第270話 プロローグ
「約束の日は近い」
その日ゼストは古城の上からそう伝えた。
ーー 竜国 ーー
「同志達よ、今再び我らのもとへ集え、我らが王の迎えに、共に行こうではないか」
大気が揺れ大地が大きく揺れ動く。
「王と共に目指した世界を今度こそ取り戻す時が来た。再び過ちを繰り返す人間達を滅ぼし、我らの手に取り戻し、世界をあるべき姿に戻す時が」
空は暗雲に覆われ、雷鳴轟く中から数えきれない程の咆哮が入り交じる。
大地の揺れもどんどん強くなり、咆哮を上げながら様々なドラゴン達が集まって来る。
「さあここに集え同志諸君! 共に約束を果たそう!」
<ギエエェエェェエエエエ!!>
<キシャアアアアアアアア!!>
<ヴモアアアアア!!>
<バアルアアアアアア!!>
暗雲を突き破り、空からも様々なドラゴン達が降りてくる。
空と大地を埋め尽くす程であり、合わせればその数は数千は越えるだろう、どれも凶悪とされるドラゴン達であり、そのランクもAやS以上。
人間を憎み、見かければ容赦なく殺すようなドラゴン達だ。
そんなドラゴン達がゼストの呼び掛けで直ぐに集まれたのは、彼らもその時が近いことを知っていたから近くで待機していたのかもしれない。
「皆よくぞ集まってくれた。我ら竜族の王にして神、我が兄アルガドゥクスを共に迎えに行けることを嬉しく思う。そして竜族だけでなく、あらゆる種族も集まってくれたことを心から感謝する。……ありがとう」
心から感謝しているゼストは頭を下げ、感謝の言葉を告げると後ろからルシファーが前に出て来る。
彼女は目の前の光景に感動して目を潤ませているがそれを堪え、周りを改めて見回す。
「……我らは長い間虐げられてきた。中には人間との共存を選んだ者達もいる、そして受け入れられた者達もいよう。しかしだ、……我ら神に棄てられし"堕天使"はそうじゃない! 我らを最後まで受け入れ! 共に生きようと手を差しのべてくれたのは誰であろう我らが王! 冥竜王アルガドゥクス様のみである!! それは皆も知っているだろう! さあ立ち上がれ同志諸君! 剣を取れ! その命を共に陛下に捧げよう!」
「「おおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」
魔族、堕天使、総勢20万もの軍勢が一斉に立ち上がり、剣を取って雄叫びを上げる。
「おいで、"羅獄"」
アズラエルとして記憶を取り戻した沙耶は不適な笑みを浮かべて"羅獄"を呼び、古城の後ろからその巨大な姿をゆっくりと現す。
それはまるで牛の様な頭をしたドラゴン。その頭の周辺や両肩から、まるで蛇の様な無数の頭が生えている。
"羅獄竜・テュポーン"。
力の権化とも言える存在であり、ギリシャ神話ではゼウスを倒した事があるとされ、台風の語源ともなった最強のドラゴン。
だが真実は違う、真の真実はアズラエルが率い、"羅獄"と共にその強大な力を奮い、ありとあらゆる者達を凪払っていた。それ故にアルガドゥクスの存在を闇に葬りたかった者達が真実をねじ曲げたのだ。
「一緒に暴れるよ? "羅獄"」
<ハアァァ、姉さんの為ならこの力、存分に奮いましょう>
「あっはは、期待してるからね~?」
「……壮観だ。こうして皆が集まってくれたこと、本当に感謝する。竜族、魔族、堕天使族、爬虫類族、獣族、死霊族、……他にも様々な種族が兄者の為に集まってくれて本当に嬉しい。今一度感謝の言葉を言わせてほしい。ありがとう、本当にありがとう。皆もこうして集まり、胸が熱くなっている事かと思う。向こうの人間達で言う8月20日、その日、共に兄者を迎えに行こうぞ!」
「「うおおおおおおおおおおおお!!」」
<<ギエエェエェェエエエエ!!>>
<キシャアアアアアアアア!!
