第264話 母の背中
<バトルフィールド、展開>
ー "多重結界" ー
家や電柱、いろんな物を破壊して大小様々な結晶が出てくる。
コイツの厄介なところはその"重力支配"でここら一帯の空間を支配しちまうとこだ。
上手く逃げれても"引力"で強引に引き寄せられちまう。
もしくはカズ最強の必殺技の一つ、"暴虐の星"をされたらひとたまりも無い。
<"引力">
来やがった!
「うおっ!」
強引に引き寄せられた俺はゴジュラスのバトルフィールド内まで入れられると、その豪腕が俺の頭を鷲掴みにして地面に叩きつける。
「がっ!」
<ウオオオオおおおおぉぉぉぉ!>
そして激しい殴打の嵐。
両手でガードしようにもゴジュラスの強力な力に抗えず、両手が折れそうになっていた。
ヤバい! 腕が!
<今楽に殺してやる!>
「んッ、ぐっ! 死んで……、たまるかよ!!」
<"重力破壊">
右手に超重力の力を溜め、それを俺に振り下ろそうとした。
「させません!」
<む?!>
何か危険を察知したのか、ゴジュラスが慌てて俺から大きく離れると、そこに、母さんが白く大きな槍を持って立っている。
「母さん?!」
「早くここから離れなさい」
「いやでも母さん?!」
「早く!」
「くっ……そっ……!」
ゴジュラスのバトルフィールドの外にはノワールが申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。
俺はそれで気づいた。
ノワールは必死に母さんを止めようとしたけど止められなかったんだって。
別にノワールは悪くない。
だって……、ノワールは泣きそうな顔で母さんを見つめていたんだから。
「初めまして。私は憲明の母、早瀬美姫」
<……私はゴジュラス>
「……」
<……>
「不思議ね……、でも母として子を守りたいの」
<……その気持ち、よく解る>
「いざ……、尋常に!」
<尋常に勝負!>
母さんはゴジュラスの"重力結界"を受けていないような動きをして、大きな槍で猛攻撃を始める。
<(……強い!)>
「(硬い!)」
<うおおおお! "追尾する災害">
「砕け散れ!」
ゴジュラスが巨大な結晶を宙に浮かせ、母さん目掛けて放つ。けど母さんはそれを全て槍で破壊し、ゴジュラスの懐に入るとまた攻撃を始める。
つ、強い……。
<ならば!>
豪腕で母さんを捕まえようと伸ばす。
「あまい!」
けど母さんはその腕を逆に掴み、ゴジュラスを宙に浮かすと地面に叩きつけて地響きが鳴り響く。
<ガハッ!>
「力だけが全部じゃないわよ!」
嘘だろ? あのゴジュラスが母さんに?
<(馬鹿な?! 私の"重力結界"をものともしないだと?!) ならば"引力"で!>
「それはもう見た!」
<グアアァァァ!>
槍でゴジュラスの右手が斬り飛ばされる。
俺は、なんの冗談を見せられてるんだって思いながらその光景をノワールと一緒に見ていた。
<グオォッ……クッ!>
「凄いわねアナタ。腕を斬られたら激昂して暴れると思っていたのに、その痛みに耐えられるのね」
<これでも……、私はいずれ凶星十三星座の末席に加わる身……。この痛みで弱音など吐けぬ!>
「ほんと、アナタを見てると昔の彼を思い出すわ」
<誰か知らぬが光栄よ……、きっとその者もさぞ強かったのだろうな……>
「えぇ、強かったわ……。だって私を倒したことがあるんですもの」
<貴女程の者をだと?!>
誰だ? 誰が母さんを倒したことがあるんだ?
「彼は強かった……。でも彼は守るべき人の為に性格を歪めてしまい、負けた」
<ふっ、ふはは、面白い話だ……。その強者はどこの誰に負けたと言うのか気になるな……>
「ウチの子よ?」
<……なんだと?>
え? 誰だそれ? 俺……、知らないんですけど?
