第261話 母と息子
もう対策がどうのこうのと言ってる状況じゃない。
各国首脳が八岐大蛇はもう脅威じゃなく、凶星十三星座を迎え撃つ為に味方になってくれたって事を大々的に公表する余裕さえ無くなってから数日後。
クソッ、どうして俺は土壇場になるとカズの顔を思い浮かべちまうんだ!
<キシャアアアアア!>
「黙ッて沈んでろ!」
<キシッ!>
そんな俺は甘えていた俺自身が許せなくて、クロ達と一緒に"ベムルフローガー"を単独討伐をしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
強くなったと思っていたけど……、ベムルフローガーを単独で討伐するのって結構キツいな……。
「……頭は冷えたか?」
「なんだ、来てたのか?」
「ん」って言いながらイリスが差し出してくれたタオルを受け取り、俺は汗を拭く。
あっ、今日のは柑橘系の匂いだ。
「お袋さんが来てたぞ」
「え? 母さんが?」
「今日はもう帰って早く顔を出してやったらどうなんだよ?」
「うん、そうだな」
母さんには聞かないでおこうと思ってたんだけど、親父さんが母さんに知られたって言ったらしく。俺が久しぶりに帰ると母さんが泣きながら抱き締めてきて、「ごめんね黙ってて!」って謝られた。
……別に母さんが悪いとは思っちゃいねえ、悪いのは黙っていなくなった親父なんだからよ。
「んじゃさっさとシャワー浴びて行ってこ~い! ほら! お前らも一緒に行け行け!」
<ガ、ガフッ?!>
<カロロッ?!>
<ガウ?>
……いや一緒に帰るって言っても、どいつか1匹だけにしておかないと周りが……。
そう思い、俺はクロだけを連れていこうかと考えた。
クロはカズに怒られてから自分がどんな存在になれば良いのか悩んでいたらしく、それをずっと隠していたんだってイリスが聞き出してくれた。
"氷雪極意"の能力で氷雪系の力を操れるようになったし、狼系モンスターでも炎を操れる種だけが覚えるとされる"狼炎"をいつの間にか覚えていた事で、その2つが合わさってユニークスキル、"氷炎"を覚えた。
そこで俺の代わりにイリスがクロの悩みを聞いたりして、その結果クロはバーゲストから遂に進化したんだけど、……まさかの"フェンリル"。
フェンリルと言っても亜種に分類される"ブラック・フェンリル"って奴で、全身黒いのは変わらないけど首周りの毛と長い尻尾には赤と白が混じっている。
カズの話だと、バーゲストには僅かだけどフェンリルの血が流れているから"進化"スキルに反応して逆に先祖返りしたのかもしれないらしく、フェンリルはクロと一緒で"氷炎"能力を持っていたから尚更そうなった可能性が高いらしい。
前の見た目もカッコよかったけど、フェンリルに進化した姿もカッコ良いし、これはこれでアリだなと思える。
それにかなり馬鹿デカくなって俺なんかよりデカい。
そんなクロのステータスだけど。
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名前 クロ 性別(雄)
種族名 ブラック・フェンリル
Lv.99 Aランク
体力1098 魔力980
攻撃1128 防御856
耐性653 敏捷1200
運83
スキル
索敵 危険察知 闇魔法
ユニークスキル
反撃 氷炎 人狼 月之加護
アルティメットスキル
進化
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"人狼"はつまりウェアウルフになれるって意味だ。
普段は狼の姿をしてるけど、その時々の戦闘に合わせて人狼化し、戦闘方法を替える。
最近、岩美が進化したクロを見てなんだかインスピレーションが刺激されたとかで、なんだか専用の武器を造るって意気込んで工房に籠ってるし。
「でもお前を連れていったら逆に周りがビックリするだろうしなぁ……」
<ワフゥ……>
そんなあからさまにしょんぼりした顔されてもなぁ……。
クロはそこらの大型犬や狼なんかよりデカいし、普通に目立つ。そんなクロが歩いていたら騒ぎになりかねないって、俺は迷った。
「別に良いじゃねえか、だってお前らはもう有名人なんだぞ?」
そうだった……。
俺達はテレビで全世界に顔を知られているし、今さらクロを連れて歩いていても……、いや駄目だ! 余計悪目立ちする!
