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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第8章 黒い太陽
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第229話 初めての討伐


 俺はカズの悪いクセが始まったと思ったけど、意外な事に話が長くなることはなかった。

 その理由は、「学園で散々説明したんだから後は話を聞いていたなら解る筈だ」って。


「そうだ、ここまで頑張ったんだ、お前に何かご褒美をあげねえとな」


<ギュルリ?>


「こっちこいダークス」


 カズに手招きされてダークスが近づくと。


「受け取れ」


 "アイテム空間収納"から、少しピンクがかった紫色の石を取り出した。


「これは"スティヒタイト"ってパワーストーンで、ここに俺の力が宿らせてある」


「ちょっとまてカズ! それってまさか"変換"か"創造"の力を使ったのかよ?!」


「安心しろ、その力は使えねえって知ってるだろ?」


「いやそうだけどよ!」


 使えねえって言っても、ルカちゃんやサーちゃんの治療にはどうしてか使えるって言っていたけどな!


「安心しろダークス。これはお前がそこまで進化して成長したからこそ、俺からお前への贈り物なんだ。きっとこの力はお前自身だけじゃなく、一樹達を守れるだけの力になる筈だ」


 カズからパワーストーンを受け取ると、石がダークスの体の中に溶け込むようにして入っていく。


「その力を間違った使い方をすることなく、正しい道を進む為の力になることを願う。さてと、んじゃ俺は帰る」


「え? 帰るのか?」


「帰るさ。帰って美羽とイリスの迎えに行かねえといけねえし」


「あぁ、そっか」


 今日は2人を迎えに行かなきゃなんねえのか。


「んじゃ、あまり遅くならねえようにな」


 ゴブリンを見つける前にカズが帰ると、なんだかその場の空間がゆっくりになった感覚があった。


「「……」」


 グレイ達2人はまだ放心状態と言うか、ダークスの変わり様に言葉を失ってる感じがした。


「うん、まぁ、ゴブリン討伐に行くか」


「おぅ……」

「うん……」


「なんだ? グレイ達とゴブリン討伐に行くのか?」


「そうなんだよ、グレイ達もギルドに行って冒険者の登録してきたんだってよ」


「マジで? んじゃ俺達も行こうかな。ダークスがこの姿になったから帰るつもりだったし」


「おっ、んじゃ一緒に行くか。クロ! ノワール! ソラ! カノン! 隠れてないで一緒に行くぞ」


 俺が草むらの方にそう呼び掛けると、おとなしく4匹が顔を出した。


「なんだ、クロ達もいたのか」


「学園からずっと隠れて着いてきていてたんだ。なんでコソコソしてたんだ?」


<ワフゥ>


<クウクウ>


 クロとソラが何を言いたいのか、なんとなく解る。

 せっかくの機会だろうけど、なにかあれば助けられるように着いてきていた。って感じの事を言っている。

 俺1人なら平気だけど、グレイとフィリップは初めての討伐なんだから心配していざって時に助けに入ろうとしてたんだろうな。

 ほんと、優しい奴らで俺は嬉しかった。

 それからカズが抜けて一樹とダークスが加わって、クロ達も交えて俺達はゴブリンを探した。

 探すこと1時間、時間的にはもう夜って時にようやくゴブリンを発見した俺達は、ゴブリンに気づかれないよう慎重に近づいた。

 見つけたゴブリンは焚き火を囲んで飯を食っている。


 ……腹減ったな。


「ゴブリンはあー見えて耳が良いし嗅覚も敏感。だから風上じゃなく風下にいるのが基本だ」


「うん」

「わかった」


「まっ、なにかあっても俺や憲明、それにダークスがいるから安心して、慎重に動いて良いぜ? ここら辺のモンスターはダークスの存在を感じただけで怯えて逃げるからよ」


「そこまで強くなったのかよ?」


「まあな、それもこれもカズのお陰だけど、今じゃダークスとまともに戦えるモンスターなんてここにはいねえし」


 くそぉ、まさかダークスにウチのクロ達が追い付かれるだなんて。


 悔しいけどダークスが頼もしくなったから、なんだか嬉しくもある。

 今が完全体なら究極体になれば虫型モンスター界の王になれるんじゃね? ってのも考えた。


 って事はだぞ? ダークスが王で、ステラが女王ってところかな?


