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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第8章 黒い太陽
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第231話 ついてってやるよ


『番組の途中ですが緊急速報です。たった今、富士山の(ふもと)に巨大な怪物が出現。付近にお住まいの方々は大至急避難して下さい。繰り返しお伝えします。たった今、富士山の(ふもと)に』


『え~巨大な怪物は現在! 富士山の(ふもと)で自衛隊と交戦中との情報が入ってきており! 私の目でも確認出来る程の巨大な火柱が幾つも上がっているのが見て分かります!』


『現在、富士山を中心に周囲50キロは接近禁止となっており』


『御覧くださいあの火柱を! あそこで! 自衛隊が巨大な怪物を止めるべく必死に戦っております! うわっ?! ……今ッ! わ、我々の近くを巨大な炎の塊が横切って行ったのを御覧になったでしょうか?! 巨大な火柱が上がる度に! 先程のような大きな炎の塊があちこちに飛んでいっております! 付近に住まう住民の皆様はとにかく早く逃げて下さい!』


 帰ってみると、テレビでとんでもない事態になっているニュースが流れていて、俺はいったい何が始まったのか理解出来ないでいた。


「な、なにがあったんだ?」


 そう聞くと。


八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が復活したんだ」


「……は?」


 カズの言葉に俺は信じられなかった。


『我々はこれから現場近くまで行き! カメラに録るべくもっと近付きたいと思います!』


「馬鹿が、死んだぞこのリポーターとクルー達はよぉ!」


 ……死ぬ?


木下(きのした)リポーター! 危険ですので行かない方が賢明だと思いますよ! 引き返してください! 木下(きのした)リポーター!』


 テレビ局にいるニュースキャスターの人がそう伝えているのに、木下(きのした)って人の耳にその言葉が通じていないのか皆してどんどん近付いていく。

 それを見て俺も。


 あっ……、この人達、本当に死ぬ。


 そう思って見ていると。


『ん? あ……ああ……、うわああ! うわああああああ!』


<グルギィャアアアアアアアア!>


 カメラに八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の頭が写り込むと、そのまま巨大な口の中に入り、映像はそこで途切れた……。


 ……死んだ。


「馬鹿が! おい! 自衛隊は何してんのか電話で確認取れ!」


 カズが組員の人に指示を出すのと同時に、カズのスマホが鳴った。


「親父か」


 親父さん?!


 どんな話をしてるのか解らない。だけどカズの顔がどんどん険しくなっていくと、電話越しの親父さんに怒鳴り散らし始めた。


「ふざけんな! 親父達が行ったところでどうにか出来る相手な訳ねえだろ!」


 親父さん達、行くきなのかよ……。


「親父だってアレがどんな存在か知ってるだろ! 見てるだろ! 経験してるだろ! アレは俺の分身で俺を抜いたら史上最悪最強なんだぞ!」


 そう言って止めてるけど、どうやらそれでも親父さん達は行く気でいるみたいだった。


「死ぬぞ親父、解ってるのか? ………………だったら勝手にしろよ、俺も勝手に動かせてもらうからな!」


 そこで電話を切り、カズは物凄い形相で俺達に目を向けた。


「これから俺も行ってくる」


「カズ、でもよ」


「心配すんな、アレは俺の分身だ。ここじゃまともに奴と話も出来やしねえからよ、行って大人しくしてもらう」


 そうは言っても相手は"地獄"って呼ばれる最強の化け物。

 もしかしたら今のカズの言葉を聞かない可能性だってあるから不安が強まる。


「カズが行くなら私も行く」


「ついてくんな、死にてえのか美羽」


「死ぬつもりなんて無いよ。おじさん達が必死で食い止めようとしてるのに、このままただ黙って見てるだけだなんて出来ないよ」


 美羽の気持ちは分かる……。でも俺はあの時の恐怖を覚えていて、もしかしたら今度こそ死ぬかもしれないと思うと、体が動けなくなっていたんだ。


「あの時と今じゃ状況が違うぞ美羽」


 そりゃそうだ、あの時はカズの怒りと哀しみが引き金になって、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が目覚めちまったんだ。

 今回は何が原因で目覚めて復活したのかなんて解らねえんだぞ……。


「それでも行く」


「頼むから来ないでくれ……、俺が側にいたとしても、もし万が一でもお前が死んだら俺は……」


 だよな……、そうなりゃきっと今のカズの心が壊れてもう1人のカズに支配されるかも知れねえ……。


「だから行きたいの。今のカズでいて欲しいから。前みたいにどうにか八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を大人しくする事が出来るなら、私は行きたい」


