第256話 滲み出る想い
取りあえずクロ達を連れて、俺は"ペロミア大湿原"に行くことにした。
なんとなくだけど、なんか、行ったほうがいい気がしたからさ。
するとカノンが何かに気づいたのか、周りをキョロキョロし始めると毛を逆立たせて警戒しだす。
クロも遅れてカノンが目を向ける方向に唸りだし、ソラは両手に銃を持つ。
「モンスターか?」
<なんとなく、お前が来るんじゃないかと思って来てみれば、ハハッ、やはり私の予感が当たったようだ>
そう言いながら骸が出てきた。
「俺もなんだか来たほうが良いんじゃねえかって思って来たら、まさかお前がいるなんてな」
<ふふっ、まあ安心しろ、争う気持ちは無い>
「……傷、大丈夫か?」
前にクロとノワールが潰した右目が治っていなくて、デカい傷になったままの状態になっている。
骸のことだからもう治してると思っていたからなんでなのかなって思っていると。
<これはまぁ、私自身への戒めのようなものだ。だから気にしなくていい>
「なあ骸」
<なんだ?>
「どうして俺達を殺そうとしないんだ?」
<なんでなんだろうな……>
なんでなんだろうなじゃなく、俺は骸が優しいからそうしたくないって思えてならない。
クロ達だって前までは骸に懐いていたんだ。
俺からして見ても、骸はクロ達に優しかったし、兄ちゃん? おじさん? まぁ、なんか家族みたいに接していたように見えていた。
クロ達からしてもどうして骸が敵になるのか理解出来ないって思ってるだろうし、本当は敵対したくない筈なんだろうけど、俺を守ろうとしてるのかクロ達が周りを囲むようにして骸を睨んでいる。
それがなんだか俺としては嫌な気持ちになっていた。
敵対したくない。また前みたいな関係で良いから戻ってきてほしい。俺達にとって優しい兄貴分として、近くで見守っていてほしいって。
<私としても憲明、クロ、カノン、ソラ、ノワール。お前達を本当は傷付けたくないことは理解してもらいたい>
んなこと言われたら……。
<だが仕方ないことなのだよ。私はあの方の願いを、皆の想いを叶えるためにも動かなくてはならない>
「それが意味わかんねえんだよ。なんなんだよお前らのしたい事ってさ。カズの願い? 皆の想い? 前からさんざん聞いてるけど結局どんな理由があるのか解らねえとなんとも言えねえんだよ」
<それは、私の口から語るのは難しい問題だ>
でも俺は"時渡り"で見たからなんとなく解ると言えば解る。
コイツらは、カズが望んだ世界を作り、皆の為に故居を取り戻したがっている。
でも神ゼウスのせいで世界を一度滅ぼさなきゃならなくなり、……カズは、その世界を守る為に死のうとしている。
そんなこと、絶対許せる訳ねえよ。
「お前らのして事、あの人が許すと思ってるのか?」
<……気になっていたのだ、お前はどうしてあのダージュをおとなしくさせる事が出来た? 奴は誰よりもあの方の為、生き方を変えてでもあの方の力として奴は動いてきたと言うのに、いったい何をした?>
「そう簡単に教えられる訳ねえだろ?」
<……まぁ、それもそうだな>
「でもこれは教えてやるよ。フィスメラさんはお前らがやろうとしてる事を望んじゃいねえぞ絶対に」
<……お懐かしい名だ。誰があの方の事を教えたのかは今は良い。だがな憲明、我らは止まるわけにはいかんのだよ>
いや、止まれる筈だよ。
だって、カズやフィスメラさんの事を想うなら全部を壊すことが出来る訳ねえんだから。
「んじゃお前はカズと、アルガドゥクスとフィスメラさん2人の思い出の場所も壊す事が出来るのかよ?」
<"永久の庭園"か……>
あの場所が"永久の庭園"って呼ばれてる事は知らなかったけど、それを口にすると骸は懐かしそうな、優しい顔になった。
<我々にとってあの場所は聖地とも言うべき場所……>
