第272話 集まりし友
運命が大きく動き出す。
それはこの少年少女も過言ではない。
「皆よく集まってくれた! 我々は友を助けるべく! 異世界に出陣する事を決めた! 相手はあの凶星十三星座! 世界の敵とされ恐れられる存在だ! ……恐らく、いや絶対、多くの命が散ることになる……。だがだからと言って友を見捨てる事など出来ない! それは皆も一緒な筈だ! 友が"終焉を告げる者"として復活すれば! 向こうの世界だけでなく全ての世界が滅ぶ! それはなんとしてでも止めなくてはならない! 皆は見たいか?! 家族友人知人全てが死んでいく様を! 俺は見たくない!!」
王城からそう演説するテオの言葉に、多くの兵士達が覚悟を決めた目で見つめる。
場所は"ラーティム王国"の王城。
演説を続けるテオの横には、"レオンネル王国"のリリアもいた。
「話では天界軍も動くと言うじゃないか! それに合わせ! 冥獣王と冥王が手を取り合い! 現在ゼオルクの街に向かっていると聞く! では我々は動かなくて良いのか?! 否だ!! 我々も動かなくてどうする!! 彼らもまた決死の覚悟でこの戦いに挑もうとしている!! 我々もまたそんな彼らと団結し! 凶星十三星座達を止めないでどうするか!! 相手は強大! 最強最悪の冥竜軍! だからと言ってただ滅びを待つだけだなんてまっぴら御免だ!! そうだろ皆!!」
「「おうっ!!」」
「彼らと共に戦うぞ!」
「「おうっ!!」」
「剣を取り! 盾を構えよ! 愛する家族や友人達の為にも! これより我らは出撃する!!」
「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
ラーティム王国より7万。
レオンネル王国より6万。
総勢13万もの軍勢がゼオルクの街へと向かう。
例え冥竜軍よりも数を集め、合流したとしても勝てる見込みはほぼ0に等しい。
冥竜軍はそれだけの戦力を有している。
特に特記戦力として警戒しなければならないのは、数千を越えるドラゴン達だろう。
AランクやSランクだけでなく、中にはSSランク等のドラゴン達もいる。その強さは他を圧倒し、人間など石ころでしかない。
だが、そんなドラゴン達とようやくではあるが立ち向かえる種族が存在する。
「君はどうするんだい?」
「どうするもこうするも、私達も行かなければならないでしょ」
ーー 妖精国 ーー
それは妖精族。彼らはドラゴン族と長い間争っていた歴史がある。
そんな妖精族の国にある王城、未だ空席となっている玉座の前で、2人の妖精が話し合っていた。
「確かに僕達妖精族は竜族と長い間争っていたさ。でも、その歴史を終わらせたのは他でも無い、冥竜王様と冥精王様じゃないか」
「でもあの方は冥精王様を喪い、神々に対して報復したわ」
「その時は僕達も共に戦ったさ。でもあの方は我を忘れ、全てを破壊すると決めた時、僕達は皆と一緒にそれを止めるために戦った。だったら今だってそうじゃないのかい?」
「そうだけど、私はどうしてもあの方に再び剣を向けたくない」
「それは僕だって一緒だよ。でもまだあの方は復活していない。だったらそれを阻止しないでどうするのさ」
2人にはそれぞれの考えがある。
かつては冥竜王と共に行動していたが、その冥竜王が暴走した為、それを止める為に今度は冥竜王に剣を向けた。
結果、凶星十三星座や竜族達から妖精族は裏切ったと見なされる事になる。
故に再び和解する事は難しい。
「あの方を想うならこれが最後のチャンスになるよ? それでも君は動かないと言うのかい? "ティターニア"」
「あの方を想うからこそ動けないんじゃない……。それは貴方だって分かってる事じゃない"オベロン"」
"オベロン"と"ティターニア"。
それは妖精の王と女王とされる存在。
だがそんな2人よりも格上だったのが"冥精王"だったが今は存在しない……。
2人は冥竜王・アルガドゥクスと冥精王・フィスメラをとても慕っていた。
慕っていたからこそ2人はどうするべきなのかを話し合った。
その頃天界では。
ーー 天界 ーー
