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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第8章 黒い太陽
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第230話 目覚める化け物<朱莉Side>


「そ~れで(あね)さん、どぅ~しやすかい?」


「……いざって時は止めるしか無いですよね」


 和也達が学園にいる頃、私と高峰さん、そして犬神の3人でとある場所に車で向かっていた。

 そこはこの世でもっとも恐れられる、三大魔獣の一角、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が封印されている地。


 ーー 富士樹海 ーー


 17:32


「ですが、我々が行ったところでどうにかなるんでしょうか?」


「そうですぜ(あね)さん。相手は化け物中の化け物、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)なんですぜ? 組長は今、凶星十三星座(ゾディアック)の事で色々と動いていらっしゃる。下手に刺激したら、目~覚めちまうんじゃないんですかい?」


「だとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう、2日前にずっと懸念(けねん)していた事態が始まり、一度見に行くと眠っていた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の目が開き始め、()()()()()()()()()()()

 それは異常としか言いようがない。

 そして今回、更に異常事態が発生した為にその対処に向かっていた。


 まさか()()()()()()()()()()()……。


 第二形態が七つの首と、胸にもう一つの頭を持った姿。

 第三形態はその姿が限り無く龍に近付き、強大な力を振り撒く。

 龍と言っても東洋のドラゴンと、西洋のドラゴンに近い竜の姿が合わさった様な姿。

 ドラゴンには東洋の龍と西洋の竜と、姿形が違う。

 東洋の龍はまるで蛇の様な姿をし、西洋の竜は恐竜に似た姿をしている。

 その二つの姿が合わさった姿に八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が変わった。

 その程度で第二形態と第三形態と分けるのはちょっと違うんじゃって思うかも知れないけど。第三形態は第二形態の四足歩行から二足歩行に変わり、少し動いただけで大災害をもたらす危険な存在になる。

 その危険度は第二形態よりも遥か上。


「到着致しました」


「……行きましょう」


 あの凶星十三星座(ゾディアック)達は勿論、ミルクとイリスですら下手に手を出せない相手。

 だって……、あの子の分身なんですもの。


瘴気(しょうき)がここまで……」


 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が作り出す瘴気(しょうき)は、触れるもの全てを殺す猛毒の霧。

 ほんの少し触ったが最後、助かる事は出来ない。

 でも一度だけ助かったのがいる。

 それが和也のパートナーの1体、ゴジュラス。

 ゴジュラスは八岐大蛇(ヤマタノオロチ)瘴気(しょうき)を逆手に取り、更に"進化"のスキルで強大な力を手にした最強のモンスター。


 こんな時にまさか向こう側につくなんて……。


 そのゴジュラスはもう、私達の味方についていないからここにはいない……。

 いれば手助けしてくれただろうけど、敵に回ったのなら頼ることが出来ない。


「主よ、どうか我に力をお与えください」


 そこで高峰さんが聖職者が身に付ける、ストラと呼ばれる白いマフラーの様な物を首に掛けて結界を張り。


「……"血界"を張ります」


 私も血を操り、魔術による魔法攻撃から身を守る為の結界を張って二重結界にし。私達3人は慎重に八岐大蛇(ヤマタノオロチ)がいる洞窟内部へと足を踏み入れた。

 奥に進むにつれて洞窟内部が暑く感じる。

 本来なら真夏でも寒い場所なのに、それがとても暑い。


「……目覚めてるのかも知れませんね」


「とは言え完全に目覚めてるならここは破壊されてる筈よ」


「で~すが(あね)さん、司の言う通り、もしかしたら目を覚ましていてもお~かしくないんじゃぁ、ありませんか?」


 ……確かにその通りね。


 更に奥へ進むと。


観自在菩薩(かんじーざいぼーさつ) 行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじー)照見五蘊(しょうけんごーうん) 皆空(かいう)度一切苦厄(どいっさいくやく)


 (きょう)が聞こえてくる。


 まだ、封印が破られないように頑張ってくれてるのね。


 それからまた更に歩き、ようやく辿り着くと私の背筋が一瞬で凍り付いた。


<シュハアァルルルルルルッ>


 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が目を大きく開けて起きている……。

 それに前よりも(はる)かに巨大化していて、既に洞窟に収まらなくなっているからか、胸から下の体が溶岩の中に隠れている。

 その胸には恐ろしい口が開き、常に瘴気(しょうき)を吐き出した状態。

 そんな中、まるで黒子の様な装束を着た夜城家の分家数十人が、錫杖(しゃくじょう)金剛杵(こんごうしょ)を持って(きょう)を唱え、封印が壊れないよう必死になっていた。


