表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第10章 始まる滅びの時
276/341

第274話 後、1日の朝


 8月19日


 4:00


「なんだ、おきてたのか?」


「いや、寝たけど目が覚めた」


 緊張してるからか、一度寝たけど目が覚めた俺は自分の部屋からカズの部屋に移動して、大水槽を眺めながらお茶を飲んでいると、強化を完了したカズが部屋に戻って来た。


「後1日、今日しかもう時間がねえんだぜ? やっぱ緊張してるからなのか全然寝れねえって感じでさ」


「けど寝るのも大切だぞ?」


 そう言ってカズは軽く鼻で笑うと、カウンターからコーラを持ってきて俺の隣に座る。


「強化は終わったのか?」


「勿論。岩美は疲れたのか工房で寝ちまってるよ」


「ははっ、なんだか最近、岩美は工房で寝るのが増えたな」


「良いんだか悪いんだか、おかげでアイツの腕は上達してるよ」


 するとテーブルの上にカズは強化した美羽の双剣をそっと置く。

 その双剣には赤い彼岸花が彫られていたけど、それが青くなり、前よりも綺麗に感じた。


「"青い彼岸花(リコリス・ラジアータ)"、それがこの双剣に与えた名だ」


「ちなみにそれってさ、前から思ってたけど英語?」


「ラテン語だバーカ」


 馬鹿は余計だろって言って、俺達は自然と笑い話を始めていた。

 (しばら)くした後、俺が何気なく強化された美羽の双剣を持つと、ある違和感を感じた。


 ……動いてる? いや……これは……、()()


「カズ……、なんか鼓動を感じるぞ?」


「……なんでお前は変なとこで感が良いんだ?」


 まさか?!


「それにはブレード・タイガーの()()()使()()()()。倒されてから時間がかなり経ってるって言うのに、その魂が心臓に残っていやがった。……スゲーよな、きっとそいつは美羽に使われると信じてずっと待ってたんだろ」


「そっか……、かなり美羽を気に入ってたんだな」


「最後に美羽が好敵手となって自分を倒した相手になった。それがよっぽど嬉しかったんだろ。でもどうして美羽が倒せたか解るか?」


「いや……」


「調べたらそいつはどうやら縄張りを追い出されたあげく、病気で死にかけていたんだ」


 病気で死にかけてた?


「そいつは求めていたのさ、死ぬなら自分が認めた相手に殺される事を」


「そんなのってあるか?」


「ゼロじゃねえよ。ブレード・タイガーってのはプライドが高く、一度敗北しても何度でも自分を()かした相手に挑み続ける。それは自分が諦めるか、死ぬまで続く。だがそいつは自分の寿命が近いことを感じとり、縄張りを相手に与えて放浪に出た。そこで出会ったのが美羽達で、最後のトドメを刺したのが美羽だった。そして美羽を気に入ったんだろ」


「なんで気に入ったんだろうなぁ……」


「さあな、んなもん誰にも解らねえよ」


 でも嬉しかったのかも知れない。

 トドメを刺した美羽が、きっとブレード・タイガーに優しい言葉か、コイツならって思えるところがあったからなのかも知れない。

 その事にカズは気づいて、きっと"死霊術"か何かでその魂を目覚めさせた。


「それ以上の強化は無理だ。後は美羽が使いこなし、美羽の意思を感じ取って成長する」


「そっか……」


「お前の"ヴァーミリオン"だって同じだ。そいつに使われたファフニールの目、そいつはな、ゼストが可愛がってる竜からわざわざ抜き取ったんだろ」


「は? 殺さずにか?」


「そうなるな、アイツはその目を抜いた後、きちんと治療して目を再生させたに違いない。なんせ持った時にまだ新鮮だなって感じたからな」


 そうだったのか……。


 でもお陰で強化する事が出来たし、後は俺次第で"ヴァーミリオン"がどんな風に成長するのかが楽しみに感じた。


「でも後1日か……、カズ、絶対に外には出るなよ? 何があっても出るなよ?」


「出ねえよ。出たところで()()()()()()()()()()()()()


 俺はその言葉に違和感を感じた、

 出てもどうしようも出来ないって、それはなんでなんだって。


「憲明、お前だけじゃなく美羽達全員は何があっても死ぬなよ? じゃなきゃ、()()()()()()()()


 それで俺の中で全部理解した……。

 理解したからこそ涙が溢れだし、無性にイラついて椅子から立つとカズの胸ぐらを(つか)んだ。


「おいカズ……テメェ……」


「ほんと、お前は嫌なところで感が鋭いな」


「なんで黙ってた!」


「あ? 言える訳ねえだろ? それともなにか? 全部言えばテメェらは納得してくれたのか?」


 出来るわけねえだろ!