「よし、ノワールにしよう」
<カロッ?>
ノワールは"隠密"や"迷彩"スキルで姿や気配を消せる。
うん、連れて歩くならノワールだろ。
そんなノワールはカズに負けてから悔しかったのか、色んなモンスターを1匹で倒したりしてちゃくちゃくと強くなっていた。
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名前 ノワール (雄)
種族名 メトゥスラプトル
Lv.62 ランクB
体力869 魔力749
攻撃995 防御666
耐性425 俊敏1011
運74
スキル
感覚強化 熱感知 瞬足 迷彩 探索 危険察知 伸爪 砂粒操作 闇魔法 炎魔法 土魔法 分析 空歩
ユニークスキル
殺戮者 闘争本能 悪食 凶爪 忍者
アルティメットスキル
進化
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ちなみに"隠密"スキルがユニークスキルの"忍者"になっていたのが俺的にちょっと面白い。
凶星十三星座達が攻めてくるまであまり時間がねえから、正直今はもっと討伐クエストとかに出たいんだけどな。
強くなったと言ってもまだまだ足元にもおよばない。
骸のステータスを見た時なんて全部1万を越えていたんだから、はっきり言って俺達は雑魚レベルだ。
それでも止めなきゃならねえんだから時間が無い。
かと言って母さんが心配で来たなら一度顔を出さなきゃだしなぁ……。
「なぁイリス」
「ん?」
「わりいけどお前も来てくんねえか?」
「……え?」
14:00
「母さんただいま」
「憲明!」
「うぐっ!」
家に帰るなり、母さんが俺の首を絞めるようにして抱きついてきた。
「怪我はしてない?! 大丈夫?!」
「だ、大丈夫だから……はなじで……」
「うわ~! ごめんね~?!」
母さんはイリスより小柄で、時々小学生に間違われることがあるけどれっきとした俺の母さんだ。
だから逆に小学生と間違われたらカズみたいにキレる。
「ただいま母さん」
「お帰りなさい。えっとそちらは確か……」
「イリスだよ。カズの所で会ってないか?」
「あ~、確か今テレビで話題になってる子よね? 何時もウチの子がお世話になってます~」
「あっ、いえ、その、……不束者ですが宜しくお願いします!」
「こちらこそ!」
「なに言い出してんの?!」
急にそんな事を言って頭を下げるもんだから、母さんもビックリして変な反応をした。
「どうしたんだよ急にぃ」
「わ、悪い。緊張してなに言えば良いか解んなくなった」
「普通に挨拶すれば良いだろ?!」
「いやでもさ、俺達、付き合ってるんだからちゃんと挨拶すべきだと思って……」
お、おぉぅ、た、確かに。
「え? え? 付き、合ってるの?」
「……うん」
「……はい」
瞬間、母さんは倒れた。
「母さん?!」
「あ、あは、あはは、ウチの子が……あの……イリスちゃんと……」
いや信じられねえかもしんねえけど事実だし……。
それから俺は母さんをお越し、茶の間まで移動した後に俺はノワールを呼んだ。
14:15
「は~、まさか本当にあのイリスちゃんとお付き合いしてるなんて」
「まぁ、コイツがデビューする前からなんだけどな」
「それに……」
<カロッ?>
「ノワール……だっけ? うん、カッコいい子だね」
<カ、カロロゥッ>
あら、あのノワールが照れてる。
<カロロッ、ロロッ>
「ん? 肩もみ? 肩をもんでもらうなんて何時ぶりかしら」
嘘だろ? あのノワールが肩もみ?
<カロ? カロロ?>
「あ~そこそこ~、爪が良い感じに食い込んでツボを刺激される~」
か、母さん……。
ノワールの爪は鋭利な刃物と一緒だって言うのに、母さんの肩はどうなってんだ……。
新年明けましておめでとう御座います。
皆様、今年も宜しくお願い致します✨
今年は巳年、去年は辰年と、僕の作品にとってはどちらもちょうど良い干支な感じがします✨




