第254話 腑に落ちない
「……親父がそんなことを」
「アイツの気持ちは解る、だが俺は和也の親だ、父親だ。確かに世界全体の事を考えるなら産まれる前に殺した方が良いのかも知れんさ、でも俺には出来ん」
何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも解らない。
親父さんが真実を知ってどれだけ苦しかったのかなんとなく解る。俺や美羽、皆が苦しんだんだからよ。
でも誰がカズの本当の母親なのか親父さんは話さなかった。
でも俺は……、もしかしたらこの人なんじゃねえのかって目星をつけている。
明らかに不自然な言動をこれまで見てるし聞いてる。
でも確証が無い。
俺の他に誰か同じ事を考えてる奴がいれば、そいつと一緒に話し合えるんだけどな。
「でも親父さんがカズを殺さないでくれて俺はよかったと思う。じゃなきゃ俺達はカズと出会えなかったんだし、こうしていろいろな経験をする事が出来なかったかもしれない。親父が何を考えてたのかなんて今さら別にどうでもいい。今大事なのはカズと出会えたことで、そのカズはもう一人のカズと必死に戦ってるってことだ。……俺は"時渡り"で過去を見た。過去のアイツは言葉なんかじゃ言い表せられないくらいの恐怖を撒き散らしてたし、正直あれは尋常じゃないよ。だから親父が逃げられない運命を変える為にもしかしたら俺達がカズの周りに集まるようにしたのかもしれないって思うと、尚更俺達でなんとかしなきゃならねえしカズを助けたい」
親父はきっと俺達ならなんとか出来ると思ったんだろうな。
それよりも親父さんがカズを殺さないでいてくれて本当によかったよ。
あれ? でもまてよ? 親父は元々夜城家分家の当主になる予定で、今は御影さんが当主をしてるって事だよな? で、俺はその親父が死んだ事で"時渡り"って能力が移った。
って事はだよ? ん? まさか? いやそんなことは無いだろさすがに。
「そこで憲明さん、貴方に時期当主になって頂きたいと考えているのです」
うんうん、……なんで?
「話を聞いてお分かりいただけたと思いますが」
いやさっぱり解りませんけど?
「貴方は本来、時期当主となるべき方なのです」
いやだから解りませんて。
どうしてそうなるって言いたい。
「御影さんの言ってることは解りますけどぉ、そのぉ……」
解らねえけどここは解ったフリしつつ断るか。
「俺は俺でやりたいことがありますしぃ、ましてや親父はそちらから離れたんですし……、今さら俺がそっちに行ってもぉ……ねぇ?」
「そう思うかもしれませんが、実際に貴方の父であり私の兄は先程聞いた理由があったが為、やむ無く離れざるおえなかったと思うのです。ですので我々としては貴方が戻って来ても良いと考えております」
……これ、どうすりゃ回避出来るんだ?
「御影、憲明の事も考えてやれ。急にそんなことを言われても、はいそうですかって納得出来る訳ねえだろ」
さすがっす親父さん。
「それにお前がさっさと結婚すりゃ時期当主の座はお前の子供のものになるんだぞ。お前も良い歳だろうが? あ? 28にもなって、男の1人や2人は作れよ」
え? 28?
「なに言ってるんですか兄さん、私はこれでもずっと、1人の殿方を好いてますよ?」
「なんだ? まだアイツと付き合ってたのか? だったらさっさと添い遂げちまえよ。なんなら俺からさっさとプロポーズしろって催促してやるぞ?」
「恥ずかしいからやめて下さい」
この人、どんな人と付き合ってるんだろ?
「まあとにかくだ。それはお前や俺から言う問題じゃなく、それは憲明自身に決めさせてやらねえでどうするって話だ。って事でその話しはここまでだ」
「……分かりました、では憲明さんに考えてもらうと致します」
「ん。では次の話しに移ろう」
次に話し合う事になったのは勿論、凶星十三星座の件。
「腑に落ちない点が幾つかある」
腑に落ちない点?
「まず、沙耶がアズラエルとして覚醒していたのなら、こちら側の話が全て向こう側に筒抜けになっていたに違いない。だがおかしいとは思わないか? どうしてあのタイミングだった? これはベヘモスから話を聞いたんだが、憲明、お前ら"ペロミア大湿原"の奥で骸とやり合ったそうじゃないか」
話したのか……。
親父さんの近くにBがいたから軽く睨むと、Bはゴメンって顔をしながら俺に謝っていた。
「なんで和也にこの話を伏せたがっていたのかはなんとなく俺にも理解は出来る。お前らはもしこの話を知った和也に、後で骸が怒られるんじゃねえかって心配したんだろ?」
やっぱ親父さんは分かってくれるなぁ。
「まぁそれは良いとしてだ。骸はその時、刹那に"サマエル"のありかを尋ねたそうじゃないか。それからそんなに日が経っていないにも関わらず連中は"サマエル"を見つけ出し、沙耶に渡した。何故だ?」
「そりゃぁ運良く見つけることが出来たからなんじゃないっすか?」
「果たしてそうか?」
「……ん?」
「Bの話しだと、その時点では確かに"サマエル"のありかはまだ不明のままだったらしい。だが連中が必死になって探していた"サマエル"が、そんな簡単に見つかると思うか?」
親父さんが何を言いたいのかさっぱり解らねえんだが?
「……ここだけの話しになるんだが、"サマエル"はとある場所で封印されていた」
「……はい?」
「俺はその場所を知っていた。他に知ってるのは和也と高峰だけだ」
「ちょっ、ちょっとまってくれよ親父さん。まさか、それを話したのがカズかタカさんのどっちかって言いてえのかよ?」
「そうは言ってないだろ。だがな? その場所を管理してる者がもし、連中に話をしていたとしたらどうする? もしそれが俺の推測道理になれば、そこはそいつだけが批判されるだけじゃなく、周りからそこ全体が批判されかねない事に繋がる恐れがある」
いったいどこにあったって言うんだ?
「俺達3人の他にその場所を知ってるのは、バチカン、アメリカ政府と、極一部の者しか知らされていない場所になっている。だが、だからと言ってそいつらが話したとは俺は思っちゃいない。話したとするならさっき言った奴がその秘密を話し、"サマエル"を奪還させられる結果になったと思っている」
「親父さん、その場所って?」
「"レオンネル"」
「レオンネル?」
「リリアの国だよ馬鹿、ちゃんと覚えておけ」
「えっ?!」
リリアの?! んじゃ……、それがもしバレたら……。
「リリアが住んでいる城の地下で、今までずっと"サマエル"は封印されていた。その理由としては、リリアがかつてアルガドゥクスを倒し、封印させることが出来た人物の子孫だからだ」
「マジかよ……」
「憲明、お前は"時渡り"の力でその人物を見てないか?」
「いや、見てないかも……?」
「"リリィ"っ言うんだが?」
リリィ? ……あっ、いた!
俺が"時渡り"で見たリリィって名前の人物は、まだ小さい女の子で、アルガドゥクスが孤児だったリリィと出会い、娘として一緒に旅をしながら育てていた子だ。
「まさかあの時の子がアルガドゥクスを……」
「見たことがあるんだな?」
「……はい、たぶん、名前をアルガドゥクスがつけていたからきっとその子かなって……」
「それはきっと間違いないだろ。そのリリィが戦争終結の後、"サマエル"を見つけてずっと封印していたんだよ」
……なるほどな、そんなことがあったのか。
すいません! なんだかんだで予定より遅くなりました!