「大切なんだろ? だったら壊したくねえよな?」
<だが今はもう無い>
「え?」
<あの場所はとっくの昔に無くなってしまっているよ>
そんな……、2人の思い出の場所が……もう無い……。
<守りたかったよ。でもどうする事も出来ず、その場所は今じゃ見る影も無い>
「……ゼウスか」
<そうだ、奴に消されてしまったよ……。それを知ってどれだけ悔しかったことか……>
だよな……。くそっ、あのクソヤロウが……。
<お前も悲しんでくれるのか?>
俺がそんな顔をしてたからなのか、骸がそう言った。
<お前は昔から不思議な奴だ。お前にとって我らの聖地がどうなろうと関係無いと言うのに、お前は、優しい奴だよ本当に……>
嬉しそうに言う骸の顔を見て、俺は泣きそうになった。
「なぁ骸、やっぱり戻ってくること出来ねえか?」
<それは出来ぬ相談だよ憲明。だがな? 私は嬉しいよ。敵だと言うのにお前は私を受け入れようとしてくれている。それだけじゃない。お前は我ら凶星十三星座全てを受け入れようとしてくれているな? 我らは世界の敵だと言うのにお前は>
「んなもんどうでも良いんだよ。世界の敵だろうがなんだろうが、話せば解り合えるじゃねえか」
<そう言ってくれるのはお前達ぐらいなんだろうな……>
それは違うぜ? きっと、俺達以外でも話せば解り合える奴がいる筈だ。
そう言ってやりたいけど、それを言ったところで本当にいるか解らないから簡単には言えない。
骸は良い奴だよ、俺が出会ってきた中でも特に。
<だがお前達がそう思ってくれるだけで私は嬉しいよ。……イリスがお前に惚れた理由がそれなのかも知れないな>
「なに言ってんだよ……、イリスだってさ、俺が想いをぶつけてそれを受け止めてくれたからそうなった訳でその……」
<ははっ、想いをぶつけたくてもな、そう簡単に想いをぶつける事がどれだけ難しいか知らんだろお前は>
「そ、それはそうだけど」
<憲明。イリスは前に言っていたよ。どうして近づかせたくないのに近づいてくるんだろうと。どうして自分とそんなに仲良くしたがるのか理解出来ないとな。だから私は言ったよ、ただ近づくのは簡単かも知れない。憲明はお前と仲良くなりたいから近づき、一生懸命お前がどんな存在なのかを勉強していると。当時のお前はイリスがただのトカゲと思っていたからな>
まぁ確かに? 俺はイリスが普通にトカゲだと思っていたし。なんならお前の事を本当は生き残りの恐竜か何かだと思ってたし。
<イリスがあの方を兄と慕うなら、憲明を友、もしくは仲間と思えるようにしたらどうかと話したよ。本来ならイリスはこちら側に居て良い奴じゃない。だからな、お前とイリスが恋仲になって私は心から嬉しく思うのだ。あ奴は優しさに餓えてはいたが、本当の恋と言う物が何なのかを知らないでいたから本当に良かった>
「ありがとう、骸」
<……沙耶の件だが>
「骸、アイツの事は良いよ。アイツはアイツなりにカズの事を想っていたし、アズラエルとして思うところもあるからそっちに戻ったんだろ。正直ショックだけどアイツともいつかちゃんと話し合って仲直り出来たらなって考えてる」
<そうか……。……せっかくだ、ここでこうして会ったのならただ話だけするのもつまらんだろ。どうだ? 私が相手をしてやっても良いんだが?>
おいおい、争いに来たつもりはねえって言ってたじゃねえかよ。
俺とクロ達が臨戦態勢を整えようとすると。
<あぁ違う違うそうじゃない。お前達は強くなりたいのだろ? だったらその練習相手になってやろうと思ってな>
「んじゃ初めからそう言えよ! ビックリするじゃねえか!」
<ははっ、すまんな>
でも骸が相手をしてくれるならもっともっと強くなれるかもしんねえから嬉しくて、俺達は喜んでお願いすることにした。




