第243話 災厄と疫病<和也side>
「まさかパンドラ、お前に蹴られるなんて思っちゃっいなかったよ」
「私もお兄様を蹴りたくなかったのですが、本当に申し訳ありません」
パンドラは素直な分、やると決めたらどんな過激な事でも平気でする。
それが俺でも、邪魔なら蹴り飛ばすだろうよ。
だからと言って俺を蹴り飛ばすのはいただけねえって話だ。
「今の俺は知っての通り、昔とは違うぞ?」
「存じております。牙を抜いたお兄様は、ふふっ、怖くありませんもの」
「言ってくれるじゃねえか、パ~ン~ド~ラ~」
沙耶がアズラエルの記憶を取り戻し、向こう側について邪魔をしてくるなんてどうでも良い。
俺の気持ちは変わらねえ。
「例えお前でも容赦出来ねえからな?」
「それは私も同じです」
妹のパンドラは"滅"を冠する滅竜王。
ありとあらゆるウイルスを体内で作り出し、操る。
つまり疫病のスペシャリストって事だ。
それだけでも他の連中にしたら厄介極まりない存在なのに、妹には他にも"滅"を意味する力を持っている。
まっ、それが俺に通用する事はねえんだけどよ。
「お兄様の戦いかたは熟知しております。そのお兄様が今の私に勝てるとは思いませんが?」
そりゃそうだ、だって俺の近くにずっといたんだからな。
だがその逆も然りだ。
俺も妹の戦いかたを知ってる。
まず先に仕掛けてくるとすれば……。
「"細菌精製"」
そうくるよな。
パンドラって聞いて誰もがその名前を知ってるだろ。
だだ違うのは、パンドラが禁断の箱を開けたことでこの世にあらゆるウイルスや災いが広がった訳じゃなく。パンドラ自身があらゆるウイルスを産み出して世界にばら蒔いたのが真実になる。
つまりコイツこそがあらゆるウイルスの根元。
「それが通用すると思ったかよ?」
「ふふっ、何もこれをお兄様にプレゼントする訳ではありませんよ?」
ってことは周りにぶちまけるつもりか。
「さぁ、周辺にいる全ての命を奪いなさい!」
「させねえよ」
約束、またやぶっちまうけど許してくれるよな?
「重力結界+、重力結界-、重力結界究極値」
これでパンドラが産み出したウイルスを全て消滅させてやる。
ー "暴虐の星" ー
「そんな?! 近くに味方がいると言うのにそれを使われるのですか?!」
これじゃなきゃ守れねえからな。
2つの重力を重ね合わせる事で、ラグビーボール大の超次元空間。つまりは"ブラックホール"に近い物を作って俺は周辺に漂うあらゆるゴミは勿論、ウイルスを全て吸い込ませてから手で握り潰すようにして"暴虐の星"を消滅させた。
「ふふっ、ふふふっ、意外と大胆になられたのですね」
「こうでもしなきゃ防げねえからな、何度やっても一緒だぞパンドラ?」
「ふふっ……」
さて、次はどうくるかな。
仕掛けてくるとすれば次は直接俺を攻撃してくる筈だ。
妹のパンドラも俺を一度殺し、もう1人の俺を完全に目覚めさせるつもりだろうからな。
「ではそうですね、ここはお兄様が想像してる通りに動くと致しましょう」
ふん、いくらお前でも俺を殺せる事が出来ないだろうに。
俺としてはパンドラはまだ目覚めて何年も経っていないのだから、そこまで力を取り戻してるとは思っていなかった。
だが俺の想像とは違い、パンドラは充分強くなっていた。
パンドラは流れるような蹴り技をしてくると、肘打ちしてからのハイキック。そして至近距離からエネルギーを溜めた攻撃。
俺は全てを避けた後、"堕天竜"を再び何度も振り下ろす。
「"アクティベイタム"」
アクティビティやアクティビジョンの言い間違いじゃねえぞ?
