第275話 後、1日の昼 1
取りあえずイリスの報告を聞いた俺達は、ゼオルクに行って出迎えようってなったけど、ゲートに通じる通路から異様な気配がして動けなくなった。
だけどそれが誰なのか直ぐに解った。
<ふんっ、久しいな友よ>
「まさかこうして再会するなんてね」
「んだよ、今から出迎えてやろうとしてたのに来ちまったのかよお前ら」
冥獣王グレイブに冥王ハデス!!
"時渡り"で昔の2人を見たことがあるけど、その時の記憶と比べても2人の姿は全然変わってなかった。
「んで? その後ろにいるのはエルピスとテオ、んでリリアか?」
「はいお兄様、我ら天界軍も馳せ参じました」
「和也! 水くさいじゃないか! なんで君は俺達を頼ってくれないんだ! 何も言ってくれないから勝手に来たぞ!」
「だからってなんで来るんだよお前ら」
そうか、テオ達には何も言ってなかったのか。
テオは全然頼ってくれないカズに対して怒ってるのか、ズカズカとカズの前まで行くと胸ぐらを掴んだ。
リリアはどこか申し訳なさそうな顔で黙っているし、きっと沙耶の件で落ち込んでるのかもしれないと俺は考えた。
だってリリアの国で、"サマエル"を封印してたのにその封印が解かれ、沙耶の手に渡ったんだからさ。
「和也! 聞いてるのか?!」
「聞いてる聞いてる、だからと言ってなんで来たんだよお前らは」
「君はいつもそうだ! 大事な事は何も言わず! 自分一人で解決しようとする! 少しは俺にも頼ってくれたって良いじゃないか!」
「あ? 言える訳ねえだろ馬鹿が、俺の為に死んでくれって言えば良いのか? あ?」
「そうじゃない! 今度の戦いは多くの命が散る事は覚悟している! でも! 君はなんで俺を頼ってくれないだ?! 友達の為なら命を賭けたって構わないだこっちは!」
「……うっせえなぁ」
「なに?!」
「うっせえって言ってんだよ、誰が俺の為に命を捨ててくれって言えるよ、俺はテメェに死んで欲しくねえから言えなかったのがなんで解らねえんだボケが」
だよな……、お前は昔からそうだ、でも今回は俺達を頼ってくれた事は嬉しいけど……。
「ズルいじゃないか」
「あ?」
「君はズルい……、君のその優しさはズル過ぎる! なんで憲明達には頼って俺には……っ! 俺が、弱いせいなのか……っ」
「……お前は強いよテオ、でもお前じゃ正直足手まといになる」
「足で……」
「解ってる筈だお前も。明日、どれだけ過酷な戦いになるかって事を。明日の戦いに参加したところで全部無意味だってことを」
「ふざけるな!」
テオはカズをおもいっきり殴り飛ばし、涙を流しながら更に怒る。
俺はテオの気持ちはよく解るし、カズがどうしてそう言うのかってのもよく解る。
でもこうして集まって来てくれた人達に、カズは素直に本当の事を言えずにいた。
言えばどれだけ絶望するのかを理解してるからこそ、カズは言いたくても言えないでいる。だからカズは遠回しに何しに来たんだとか、足手まといだとかって言って、テオ達が引き上げてくれることを望んでいた。
だけどそれは叶わない。
テオやリリアだけじゃなく、集まってくれた人達の中には薄々気づいている人達だっているからだ。
だけど、それだとしても、皆は奇跡を信じて戦うことを選んだ。
<友よ、お前が何故そう言うことしか言えないのか、私は理解している>
「そうだね、アンタは何時だって本当の事を言わないね。だけどねぇ、私らは凶星十三星座をなんとか止める事が出来ればアンタを守れるって思ってるんだよ。出来るだけ多くの死者を出さないようにしなきゃならい。だとしてでも、このまま黙ってる事も出来やしないんだよ」
「……ほんと、お前らは昔から馬鹿だな」
<それはお互い様だろ。お前は周りに気を遣いすぎて真実を口にしない。……とっくにバレているんだよお前の気持ちやその優しさが>
「……うっせえよ」
<ははっ、口調は昔と違うがやはりお前はお前だな>
久しぶりに会うからなのか、冥獣王と冥王の2人が嬉しそうな顔をしながら目を潤ませている。
この2人はきっと気づいてる。
