第253話 出生の秘密
20年も前の話しだ。
「どうした突然呼び出して」
「ゴメン、兄さん」
「かまいやしねえよ。で? 何かあったのか?」
「うん……」
その日は一日中朝から雨だった。
洋介に呼ばれた俺は、洋介が行きつけにしてる喫茶店に呼ばれて行った。
行くと気に入ってるテーブル席に座り、俺が来るのを待っていたんだよ。
「どうしたよ、顔が真っ青だぞ?」
「兄さん」
「ん?」
「近い将来、……"終焉"が目覚める」
「……なに?」
「近い未来、世界が終わる」
俺は最初、洋介が何言ってるのか訳が解らなかった。
だが真剣な顔でそれを言ってきたのを俺は考え、まさかって思う奴の名前を口に出して聞いてみたんだ。
「……アルガドゥクスか?」
「奴意外に"終焉"と呼ばれるのはいないだろ?」
まさか……、そんな馬鹿な事があって良いのか?
俺は洋介が何トチ狂った事を言い出したんだって頭を抱えそうになったよ。
でもな? お前の親父は嘘をついても直ぐ顔に出るからバレるだが、その時はそんな顔じゃなく真剣な顔をしていた。
「冗談……じゃねえんだな?」
洋介は辛い顔を見せた後に頷いた。
だから俺は絶望したよ。
どうして俺が当主になろうとしてるって時にそんなとんでもない話しを聞かにゃあならねえんだってな。
「……何時だ?」
「解らない……。でも奴が目覚める未来を見てしまったんだ……」
「"未来視"ってヤツか?」
「違うよ、"時渡り"の力が発動したんだ……」
洋介の"時渡り"はこれまで確認されていた力とは異なり、未来を垣間見る事が時折あった。
それは美羽の"未来視"に似てるがそれとは違う見え方をな。
奴は魂を未来に飛ばし、ほんの少しの間だけ未来を見る事が出来る特異な力になっていた。
これまでは未来を変える為に過去へ渡り、改変する為に使われていたって言うのにだ。
「……世界が滅びるのか?」
「……終わる、何もかもが全て……終わる……。兄さん……、この未来は絶対に変えなきゃ駄目だと思うんだ……」
「……」
なんて言って良いのか解らず、俺は黙ってることしか出来なかった。
そして、今から話すことは御影ですら知らない話しになる。
「僕は分家の当主にはならない」
「……何故だ?」
「僕が当主にならなければ少しは遅らせる事が出来るかもしれない」
「……奴が動き出すのか?」
「奴はずっと本体の目覚めを待ってる。今はおとなしくしてるけど、僕が当主になってしまうとこの未来が変えられなくなる」
「どうしてなんだ?」
「……時間が足らないんだ。奴が目覚めるなら奴を止められる力が必要だ」
「なに意味が解らねえこと言ってんだ……。どうしてお前が当主になることを諦めればそうなる?」
俺には洋介がどうしてそんなことを言い出したのかその理由が解らずにいた。
洋介は誰よりも正義感があり、当主になって八岐大蛇を封印し続けると言っていた男だ。その男が当主を諦め、対抗勢力を整える為に時間が必要だからとしか言わなかった。
だが今なら解るよ。
憲明。きっと洋介が言っていたのはお前や美羽、お前らの事だったんじゃねえのかってな。
和也の良き友として側にいさせ、もう一人の和也の覚醒を遅らせる為の存在。
そして対抗しうる存在として。
だがまさかあの八岐大蛇すら味方につけるとは思っちゃいなかったよ。
洋介が見た未来がどんなのかは知らん。
だがな? 洋介はお前の言う通りの男だったよ。
アイツは逃げたんじゃねえ、未来を変える為に一人で動いていたんだ。
お前を見た時はそりゃ驚いたぜ。洋介のガキだって一目見て気づいた。
「兄さん、この子が憲明だよ」
「……目元が美姫と一緒だな。だがお前に似て優しい顔だ」
「そう言われるとなんだか恥ずかしいな」
そこで俺も洋介に和也を紹介したんだ。
「洋介、実はな」
紹介すると洋介は驚いた顔をしたまま黙りこくった。
お前と和也が初めて会ったのはまだ1歳にもなっていない頃でな。だから覚えちゃいねえだろ、会った記憶をよ。
「に、兄さんと同じで力強い目だ」
「あ? 皮肉って言いてえのか? どうせ俺は目付きがわりいよ」
「だ、誰もそんなこといってないだろ?! 確かに悪いけど……」
「聞こえたぞ? 確かに悪いって言ったな? あ?」
「ご、ごめんって兄さん!」
和也が恐ろしい存在になるって洋介は知っていたんだろ……。
それでも洋介は和也がアルガドゥクスの生まれ変わりだって事を俺達に黙って言わなかった。
……アイツがいなくなる直前までな。
「兄さん……」
「どうした今日は?」
「……大切な話があるんだ」
「あ? 大切な?」
「……兄さん、落ち着いて僕の話を聞いてほしい」
驚いたよ。驚いて俺は何も言えなかった。
まさか自分の倅が全世界でもっとも恐れられ、復活を阻止しなきゃならねえ存在だったって聞いたらよ……、手が震えて俺はどうしたら良いんだって考えた。
アイツはたった一人の倅だ。そんな倅を自分の手で殺さなきゃならねえのかって考えると、恐ろしくて震える。
何故よりによって倅なんだってな。
だから俺はその事実を信用出来る奴だけに話し、全てを隠蔽する事に決めた。
いずれはバレるだろうさ。だがその時までになんとか対抗出来る力を集めなきゃならねぇ。
「兄さん……、僕はこれまで何度も"時渡り"の力を使ってこうならないようにしてきた……」
「……なに?」
どう言う意味だ? コイツ、何が言いてえんだ……。
「でも変わらなかった! 変えられなかったんだ! どんな手を使ってでも阻止出来なかった! ……これだけはどうしても変えられなかった!」
「テメェ……、阻止する為に何をしたか言ってみろ……」
「だからあーする事に決めたって言うのに! どうしてなんだ!」
洋介の話を聞いた俺は怒りの余り殴った。
和也が生まれてこないように洋介がした改変方法は……、言わなくても気づくよな?
……アイツは俺の妻、和也の母親を……殺したんだ。
「でもそうするしかなかったんだ! じゃあ兄さんはそれでもアルガドゥクスが復活してもよかったって言うのか?!」
「だからと言ってテメェが何をしたか理解できてんのか?!」
「解ってるよ! 僕だって苦しかった! でもそれしか方法が無かったんだ!」
だがそうまでしてでも阻止することが出来ず、アルガドゥクスは俺の倅として産まれた。
俺の妻であり和也の母親を殺したと言っても……。
ー 和也の本当の母親じゃない ー
確かに俺には妻がいた。
だがその妻は子供が出来ない体で俺達との間に子供がいねえんだ。
だが間違いなく和也は俺の倅だ。
なんせ、本当の母親がいるんだからよ。
洋介はどうしても本当の母親を知ることが出来ないでいたから和也が産まれた。
母親の存在は極一部しか知らない事実。
だが妻は知っていた……、俺が、話した。
妻はなんて言ったと思う? 「よかった」って言ったんだよ。
そこで色々なことがあり、和也の母親として最後まで生きた。
だから洋介は疑問に思った筈だ。
どうして殺した筈なのに和也が存在しているのかってな。
……俺が今話せるのはここまでだ。