"アクティベイタム"ってのは、パンドラのもっとも得意とする攻撃技の名称だ。
どんな意味があるのかと言うと、一言で言うなら"侵食"。
「ふはは!」
んでもっと説明するなら。
空間を侵略するウイルスだ。
「さあ! これでどうですお兄様?!」
空間を侵略するって事は、その空間に触れるもの全てに侵食し、火だろうと鉄だろうとなんだろうと食い尽くすウイルス。
それが例え俺でも食い殺しに来る厄介なウイルスだ。
「もう"アクティベイタム"を発動する力を戻してたか」
「ふふふっ、私はお兄様の妹ですよ? ゼスト兄さんとまではいかなくとも、滅竜王である私がこのくらいの力を取り戻していなくてどうするのです?」
「はっ、だからと言ってそれで俺の動きを封じたつもりでいるのか? めでてえ頭しやがって」
とは言うものの、今の俺じゃ厄介な能力だ。
"暴虐の星"でまたその空間を飲み込んだとしても、内側から食い破ってくる。
対抗するには……、全てを消滅させるアレしかねえか。
「やれやれだよまったく」
アレは"暴虐の星"と違って全てを飲み込んで消滅させるんじゃなく、全てを破壊してから全てを無にするし、今の俺じゃ上手く制御出来ねえから使いたくねえんだがな。
まっ、アイツに預けてるから使いたくても使えねえけど。
俺は改めて周りを見てとあることに気づいた。
あの馬鹿、なんで八岐大蛇の近くにいやがるんだ。"アクティベイタム"がすぐ近くまで迫ってるじゃねえか。
……いや、……まてよ?
美羽が八岐大蛇の近くで何かをしている中、パンドラの"アクティベイタム"がその周辺を侵食してるように俺の目に写った。
「……なるほどな」
つまりそう言うことか。
ゴジュラス達は親父達が相手をしている。
そしてパンドラは俺の相手を。
つまりパンドラはだったら俺の手で一度、八岐大蛇を始末させたほうが早いと思ったのかも知れねえ。
今の俺が"アクティベイタム"を消し、パンドラ達自身が早くここから引き上げる為に。
「ククッ、テメェもとんだ悪知恵を働かせるじゃねえか。えぇ? パンドラ?」
「どうされました? 私は別に悪知恵を働かせておりませんよ?」
嘘つけコノヤロウ。
ゼストと違ってテメェは昔から陰険なやりかたをしてきたじゃねえか。
「ククッ、だからと言って俺がアレを撃つと思ったか?」
「アレ? アレとはなんの事です?」
「とぼけんじゃねえよ。テメェは俺に"月の雫"を撃たせてえんだろ?」
「ふ、ふふ……」
パンドラ自身、その"月の雫"がどれだけの威力なのかを何度も目にしてるから知ってる。
その"月の雫"は俺にとって命とも言うべき女から貰った力だ。
その力は俺が手にしたことで徐々に変異し。最終的にこの世界を終わらせることが出来るまでの異常な力に膨れ上がった。
そんな力をこの場で下手に使えば、周辺どころかこの国自体が消し飛ぶ。
とは言えそれは預けていたことで使えなかったんだがな。
「残念だが今の俺じゃ上手く制御出来ねえから使わねえぞ?」
「ふふっ、ふふふっ、そう……ですよね? 安心しましたわ。正直アレを撃たれたくありませんもの」
ん? んじゃコイツは何を期待していたんだ?
と思っていると。
「(カズ、聞こえる?)」
あ? 美羽?
何時から来ていたのか知らねえが、俺の肩に分身したステラがとまり、"念話"で話しかけてきた。
「(ごめんねこんな時に"念話"して)」
いいから何か伝えたいことがあるからそうしたんだろ。
「(うん、実はカズにお願いがあるの)」
お願い?
美羽のお願いを聞いた俺は、正直どうしてそうするんだって言いたくもあった。
確かにお願いされた事はこの局面を簡単に覆すだけの価値はあるさ。
だが、下手をしたらその精神を乗っ取られる事に繋がる。
だったらそれをやるのは俺の役目だろって言いたいが、美羽にしてみれば今だからこそそのチャンスがあるんじゃんと言われ、俺は迷った。
……チャンスは1度きりだぞ。
「(……うん、分かってる)」
それがどれだけ危険な事なのか重々理解しての発言なのだから、俺は腹を括ってその作戦を実行に移すことにした。
「……なぁパンドラ」
「はい、なんですお兄様?」
「お前は俺がどんな能力を持ってるか覚えてるか?」
「ふふっ、当たり前じゃありませんか」
「んじゃ試しに言ってみろ」
そう言って俺の主な能力をパンドラに言わせてみると、ひとつだけ答えなかった能力を聞いて俺は安心した。
「どうされたのです? 答えましたよ?」
「あぁ、聞いて安心したよ」
「……え?」
俺は静かに右手を掲げ、とある能力を発動させた。
ー "引力" ー




