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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第9章 覚醒
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第246話 プロローグ


「くそ!」


「落ち着けパンドラ」


「落ち着いていられるわけないじゃないですかゼスト兄様!」


「お前が相手をしたのはあの兄者(あにじゃ)なのだぞ? それなのにそれだけで済み、よく無事に戻ってくることが出来ただけでも御の字じゃないか」


「でも結局回収する事が出来なかった!」


「まさか彼女があの八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と融合を果たすとは聞いて驚いたさ」


「あのクソ蛇! 今まで一度たりとも誰とも融合をせず拒み続けてきたって言うのに!」


「いや、一度だけ試みたが結果的に失敗して終わったことがある……」


 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を回収する事が出来ず、結果的に失敗に終わった事で戻ってきたパンドラは荒れていた。

 だがなにも成果が無かった訳じゃ無い。

 彼女達は記憶を取り戻したアズラエルを連れて帰ってくることが出来た。

 ダークスターは戻ってこなかったが。


「それになんなのよダージュったら! なによあの負けかた! 信じられない!」


「とにかく落ち着けパンドラ」


「だから落ち着いていられるわけないじゃない! あのダージュが私達を裏切ったのよ?! あの! ダージュが!」


「確かに信じられない話だが、ダージュにも考えがあったに ーー」


「そんなのあるわけ無いじゃない! プライドと口が大きいだけで結局あんな下等種に負けるなんて! ほんと信じられない! 最低! クズ! ゴミ! あんなのが同じ凶星十三星座(ゾディアック)だったなんて汚点よ汚点!」


 それを聞き、常に冷静だったゼストは怒ってしまった。


「パンドラ!」


 ゼストはパンドラに平手打ちをし、叱責(しっせき)を始めた。


「今の発言は流石の私でも許すことは出来んぞパンドラ。もう一度言ってみろ。兄者(あにじゃ)に代わって貴様を叩きのめしても良いのだぞ?」


「ご、ごめんなさい……、ごめんなさいゼスト兄様……。取り消す……、取り消すからどうか許して!」


「本当だな? それが嘘なら例え妹だろうと……、殺すぞ?」


「は……い……」


「皆もよく聞け。ダージュが負け、我々を裏切ったとしてもそれは裏切りではない。何故なら私は彼をよく知っているからだ。それを皆も知ってる筈だ。彼がああなってしまったのも全ては奴らのせいに他ならない。だが、誰よりも彼は兄者(あにじゃ)の事を考え、兄者(あにじゃ)の為ならなんでもするような奴だった。彼は兄者(あにじゃ)の友。兄者(あにじゃ)がもっとも信頼を寄せていた友だ。そのダージュを悪く言う者がいるなら私が決して許さないと覚えておいてくれ。本当の彼を知らない者が、好き勝手な事を言うのはどうにも我慢出来ないのでな」


「「……」」


 ゼストの言葉に恐怖を感じて全員が黙る。

 彼は凶星十三星座(ゾディアック)No.(ナンバー)(ワン)。冥竜王・アルガドゥクスの弟であり、凶星十三星座(ゾディアック)を束ねる者。

 彼に喧嘩を売って勝てる者は、兄であるアルガドゥクスのみ。

 その彼がダークスターを罵倒するパンドラに対し、それ以上言えば殺すとまで言うことは本気であると言える。

 そのゼストもまた、ダークスターがどんな性格で、どんな存在だったのかをよく知っている。

 時には衝突する事もあっただろう。

 しかし、相手はあのアルガドゥクスが友と認めた存在。

 そんな彼はゼストの良き友でもあった。

 だからこそパンドラの発言は許せなかった。


「しかし、まさかあのダークスターが負けちゃうなんてねぇ。これから君達はどうするんだい?」


 そんな空間に異質な存在が椅子に腰掛け、静かに話を聞いていた。


「……我々は我々の成すべきことをするまでだよ()()


 自衛隊元陸将の稲垣だ。

 そんな彼の後ろには側近と思われる男女が2人、黙って立っていた。


「ははは、イリスには裏切られ、ダークスターにまで裏切られてさ。それにあの八岐大蛇(ヤマタノオロチ)すら向こうについた。いや~なかなかどうして、面白くなってきじゃないの」


