第242話 だったら……<美羽side>
なんだか知らないけど、ノリちゃんがダークスターに勝った様子を見て、取りあえず一安心って言いたいところだったけど。
「よそ見?」
<だからと言って沙耶が私に勝てるの?>
私は沙耶の相手をしていた。
ゴジュラスはタカさんが1人で請け負ってくれてるし、骸はおじさんが相手をしている。
問題はカズとパンドラ。
カズは他の凶星十三星座達なら怖がって相手をしたくないってくらい強いし、あのミルクとイリスが簡単に負けるって言うのに、パンドラだけはカズと互角と言うよりもっと強いんじゃないかって思える。
だけどそれより問題にしなきゃならないのは沙耶。
急に自分はアズラエルの生まれ変わりで? 記憶を取り戻したから凶星十三星座に戻る?
意味解んないし解りたくもないって感情になっていた。
「ガル!」
沙耶がガルを投げてくるけど、今の私ならガル程度の爆発なら耐えられるから軽くガードだけして距離を縮める。
「流石に頑丈だね~?」
<言ったでしょ? 沙耶が私に勝てるの? ってさ>
「ははっ! 勝てる勝てないの問題はそこじゃ無いよ美羽!」
なに?
沙耶がなにを考えてるのかさっぱり理解できない。
「サマエル!」
蛇骨みたいな大鎌の名前を呼ぶと、蛇みたいに伸びて大鎌が襲ってくる。
けど私はまたガードだけしてもっと近づき、沙耶を捕まえようとしたんだけど。
「"非情な刃"」
伸びた大鎌に私は周りを囲まれると捕まり、手元に戻そうと引くと回転するからノコギリみたいに攻撃してくる。
「終わりだよ! 美羽!」
<それはこっちのセリフだよ>
ー 雷爆 ー
「いぎっ!」
私は私自身の竜の固い皮膚や鱗を信じ、体から雷を放出。その雷は"サマエル"を伝って沙耶を攻撃すると、沙耶に向かって空から強力な雷が落ちて爆発。
でも沙耶は服が少し焦げたりしただけで火傷すらしていなかったんだけどね。
「……びっくり」
<私もだよ>
そこで沙耶の着ていた服が粉々になっていくと、闇が沙耶を包み込むみたいにして軍服姿になっていく。
<沙耶、もう悪ふざけはやめてよ>
「はあ~? アンタ、私が言ったことがまだ信じられない訳~?」
<冗談だって言ってほしいな>
「その割りには私を殺す気で攻撃してきたじゃん~」
<それは沙耶だって一緒でしょ?>
沙耶の目が冗談を言ってる風には見えない。
もしかしたパンドラ達を騙す、なにか作戦でもあるのかなって思ったけどそんな風にも感じ取れない。
本気……、なんだね?
「悪いけどここで死んでよ美羽!」
<自分がなにをしてるのか解ってるの?!>
なんでよりによってこのタイミングなんだろって思っちゃう。
だって、さっきまで私達は八岐大蛇を止めに来ていたんだよ?
