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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第8章 黒い太陽
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第236話 予期せぬ事態


「……きろ」


 ……ん。


「起きろ」


 起きろって言葉に目を覚ますと、目の前にどこかカズに似た男が立っていた。

 カズよりも長い黒髪に、どこか貴族風の黒い装いをしている。


「お? 起きたな?」


 そうニッコリと微笑む顔もやっぱりカズに似ている。


 ……誰だ?


<……これは陛下、お久しぶりに御座います>


「久しぶりだな、"()()()()()()"」


 ニーズヘッグ? ……俺のことか?


<本日はどのような御用件でしょう?>


「うん、実はお前に今度紹介したい(ひと)がいてな。それでお前の都合を聞きに来たんだ」


<そんな、私は陛下の命とあらば何時だって時間を作ることが出来ます。それにわざわざこのような所に足をお運び頂かなくとも、呼ばれれば何時でもそちらに参ります>


「そう言うな、私とお前の仲じゃないか」


<嬉しい限りに御座います>


 ……俺じゃない? なんだこれ?


 近くに水辺があって、そこの水を飲もうと顔を近づけると、そこに写っていたのはどこか見覚えがあるような、黒紫色のドラゴンの顔。


 この竜はなんだ?


 そう思っていると、俺の意識とは逆に俺? と言うかその竜は水を少し飲むと、またカズに似た男に顔を向ける。


<して、私に会わせたい方と言うのは、度々話しに出ていたお人でしょうか?>


「察しがいいな。うん、実はそうなんだ」


<では>


「あぁ、婚約したよ」


<おめでとう御座います陛下、ようやくですね>


「うん、本当にようやくだ」


 よっぽど嬉しいからか、満面の笑顔で微笑むからこっちまですげえ嬉しくなる気持ちになっていたのが分かる。

 

「だから先にお前に会わせたくてな」


<そんな、私なんて後回しで良いものを。……ですがありがとう御座います。陛下、御婚約、本当におめでとう御座います>


「……うん」


 2人で微笑み合っていると、急に周りが色とりどりの花に囲まれた何処かの場面に急に変わる。

 目の前にはカズに似た男と、めちゃくちゃ美人で、息をすることすら忘れちまう綺麗な女の人が側に立っていた。


<その……、お邪魔致します>


「良く来てくれたな」


<正直申しますと、この場に私がいるなんて場違いと思えてなりません……>


「クククッ、何を言う、お前は私の友なのだから気にしなくて良いんだ」


<は、はぁ……>


 するとそんな竜の前に、満面の笑顔を見せながら女の人が近寄って来た。


「初めまして、貴方の事は彼からよく聞いています。今日は来て下さり本当にありがとう御座います」


<こちらこそ! 私のような者を御呼び下さり光栄に御座います!>


 なんだか恥ずかしいって気持ちと一緒に、竜からその女の人と会えて本当に嬉しいって気持ちも伝わってくる。

 それから2人と1匹……、めんどくさいから3人は暫くの間、紅茶? みたいなもんを飲みながら楽しそうに話をしていたんだけど。(しばら)くするとまた場面が急に切り替わった。


「あの人から新たな名を授かったのね?」


<はい、これからは新たな名に恥じぬよう、陛下の力になりたいと>


「ははは、相変わらず固いわねぇ貴方は」


<申し訳御座いません。しかし、正式にあの方の下に就いたからにはより、精進しなければなりません>


「ふふ、でもあの人はそれを望んでるかしら」


<っと、申しますと?>


「あの人と貴方は友人関係だったのでしょ? だったら変に固くならなくても良いし、もう少し口調を和らげても良いと思うの」


<ですがそう言う訳にはいかないかと。やはり周りの目も御座いますし、下に就いたからにはよりそれなりの(たたず)まいがあるかと>


「もう、本当に頑固ね貴方は」


 そうは言っても女の人はとても嬉しそうにしている。

 俺の意識が入ってる竜からは、女の人が言うように本当はもっと親しげに話したいって気持ちがあるのが分かるけど、やっぱりカズに似た男の為だとか周りからナメられない為にも、毅然(きぜん)とした態度をしてなきゃダメだって気持ちが強かった。


