第240話 黒紫竜の過去 4
国を追われてから色々あった……。
アルガドゥクスは自分の分は良いからって、ついて来てくれた国の人達や凶星十三星座に食料を与えたりして、……自分は泥水をすくって飲んでいる。
ましてや自分はいいから何処か安全に暮らせる場所に行ってくれと言うばかり。
それでも皆はアルガドゥクスの事が好きだから離れようとしない。
自分よりもついてきてくれた人達の事ばかり考えていやがる。
そんなアルガドゥクスは1人でフィスメラさんの事を想って泣いてるのを知ってるからこそ、俺達はそんなアルガドゥクスを1人にしたくなかった。
……そして知った。
ゼウスの策略を。
ー 滅ぼせ ー
あの優しかったアルガドゥクスがまるで別人になっちまったのはそれからだ。
そこから先は言葉に出来ない虐殺が始まって、全員で天界に殴り込みに出た。
って言うより戦争だな。
真実を知ってあらゆる種族がアルガドゥクスに手を貸したりしたけど、貸さなくてもアルガドゥクスが率いる冥竜軍の方が圧倒的だった。
凶星十三星座全員に血を分け与えたことで強力な力を手にしたし。
ー 1人として逃がすな ー
ダークスター……、ダージュの姿も前とは違って、俺が元々知ってる姿に変わった。
本当にその一撃一撃が強烈で、天使の兵とかが泣き叫びながら逃げるけど逃げられない。
<死ね!! この虫けらどもが!!>
「これ以上は先には行かせんぞニーズヘッグ!」
<私は……、私はニーズヘッグではない! 私は! ……俺様はダークスター! 冥竜王様が率いる凶星十三星座のNo.Ⅵだ!!>
ダージュ! 落ち着け! 怒るのは俺も分かるけど怒りすぎたら周りが見えなくなるぞ!
<貴様らだけは絶対に許さん! あの方の悲しみ! あの方の怒り! 全てを思い知れ!>
「邪竜ごときが私に勝てると思うなよ?!」
<黙れ"ウリエル"!>
ウリエルって女天使がダージュに槍を向けて突っ込んでくる。
だけど今のダージュの敵じゃなかったから、あっけなく撃破されて落ちていく。
<羽虫ごときが意気がるからだ>
ダージュ……。
すると前方から強烈な光が光った。
あっちは確か、アルガドゥクスが先行して行った場所だよな?
<"月の雫">
え?! あれが?!
光が落ちていく。
……俺はこの後起こるとんでもない光景を目の当たりにしたことで、逃げたくなるようなとんでもない恐怖をあじわう事になった。
それは想像を絶する爆発。
爆発はありとあらゆる物全てを破壊していく……。
爆風は逃げようとしていた天使を逃がさない。逃げれたとしても、爆発で真空状態になったからなのか、空気が一気に逆流することであらゆるものを吸い込んでいく。
落ち着いた。そう思ったのもつかの間で、更に新たな爆発が引き起こされるとその威力は最初の爆発以上の威力になって全てを飲み込み、触れるもの全てを一瞬で蒸発させていく……。
なんだよ……あれ……。
核兵器? ははっ、そんなテレビとか動画でしかどんなもんか見たことねえけどさ。
………生易しい威力じゃなかったよ。
あれをなんて説明したら解らねぇ……、でもこれだけは言える。
"月の雫"を絶対に撃たせたら駄目だ……、アレは"暴虐の星"なんかよりよっぽどヤバい。
文字通り世界が終わっちまう。
<思い知れ! これが我らが主! 冥竜王・アルガドゥクス様の力なり! ははははは! はあっはっはっはっはっはっ!>
やっぱ……化け物だな……。
そして空がガラスみたいに割れて落ちていくと、いつか見たカズのバトルフィールド、"異界"みたいな世界に変わっていく。
ー 集え、我が凶星十三星座達よ ー
<は! 只今!>
呼ばれて意気揚々とダージュがアルガドゥクスの所へ飛んでいくと、そこにゼストやパンドラ、骸やルシファー達が集まった。
<ダークスター! 只今ここに!>
「私ルシファーを初め姉妹全員ここに!」
<バラン、ここに>
「アズラエル、ここに」
「メフィスト、ここに」
<ダゴン、只今>
「アニマもここに」
全員が集まったけど、アルガドゥクスを見た瞬間に俺はゾッとした。
<ハアァァァ……>
これが……、完全体の姿……。
姿だけってのもあるけど、胸にある大きな口でゼウスの上半身を咥えていたから俺は目を反らしたかった。
「あっ、うあっ」
まだ生きてるのか?!
