第233話 本体と分身
カズ達の戦闘が始まってから遅れて20分後。
ようやく現場に到着した俺達はカズの所に行こうと、燃え盛る炎の中を突き進んだ。
<グルギィャアアアアアアアア!>
「おい、いい加減おとなしくしてくれねえか?」
<本体いぃぃぃ!>
八岐大蛇が本体のカズに対して攻撃をしようとしてるけど、それを美羽と親父さん、銀月が迎撃していた。
なんで、本体のカズに攻撃を?
「憲明!」
「司さん?! なんで八岐大蛇はカズを攻撃しようとしてんすか?!」
「自分が本体に成り代わろうとしてるからに決まってるだろ!」
決まってるだろって言われても、……教えてくれなきゃんなこと解るかよ!
それによく周りを見ると、周りには原型をとどめていない、戦車だったと思う物や装甲車。
そして炭になった森や人。
気づけばそこは酷い匂いが立ち込めていて、1分1秒でも早くここから離れたいって思えるような地獄が目の前に広がっていた……。
……酷すぎる。
「カズ!」
美羽の叫ぶ方へ目を向けると、八岐大蛇の巨大な頭がカズを噛み殺そうと伸びていた。
「……馬鹿が」
だけど、そんな頭をカズは強烈な蹴りで打ち上げる。
「何時だったか言っただろ。テメェは俺には勝てねえってよ」
<黙れ本体!>
「俺が自由にしてやれる時は出してやるって約束したって言うのに、お前は俺との約束を破るんだな?」
<では何故もっと我を呼んでくれない!>
「その時じゃねえからさ。それにテメェは俺の体を乗っ取ろうとしたよな? だからその罰として呼んでやらなかったのさ」
<グルギィャアアアアアアアア!>
瞬間、カズの体が爆炎に包まれる。
"瞬炎"か!
カズの得意としている"瞬炎"だけど、そんなのカズに通用する筈も無かったから心配するだけ無用だった。
「俺にそれが通じると思ってるのかよ?」
<ガアアアアアッ!>
「カズに謝って」
<グアッ?!>
空高くジャンプした美羽が巨大な頭に対し、得意の蹴り技、"飛竜脚"をぶちこむ。
続けて銀月の雷撃。
そして今度は自衛隊の砲弾やミサイルが八岐大蛇に当たる度に爆発。
<グルギィャアアアアアアアア!>
それで余計怒った八岐大蛇が暴れた。
<本体ならまだしも貴様らの攻撃が我に通じると思うなよ?!>
「黙れよ。だからと言って、テメェの攻撃も殆ど通用してねえけどな? 何故なら俺が皆を守ってるんだしよ」
そこで俺は気がついた。
美羽だけじゃなく銀月、そして親父さん達、自衛隊って人達の周りに炎の花弁が舞い飛んでいることに。
「俺が来た以上、そう簡単に殺させねえぞ?」
マジかよ……。あの圧倒的な恐怖を振り撒いていた八岐大蛇が、カズを前にして何も出来ないでいるなんて……。
<なめるなよ?!>
すると足下が大きく揺れ始めた。
<ここいら一帯を! 地獄の炎で燃やし尽くしてくれる!>
「あっ、これはちょっとマズい……」
「カズ! これってもしかして!」
「あぁ、ここいら一帯が噴火する」
「総員退避!」
<逃がすものかよ!>
揺れがどんどん強くなるからもう立っていられなくなって、逃げるに逃げれないって状況に陥ると。
「んふふ、情けないわね」
久しぶりに"イソラ"が俺達の前に現れた。
「頼めるか? イソラ」
「んふふ、任せて。私が防いであげる」
<天極ぅ! 貴様も我の邪魔をすると言うのかあ!>
「んふふ」
地面が大きく盛り上がり、何時噴火してもおかしくないって状況になると。
「"空間気流操作"」
イソラが何をしたのか知らないけど、揺れが一気に弱くなっていった。
<き~さ~ま~!>
「んふふ、ごめんなさいね?」
その瞬間イソラはカズの後ろから抱き付くと、同レベルって感じの冷たくて冷めた、氷の微笑みを2人して見せるから背筋がゾクッとした。
しかも見下したように微笑んでいるから余計質が悪い。
「それにしてもテメェは殺しすぎ ーー」
言い終わる前に八岐大蛇は灼熱のブレスを吐き、地面がどんどん溶岩に変わっていく。
