第259話 カズの教え
裏の世界を見るまで俺は人を殺した奴の目がどんなのか知らなかった。
でもそれを俺達は知った。
初めてそれを知る切っ掛けになったのは、ニアちゃんがヘカトンケイルの材料にされて、カズがバルメイアの兵士達を殺した時。
それにバルメイアとの戦いで多くの兵士を殺したし。俺達の手でジュニスを殺した時、俺達全員の目がカズが見せたような冷たい目をしてた。
だからその時の目がやっぱり人を殺した事がある奴独特の目付きなんだろ。
でもどうしてカズは俺にそんな目をするのか解らなくて動揺した。
「……殺す気で来い。じゃなきゃ殺すぞ?」
これ、訓練なんだよ……な?
「どうした? 来ないならこっちから行くぞ?」
裏拳で後ろの空間をガラスみたいに割り、中から"堕天竜"を出すと、抜刀の構えをする。
ヤバい!
目で追い付けない速さでカズが俺に向かってくる。
そしてカズは瞬時に抜刀。
俺は恐怖でレーヴァテインを抜き、どうにかガードをした。
「くっ!」
刃がまるでコウモリの羽みたいなノコギリ状になっていてる。
そんな物に斬られたらひとたまりもねえよ。
「おいカズ! どうしたんだよ?!」
「……」
だけどカズは何も言わず、"堕天竜"を引くと次の攻撃に移る。
その一撃一撃は強烈。
斬撃、蹴り、銃、ゼイラムと猛スピードで攻撃してくるから反撃するスキが見当たらない。
ソラが援護射撃してくれるのはありがてえけど、それをカズは見もしないで全部撃ち落とすし、カノンの援護で植物を使った拘束魔法をしても全部斬られる。
<ガウッ!>
クロの攻撃なんて見てもいないのに避けるし。
「なぁクロ、お前、体だけデカくなってなんで進化しない?」
<ガ……ゥ……>
「アイツに力まで貰って、なんでその力を制御出来ねえからって使わない?」
やっぱ気づいてたか! でもどういう事だ?
「炎は操れる。だが氷を操れない。お前はそれで"氷炎"の力を手にしたって言うのに、持ってるだけじゃ宝の持ち腐れと一緒じゃねえか」
「だけどそれはまだ手にしたてだからクロだって上手く扱えな ーー」
「言い訳したところでもし戦場なら通用すると思ったか? んなもん殺してくれって言ってるようなもんだろ」
確かにその通りだから何も言えない。
ノワールは成長し続けてるのに、クロは立派な姿に成長したと言っても、力や能力が成長していない。
「ましてやなんでお前だけ未だに"進化"の能力を使わない? 他の連中はもっと強くなる為に、必死になってる。沙耶のピノだって本当は影で努力してたのを俺は知ってる。それともなにか? それはお前の慢心か? お前はそれでももっと強くなれるって慢心してるのか? お前はもう、他の"バーゲスト"とは違う存在なんだぞ? アイツの右目を潰せたから強くなってるって勘違いをしたか? 残念だがそれは違う。アイツはお前に右目をくれてやったんだよクロ。それをお前は勘違いしたのか、進化もしなければせっかくの氷の力も使おうとしない。……嘗めてるのか?」
瞬間クロはゼイラムに捕まり、鎖で抵抗するけど。
「闇の波動四式"黒闇"」
<ガッ……>
「クロ!」
白目を向き、口から泡を吹いてクロは痙攣しながら動かなくなる。
「カズ!」
「俺は言った筈だ。殺す気で来なきゃ殺すぞってな」
まさか?! クロを殺したのかコイツ?!
「さて? 次はどいつだ?」
「なんで……、なんでだよカズ! どうしちまったんだよ?!」
「別にどうもしねえよ」
「コノ……ヤロゥ……ッ!」
俺は殴りに走ったけど、カズがいつの間にか俺の後ろに移動している。
「チッ! ブハッ!」
だから後ろを振り返った時、俺はカズに斬られていた事にまったく気がついていなかったんだ。
「撃滅一閃四之型、"双刃"」
体をバツ斬りされていて、口と傷口から大量の血が吹き出る。
「五之型、"蛟"」
今度はゆっくりとした動きなんだけど、気がつくとまた俺を通り越して後ろに立ち、体のあちこちから血が吹き出る。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
殺される!!