全ての種族を合わせればその数は百万以上になるだろう。
一方、違う所では。
ーー 場所不明 ーー
"ノーフェイス"と呼ばれる者を中心に、"邪竜教"も動き出していた。
「竜国で動きがあったようだな」
「そうみたいね、でもボス? 本当にやるの?」
「当たり前だ、私はなんの為にこの組織を作ったと思っている。私は神を復活させる為に組織したのだぞ?」
「んっふふ、了解したわボス。でも皮肉よね~、彼らとは違う道だけど、理由としては一緒だなんて」
「彼らと目的は一緒だとは言え、我らは彼らと交わることが出来ないからな」
彼らは彼らの目的があるからこそ、凶星十三星座と手を組めない。
「彼らは神を復活させ、世界をあるべき姿に取り戻そうとしている。しかし我らはこことは違う世界を望んでいる。だからこそ共に歩めない。」
「分かってるわよボス。私達は純粋にこの世界の滅びを願い、純粋な無を望む者達の集まり。でも、下の者達はそうは思っていないのよね」
「彼らには礎になって貰わないとな」
そう話し、ノーフェイスと道化の仮面を付けた者は仮面を外し、ワインを口に運んだ。
また違うところでは。
「陛下! 凶星十三星座が多くの竜達を集めたようです!」
<……動き出したか>
そこに"冥獣王"と呼ばれる黒い獣が玉座に鎮座していた。
ーー 獣国 獣王の間 ーー
「以下がなさいますか?!」
<……>
臣下にそう問われるが獣の王は目を瞑り、黙ったままなにも答えない。
それを見た周りの臣下達も黙り、王が口を開くのを静かに待つと。
<我々が下手に動けば逆に刺激しかねん>
「恐れながら陛下、発言の許可を頂きたく」
<許可する>
発言を求めたのは年老いた獣人だ。
「凶星十三星座が本気で動き出す以上、確かに我らが出たところで意味が御座いません」
<うむ、その通りだからこそ下手に動かせんのだ>
「それは冥王様も同じであり、あのエルピス様もそうなんでしょう。しかしエルピス様は確実に動くかと思います」
<そうだな……、彼女は兄であるアルガを止めたいと強く思っているからな……>
「はい……、不憫な方です……。御自身の兄ぎみであらせられる冥竜王様を、御自身の手で止めたくてもそう簡単に止められない。だからこそ進言致します。陛下、冥王様と共に立ち上がり、エルピス様と御協力してはどうでしょう。話しによれば現在の冥竜王様は争いをしたくないと言うではないですか。で、あるならば、本当に止められるのはこれが最後になるやも知れませんぞ陛下」
<……>
冥獣王はその進言に悩んだ。
下手に動けば大惨事に繋がる。かと言って動かなければ冥竜王を復活させかねない。
どちらが最良になるかなど、冥獣王は勿論、誰にも解りはしないのだが。
<……良いだろう、このまま黙っていたとしても、いずれ衝突は免れないのであれば今が動く時か>
「はっ、では早々に兵を集めまする」
<頼んだ。よいか皆の者! 時は待ってはくれぬ以上! 我らもエルピスと共に凶星十三星座! 並びに冥竜軍を全力で止める! 死力を付くし! 絶対に阻止するぞ!>
「「はっ!」」
<この事をエルピスとハデスに急ぎ伝えよ、ハデスが動かなくとも、我らはエルピスと共に戦うとな>
「畏まりました」
冥獣王の命を受け、天界と冥界へ使者が出される。
相手は世界の敵と呼ばれ、絶対的な力を持った者達であり、たった1人で世界を滅亡させることも出来る最強最悪の魔王達。
それを率いる冥竜王・アルガドゥクスの復活はなんとしてでも阻止しなければならない。
そんな相手をしなければならない冥獣王はこの時、己の死を覚悟していた。
<……友よ、今のお前が復活を望んでいないのであれば私がなんとしてでも止めてみせよう。……あぁ、叶うならばお前とまた酒を酌み交わしたいものだ……>
それは冥獣王の心から漏れ出た願い。
その願いが叶うかなど、誰にも解りはしない。
さて皆さん、新章突入です!
ついに激突する時が来てしまいました!
ありえない力持つ最強最悪の軍隊が遂に動きだし、それを止めるために冥獣王が立ち上がる!
僕といたしましては、「あぁ、遂にここまで来ちまったよ」って感じです!
ってな事でこの辺にして、皆さん、この続きもお楽しみ下さい!