「彼はアナタみたいな純粋は性格だった。だけど、復讐によって変わった」
<誰だ……、いったいそれは誰だ?!>
「……そう、来てくれたのね?」
その時、何かが翼をはためかせてこっちに来る音が聞こえた。
「……おいちょっとまて、この気配ってまさか……」
俺は知ってる。
その気配をよく知っている。
そいつが地響きを立て、俺の前に降りてきてくれた瞬間嬉しかった。
「来てくれたのか……? ダージュ」
<はぁ、妙な気配がして来てみれば、やはりか>
凶星十三星座のNo.Ⅵ、ダークスター。
まさか来てくれるとは思っていなかったから本当に嬉しかった。
<迷惑だったか?>
「お前がどっちに付くかによるな」
<馬鹿め、そんなの決まってるじゃないか>
「……頼む」
<ふん、では私はイリスの援護に向かうとしよう。アイツは一度死んでから力が弱くなっているからな>
「助かる」
<……ふん>
ダージュがイリスの援護に動く時、母さんと目が合った。
その母さんの顔がどこか、さっぱりしたって顔で微笑んでいる。
ダージュはどこかテレた顔を隠すようにして顔を背け、イリスの所へ飛んで行った。
<……まさか?!>
「そう、その通り」
<そうか……、なるほどそう言う訳か……。ははっ、では私も負けてはおれんな!>
「今のアナタじゃ無理よ? だって、アナタはまだナンバーズじゃないんだから」
<越えて見せる!>
「その粋は買ってあげるわ。……では本気を見せてあげる。本当の私を!」
俺はつくづく面白い家庭に産まれたなって思うし、面白い人生を歩んでるなって思ったよ。
本気になった母さんの背中から白く綺麗な羽が現れると、その姿が何故かあの、ウリエルに見えた。
母さん……。
「さあ来なさい。アナタは彼がそうなった道を歩まないように、私が全力で叩きのめします」
<礼を……、貴女のような方とこうして合間見える事に、私は全身全霊で礼を言わせて頂く>
2人が暫く黙ったまま睨み合っていると、遠くでダージュが雄叫びを上げる咆哮が聞こえてきた。
それを合図に2人が再びぶつかり合う。
母さんは、もしかしてウリエルの生まれ変わりなのか?
そう思えるような美しい動き。
一方はカズが力を与えたことで進化し、今じゃ最強角のモンスターになったゴジュラス。
でも気のせいか? 母さんの顔がなんか、苦しそうになってきてる……。
「はあ!」
<(……おかしい、時間が経過すると共に弱まっている)>
「くっ! (いけない、時間が無い!)」
「母さんもう良いよ!」
なにかおかしい、そう思った時にはもう遅かった。
母さんの力が徐々に弱くなっていっているのが見てる俺ですら解った。
だから、それをあのゴジュラスが気づかない訳が無かった。
<なるほど! 貴女の弱点は時間か!>
「だからなんだって言うのかしら?!」
「母さん頼む! 下がってくれよ!」
「はいそうですかって納得出来る訳が無いでしょ!」
「母さん!」
「ノワールちゃん! その子を連れて逃げて!」
<カロッ?!>
「アナタなら、出来るわよね?」
<カッ……>
「ノワール!」
だけどノワールはその場から動かない。
動かないと言うより動けないんだ。
ノワールはどういうわけか母さんに懐いている。それも今まで見たことが無いくらいに。
そんな母さんが俺を助ける為にゴジュラスと戦ってる。
だけど止めらていられる時間が無い。
ノワールとしては母さんをこのまはまにして俺を連れて逃げて良いのか判断が出来ていない。
「お願いだからノワール!」
<カッ、カロッ……>
<……なるほど、息子がいては集中出来ないと。では、申し訳無いが貴女よりも先に憲明には死んで頂く!>
「まって!」
だけど母さんが反応するよりもゴジュラスの動きが速かった。
<悪く思わないでくれ>
ちく……しょう!
左の豪腕に力を溜め、ゴジュラスが俺を殺す為に振り下ろす。
だけど、俺は生きていた。
<……やはり息子は死なせられませんか>
「あたり……前でしょ……」
「母……さん……、……母さん! 母さん腕が!」
ゴジュラス同様、母さんの右手が吹き飛んで無くなっている。
「母さん!」
「早く……、行きなさい」
「でも母さんの手が!」
「良いから、行って、お願いだから……」