「テメェ、人が話してる最中だって言うのに攻撃してくんじゃねえよボケが」
そう言ってカズがポケットから手を出し、掌を八岐大蛇に向けると。
「"豪雷爆炎龍"」
雷と炎、そして風を合体させた最強合成魔法が八岐大蛇を襲った。
<ぬぐああああああああ!!>
たった一撃で巨体が押され、よろめく。
「おとなしく戻れ」
<断る! 我は腑抜けた本体に代わり、この世界を再生するのだ!>
「代わりって言うが、本当に出来るのか?」
<我はなんの為に生まれた! 我はなんの為に存在する! 我は本体を復活させ、世界を取り戻す為にこの世に存在するのではないのか!>
確かに昔のカズはその為に八岐大蛇って化け物を生み出したんだよな。
だけど、今のカズはそれを望んじゃいない。
だからその想いが噛み合わなくなっているから衝突し始めたんだ。
「御手伝いは必要ですか? お兄様」
「エルピス、……正直助かるな」
そこにエルピスが静かに現れるとカズに質問をして、イソラと目を合わせた。
「あ~あ、やっぱり来てしまったのね」
「地獄がこうして復活してしまったからには、我々も動かなくてはなりませんからね」
そう話すと暗雲を突き破って、大きな光が差し込んでくると多くの天使の軍勢が降りて来る。
「エルピスの名の元に告げます。天界軍は直にサポートに入って下さい」
「「エルピス様の御命令のままに!」」
全身銀色に輝く鎧を装備した天使の軍勢が、八岐大蛇の攻撃で傷ついた自衛隊の人達や夜城組の人達を助けに動く。
その数ざっと2万人。
多いようで八岐大蛇相手だと少ないと思える。
「お兄様!」
「分かってるよ。だからと言って今の俺に天界軍を動かすなよ?」
「無論です。今のお兄様は味方ですから」
「そうか。足引っ張るなよ? エルピス」
「はい!」
2人の兄妹が走り、巨大な怪物に攻撃に出る。
「俺達も行こうぜ!」
俺も2人に続いて走った。
それにしても2人の動きが速くて追い付けない。
でもそんな2人に追い付けていたのが美羽とイリスで、4人は八岐大蛇の足から一気に登っていくとそれを振り払おうと八岐大蛇が暴れる。
「銀月! "白雷雨"!」
<クルルルルッ!>
まるで雨みたいな白い雷が八岐大蛇を攻撃。同時に美羽は影を使った魔法、"シャドー・ゾーン"を展開してからの。
「"シャドー・マリオネット"!」
前は4体しか召還出来なかったのが、今じゃ10体の影の兵士を召還すると一斉に攻撃を始める。
「親父!」
「言われなくともここにいる!」
と言いながら親父さんがまた八岐大蛇の頭を1つ、ぶん殴っていた。
「御影さん!」
「私もここにいます!」
御影って人が宙を浮きつつ攻撃。
いったいどうやって浮いてるのか不思議だ。
「イソラ!」
「んふふ、私は常にアナタの側にいるわ」
「んじゃ悪いが久しぶりだから唱えねえといけねえから合わせてくれ!」
「ちっ、おい御影! 天極! 和也に合わせるぞ!」
「「万物へ祈り奉るは土、火、水の三元素。空より降りし大いなる三珠の力にて、大いなる禍に鉄槌を」」
カズと親父さん、それに御影って人の3人が手を合わせて何か呪文めいた言葉を口にし始める。
イソラは空高く飛んで行くと分厚い雲に隠れて見えなくなるけど、いったいなにをと思っていると。
「「天地崩来星降之刻、"天崩"」」
分厚い雲に大穴を広がり、その広がった空の向こうには、竜の姿になったイソラがいた。
<んふふ、落ちなさい。"空間隔離">
八岐大蛇の周りになんだか障壁みたいなバリアが張られ、カズは八岐大蛇に攻撃していた俺達全員を闇色のゲートで離れた場所に移動させてくれた。
……瞬間、青白く光る彗星が八岐大蛇に落ちた。
<ギャアアアアアアアアア!!>
強烈な衝突音。
だけど、イソラが張ったバリアのお陰で衝撃波を感じない。
<あの人の命令が聞けないなら、聞けるその時までまだ寝てなさい。んふふ>
……こっわ。