「なにボーっとしてんだよ? グレイとフィリップにどうするのか教えてやれよ」


「そ、そうだった」


 2人とも片手剣と安っぽい木の盾を持っている。

 防具もボロボロで、お古なのか安いところで取りあえず用意したって感がする。

 そんな下手な装備だと、命に関わりやすくなるからそこはしっかりと良い物を用意して欲しかったってのが本音だ。


 もし俺が敵だったら一瞬で殺しちまいそうだな。


「……まっ、相手の装備を見るに剣を持ってるのが2匹、槍が1匹、弓が2匹ってところか」


 それに相手が持ってるのは、グレイとフィリップのよりもかなりボロボロだ。


「まず狙うならどれを狙うのが良いか解るか?」


「基本戦術なら先に弓使いだろ?」


「正解。先に弓使いのゴブリンを奇襲。その後直ぐに槍使いだな。んじゃさっさと倒して帰ろうぜ」


 まず俺と一樹の2人で近づき、ダークスが静かに近づいて待機。クロとノワールは木に登って何時でも援護出来る位置に。ソラとカノンはゴブリンが逃げようとした時に足止め役として近くに待機。

 んで、グレイとフィリップがゴブリンに出来るだけ近づいたら奇襲を掛ける。

 その作戦は途中まで良い感じだったけど、ゴブリン達は異様な気配と匂いに違和感を感じたのか、辺りを警戒し始めた。


 よし、そろそろだな。


 今回俺が立てた作戦はよくカズが使っていたやり方。

 風上に立たないのが基本だけど、途中あえて相手に違和感を覚えさせ、同様と混乱が出た所に弓使いを倒す。その瞬間、一瞬の隙が出来た所に槍使いをもう1人が飛び出して倒す。

 最後に残りを片付ける。

 カズだったら気配を悟らせず、ほんの一瞬で皆殺しに出来るだろうけど、それが出来るのはどんな熟練者でも難しい芸当だ。

 それを俺達は何度見ても震えた。

 "暗殺者"スキルとか技術どうこう以前の強さと存在。

 それに、三大魔獣の一角とされる"天極"こと"イソラ"が宿った最強の魔剣、"堕天竜"も持っている。

 でもその堕天竜をここ最近カズは持っていなかった。

 それに最近、俺達の周りで変な動きもあってそれも気になる。

 先生が慌てた顔で何かタカさんに話をすると、そのタカさんの顔から大量の汗がにじみ出て、2人で何処かへ出かけることもあるし。親父さんも組の幹部達を連れて何処かへ行くのが何度もある。

 俺が何かあったのかって質問しても、「お前達は関わるな」の一点張りで話してくれない。

 だから自然と何かよくない事が裏で始まってるって、感じていた。


<ゲギャ?>


「うおおおおお!」


<ゲェエエエエ!>


 始まった。


 先にグレイが飛び出し、そのままの勢いでゴブリンの首に剣を刺す。


<グゲゲッ!>


「わああああああ!」


<グギャ?!>


 槍を持ったゴブリンの背後からフィリップが剣を振り下ろし、今度は心臓を狙って突き刺す。

 次は他の2匹だ。

 2匹は弓使いと槍使いのゴブリンを失い、どうしたらいいのか解らないのか、慌てながら逃げようとしている。

 それが罠だとも知らずに。


<ギャアアアアア?!>


<ギャギ?!>


 ゴブリンにとって槍使いのゴブリンは基本的に司令塔を担っている。

 だけど、人と暮らすゴブリンはそうじゃない。

 人間の戦術を学び、より信頼関係を結び、共に共存共栄をして助け合いをして暮らしている。

 はっきり言ってゴブリンって言うより緑色の人間としか思えない程にな。

 だからそんなゴブリン達から野生の、人間を襲うゴブリンをどう倒せば良いのか、その戦術を学んでいる。

 司令塔を担う槍使いを倒せば、他のゴブリンはどうしたら良いのか解らなくなって混乱し、逃げる選択を取る。

 だからこそここからが罠なんだ。


<カロロロロロロロロロッ>


<ギュルリルリリリリリ>


 ノワールとダークスが唸り声をあげながらその存在を気づかせ、クロも唸って出ていく。

 そこへ俺と一樹が気配を圧し殺すのをやめて前に出ると。残りのゴブリンが余計慌てだして、やみくもな攻撃を始める。

 そうなったら冷静に戻ることが出来ないから、逆にこちらが冷静に対象すれば楽に倒せる。


「グレイ! フィリップ! 隙を見て倒せ!」


「了解!」

「わかった!」


 俺の声にゴブリンが反応してこちらに眼を向ける。

 それがゴブリン達にとって大きな(あやま)ちと気づくことなく、そのまま首を飛ばされる奴と、心臓を後ろから貫かれて絶命する奴。

 残り2匹の最後だった。

 それにこっちに眼を向けた時の、あの悔しそうな顔は忘れられないな。


「おつかれさん、後は討伐した証として右耳を剥ぎ取ってギルドに持っていけば報酬が出るから帰ろうぜ」


 そう伝えると2人は嫌そうな顔をするけど仕方ない。

 これが冒険者になったって事だし、ハンターの道を選んでも同じことなんだから。


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