 美羽の"歌魔法"か。


 確かに美羽の"歌魔法"で八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を大人しくさせ、カズの意識を取り戻した事がある。

 だけど今回、カズはここにいる。

 向こうにいるのは純粋な悪って言えるような、最強最悪の化け物なんだ。

 行って美羽の"歌魔法"が通用するかなんて解らないって言うのに、どうしてそれでも行こうとするのか俺には分からなかった。


「奴の本体は俺だ。その本体である俺と分身のアイツともう一度ひとつになればきっとこの最悪な状況をどうにか出来るかもしんねえんだ。だから来るな」


「嫌だ」


「美羽ぅ……」


「アナタだけに苦しい想いをさせたくない」


 そう言って美羽はカズに抱きついた。

 カズが好きだからこそ、美羽はそんなカズの力になりたくて一緒に行こうとしているのに、俺は全然、どうしたら良いのか分からなくて頭の中が真っ白になりかけていた。


「……だったら絶対に俺がお前を死なせねえ」


「うん、カズは私を()()()。私はカズを()()()()


 その瞬間、ハッ! とした。


 そうだよ、なに悩んでんだよ俺……。

 俺はカズを()()って決めたじゃねえか!


「んじゃ行く前に準備するぞ。おい、何時でも"ニュクス"を動かせるようにしておいてくれ」


「はっ!」


 カズはニュクスで行くつもりなのか。


 ニュクスはカズが魔改造した超大型バイクの名前。

 そのニュクスを動かせるように組員の人に頼むと、装備を整えに部屋へ向かおうとしていたのを俺は腕を掴んで止めた。


「俺も……行く」


「……だったらさっさと準備しろ」


 すると他の連中も行くって言い出して、良いのか悪いのか、全員で八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を止める為に準備し始めた。


「はぁ……、だったら誰も死ぬな、死んだらその魂が消えるまで俺が使わせてもらうから覚悟しておけ」


「「了解!」」

「りょ~か~い!」

「うん!」

「「押忍!」」


 全員が無事、生き残れるかなんて解らない。

 だけど皆、カズを守るために、惨劇を広げない為に、世界の崩壊を少しでも食い止める為に動き始めた。



 20:08


「んじゃ行くぞ」


 完全装備した俺達は出発することにした。

 クロ達パートナーは今回おいて行く。

 それは俺達が行っても足手まといになるかも知れねえのに、クロ達が来たら余計足手まといになるかも知れないから。

 だから今回はなにがなんでも留守番していて貰うことにしたんだ。

 そしてカズの後ろに美羽が座り、俺の後ろにはイリスが座ってバイクを走らせる。

 その後ろから他の皆が乗る黒い車が何台もついてきていて、周りからしたら異様な光景だから目を引く。


『遅れるなよ憲明』


「わかってるさ」


 カズが作った特製のインカムを耳に付け、そのインカムから聞こえてくるカズの言葉に俺は応えつつ、遅れないように後を追う。


 ……こっちでの実戦は始めてだな。


「おい憲明! もっとスピード出しても良いんじゃねえのか?!」


「俺一応無免許なんですけど?! それにんなことしたらスピード違反で捕まるし!」


「正直バイクで走るより自分の足で走った方がはえんだけど!」


 あっ、それもそうか。


『そう言ってやるなよイリス、せっかく憲明と2ケツしてんだぞ』


「でもよ兄様(にいさま)


『今を楽しめイリス』


 その言葉にはどこか重みを感じて、俺の腰に手を廻すイリスが余計強く握った。


『とは言え現場までまだまだかなりの距離がある。ミコさんか柳さんでどうにか出来ねえか?』


『状況が状況だからな、言われる前に手は回してある』


『さすがだなミコさん』


『後少しで機動隊と合流する。それまではなるべく安全運転で頼むぞお前ら』


『はっ、切迫した状況だって言うのに、そんな悠長に走ってられるかよ』


 するとカズは加速した。


『おいおい、上に怒られるのは俺なんだぞ?』


『だから状況が状況なんだからよ、そんな事で怒られるなんて事はねえだろ?』


 そうだよな、それよりも今は一大事なんだし。


 富士山まで約130キロ。

 時間にしたら2時間ちょいは掛かる道のりだ。

 その約2時間って言う時間の中で、いったいどれだけの命が奪われ、どれだけの悲劇が起こるのかまったく解らない。

 だからこそ急ぐ必要があった。


『ついてこいよ? 憲明』


「勿論ついてってやるよ!」


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