気づいてるのに可能性があるかも知れないからこうして来てくれたんだ。
だけどテオはまだ納得していないから怒ったままだ。
「ちゃんと説明しろ! 俺はまだ納得出来ていないぞ!」
んなこと言われても、カズが本当の事を言える訳ねえんだよ……。
<落ち着け、……友が言うようにお前達人間はゼオルクで待機しているか引き上げるか、どちらかを選んだ方が良い>
「何故ですか冥獣王様?! 俺達は凶星十三星座から和也を助ける為に来たと言うのに! それは横暴ではありませんか?!」
<聞け、それだけ今回の戦いは激戦となると言う事なのだ。下手にお前達人間が介入してみろ、凶星十三星座達との戦いに巻き込まれて予想以上の被害が出る事になるぞ>
「それでも納得出来ません! 我々は死を覚悟してここに来たのです!」
頑固だなコイツ……。
そう言ってくれるのは嬉しいけど、逆にお前らが出て死んでみろよ、……その魂はカズが喰うことになるんだぞ。
<友を想って来てくれたこと、私からも感謝する。だがな、お前達人間は出るな>
「理不尽過ぎます! 我々は貴殿方に比べて弱いですがそれでもこのまま黙って見ていることなど出来ません!」
<……ゼオルクのゲートを閉じさせても良いのだぞ?>
「?! どうして……、どうしてそこまで我々を拒むのですか?!」
やっぱ冥獣王は気づいてるんだな。
まぁそりゃ死んでほしくねえからだよテオ。
俺達はなんとか頑張れば見逃してくれるだろうからまだ良いだろうさ。だから冥獣王は俺達に向けて何も言ってこないんだろ。
「和也! 君もちゃんと説明してくれ!」
無茶言うなって……、俺だって納得出来てねえのに、もしかしたらなんとか頑張ればカズを復活させないで済むかもって思うから俺は戦うんだ。
……真実をカズの口から言わせないでくれよテオ。
「和也!」
<そのへんに ーー>
「俺が真実を口にすりゃ良いって言うのか? それで納得して引き上げてくれるって言うのか?」
……。
もう駄目だ。
カズは真実を口にしようとしてると気づいたけど、俺はそれを止める勇気がどうしてか無かった。
<……友よ、それは余りにも酷な話だぞ>
「だが理解してもらうなら言っちまったほうが良いだろ。この事は1人だけ、憲明だけがその真実に勘づいて知っちまったしよ」
<……まぁ後でそれを知るよりはまだ楽かも知れないな>
美羽達は、何? 何の話? って不安そうな顔をしながらカズと俺の顔を交互に見る。
「……言うのか? 俺はまだその事を許しちゃいねえぞ?」
「……お兄様、本当の事を話すのがお辛いのでしたら、私が代わりにお話致しますが?」
「……頼む」
どこか力無く、カズはエルピスさんに頼むと言うと椅子から離れ、カウンターに行ってコーラを飲み始めた。
それを黙って見ていたエルピスさんは一呼吸おいた後に、本当の、知られたくなかった残酷な真実をゆっくりと話始めた。
聞いた皆は目を大きく開いて絶句し、ボーぜんとカズを見たさ。
見られてるカズは黙ってコーラを飲みながら煙草を吸っている……。
動揺と混乱……、カズを守ることに意味が無い事を知り、皆、叫んだり怒鳴ったりし始めた。
「お前なんでそんな大事な事を隠してた!!」
「そうですよ! だったら何のために私達はここまで頑張ったと思ってるんですか!」
「全部無意味じゃねぇか……、そりゃねえぞカズ……っ!」
そう言われるけど、カズにはカズなりの優しさがあるからそうしたんだ。
「無意味だと? 俺が何時、お前らに守ってくれって頼んだ? 俺はお前らが少しでも生き延びる為にと思って動いてたんだぞ? お前らが凶星十三星座と戦うと決めたから俺は協力したんだぞ? それが、無意味? だったら本当の事を知って嫌になった奴は今すぐここから出ていけ」
「カズ、そんな言い方ねえだろ? 俺はどれだけ確率が低くてもそれがゼロじゃねえと思うから戦うけどよ」
そう、確率がゼロじゃない限り俺は戦う。
カズを黙って渡すなんて俺には出来ねえ。
そしてもう1人の……、もう1人のクソ親父をぶちのめす!




