる時に喧嘩売るな」
「なんでアンタはそんなに冷静なのよ……、そいつはアンタを殺そうとしてるのよ? なんで?」
「例えそうでもコイツは俺の弟だからだ。確かにこの間はパンドラと喧嘩したさ、だがそれでも俺にとって可愛い妹なんだよ、それはエルピスだって同じだ」
「でも私達にしたら敵よ! なんで、アンタは私達の気持ちを解ってくれないのよ……」
そうだよな、ゼスト達凶星十三星座は敵だよ、それは俺だって理解してる。
志穂ちゃんや皆の気持ちは解る。だけど、そうじゃねえんだよ志穂ちゃん……。
「それは私も同意見です。ですが志穂さん、私は兄の気持ちも解らなくないのです」
「どうして? どうしてエルピスもカズの味方になれるの? だったらそんなツラそうな顔しないでよ!」
「!」
「志穂、いい加減にしろよ? 嫌なら黙って出ていけば良いだけの話だろ」
すると志穂ちゃんは顔を真っ赤にして出ていく。
続けて岩美、佐渡って出ていき、佐渡を心配してヤッさんも離れた。
「カズ、そこまで言わなくてよくねえか? 皆お前を想ってるから言ってるんだろ?」
「……解ってるからこそ言わねえでどうすんだよ」
お前が何考えてるのかぐらい、よく解ってるさ。
カズは覚悟してる。だからこそ、自分が敵になった時に余計な悲しみを抱え込まないでほしいと思ってキツイ言い方をするんだと思う。
でもそれが逆にツラい。
「やはりコーヒーだけを頂いて帰っていればよかったですね」
「馬鹿が、んなくだらねえこと考えなくて良いんだよお前は」
「はぁ……」
ヤバイなぁ、空気が悪すぎる。
確かに明日になったら敵同士になるけど、それはそれでゼストが可哀想に思えてくるな……。
<まっ、友の気持ちは分からなくない>
「ホントさね。エルピス、アルガはアンタの事も想ってゼストも食事に誘ったんだよ? 袂が分かれたとは言え、アンタ達は姉弟なんだ。ゼスト、アンタも久し振りに会った姉になんか言ってやったらどうなんだい」
いやいや、直球過ぎやしねえか?
冥王のその言葉に、エルピスさんは勇気を出して「元気にしてた?」って聞くと、ゼストは「……それなりに」と返す。
固い……。
「でも、こうして貴方と食事を一緒にするのは何時ぶりかしら」
「そうだな……、最後に貴女と食事をしたのは何時だったか、忘れてしまったよ」
「そう……ですよね……」
なんでコイツはコイツでそんな言い方すんだよ。
「でも貴女が作ってくれたスープの味を、今でも覚えてます」
「……あっ」
「忘れたくても忘れられない味だった。調味料を入れすぎて味が濃いし、肉の油がありすぎてギトギトだった」
「そ、それは」
「でも美味しかった……、貴女が頑張って作ってくれたんだと、その指に出来た傷を見て私は美味しいと思った」
へぇ……。
「あの時はパンドラが文句を言ってたが、兄者がせっかく作ってくれたエルに失礼だろと怒っていたのも覚えてますよ」
「あ? 俺そんなの言ったか? 言ったのはお前だって記憶してるんだが?」
「あっいやあの兄者? わ、私は言ってませんよ?」
「嘘よ、確かに貴方が言った」
「いやそんな、2人とも記憶違いしてませんか?」
その時、ようやくエルピスさんが少しだけど笑った。
席は離れてるけど、この3人を見てると仲の良い兄妹に見えてくる。
俺達は俺達で複雑な気持ちをしてたけど、本当は仲直りしたいってのが伝わってきて、いつの間にかそんな会話を聞いて笑ったりしていた。
本来ならそんな状況じゃないってのはよく解ってるのに、不思議だよな……。
14:00
食事が終わった後はコーヒーを飲みつつ、昔何があったのかって思出話になった。
よく喧嘩してたとか、パンドラを入れた4人で釣りに行ったとか、そういった話だ。
そこに冥獣王と冥王もいたりして、フィスメラさんも一緒に皆で遊んだなとか、喧嘩したり怒られたりしたけど良い思い出だなって。
「覚えてるかグレン? コイツ、川に落ちてそのまま流されたの」
<くはは、あったなそんな事が>
「や、やめて下さい兄者、恥ずかしいじゃないですか」
「おまけにハディも落ちた」
「あれはゼストが落ちる時に私の足を掴んだからだろ」
「そう言う兄者は私達を助けずに笑っていたのでフィスメラ様に怒られていたではないですか」
「そうだっけか? くくっ、懐かしいなぁ……」
そんな思出話をしている中、公安の柳さんが顔を出しに来た。
「ちょうど良いところに居ました。ゼスト、貴方に聞きたい事があります」
自己紹介もしてねえのに、なんでこの人はコイツがゼストだって解った?
「"稲村"と言う男を御存知ですね?」
「知らんな」
「とぼけないで頂きたい。貴方はその"稲村"から情報を得ていましたよね? 物的証拠は無いにしても、その"稲村"から情報を聞き出し、貴方方はある情報を入手した」
"稲村"……、"稲村"って誰だ?
「そう言われても知らんものは知らんのだよ」
「なあ柳さん、その"稲村"って人、誰なんすか? 何かで逮捕したんすか? だからその話が?」
俺がそう質問すると、柳さんは憂鬱そうに、表情が曇った。
「……死にました」
「……は? 死んだ?」
「"稲村"は私の上司です。その"稲村"は自宅で自分の頭を銃で撃って自殺していました。……彼が死んだ部屋に残されていたものの中に、裏切って申し訳無い、ゼストに渡す他道が無かったと……、悲痛な内容が手紙に残されていました。……答えて下さいゼスト……」
「私は知らんと言ってるんだが?」
「"エリア51"」
その言葉が出た瞬間、ゼストの目が変わり、それを柳さんは見落とさなかった。
「やはり御存知なんですね?」
"エリア51"。
そこはかなり有名な場所だ。だけど、どうして柳さんがそれを言ったのか疑問を感じていると、続けて柳さんはどうしてそこの場所を言ったのか納得することが出来た。
「貴方方はアルガドゥクスの遺体を探していた」
もしかして……、見つけたのかよ?! でもあそこはUFOで有名な場所じゃん!
「貴方方は知っていた……、当然ですよね? 不死であり史上最強最悪と謳われる自分達の王であり神の体が朽ちる事などあり得ないと。そしてそれを貴方方は回収する為に情報を聞き出した……。答えて下さいゼスト、アレをどうするつもりなのか」
「ちょっ、待ってくれよ柳さん、なんでそれが"エリア51"にあるって知ってるんだよアンタは?」
「これは極一部の人間しか知らされていないトップシークレットだからですよ」
「だからってそれを言ったら!」
「手遅れなんですよ、もう……」