「御報告致します。冥獣王様、並びに冥王様方が御到着致しました」
「ご苦労様です。では、御二人を此方へ」
「はっ!」
天使からの報告を聞いたエルピスは2人を招き入れ、冥王と冥獣王が円卓の席へと通される。
「お久しぶりです、"冥獣王・グレイブ"様、"冥王・ハデス"様、よく来てくださいました」
<久しいな、エルピス。息災でなにより>
"冥獣王・グレイブ"。
2本の長い牙を持ち、頭には2本の赤い角、背中に翼を持つ黒い獅子。
一見その見た目は悪魔パズスに似ているが違う。
彼はあらゆる獣の王であり、その見た目とは違い正義感溢れる王だ。
「こうして会うのは何時ぶりになるんだかね」
"冥王・ハデス"。
言わずと知れた冥界の王。
ギリシャ神話等では男と表記されているが実は女性であり、妻の"ペルセポネ"を溺愛している。
「御二人ともおかわりないようでなによりです。では早速ですが本題に入らせて頂きます」
挨拶とはうってかわり、険しい表情を見せるエルピスに2人も真剣な表情に切り替わる。
「私共天界軍は総勢120万で出撃致します」
<我ら冥獣軍は100万だ>
「冥界軍で150万」
「……正直足りません」
<……向こうには凶星十三星座がいるからな>
「あと100万集まったところで恐らく半数以下が生き残れるかどうかと言ったところか……」
「ですが朗報があります。凶星十三星座のNo.Ⅵ・ダークスター、No.Ⅶ-Ⅴ・ベヘモス、そしていずれナンバーズに入る予定だったイリスがこちら側についてくれました」
その話を聞いた2人は目を大きく見開いて驚いた。
<馬鹿な……、あのダークスターとベヘモスが仲間になっただと?!>
「嘘じゃないんだね?」
「事実です。現に今、ナンバーズに入る予定でしたイリスが来てくれています」
そう告げると部屋にイリスが通され、イリスも椅子に座った。
「……ご紹介頂いたイリスだ、宜しく」
<……(なるほどな)>
「(この魔力の色と匂いはまさか……)」
「彼女は兄、アルガドゥクスの血と魔力によって進化した妹になります。つまり私の妹にもなります」
<(やはりそうか)>
「(復活する前から相変わらずとんでもない事するねぇまったく……)」
「イリスは一度兄の手によって死にました。しかし、その場に私の羽を使って強化された剣があった為、なんとか蘇生させる事に成功しましたが、傷が深く、直接私が治療しなければならない状況だった為、彼女が元々持っていた力は半分以上失うことになりました」
「でも感謝してるぜ? おかげで俺はまた憲明と一緒にいられるんだ、そこまでワガママは言えねえよ」
それでもイリスから漂う魔力を感じ取っている2人は、イリスがどれだけ強いのかを見抜いていた。
<(これで……、いや、蘇生してからだいぶ時間が経っている事を考えると……)>
「(今の私達と同等……、んじゃ一度死ぬ前の事を考えると……)」
それだけで充分恐ろしいだろう。
「少しは力を取り戻したとは思うけど、まだまだだな。ちなみに、もう1人の姉貴になるミルクはもっと強いぜ? ミル姉はゼストやパンドラに近かったと思う」
「ですが貴女はそのミルクに対抗出来る存在です、本当なら現段階で後2割は力を取り戻していてほしかったと言うのが本音ですよ」
「ムチャ言うなよエル姉~、俺だってやることはやってるんだぜ? でも力を完全に取り戻したところで兄様には全然手も足も出ねえし、簡単にボコられる始末だ。それでも兄様は完全に復活した訳じゃねえんだけどな」
<……昔を思い出すな>
「あぁ……、我々2人係りでもまったく歯が立たなかったな」
<奴は常に進化し続ける化け物だ。ましてや死ぬことで更に力が増すと聞いた時は何かの間違いではと思ったぞ>
だが残念な事にそれは間違いでは無い。
冥竜王は"絶"を冠するのと同時に"進化"を司りし神。
そして"変換"の力を持ち、神・ゼウスを食い殺した事で"創造"の力を手にした、まさに怪物と言うより化け物と言っても過言では無い存在。
そんな者が完全に復活すれば、確実に世界が滅ぶ事になるだろう。