それなのになんで? って。
「あっははははは! 私はずっとこの時を待ってたよ美羽! 正直アンタは目障りだったからさ!」
<どうして?!>
「アンタはカズの心を奪った!」
<……カズの?>
何度も"サマエル"を振るってくる沙耶の攻撃を避けたり、ガードしたりして私は沙耶がどうして裏切ったのか知りたくて聞いた。
「私はカズが好きだった!」
<知ってる。だから私は沙耶となら別に良いかなって思ってた!>
「そんな綺麗事言って本当に上手くやっていける筈無いじゃん! アンタ! 恋愛ってもんを嘗めすぎ!」
そうかも知れない。
だけどさ、私だって沙耶がどれだけカズの事が好きだったのかよく知ってる。
カズが私と沙耶の二股をしたって、別にそれはそれで良いって本気で思ってた。
私は沙耶の事も好きだったから。
「世の中それでどれだけ破綻した人間がいるか知ってるの?!」
<そんなの知らないよ!>
「だったら軽々しくそんな甘いこと言うな!」
確かにそうかもだけど……。
私……、馬鹿だからどうしたらずっと仲良くやっていけるかなって考えてそう思っていたのに……。
「だからと言って私は諦めない! 今度は私が! あの人の! あの人の側にいて支える!」
<なに? んじゃ私から完全にカズを奪うって言ってんの?>
「そうだよこの馬鹿女!」
あっ、そう……。
<おせっかいなこと考えなければよかったよ沙耶!>
「アンタのその考えがどれだけ私の心をズタズタにしていたか! 思い知れ!」
<カズに見向きもされなかったくせして!>
確かにどうかしてたと思うよ。
なんで、二股しても良いって考えになっちゃったんだろうって。
これじゃ私が完全に悪者じゃんってさ。
でもさ……、カズが冥竜王として完全復活したところでさ、沙耶がカズの側にいられるのかって言われたらそんなの誰にも解らない事だよね?
だったらまだカズがカズのままのほうがまだ確率的には高いんじゃないのかなって思う。
<お互い、間違ってたんだね>
「お願いだからアンタは死んで! そしてカズを私に頂戴よ!」
……誰にもカズは渡さない。
よかれと思った考えが間違いだった事に気づいた私は。
沙耶を敵として……、凶星十三星座としてこの場で殺すと決めた。
それは竜の力がそうさせたのか本能なのか解らない。
だけど、私を殺そうと向かってくる沙耶に……。
殺意が湧いたのは事実だった。
ー "鵺" ー
カズに1度見せてもらったことがある雷系の技。
放つにはそれ相応の魔力が必要だし、制御するのもかなり難しい。
「鵺?! 1度見ただけでそこまで再現するなんて!」
鵺って技がどれだけ怖いのかを私は知ってる。
「でも初めて使う技が私に当たるわけ無いじゃん!」
制御が難しいってことは当然相手に当てるのも難しいよ。
だけど鵺の恐ろしさはただ威力が高いだけじゃないから怖いんだよ。
「"F2"!」
ねえ……、知ってる? 雷の威力が高くなる条件がなにか。
「取りあえず吹っ飛びなよ!」
<……行け>
私が放った鵺が、沙耶のF2を粉砕するどころか逆に吸収してその威力を上げていく。
「なんで?! くそっ!」
物凄い速さで沙耶は逃げるけど、こっちは雷なんだよ? 雷がどれだけ速いか知ってる?
「えっ?! きゃっ!」
<私の雷から逃げられる筈ないじゃん>
"鵺"を操って追尾させることが出来るけど、追尾させるにはとんでもない集中力が必要とする。
だって、雷を簡単に制御して自由に操ること自体が難しくって、誰も簡単に出来る訳じゃないから。
「きぃゃあああああああああああああああ!!」
……さようなら。
私は……、私はカズの敵は誰だって容赦しないんだから。
沙耶、それがアンタでもだよ……。
きっと"未来視"を使えば沙耶の攻撃を簡単に避けれたかもしれないけど、私は沙耶の心をとにかくへし折りたいって気持ちがあったから使うこともせず、竜として沙耶に勝ちたかった。
けど、……自然と目から涙が溢れてしまうんだけどね。
<……ねえ、まだ意識はある?>
そんな私の目に、倒れた沙耶の向こう側には巨体が倒れているから私は話しかけた。
<う……>
<よかった、まだ意識はあるんだね?>
それはパンドラに心臓を抜き取られ、動けなくされた八岐大蛇。
私は八岐大蛇を見てて、凄く可愛そうに思えていた。
ノリちゃんがダークスターを受け入れたように、私は八岐大蛇を助けてあげたい。
敵かも知れない。でもノリちゃんみたいに解り合えるかも知れない。
現にBちゃんやイリスとは解り合えたんだし。
<ねぇ、私の話し、聞いてくれるかな?>