<これより我はゼウスを殺し、神殺しを成し遂げる。それを、皆に見ていてほしい。>
「や、やめ、やめっ! ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
絶叫するゼウスをアルガドゥクスが食っていく……。
こんなの、見たくねえよ……!
見たくなくてもダージュが黙って見ているからその光景が自然と俺に流れてくる。
気分が悪くなって吐きそうになるけど吐けない。
そしてゼウスはそのままなす統べなく食われて死んだ……。
神殺しなんかじゃねぇ……、コイツは……、神喰いの竜だ!
<……神は死んだ>
「はい、これからは兄者こそが唯一無二の神に御座います」
<……我は知った。ゼウスがしようとしたことを全て知った我は、これより世界を1度滅ぼす>
「兄者?!」
<この世にはもう、我らの安住の地等無い。それら全てゼウスの策略によって失った。ならば、この世界を1からやり直さなくてはならない。いや、1ではなく0から>
「ですが兄者! それではこの世界に住まう者全てが死に絶えます!」
<逃がせば良い。我等が同胞、我等が眷属を、あちら側に出来るだけ逃がすのだ。それからでもまだ遅くはない>
「兄者……」
<そして逃げた天使を全て見つけ出せ。見つけ次第、即刻処刑せよ。匿う者も全て、例外無く処刑せよ>
<我が君の命とあらば>
「ダージュ?!」
<容赦するな。奴らは我等の敵なり。敵は全て根絶やしにせよ>
「……」
<<ははっ!>>
「「は!」」
<仰セノママニ!>
やめろよダージュ! そんなことしてもあの人は生き返らないんだぞ! アルガドゥクスを止めてくれ! じゃなきゃもっと酷い惨劇が始まることになるんだぞ!
<(陛下を裏切り、あの方すら殺した世界になんの価値がある!)>
でもダージュ!
<(シリウス、貴殿も同じように哀しんでくれたじゃないか、怒ってくれたじゃないか。ならば我等の想いを分かってくれる筈)>
でもだからと言って無関係な命まで奪うつもりかよ!
それはあのゼウスと一緒じゃねえか!
<(一緒? ……一緒にしてくれるなよ? 陛下はこの世界を取り戻すためにしなければならないと仰ったのだ! それをあの下等な羽虫と一緒にするな! 例えシリウス! お前でも許さんぞ!)>
ダージュ……!
<(どうやら貴殿とはここまでのようだな)>
まって! まってくれダージュ!
<このダークスター、どこまでもお供致します>
ダージュ! おいダージュ! ダージュ!!
何度呼んでももう、ダージュからの返事は無かった。
そして俺の意識がまた段々と消えていくのが解る。
戦争の始まり、アルガドゥクスがどれだけ世界を憎み、神々に対してどんな思いで敵対したのか、その全てを俺は知ることが出来た。
だけど、こんな後味悪い想いをするくらいなら見たくなかったって気持ちがでかい……。
話に聞いてたより、よっぽどキツイな……。
そして次に目を覚ますと、目の前でイリスとダージュが戦っていた。
ダージュ……。
見た瞬間、俺は泣きたくなった。
ダージュがどれだけツラい想いをしたのか、どれだけツラい別れをしたのか、……知ってしまったから。
「おい、俺を忘れてもらっちゃ困るな……」
<なんだ、まだ生きていたのか>
どうしてあんなものを見たのか、ダージュと話すことが出来たのか理由は知らねえ。
だけど俺の気持ちは絶対にブレねえ。
「俺がお前を止めてやる」
<ふん! 貴様に何が出来る?!>
「そうだぜ憲明! コイツは俺がぶちのめすからおとなしくしててくれ!」
そう言うわけにもいかねえんだよな。
知っちまったからよ……。
「……良いから、俺がお前の目を覚まさせてやるよダージュ!」
<……なんだと?>
「俺はお前の友なんだよな?! だったら俺が止めるしかねえよなダージュ?!」
<……貴様>
「光り輝く……なんだっけか? それとも俺の声を忘れたか? あ?」
<貴様いったいなにを……>
「はっ! テメェの友達、シリウスとして止めてやるって言ってんだよバカヤロー!」
<!!>
瞬間ダージュの目が大きく見開いて俺に驚いた。




