第232話 地獄の始まり
暫く走ると機動隊と合流し、先導されながら止まること無く俺達は富士山を目指して走った。
「あそこか」
通行止めになった高速道路を爆走していると、目的地となる場所で巨大な火柱が何度も吹き上がっているのが見える。
あそこで今、親父さん達が必死で食い止めてるんだな。
近付いてるとは言えまだまだ距離がある。
だけど、八岐大蛇の攻撃が凄まじいって事が解るくらいの衝撃音が鳴り響いてくる。
『ここから先は機動隊ですら近付けない危険エリアになっているぞカズ』
『分かってるよミコさん。機動隊に後でお礼を言っておいてくれ』
するとどんどん機動隊の車両が速度を落とし、離れていく。
『テメェら、こっから先がどうなってるのか解らねえから気を付けろよ?』
「了解」
そして火柱の灯りに照され、巨大な影が見えると背中が凍り付いた。
なんてデカさだよッ!
場所までまだまだある。通行止めになっているは半径50キロ。だから距離的に残り50キロは切っているんだけど……、それだと言うのにその巨体が見えたから戦慄した。
マジで冗談……キツいぜ……。
『見えたか憲明』
「あぁ、見えた……。今のは間違いなく八岐大蛇だろ」
『あぁ、今見えた影は八岐大蛇で間違いない。どうする憲明、引き返すなら今だぞ?』
「冗談キツいけどそれこそ冗談じゃねえよカズ。俺はどこまでも付いてくぜ?」
『ククッ、そう言うと思ったぜ。俺はこれから先行する。この先は八岐大蛇の影響で雨が激しく降ってるだろうから気をつけて付いてこいよ?』
「はいよ!」
カズは加速し、軽く200キロのスピードが出てるじゃねえかって位の速さで先行して行った。
美羽の奴、大丈夫か?
瞬間、強烈な光りが発生すると、より八岐大蛇の姿が見えた。
マジでどれだけデカいんだよ!
それにこの光りはなんだ?!
なんの光りなのかよく見ると……、それは富士山が噴火した光だった。
『憲明見てるか?!』
「見てる……。富士山が、富士山が噴火しやがった!」
その光景は後ろの車に乗る一樹達も見てるらしく、誰も何も言わなくなっていた。
噴火した影響で雷も光り始め、その光景はまさに魔王が復活をたからかに宣言してるようにも見えていたから。
その噴火と雷の光で八岐大蛇がどれだけデカいのか、その大きさがなんとなくだけど解ることが出来た。
八岐大蛇が二足歩行で立っていやがる……、だから馬鹿デカく見えてるのか!
富士山は標高3700メートル以上。
なのに、八岐大蛇が富士山と同じくらいデカく見えた。
だけどそれは目の錯覚って事もあるんだろうけど……。本当に、あり得ない大きさで言葉を失った。
だってそんな巨大な化け物が暴れているだ。
どれだけ八岐大蛇がデカくても、どれだけ強くても、そこで命を掛けて止めようとしてる人達の事を考えると応援したくなる。
だけど俺達もそこに向かっている。
ちっ! 思わず弱気になっちまった!
それに親父さんが、八岐大蛇はとにかく馬鹿デカい存在だって言ってた事を思い出した。
本当に八つの山を越えるデカさなら、日本だけじゃなくて世界が終わりかねない。
「憲明」
「ん?」
「俺がお前を守るから」
「……ありがとな、イリス」
イリスにそう言って貰えると、なんだか不思議と力が漲ってくるような気がしなくもない。
すると次第に雨が降り始め、どんどん強さを増していく。
あの時と一緒だな。
前に目覚めた時も強い雨が降っていた。
それに風も強い。
下手にスピードを出せば事故に繋がる可能性があるけど、そんな悠長な事を言ってる場合じゃねえから、とにかく出来るだけ急いで行く必要がある。
まぁ、俺達が行ったところで本当に力になれるとは思いはしねえけど、とにかくやれる事はやりたかったんだ。
そして近付くにつれて爆発する音は勿論だけど、震動と衝撃が強く感じられる。
それに八岐大蛇の姿がはっきりと解る。
「見えるか憲明」
「あぁ、近く付くだけで背筋が寒くなってくるよ」
<グルギィャアアアアアアアア!>
「うっぐ?!」
まだそれなりの距離があるのに、その咆哮は耳の鼓膜が壊れそうなくらい響いてくる。
そんな中、空からミサイル、地上からありとあらゆる砲弾が八岐大蛇に直撃して爆発。その度に爆音と衝撃波を全身に浴びながら止まること無く進む。
怖い……、怖いし死にたくない。
<グルギィャアアアアアアアア!>
世界三大魔獣の一角であり、カズを除けば最強最悪、凶星十三星座達ですら手を出すことが出来ない生と死を司る神。
はっ……、上等だよ。
「……テメーに喧嘩売ってやるよ八岐大蛇!」
「憲明?!」
俺は無性に八岐大蛇と喧嘩したくなっていた。
さっきまであんなに怖がっていたっていうのに、なんでだろうってくらいに。
でもそれはなんだかどこか懐かしい気もした。
……カズと、初めて殴り合いの喧嘩をした時みたいだな。
それまで何度も喧嘩はしたし、殴り合いの喧嘩もした。だけど一番カズが怖いと感じた喧嘩があって、その時の感覚を思い出して懐かしく感じたんだ。
「イリス!」
「ん!」
燃える岩がこっちに飛んでくるから、俺はイリスに頼んでそれを破壊してもらい、更に進む。
カズと美羽は今、どこまで進んだんだ?