「ゼスト達の考えそうな事だ。恐らくその計画を立てたのはルシスあたりだろ。だからいざって時は全力で逃げろ」


「お前……っ!」


「頼むよ憲明……、お前らを食いたくねえんだよ俺は……」


 その言葉はズルすぎるっ!!


 俺は何も言えなくなって、悲しかったからなのか俺はカズを抱き締めた。


「おいおい憲明」


「何があってもテメェは俺達の友達(ダチ)だ! それだけは絶対に譲らねえぞ!」


「……分かってるさ」


「俺達は絶対に諦めねえからな! 必ずお前を止めてやる!」


「……あぁ、その時を待ってるよ」


 カズがなんで今まで変なことを言ってきたのか、全て理解した俺はマジでこれでもかってくらい泣いた。

 正直恥ずかしいけど、俺はカズを失いたくなかったからだし、絶対に守るって約束したのに守れないと気づいたからさ。

 そりゃ悔しくて泣くよな?


「俺が今まで教えたこと、絶対に忘れるなよ?」


「当たり前……じゃねえかっ!」


「……もう少し寝ろ、体に響くぞ? 俺も少し寝る」


「……わかった」


 カズを離し、俺はカズに言われた通り部屋に戻ってもう少し寝ることにした。

 だけど、カズの事を考えると涙が止まらなくてなかなか寝れない。


 なんで……、なんで俺は今まで気づけなかったんだ! アイツはずっと前からヒントを出してくれていたのになんで!


 ヒントは至る所にあったんだ。

 特に八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の件で。

 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は殺した相手の魂を食うことが出来る。そして、それを力に変える事も。

 つまりカズだってそれが出来るって言ってるようなもんじゃねえか。

 ゼスト達は多くの魂を集め、それをカズに与える。

 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)はそれを(にな)う言わば存在。

 "堕天竜(だてんりゅう)"だってそうだ、あの刀みたいな剣は斬り殺した相手の魂を食らって成長する。

 つまりその魂もカズに流れるって事だ。

 "堕天竜(だてんりゅう)"はそれで成長して、カズはより強大な力を取り戻す。

 そんなヒントがこれまであったのに全然気づけなかった俺は俺自身にムカついた。


 止めるなんて……、初めから無理な話だったんだクソッたれ!


 そう考えてると、次第に俺の意識が遠くなっていて、気づけば朝の9時まで寝ていた。


 泣き疲れて寝ちまったのか俺……。


 顔を洗い、一度シャワーを浴びてから大水槽前に行くと、もう皆が集まっていた。


 9:45


「よく寝れたか?」


「……おぉ」


 カズの質問に俺は答えたけど、正直寝る前の事を思い出してまた泣きそうになる。

 だけどそれを顔に出すわけにはいかない。

 出せばきっと皆を不安がらせるから。


「もうじきイリスが戻ってくるだとよ」


「そうか……」


 イリスは知ってたんだろうな、だから俺にこっちに来いって言ってたんだ。

 どうしよう出来ない絶望が目を覚ますから。


 朝食を食べ、運命の日が来るまで残り1日だからそれまでどうするか話し合っていると、そこにイリスが戻って来た。


 11:00


「ただいま戻りました兄様(にいさま)


「お疲れさん。んで? どうだった?」


「はい、天界軍120万、冥獣軍100万、冥界軍150万、総勢370万の軍勢がゼオルクに到着致しました」


 凄いな。


「続いて兄様(にいさま)、ラーティム国とレオンネル国より総勢13万、テオ王子とリリア王女が中心となり只今到着したところです」


 テオとリリアも来てくれたのか……。

 それにしてもこういう場面のイリスは口調を変えるんだな。


 でもその顔はどこか暗くもある。


「更に続けて御報告致します。北と西より"フェルリア国"、"アルメア皇国"、"ルスタシア国"の連合軍、52万。東より"ルサイン国"、"ナゴラル国"から総勢25万。南より小国"アイゲル国"より総勢1万5千。合わせて78万5千もの味方が到着です」


「そうか……」


 人数は多いにこしたことは無いって言うけど、逆にそれが多すぎると俺は感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