「そうだ、せっかくだから私からも1つ、贈り物をしなきゃ」


<そんな滅相も無い! こうして貴女様と話しているだけで充分に御座います!>


「それで私が納得するとでも?」


<うっ、ですが>


 顔を優しく撫でられるからか、竜の心臓が早くなるし、顔が熱くなる。


 こりゃ恥ずかしがってるな。


「素直に受け取りなさい」


<は、……はい>


「宜しい。ふふっ、でも本当におめでとう。これからはあの人の側で頑張ってね?」


<は! 有り難き幸せに御座います! 私のような者を友と呼んでくれるあの方の為に! これまではぐれ者だった私を迎え入れてくれたあの方の為に! 私は全力を持ってあの方を支えることを貴女様に誓います!>


「だから固いって。ふふふっ」


<クハハッ>


 幸せだって気持ちが本当に分かる。

 こんな幸せがずっと続けば良いのにってくらいに。


「では、貴方に贈り物を授けます」


<(つつし)んで受け取らせて頂きます>


「では、親しみを込めてこれから貴方の事を()()()()と呼びますね」


 ん? ダージュ?

 ……ダージュってまさか?!


<は! この()()()()()()! ダージュと呼ばれる喜びを胸にこれから一層精進することを御約束致します!>


 ダークスター?! ダークスターなのか?!

 まさか俺の意識がダークスターの中にあるなんて!

 ってことはもしかすると。


 どうしてダークスターの中に俺の意識が入ったのか解らない。

 解らないんだけどなんとなく今見てる光景は昔の記憶を見てるんじゃって思えた。


<(聞こえるか? 私の中にある意識よ)>


 ?!


<(時折私の中に別の意識がふと目を覚ます感覚があったのは解っていた。貴殿がいったいどの様にして私の中に入ったのかは知らぬ。最初は得たいの知れない感覚に戸惑ったが、悪意を感じられなかった。だから今、こうして初めて意識を(かたむ)けて語りかけている。私の声が届いているだろうか?)>


 と、届いてる。


<(……どうやら届いてはいるがそちらの声は私に届かないようだな)>


 え? マジで? まったく?


<(だが貴殿も私と同じように喜んでくれていたからな。だから声をかけてみようと思ったのだ)>


 そ、そうか。


<(不思議なものだ。私は誰からも愛されない存在だったのだが、陛下はそんな私を友と呼んで下さり、この方もまた私を友と呼んで下さる1人なのだ。そんな御二人に友と呼ばれるこの喜びを貴殿と分かち合うのもまた気分が良い)>


 ……うん、そうだな。

 お前がなんではぐれ者なのか、なんで皆から愛されてないのかよくわかんねえけどさ、本当に良かったな。


<(……あぁ、分かる、分かるぞ貴殿の気持ちが……。やはり貴殿も喜んでくれるか。良ければ貴殿も私の友になってはくれないか? たまにで良いのだ。貴殿の意識が目を覚ました時にまた、私の話し相手になってくれると嬉しく思う)>


 なんか……、そう言われると嬉しくなっちまうな。


 ダークスターは元から悪い奴なんじゃないとは思っていたけど、まさかこんなガッチガチに固い奴だとは思ってもいなかったから驚いた。

 ……だけど同時に、ダークスターから友達(ダチ)になってくれって言われてめちゃくちゃ嬉しい。


 いいぜ? 俺とお前は友達(ダチ)だ。


<(何を言っているのかは解らぬが、どうやら承諾(しょうだく)してくれた事は分かるぞ。感謝する、私の中にいる意識よ。そうだ、貴殿の呼び名が無いと困るだろう。良ければ私から貴殿の呼び名を考えても良いだろうか? 名は大切だ。陛下もおっしゃっておられたが、名とはその者を形作る大切な事であり、名があるからこそ存在する意味を与えられるからな)>


 う~ん、別にいいぜ? どんなのだ?


<(そうだな……、では貴殿を"シリウス"と呼ぼう。どうだろうか?)>


 シリウス? シリウスって星の名前じゃなかったか? まっ、なんだって良いや! それでいいぜ?!


<(シリウスとは"光り輝く者"を意味する言葉なのだ。だから、貴殿に合うと思って選んだ。喜んでくれてよかった)>


 過去なんだろうけど、どうして俺の意識がダークスターの中に入ってるのか全然わかんねえけどとりあえず良いやと思えた。

 なんだかコイツの中で暫くの間、見守っていてやりたい。そんな気持ちが強くなっていたから。


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