今回は流石にクロ達を連れてくるのが難しいから、ステラとかもいない。
だからお互いがどこら辺にいるのか知るには、インカムで聞くか、カズの攻撃か美羽の攻撃が見えないと解らない。
けど激しい雨が降る中でそれを確認するのは難しかった。
後、どれくらいだ?
そう思ってると、後ろから何かが近付いてくる気配を感じてバックミラーで見た。
……なんで着いてきてんだよお前は!
<カロロッ、ハッハッハッハッハッハッ>
ノワールが俺の真横まで追い付くと、そのまま並走して走る。
「なんで着いてきてんだよお前!」
<カロロロロッ、ギエッ! ギエッ!>
吠えると今度はジャンプして、イリスの肩に乗る。
「着いて来んなって言っただろ!」
<ギエェェッ!>
なんだか怒ってるし。
「イリス! コイツ何言ってるんだ?!」
「……他にも来てるって」
「はイィ?!」
思わず変な声で反応すると。ノワールの他にダークスがまるで槍みたいに低姿勢で走ってきている。
「なんでお前まで来てんだよ?!」
『ダークス! 戻れ!』
インカムから一樹が怒ってるのが聞こえてくると思うと、今度は志穂ちゃんのエボニー&アイボニーまでやって来ていた。
『ちょっと! なんでアンタ達まで来ちゃってるの?! アンタ達が来ても何も出来ないじゃない!』
あぁ、これカズが知ったらきっと怒るぞ……。
するとバックミラー越しに、暗雲の中を何か白く光る何かがこちらへ真っ直ぐ飛んでくる。
おいまさか……。
俺の直感がそれは銀月が放つ雷だって事を告げていた。
案の定、銀月は暗雲の中から出てくると俺達の上を飛んでいき。先行した美羽の元に向かっている。
……それにしても、かなりデカくなったなぁ銀月。
その大きさはざっとバス位のデカさに成長していて、正直そこらのモンスターじゃ相手にならない程の力もつけている。
<クルルルルッ>
<キュルルッ>
<フルルルルッ>
銀月の事に関してはあのカズがほとんど助言しなかった存在。
銀月は美羽が大切に育て、今じゃステラと対等なくらい強い。
普段はアクアと遊んでる事が多いし、何時どこで特訓してるんだって思うのに、はっきり言ってめちゃくちゃ強い。
そんな銀月が八岐大蛇が引き起こした嵐とも言えるレベルの中を、ものともしないでどんどん突き進んでいく。
「……まさか銀月まで来るなんてな」
「ありゃ別格のモンスターだぜ憲明」
「……だな」
そして、一瞬何かが光ったと思うと、龍みたいな雷が八岐大蛇に当たった。
「どうやら美羽姉が攻撃を始めたみてえだな」
すると今度は真ん中の頭が大きく揺れる。
「あぁ……、今度は親父がおもいっきり殴った……」
いや殴ったってなに?! ただ殴っただけであの巨大な頭があんなに揺れる?!
<グルギィャアアアアアアアア!>
「あっ、怒った」
でしょうね?!
そう思ってると、暗雲の中から銀色の雷が八岐大蛇を襲う。
うん、あれは俺でも解る。銀月がサポートに入ったんだな。
「あれは銀月だな」
だからそれくらい解るって!




