第247話 先手を取る為に
八岐大蛇が復活して大規模被害を出してから2日目の朝。
夜城邸にとある人がやって来たから俺達は学園都市に行けずにいた。
9:30
ーー 夜城邸 ーー
「申し訳ない、突然来てしまい」
「お陰で学校に行けなくなったけどねぇ」
「そ、そう言わないで貰えないか桜?」
サーちゃんのお父さん、辰巳官房長長官が来たことでサーちゃんが怒っていた……。
「来るなら事前に連絡したらどうなの? おじさんに失礼じゃん」
「うんまぁそうだね。でも連絡したらきっとお父さんと会ってくれずに学園に出掛けていただろ?」
「そうかもしんないけどさぁ、一昨日の事で色々と周りが五月蝿いから行こうとしても呼び出しされるからなかなか行けないし。だから今日は行けるかもって思ってたのに」
「ご、ごめんよ? お父さん達も仕事でお前達に頼みたいことがあるから呼び出したりするんだし、それは分かってもらいたいな。それに今回はお父さんの方から直接頼みがあって来たんだよ」
頼み?
サーちゃんのお父さんが来てからずっとサーちゃんがふてくされてるから何しに来たんだろうってなっていたけど、頼みがあるから来たのかと思ったらんじゃ早くそう言えば良いじゃんって思った。
「まっ、お前が直接来たって事はろくでもないことだろ」
お、親父さん……。
「すまないね守行。実は、美羽ちゃんとイリスちゃんにお願いがあって来たんだ」
美羽とイリスに?
「美羽ちゃん」
「はい」
「イリスちゃんと一緒にライブをしてくれないかい?」
……は? ライブ? なんでまたライブ? それは事務所と美羽達が話し合って決めるんじゃねえのか?
「知っての通り、"地獄"と呼ばれる"地獄龍・八岐大蛇"によって甚大な被害が出た。今、国民はその八岐大蛇の事で恐怖し、何時また現れるか知れないと恐怖しながら生活している。だがそんな八岐大蛇が君と融合したと言うじゃないか。だったら八岐大蛇の恐怖は取り除かれたと宣言すると共に、君達のライブでその八岐大蛇を紹介して国民に不安は取り除かれたから安心してくれと言ってほしいんだ」
おいおい、そんな事して良いのかよ。逆にもっと煽るんじゃねえのか?
と思ったけどきっと言えばカズに黙ってろって怒られるか、親父さんに怒られるかのどっちかだから俺は言わなかった。
だって怖ぇーもん!
「んなことして本当に大丈夫だと思ってるのか?」
ですよね親父さん!
「なんでそれをわざわざ公表しなきゃならないのか、明確な理由を出せ」
うん、ごもっともです!
「……近い内、全世界に凶星十三星座の存在を公表すると決めた」
うん、なるほど。
「って、はい?!」
瞬間、うるさいってカズと親父さんの2人に睨まれた。
「……理由は?」
「……"羅獄"が消えた」
そう聞いて2人は驚いた顔になった。
"羅獄"って確か、"地獄"って呼ばれてる八岐大蛇や"天獄"のイソラと同じ三大魔獣の一角だったよな?
それに俺はダージュの中からその姿も見ていたから、それを思い出してゾッとした。
「カズ、親父さん、"地獄"の八岐大蛇はもっとヤバいけど、"羅獄"もヤバい相手だろ。アレが1度暴れたら誰も手がつけられなくなるぞ」
「そうか、お前はアレが暴れていた時の光景を見ているのか。確かにお前の言う通りアレもヤバい。だがその前に、なんで八岐大蛇を公表するのかまだ理由を俺達は聞いてませんよ? ……いや、……なるほどそう言うことか」
おい、なに一人で納得してるんだ? 納得した理由を聞かなきゃ俺達にもわかんねえだろ!
「つまりお宅らは"羅獄"が復活した際、"地獄"をぶつける為って事で解釈していいんですね?」
"羅獄"に対して"地獄"をぶつける。
って事は……。
はっ! そう言うことか!