「口を慎めよ? 私はまだ少し気が立っているのだぞ?」


「でもこの場に彼がいたら流石の君でも怖じ気づいておとなしくなるんじゃないのかな?」


「……だが兄者(あにじゃ)はまだいないぞ」


「ふぅ……、分かった、悪かったよゼスト。だからそう睨まないでほしいな。でも君がそんなに怒っても状況は変わらない。とにかく今はアズラエルの生まれ変わりである沙耶ちゃんが来てくれた事を喜ばないと。それからもう一度体制を整え、どうすべきか皆で考えようじゃないか。皆もそうした方が良いと思わないかい?」


 ゼストとしても、怒っても状況が変わらない事は重々承知している。

 故に、今は稲垣の言う通り、体制を整えてから話し合いをすべきだと考えた。

 しかし、ゼストとしては内心、稲垣をどこまで信用して良いのかをずっと考えてもいた。

 だが今それは重要じゃない。

 稲垣はアルガドゥクスを裏切ればどうなるのかを知っている。


「……確かにその通りだ。(さと)してくれて感謝する。アズラエルの意識はまだ戻らないのか?」


<まだ寝ている。美羽の"(ぬえ)"をまともに受けたのだ、そう簡単に回復も出来ないだろ>


「彼女の事はあまり解っていないが、やはり厄介な存在のようだな」


 バランの話を聞き、美羽はゼスト達凶星十三星座(ゾディアック)の脅威になると感じていた。


「バラン、美羽とはどんな女性なのだ? 兄者(あにじゃ)があの方以外に心を許した女性をもっと教えて貰えないか?」


<でははっきりと言わせて貰うが、彼女をあまり()めていると痛い目を見るのは此方だ。彼女の天才的な戦闘能力は他を抜く。あの方が教えた事を彼女は一度見ただけで真似、それを自分の力に変えてしまうのは私でも正直手を焼くぞ。属性は2つ。"雷"と"闇"。現状もっともあの方に近い力を身に付け始めていると私の目には見えた>


「……驚いたな」


<なにがだ?>


「お前がそこまで認めた相手はそうはいないだろ? そこまで言うとなると、彼女が我々にとって最大の敵となりえるか」


<いや、彼女だけじゃない>


「……なんだと?」


<憲明もだ>


「憲明だと? 確かに彼は底知れない力が眠っていると私の目にも見えたが、そこまでの相手になるとは思えなかったのだが?」


<油断するなゼスト。正直私は美羽より憲明の方が恐ろしいと思える>


 バランの発言にゼストは驚いて目を大きく見開いた。

 何故なら美羽が最大の障壁になりえると思っていたからだ。

 和也として生まれ変わったアルガドゥクスの側にずっと近くに居続け、ゼストですら警戒しなければならない程の力を彼女は手にした。

 それは凶星十三星座(ゾディアック)と言っても、そこまでの才覚に恵まれた者がいないからでもある。

 しかし、才覚があったとしても彼らの敵にはならない。

 凶星十三星座(ゾディアック)とは神々ですら怯える存在なのだから。

 だが美羽は違う。

 才覚に恵まれ、あの和也がずっと側にいさせていた存在。

 戦闘訓練、技の伝授、あらゆる事を和也から教わっている。

 故にもっとも警戒なければならない存在へと美羽は育ち、覚醒すればゼスト達にとって恐ろしい存在へと変貌する。

 早々に手を打たねばならないと考えてはいるが、その近くには和也がいる。ましてや八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と融合してしまった彼女は、今の段階でどうにか出来る存在じゃ無くなってしまった。


「バラン、どうして憲明がそんなに恐ろしく見えるのか聞かせてもらえるか?」


<……良いだろう。まず、奴は我々の過去を知っている>


「過去を? しかしそれは兄者(あにじゃ)が話していれば解ることだろ」


<違う、そうじゃない。奴は知ったのさ、誰かから聞いたからじゃなく、実際にその目で見ていたから知っているのだ>


「……どう言うことだ?」


<私にも解らんよ。だが奴が言っていた事が真実なのであれば、きっとあの事も知っている筈だ。それに……、あの方の死も見ていたに違いない>


「もしや誰かの生まれ変わりなのか?」


<それは違うようだ。私は親父殿と戦闘をしていたので詳しい内容は耳に入って来なかったが、話しぶりからして奴は恐らくあの秘密も知ったに違いない>


「……バラン、それは非常に不味い状況になるぞ」


<分かっている。だからこそ、美羽よりも憲明を先に手を打たねばならんと考えている>


 稲垣はこの時、どうしてゼスト達がそこまで焦りを見せ出したのか不思議に思えた。

 彼らは強い。故に今までゼストが焦りを見せた事など今までに無かった事だ。

 そんな彼が初めて見せる焦りは稲垣にとって、初めて見る顔だった。


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