「ま~さかここまでになってるた~……」


「朱莉さん、至急この事を組長に伝えます」


「えぇお願い……。高峰さんは封印が破られないように皆の手伝いを」


「りょ~か~ぃ……」


<グルシュアルルルルル>


 このままだと封印が破壊されて外に出てしまう……。そうなれば日本が……、世界が壊れる……。


 それに第三形態という事は、次に第四形態になればそれは完全体になると言うこと。

 だからこそなにがなんでも止めなければならない。


「……アナタを自由にさせるわけにはいかないの。おとなしく封印されていて……」


 不意にそんな言葉が出ると、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の目が一斉に此方に向けられた。


<ハアァァァ……、邪魔をしてくれるな、下等な虫けらの分際が>


 喋った……。


<もう、貴様らの封印が無意味だと気づくが良い>


 ニタッと笑うと、地鳴りと共に大きく揺れ始め、洞窟内部が崩壊し始めた。


<……短い付き合いだったな、御影(みかげ)>


大蛇(オロチ)……」


<クハッハッハッハッ八ッハッハッ! 我を今まで封印し続けてきた事には褒めてやろう! しかしそれは最早無意味なり!>


 そんな! 封印が!


<恐怖を再びその身に刻め! 死して我の力の糧となれ!>


(あね)さ~ん! ここはマズイ! 早く脱出を!」


「でも八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が!」


「もう手遅れだ! ありゃ人間が手を出して良い存在じゃないことは知ってるでしょ~!」


「待ってお願い! それでも今復活させたら大変なことになるの! だからお願い! 高峰さん!」


 そう言っても高峰さんは私の手を握り締めて引っ張り、洞窟から脱出する為に走った。

 その後ろから夜城家の分家数十人がついてくるけど、落石や落盤でどんどん下敷きになって死んでいく。


<クハ八アァ、逃げろ逃げろ、何処までも逃げろ!>


 崩落する中、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が逃げる私達を見て楽しそうに笑っている。

 そんな八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の前に、まだ1人だけその場に座っている人物がいた。

 その人物は結界を張り、落ちてくる岩等から身を守りつつ八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を見ている。


<貴様は逃げないのか?>


「どこに行っても貴方から逃げられる事は出来ません」


<分かってるではないか御影(みかげ)>


 夜城御影(やしろ みかげ)

 分家の次期当主になる予定のその女性はそのまま八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と会話をし、落盤等でその姿が消えて行くのを見ながら私達は逃げた……。


「朱莉さん! 高峰さん!」


「司! 組長には連絡したか~?!」


「はい! それと八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の復活を確認出来次第【第零種非常事態宣言】が発令します!」


「それじゃ~遅すぎる!」


 確かに遅い。

 自衛隊は八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が封印されてる洞窟周辺に、地震計を幾つも設置している。

 洞窟が崩れそうになっているのだからその地震計が動き、それを見て即座に発令させて良いものなのに。


「クソッタレの自衛隊め~! なんの為にこの周辺に駐屯してるんだよ~!」


 そう悪態を吐き捨てる高峰さんに手を引っ張られ。ようやく外に脱出すると洞窟が完全に崩落し、多くの命が奪われた。


 御影(みかげ)……。


 私は御影(みかげ)が心配だった。

 彼女とは交流があったし、何度も相談を聞いてもらったりもしていたから。

 そして……悪夢が地響きと共に顔を出した。


<グルギィャアアアアアアアア!!>


 おぞましい咆哮(ほうこう)を上げ、周囲を溶岩に変えながら冥竜王の分身である最強最悪の化け物が復活してしまった。


 18:13


 【地獄龍・八岐大蛇(ヤマタノオロチ) 二度目の完全顕現(けんげん)


 同時刻


 【第零種非常事態宣言発令】


 空は黒い雲に覆われ、風が強くなるとバケツの水をひっくり返したような強い雨が降り始める。


<み~か~げ~!>


「……」


 御影(みかげ)?!


 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の前に、結界を張ったままの御影(みかげ)が宙に浮いているのを見てどこか私は安堵したけれど……、どうして逃げないのかって思えた。


「貴方をこのまま野放しにはしておけません」


<クハッハッハッハッ! 貴様ごときが我を止められるとでも思ったか?!>


「死んでいった者達の為にも、今此処でもう一度貴方を封印します!」


<やれるものかよ! 矮小(わいしょう)な存在の分際で!>


御影(みかげ)逃げて!」


 私の言葉が届いたからなのか分からない。

 だけど、御影(みかげ)がこちらに振り向いた瞬間、フードの下から笑顔が一瞬見えた気がした。


「みか ーー」


 名前をもう一度叫ぼうとした瞬間、大口を開けていた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が強力な炎を吐き、御影(みかげ)は炎に包まれてその姿が見えなくなり……、私は絶望した。


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