「その通りだよ和也君。我々は対"羅獄"戦を考え、美羽ちゃんと"地獄"に切り札になってほしいんだ」
確かに"羅獄"が復活しても、美羽と八岐大蛇がこっちにいることを知っていれば気持ち的に少しは違う。
それに向こうに対して牽制になるかもしんねえしな。
「美羽ちゃんは我が国に留まらず、世界的な歌姫だ。そんな彼女と"地獄"が協力しあうと全世界が知れば、"羅獄"の脅威を少しは緩和出来る筈じゃないかい?」
「でももし、逆に全世界が美羽と八岐大蛇を脅威と感じたらどうする? 美羽の立場も考えてくれてます?」
あっ、確かに。
「それには心配及ばないよ」
「は?」
「これは、各国首脳陣からのお願いなのだから」
え~……、そうきたかよぉ……。
「ちっ、各国首脳陣ってきたかよクソ。……美羽、お前はどうしたい? 俺と和也はお前の意見を尊重する」
親父さんにそう聞かれ、悩んでいると美羽の足元、影から突然八岐大蛇が顔を出した。
<我はお前に任せる>
「そう言われてもなぁ……」
<だが何を悩む必要がある? 美羽、我とお前が共に協力すれば敵などそうはいないぞ?>
融合したっちゃしたんだろうけど、なんで影から出てくるんだって感じだ。
融合したなら身体の一部から出てくるって想像してたし、もしくはカズやセッチみたいに人格を代えて出てくるんだとばかり思ってたからさ。
「でも良いのかなぁ、各国からの要請だって言うならカズの言ってたようにはならないかもだけどさぁ……」
<くはは、何を恐れている? 言ったではないか。我とお前なら敵などそうはいないとな>
「う~ん……」
<もしかしたら、あの沙耶が話を聞いてやって来るかも知れんぞ?>
その瞬間、美羽の目付きが変わった。
「何度来たって私が沙耶をボコボコにする」
<くはははははは! それでこそ我が選んだ女だ!>
「おいゴルァ、テメェ俺の女にちょっかい出すんじゃねえぞ?」
<そ、そのくらい分かってるぞ本体!>
はぁ、まあた喧嘩が始まりそうだよ、ったく。
カズと八岐大蛇の喧嘩が始まりそうだけど、取りあえず沙耶は生きている。
ダージュの話しによると、凶星十三星座の1人なのだからそう簡単に死ぬことはまず無いって言っていたし、カズも生きてるって言った。
沙耶はあれで結構しつこい性格してるし、アズラエルもしつこい性格だったからな。
ましてや俺が見てきた過去で、沙耶は美羽の"鵺"以上の攻撃を何発もくらってるのに、平然として顔で戦っていたのも見た。
それに骸が大事そうに抱き抱えて向こうに戻って行ったんだし、絶対向こうで治療を受けてる筈だ。
問題は、その沙耶が過去のアズラエル並みの力を取り戻していたら、もっと厄介な事になるって事だ。
カズの話しによると、まだまだ時間はかかるみてえだけど。
<ふん! まっ、本体は良いとしてだ>
「んだとゴルァ」
<やるんだな?>
「……うん、やろう。イリスもそれでいいよね?」
「はっ、俺は美羽姉に付き合うぜ? 連中が来ても俺がぶちのめしてやるよ」
おいおい、カズを無視すんなよ。後で怖ぇーぞ?
それで、イリスはやる気まんまんだけど、実は今のイリスは前より弱くなっていた。
理由は2つ。
冥竜王の呪縛から解放されたことで、イリスの身体の中にあったカズの血が薄くなった事。
だからそれでイリスは段々とただの爬虫類に戻ってしまうところだったらしいんだけど。そこをエルピスが協力してくれた事でイリスは今もこうして俺の膝の上に座っている。
でもその代償として更に力を失ったんだと。
そりゃぁ、ね? 骸にもやられてしまいますよ。
と言っても全然俺達より強いのは変わらねえからさ、ミルクに対してイリスは有効な存在になる。
「んじゃやるんだな?」
「うん、頑張ってみる」
「ありがとう。それじゃライブの日取りが決まり次第連絡するよ。連絡は早くて明日の夕方、遅くても明後日の夜までにはするよ」
そう言ってサーちゃんのお父さんは部下の人達と一緒に戻ることにした。
そんな中1人、カズとサーちゃんに対して笑顔で挨拶をしていた秘書の人もいた。
名前は忘れたけど俺達全員、昔何度も顔を合わせていた人だ。
あの人、まだ秘書をしてたんだな。元気そうでよかった。