「三之型、"空蝉"」
八岐大蛇の革とかで作られた鞘で足払いされると、俺の体がまるで風車みたいに回転し、頭が下になった瞬間に顎を踏まれ、腹に柄をめり込ませて空高く持ち上げられてから俺は立て一閃に斬られ、地面に叩きつけられて起き上がることが出来ない。
「ガフッ! ア゛ッ!」
「弱い、弱すぎる。その程度でよく俺を止めるって言えるなお前」
斬られているから解る。
カズは、俺を殺そうと思えば一撃で殺せている。
だけどカズは俺を弄んでるから殺されずにまだ生きているんだ。
「二之型、"断罪"」
意識が遠くなる中、カズがまた抜刀の構えをする。
<ガウア!>
だけど俺はソラのお陰で命拾いすることになった。
ソラはロケットランチャーを取り出してカズに向けて撃ち、カズはそれを素早く斬った事で二つに別れたロケット弾が離れた場所で爆発。
ソラが作ってくれたスキに俺はクロの鎖で助けて貰い、カノンが回復魔法で傷を癒し始めてくれた。
きっとソラがそうしてくれてなきゃ俺は殺されていたかもしれない。
「邪魔だなぁ」
<ガウ?!>
「六之型、"堕悲懺悔"」
その技は……ヤバイ!
「逃げろ! ソラ!」
だけど遅かった。
カズは一連の行動を始め、最後にソラの頭が貫かれる。
「ソラーー!!」
「そう、銃だけがお前の武器ってわけじゃねえよな?」
<ガッ、グググッ! ゥガッ!>
ギリギリでソラが堕天竜に噛みつき、頭を貫かれていなかったからまだ生きている。
それを見て安心しそうになるけどそんな状況じゃないのは解ってる。
そんなソラが両手で銃を撃とうとするけど、カズはそれを察知してジャンプすると、ソラの背中に膝を落として倒す。
「後頭部に膝を入れてたらそれで終わってたぞソラ」
「テ……メエ! なんなんだよさっきっから! ……どういうつもりなんだよオイッ!」
「だから俺はさっき言った筈だぞ馬鹿が。殺す気で来い、じゃなきゃ殺すぞってな。今まで手加減してたのが間違いだったんだ。だからテメェらは思ってたより全然成長していない。成長してるのは美羽や一樹、ヤッさんや他のメンバーにパートナー達だ。それに比べてお前達はどうだ? 美羽達に引き離されてる事が解ってないのか? お前らは何を見てきた? ん? それに一樹やダークスはもうお前より強くなってるぞ? ヤッさんだってそうだし、佐渡なんてヤッさんやトッカーのお陰でどんどん追い付い来てるぞ? 岩美なんて俺の技術をどんどん吸収し、"錬金術"や"鍛冶士"スキルがどんどん成長している。サーちゃんや志穂、ミコさんやミラママ、皆お前が思ってる以上に成長してるよ。骸のお陰で成長出来てると思ったか? 全然出来てねえんだよ。よくそれでいつか俺に追い付きたいなんて言えるな? ほざくのも大概にしとけよ? このボケカスが。いつかじゃなく今すぐ追い付きたいって気持ちはねえのか? あ? 口だけ達者になりやがって馬鹿が、だから俺はテメェらに目を冷まして貰おうとこうして動いてるのが解らねえのか? テメェでそれを自覚してねえならもういっその事全部忘れて普通の生活に戻ったらどうだ? え?」
俺は気づいていなかった……、俺は少しづつ強くなってるって思ったし、成長してるって思ってたから。
だけどはっきりとそう言われて、俺はショックで何も言えないでいた。
カズはあえて俺達の為に動き、殺す気で訓練をしてくれていた。
カズの言い方は正直ムカつくとこがあるけど、それよりもカズは俺を見ていてずっとムカついてたんだと思うから今になって行動に出たんだと思う。
そう思うとなんか恥ずかしくなってくるし、そんな風に見られていた俺自身が許せねえ。
俺はカズを守りたい。守られてきた分今度は俺が守りたい。そうなる為には早くカズに追い付かなきゃいけねえって言うのに、俺はどこか甘えていたから全然成長出来なかったんだろ……。
悔しいし悲しい……。
自然と涙が出てきた俺は仰向けになって空を見上げ、雪が目に当たる度に溶けていく。
きっとコイツは俺が泣くと思って……。
「……お前はどうしたい? 普通の暮らしに戻るか?」
んなことしたらイリスとの記憶が全部消されるだろ……。
「それが嫌ならもっと強くなれ、そして俺にさっさと追い付けこの馬鹿が」
そう言ってカズは骸に「悪いが後は頼む」って言うと、帰っていった。




